1968年の野球において、メジャーリーグベースボール(MLB)優勝決定戦の第65回ワールドシリーズ(だい65かいワールドシリーズ、65th World Series)は、10月2日から10日にかけて計7試合が開催された。その結果、デトロイト・タイガース(アメリカンリーグ)がセントルイス・カージナルス(ナショナルリーグ)を4勝3敗で下し、23年ぶり3回目の優勝を果たした。
両チームの対戦は、1934年以来34年ぶり2回目。第1戦ではカージナルスのボブ・ギブソンがタイガース打線から17三振を奪い、サンディー・コーファックスが1963年シリーズ第1戦で樹立していた1試合最多記録(15)を更新した[3]。しかしタイガースは、最終第7戦ではそのギブソンから4得点を挙げ、1勝3敗からの3連勝で逆転優勝を成し遂げた。7戦4勝制のシリーズにおいて、1勝3敗からの逆転優勝と2勝3敗から敵地2連勝での逆転優勝は、いずれも1958年のニューヨーク・ヤンキース以来10年ぶりで、前者は3回目、後者は5回目[注 2][4]。シリーズMVPには、第2戦・第5戦・第7戦の3登板全てで完投勝利を挙げ防御率1.67という成績を残したタイガースのミッキー・ロリッチが選出された。1シリーズ3先発登板で3勝は、前年のギブソンに次いで史上9人目である[5]。
今シリーズではタイガース専属アナウンサーのアーニー・ハーウェルが、本拠地タイガー・スタジアム開催の3試合で試合前のアメリカ合衆国国歌『星条旗』独唱を行う歌手の人選を球団に一任され、第3戦ではマーガレット・ホワイティングを、第4戦ではマーヴィン・ゲイを、第5戦ではホセ・フェリシアーノを招聘した[6]。このうち、フェリシアーノはアコースティック・ギターの弾き語り形式で歌ったが、当時としては珍しい独特なアレンジを加えた独唱だったため、賛否両論を巻き起こした。独唱直後から球場や全米テレビ中継局のNBCに抗議の電話が殺到し、ハーウェルが職を失いかける一方で、RCAレコードはこの国歌をシングルとして発売し、Billboard Hot 100で最高50位に入っている[7]。
試合結果
1968年のワールドシリーズは10月2日に開幕し、途中に移動日を挟んで9日間で7試合が行われた。日程・結果は以下の通り。
日付 |
試合 |
ビジター球団(先攻) |
スコア |
ホーム球団(後攻) |
開催球場
|
10月02日(水) |
第1戦 |
デトロイト・タイガース |
0-4 |
セントルイス・カージナルス |
ブッシュ・メモリアル・ スタジアム |
|
10月03日(木) |
第2戦 |
デトロイト・タイガース |
8-1 |
セントルイス・カージナルス
|
10月04日(金) |
|
移動日 |
|
10月05日(土) |
第3戦 |
セントルイス・カージナルス |
7-3 |
デトロイト・タイガース |
タイガー・スタジアム
|
10月06日(日) |
第4戦 |
セントルイス・カージナルス |
10-1 |
デトロイト・タイガース
|
10月07日(月) |
第5戦 |
セントルイス・カージナルス |
3-5 |
デトロイト・タイガース
|
10月08日(火) |
|
移動日 |
|
10月09日(水) |
第6戦 |
デトロイト・タイガース |
13-1 |
セントルイス・カージナルス |
ブッシュ・メモリアル・ スタジアム
|
10月10日(木) |
第7戦 |
デトロイト・タイガース |
4-1 |
セントルイス・カージナルス
|
優勝:デトロイト・タイガース(4勝3敗 / 23年ぶり3度目)
|
第1戦 10月2日
先発投手は、カージナルスがのボブ・ギブソン、タイガースがデニー・マクレイン。レギュラーシーズンではギブソンが22勝9敗・防御率1.12、マクレインが31勝6敗・防御率1.96という成績を残しており、ともにシーズン終了後、それぞれのリーグでサイ・ヤング賞とMVPを受賞することとなる。その年のサイ・ヤング賞受賞予定者どうしがシリーズで先発として投げ合うのは、これが史上初めて[8]。試合は4回裏にカージナルス打線がマクレインをとらえ、マイク・シャノンとフリアン・ハビアーの連続適時打で3点を先制した。一方のギブソンは6回表に二死二・三塁とされるも、4番ノーム・キャッシュを三振に打ち取って危機を免れた。ギブソンは8回終了時点で毎回の14三振を奪い、さらに9回も続投する。この回は無死一塁からまず3番アル・ケーラインを三振に仕留め、1963年シリーズ第1戦のサンディー・コーファックスが樹立した1試合奪三振数のシリーズ最多記録に並ぶと、続く4番キャッシュも三振させて記録を更新し、最後は5番ウィリー・ホートンの見逃し三振で記録を17まで伸ばすとともに、3者連続三振で試合を締めくくった。
第2戦 10月3日
タイガースは2回表にウィリー・ホートンのソロ本塁打で先制すると、3回表には先発投手の9番ミッキー・ロリッチもソロ本塁打を放ち、2-0とする。ロリッチにとってはこの一打が、1979年シーズン終了後に現役を引退するまで、レギュラーシーズンを含めてもこれが唯一の本塁打となった[9]。メジャー初本塁打をポストシーズンで記録したのは、1932年ワールドシリーズ第4戦のフランク・デマリー以来36年ぶり史上3人目である[注 3][10]。6回表には前日3三振の4番ノーム・キャッシュにもソロ本塁打が出て、カージナルスの先発投手ネルソン・ブライルズはイニング途中での降板に追い込まれる。タイガースはこの回さらに、2番手スティーブ・カールトンから二死満塁という場面を作り、1番ディック・マコーリフの中前打で2点を追加した。カージナルスがその裏にオーランド・セペダの適時打で1点を返したものの、タイガースは直後の7回表に1点を加えたうえ、9回表にも二死満塁からの2者連続押し出し四球で7点差に突き放した。大量の援護に恵まれたロリッチが1失点完投勝利を挙げ、タイガースが1勝1敗とした。
第3戦 10月5日
タイガースの本拠地タイガー・スタジアムに舞台を移して行われた第3戦は、3回裏にタイガースがアル・ケーラインの2点本塁打で先制する。しかしカージナルスは5回表にカート・フラッドの適時打で1点を返すと、なおも一死一・二塁からティム・マッカーバーが右翼へ3点本塁打を放ち逆転した。タイガースはその裏、ディック・マコーリフのソロ本塁打で1点差に追い上げるが、カージナルスは7回表無死二・三塁からオーランド・セペダに3点本塁打が出て、点差を4点に広げた。6回途中から登板のジョー・エルネが、試合終了まで3.2イニングで1被安打とタイガース打線を抑え、カージナルスが2勝目を挙げた。
第4戦 10月6日
第1戦に続きボブ・ギブソンとデニー・マクレインの先発で始まったが、マクレインは初回表先頭打者のルー・ブロックにいきなりソロ本塁打を浴び、さらにマイク・シャノンの適時打で2点目を失う。マクレインは3回表にもティム・マッカーバーとシャノンに連続適時打を打たれ、この回途中での降板を余儀なくされる。カージナルスは4回表、9番・投手ギブソンのソロ本塁打などでさらに2点を加え、点差を6点に広げた。ギブソンの本塁打は、前年シリーズ第7戦に続く2年連続である。ワールドシリーズで本塁打を放った投手は、ギブソンや今シリーズ第2戦のミッキー・ロリッチも含め過去に10人いるが、通算2本目を打ったとなるとギブソンが史上初である[9]。8回表には無死満塁から9番ギブソンが押し出し四球を選んだあと、ブロックに走者一掃の二塁打が出て、カージナルスの得点は2桁に乗った。ギブソンは4回裏にジム・ノースラップのソロ本塁打で1点を失ったものの、失点をそれだけにとどめて10奪三振で完投し、カージナルスが敵地で優勝に王手をかけた。
第5戦 10月7日
チーム |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
R |
H |
E |
セントルイス・カージナルス
| 3 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
3 |
9 |
0 |
デトロイト・タイガース
| 0 |
0 |
0 |
2 |
0 |
0 |
3 |
0 |
X |
5 |
9 |
1 |
- 勝:ミッキー・ロリッチ(2勝) 敗:ジョー・エルネ(1敗1S)
- 本塁打: STL – オーランド・セペダ2号2ラン
- 審判:球審…ダグ・ハーヴェイ(NL)、塁審…一塁: ビル・ハラー(AL)、二塁: トム・ゴーマン(NL)、三塁: ジム・ホノチック(AL)、外審…左翼: スタン・ランズ(NL)、右翼: ビル・キナモン(AL)
- 昼間試合 試合時間: 2時間43分 観客: 5万3634人
詳細: Baseball-Reference.com
後がないタイガースはミッキー・ロリッチを先発させるが、初回からカート・フラッドの適時打とオーランド・セペダの2点本塁打で3点を追う展開に。タイガース打線は4回裏に相手先発ネルソン・ブライルズをとらえ、ノーム・キャッシュの犠牲フライとジム・ノースラップの適時打で1点差に追い上げる。5回表、カージナルスは一死二塁からフリアン・ハビアーの左前打で二塁走者ルー・ブロックが本塁を突くが、タイガースは左翼手ウィリー・ホートンの返球と捕手ビル・フリーハンのブロックでアウトにした。7回裏、タイガースは2番手ジョー・エルネを攻め、一死満塁から3番アル・ケーラインの中前打で2走者を還して逆転、さらに続く4番キャッシュにも適時打が出て5-3とする。ロリッチは9回表に一死一・二塁の危機を迎えるが、代打ロジャー・マリスを三振に打ち取ると、最後はブロックを投ゴロに仕留めて完投、タイガースが踏みとどまった。
第6戦 10月9日
チーム |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
R |
H |
E |
デトロイト・タイガース
| 0 |
2 |
10 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
13 |
12 |
1 |
セントルイス・カージナルス
| 0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
9 |
1 |
- 勝:デニー・マクレイン(1勝2敗) 敗:レイ・ウォッシュバーン(1勝1敗)
- 本塁打: DET – ジム・ノースラップ2号満塁、アル・ケーライン2号ソロ
- 審判:球審…ビル・ハラー(AL)、塁審…一塁: トム・ゴーマン(NL)、二塁: ジム・ホノチック(AL)、三塁: スタン・ランズ(NL)、外審…左翼: ビル・キナモン(AL)、右翼: ダグ・ハーヴェイ(NL)
- 昼間試合 試合時間: 2時間26分 観客: 5万4692人
詳細: Baseball-Reference.com
タイガースはこの日、相手先発レイ・ウォッシュバーンを序盤から打ち崩す。2回表にウィリー・ホートンとビル・フリーハンの適時打で2点を先制、3回表にも無死一・二塁からアル・ケーラインの適時打で1点を加え、ウォッシュバーンを降板させる。2番手ラリー・ジャスターからも1点を奪い、なおも無死満塁とすると、レギュラーシーズン満塁本塁打4本のジム・ノースラップがここでも満塁本塁打を放った。その後もタイガース打線の攻勢は続き、最終的にこの回は打者15人で10点を挙げた。1イニング2桁得点はワールドシリーズ史上、1929年シリーズ第4戦の7回裏にフィラデルフィア・アスレチックスが記録して以来、38年ぶり2度目のできごとである[11]。タイガースの先発投手デニー・マクレインは第4戦から中2日での登板ながら、9回裏にフリアン・ハビアーの適時打で1点を失ったのみの完投を果たし、タイガースが連勝で3勝3敗のタイに持ち込んだ。
第7戦 10月10日
チーム |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
R |
H |
E |
デトロイト・タイガース
| 0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
3 |
0 |
1 |
4 |
8 |
1 |
セントルイス・カージナルス
| 0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
5 |
0 |
- 勝:ミッキー・ロリッチ(3勝) 敗:ボブ・ギブソン(2勝1敗)
- 本塁打: STL – マイク・シャノン1号ソロ
- 審判:球審…トム・ゴーマン(NL)、塁審…一塁: ジム・ホノチック(AL)、二塁: スタン・ランズ(NL)、三塁: ビル・キナモン(AL)、外審…左翼: ダグ・ハーヴェイ(NL)、右翼: ビル・ハラー(AL)
- 昼間試合 試合時間: 2時間7分 観客: 5万4692人
詳細: Baseball-Reference.com
先発投手は今シリーズともに2勝のボブ・ギブソンとミッキー・ロリッチ。ギブソンは6回終了時点で被出塁が内野安打1本だけと好投を続ける。一方、第5戦から中2日で登板のロリッチは、初回に二死一・二塁の危機を切り抜けると、2回・5回・6回にも先頭打者の出塁を許した。だが2回裏は7番ロジャー・マリスを遊ゴロ併殺に仕留め、6回裏にはルー・ブロックとカート・フラッドをいずれも牽制で刺すなど、こちらも無失点のままイニングを重ねた。7回表、タイガースは二死からノーム・キャッシュとウィリー・ホートンの連打で一・二塁とし、6番ジム・ノースラップが中堅方向へ飛球を放つ。この打球を中堅手フラッドが一瞬見失ったため頭上を越され、三塁打となって2者が生還、タイガースが先制点を挙げた。さらに続くビル・フリーハンの二塁打でノースラップも還り1点を追加、9回にもドン・ワートの適時打で4-0とする。その裏、カージナルスは二死からマイク・シャノンのソロ本塁打で1点を返したが、ロリッチが6番ティム・マッカーバーを捕邪飛に打ち取って完投で試合終了。タイガースが1勝3敗からの逆転で、23年ぶりにワールドシリーズを制した。
脚注
注釈
出典
- ^ "World Series Television Ratings," Baseball Almanac. 2020年10月17日閲覧。
- ^ David Adler, "Pitchers with most K's in postseason game / Best playoff performances include aces Gibson, Koufax, Clemens, Lincecum," MLB.com, October 23, 2018. 2019年1月3日閲覧。
- ^ Matt Kelly and Andrew Simon, "Cubs complete uphill Series comeback / Sixth team to rally from down 3-1; seventh to win Games 6, 7 on road," MLB.com, November 3, 2016. 2019年11月29日閲覧。
- ^ Ronald Blum, "Kluber could become 1st since Lolich to win 3 Series starts," Associated Press News, November 2, 2016. 2020年2月1日閲覧。
- ^ Bill Haney, "Ernie Harwell's role in a notorious anthem," Detroit Free Press, September 25, 2014. 2019年1月3日閲覧。
- ^ Alice George, "For 50 Years, José Feliciano’s Version of the National Anthem Has Given Voice to Immigrant Pride," Smithsonian, June 15, 2018. 2019年1月3日閲覧。
- ^ The Hartford Courant, "AWARD-WINNING MATCHUP," Hartford Courant, October 25, 1996. 2020年10月17日閲覧。
- ^ a b David Vincent, "Pitchers Dig the Long Ball (At Least When They Are Hitting)," Society for American Baseball Research, 2012. 2020年10月18日閲覧。
- ^ Katherine Acquavella, "Dodgers vs. Braves score: L.A. strikes back in NLCS as record-setting first inning fuels Game 3 blowout," CBSSports.com, October 14, 2020. 2020年12月12日閲覧。
- ^ Andrew Simon and Sarah Langs, "Batter up! Biggest playoff innings in history," MLB.com, November 4, 2020. 2021年5月23日閲覧。
外部リンク
ワールドシリーズ |
---|
| | | | | |
- 2020
- 2021
- 2022
- 2023
- 2024
- 2025
- 2026
- 2027
- 2028
- 2029
- 2030
- 2031
- 2032
- 2033
- 2034
- 2035
- 2036
- 2037
- 2038
- 2039
| |
|
|
|
|
|
デトロイト・タイガース |
---|
球団 | |
---|
歴代本拠地 | |
---|
文化 | |
---|
永久欠番 | |
---|
ワールドシリーズ優勝(04回) | |
---|
ワールドシリーズ敗退(07回) | |
---|
リーグ優勝(11回) | |
---|
できごと | |
---|
傘下マイナーチーム |
- トレド・マッドヘンズ(AAA級)
- エリー・シーウルブズ(AA級)
- ウェストミシガン・ホワイトキャップス(High-A級)
- レイクランド・フライングタイガース(Low-A級)
- ガルフ・コーストリーグ・タイガース(Rookie級)
- ドミニカン・サマーリーグ・タイガース(Rookie級)
|
---|
|
セントルイス・カージナルス |
---|
球団 | |
---|
歴代本拠地 | |
---|
永久欠番 | |
---|
カージナルス球団殿堂 | |
---|
ワールドシリーズ優勝(11回) | |
---|
ワールドシリーズ敗退(08回) | |
---|
リーグ優勝(19回) | |
---|
できごと | |
---|
傘下マイナーチーム | |
---|
|