「あほ毛を許さない」と、ゴリラのふわふわ毛を直毛にするヘアワックスのＣＭ。放映は１１月末まで（Ｐ＆Ｇ提供）

　ちょっとウネっていて、ほかの流れとは違う髪の毛のことを「あほ毛」って言ったりしますが、関西独特の言葉ではないのでしょうか？　整髪料のＣＭでも使われているみたいですが、全国区なの？

　（兵庫県尼崎市　会社員　せーやん）

話題のＣＭは、Ｐ＆Ｇ（本社・神戸市）が９月に発売したヴィダルサスーンのパールジェリーワックス。金髪美女が「私はあほ毛を許さない！」と叫び、ゴリラのふわふわの毛を、ヘアワックスでつるりんストレートにしてしまうのだ。

　Ｐ＆Ｇ研究開発部の吉見美奈子さんによると、「最初は不安だったんですよ。『あほ毛』って聞こえもよくないですから」。だが、ほかにいい言葉が浮かばない。美容用語では「面を作る」というが、一般的ではない。「髪の毛の表面にぴんぴん出てきてしまう短い毛」では、長い上に理解されにくい。外資系の会社だけあって、社内文書は英語。縮れ毛を意味する「ＦＲＩＺＺ」を使えば、社員には説明不要だったのだという。

　消費者の声を聞くと、「あほ毛が気になる」と普通に言われていた。若い女性に限り、関東２８人、関西２８人に調査すると、全員が「あほ毛」を理解していた。「３０代以上にはちょっとわからない人が出てくるようでした」という。

　社内に反対意見は？　広報を担当する田上智子さんは「かなり定着している言葉ということで、上層部もゴーサインを出しました。もっとも、上層部はほとんど外国人なのが幸いしたのかもしれませんね」。このＣＭで苦情は１件もないという。

　ほかの美容メーカーにも聞いてみた。「あほ毛について知りたくて……」と言った瞬間、各社の広報担当者に「ぷっ」と笑われること数回。資生堂（同・東京都中央区）では、広報担当者は知らなかったが、研究所のヘアケア関係者によると「２、３年前から使われ始めています。必ずしも、関西だけで通用する言葉ではないと思います」。

　花王（同・東京都中央区）の研究所でも「使いますよ。今、若い人の間で一般的みたいですね。『浮き毛』ともいうようですが」。ライオン（同・東京都墨田区）の広報は「初めて聞きました。商品企画部門では『うねり毛』と言うのですが、担当者は『あほ毛』を知っていたようです」。

　梅花女子大の米川明彦教授（日本語学）によると、２０〜３０年前からある言葉で、「基本的に、関西の高校・中学生が使っている」という。米川さんが中心となっている「すっきゃねん若者ことばの会」の一員で、京都文教中・高校の高山勉教諭が編集した「キャンパス用語集」では、初版の９１年から記載されている。９２年版「現代用語の基礎知識」（自由国民社）にも、「大阪地方の若者言葉と思われる」と注釈つきで載った。

　高山教諭は「最初は関西の２０大学・１０高校を調査したんです。語源ははっきりしませんね。でも、使用者層は確実に広がっています」と話す。地方によっては「ばか毛」「いも毛」「ブタ毛」、和歌山では「ジジ毛」とも言うらしい。

　ちなみに、あほ毛の予防法を吉見さんに聞いた。気になるからと抜いてしまっては、あほ毛を再発させてしまう。短い間はワックスなどで押さえ、長くなるまでじっと待つしかないのだそう。

(2003/11/07)