ドント・バザー・ミー

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ドント・バザー・ミー
ビートルズ楽曲
収録アルバムウィズ・ザ・ビートルズ
英語名Don't Bother Me
リリース1963年11月22日
録音
ジャンルロックンロール
時間2分29秒
レーベルパーロフォン
作詞者ジョージ・ハリスン
作曲者ジョージ・ハリスン
プロデュースジョージ・マーティン
ウィズ・ザ・ビートルズ 収録曲
オール・マイ・ラヴィング
(A-3)
ドント・バザー・ミー
(A-4)
リトル・チャイルド
(A-5)

ドント・バザー・ミー」(Don't Bother Me)は、ビートルズの楽曲である。1963年に発売された2作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』に収録された。ビートルズのリードギタリストであるジョージ・ハリスンが書いた楽曲で、ハリスンの作品がアルバムに収録された初の例となる。アメリカでは、1964年にキャピトル・レコードから『ミート・ザ・ビートルズ』の収録曲として発売された。

2018年に『タイムアウト・ロンドン』誌が発表した「The 50 Best Beatles Songs」で第47位にランクインした[1]

背景[編集]

1963年8月19日から24日にかけて、ビートルズはビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタストミー・クイックリー英語版とともに、イギリスのボーンマスでコンサートを行なっていた[2]。ある日、ハリスンは体調を崩し、医師から強壮剤と床上安静を処方された[3]。パレス・コート・ホテルの部屋で休んでいる間、何もすることがなかったことから、ハリスンは曲を書き始め、ポータブル・テープ・レコーダーに録音した[3]。残されたテープでは、ハリスンが曲のメロディを口笛で吹いている[4]。本作についてハリスンは「作曲の練習として初めて書いた曲。1963年の夏に泊まっていたイングランドのポーンマスのホテルで書いた。僕は病気で寝込んでいた…だから『放っといてくれ』というタイトルにしたのかも」と語っている[5]

ハリスンは、1961年にジョン・レノンとの共作でインストゥルメンタル「クライ・フォー・ア・シャドウ」を書いているが、「ドント・バザー・ミー」はハリスンが初めて単独で書いた楽曲となっている[6][注釈 1]リヴァプール出身のジャーナリスト、ビル・ハリー英語版は、自分がハリスンに新曲を書くように勧めて、その返答としてハリスンが発した「Don't bother me(ほっといてくれ)」という言葉が曲のインスピレーションになったと主張している[4]

レコーディング[編集]

ビートルズは、1963年9月11日にEMIレコーディング・スタジオのスタジオ2で「ドント・バザー・ミー」を初めてレコーディングした。7回録音したうち、3テイクはオーバー・ダビングであったものの、これらのテイクは一切使用されていない[9]。これについてビートルズの歴史家であるマーク・ルイソン英語版は、著書の中で「録音したテイクに満足のいくものではなかった」と書いている[9]。翌日、午後7時から11時までの間に曲を作り直し、リメイク後最初のテイクを「テイク10」とした[10]。プロデュースはジョージ・マーティンが手がけ、レコーディング・エンジニアのノーマン・スミスとリチャード・ラングハムがアシスタントを務めた[11]

ハリスンは1曲を通してリード・ボーカルとギターソロを担当しているが、テイクの合間で演奏の難しさを訴えていた[10][注釈 2]リズムギターはレノンが演奏している[13]。マーティンはギターのダイナミック・レンジをフラットにし、オルガンのような音を実現するためにコンプレッサーの使用を提案[14]。レノンのアンプにはトレモロ効果を持たせており[10]、リフレインとブリッジでは不吉な印象を持たせた音色になっている[14]

テイク13がベストと判断され、バンドはオーバー・ダビング・セッションに移った[10]。ハリスンはボーカルダブルトラックで録音し、マッカートニーはクラベス、レノンはタンバリンリンゴ・スターアラビアン・ボンゴを演奏した[11]。レコーディングは、テイク13にテイク15を重ねたものが最終テイク(テイク19)となり、これがベストと判断された[11]

マーティン、スミス、ジェフ・エメリックの3人は、9月30日にモノラル・ミックス、10月29日にステレオ・ミックスを作成した[15]。なお、ステレオ・ミックスには、「B.T.」というイニシャルを持つエンジニア(詳細は不明)が協力している[16]。ステレオ・ミックスでは、ハリスンのカウント(1,2,3,4)のうち、「4」の部分が僅かに含まれている[10]

リリース・評価[編集]

1963年11月22日にパーロフォンから発売された『ウィズ・ザ・ビートルズ』に、「ドント・バザー・ミー」は「オール・マイ・ラヴィング」と「リトル・チャイルド」の間である4曲目に収録された[17]。アメリカでは1964年1月20日にキャピトル・レコードから発売された『ミート・ザ・ビートルズ』のB面2曲目に収録された[18]。音楽評論家のイアン・マクドナルド英語版は、本作について「一般的に曲の評判は悪く、ハリスン自身もこの曲について否定的だ」[13]と書いており、ハリスンは「良い曲だとは思わないし、そもそも『曲』と呼べるものですらないかもしれないけど、書き続けることが大事だということはわかった」と語っている[5]。音楽評論家のティム・ライリー英語版は、本作について「ソングライティングのデビュー曲としては弱い」としたうえで、「欠陥があるにもかかわらず、グルーヴを見出したビートルズのグループとしての強さを示している曲」と評している[19]。一方で、マーク・ハーツガード英語版は本作を好意的に見ており、「『ウィズ・ザ・ビートルズ』の中で最高の楽曲」「期待できる初演」と評している[20]

本作は、1964年に公開されたビートルズ主演の映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』で使用されている。ユナイテッド・アーティスツ・レコードは同じく映画で使用されたバンド初期の楽曲「シー・ラヴズ・ユー」、「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」、「オール・マイ・ラヴィング」とともに、アメリカで発売されたサウンドトラック・アルバムに収録することを予定していたが、バンドがアルバムのために十分な新曲を用意したため、これらの楽曲は収録されないままとなった[21]

イギリスの俳優、グレゴリー・フィリップスは、3作目のシングルとして本作をカバーしている。なお、このカバー・バージョンがハリスンの作品がカバーされた初の例となった[22]

クレジット[編集]

※出典[13](特記を除く)

ビートルズ
スタッフ

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 1958年にレコーディングされた「イン・スパイト・オブ・オール・ザ・デインジャー」は、作者名が「マッカートニー=ハリスン」となっているが、実際に歌詞とメロディを書いたのはポール・マッカートニーである[7]。後にマッカートニーは、2人が曲のクレジットの仕組みを誤解していたからだと説明している[8]
  2. ^ 1965年の「ヘルプ!」のレコーディング時にも、同様に演奏の難しさを訴えている[12]

出典[編集]

  1. ^ Time Out London Music (2019年5月17日). “Unquestionably The 50 Best Songs of The Beatles Ever ?”. Time Out. Time Out England Limited. 2021年6月12日閲覧。
  2. ^ Miles 2007, p. 80.
  3. ^ a b Winn 2008, p. 69.
  4. ^ a b Everett 2001, p. 193.
  5. ^ a b Dowlding 2009, p. 78.
  6. ^ Everett 2001, pp. 25, 193.
  7. ^ Lewisohn 2013, p. 171.
  8. ^ Lewisohn 1988, p. 6.
  9. ^ a b Lewisohn 1988, p. 35.
  10. ^ a b c d e Winn 2008, p. 78.
  11. ^ a b c d Lewisohn 1988, p. 36.
  12. ^ Everett 2001, p. 195.
  13. ^ a b c MacDonald 2007, p. 98.
  14. ^ a b Everett 2001, p. 194.
  15. ^ Lewisohn 1988, pp. 36–37.
  16. ^ Lewisohn 1988, p. 37.
  17. ^ Miles 2007, p. 89.
  18. ^ Miles 2007, pp. 101–102.
  19. ^ Riley 2002, p. 75.
  20. ^ Hertsgaard 1995, p. 57.
  21. ^ Winn 2008, pp. 183–184.
  22. ^ Unterberger, Richie. “Gregory Phillips | Biography & History”. AllMusic. All Media Network. 2021年6月16日閲覧。

参考文献[編集]

  • Dowlding, William J. (2009). Beatlesongs. Touchstone. ISBN 1-4391-4719-1 
  • Everett, Walter (2001). The Beatles as Musicians: The Quarry Man through Rubber Soul. New York: Oxford University Press. ISBN 978-0-19-514105-4 
  • Lewisohn, Mark (1988). The Complete Beatles Recording Sessions. London: Hamlyn. ISBN 978-0-600-63561-1 
  • Lewisohn, Mark (2013). The Beatles - All These Years, Volume One: Tune In. Crown Archetype. ISBN 978-1-4000-8305-3 
  • MacDonald, Ian (2007) [1994]. Revolution in the Head: the Beatles' Records and the Sixties (3rd ed.). Chicago: Chicago Review Press. ISBN 978-1-55652-733-3 
  • Miles, Barry (2007) [1998]. The Beatles: A Diary: An Intimate Day by Day History. London: Omnibus Press. ISBN 978-1-847720-825 
  • Riley, Tim (2002) [1988]. Tell Me Why: A Beatles Commentary. Cambridge: Da Capo Press. ISBN 978-0-306-81120-3 
  • Winn, John C. (2008). Way Beyond Compare: The Beatles' Recorded Legacy, Volume One, 1962-1965. New York: Three Rivers Press. ISBN 978-0-307-45157-6 

外部リンク[編集]