難題
『竹取物語』 かぐや姫は、5人の求婚者にそれぞれ、「仏の石の鉢」・「蓬莱の玉の枝」・「火鼠の皮衣」・「龍の頸の珠」・「燕の子安貝」を持ち来たれ、という5つの難題を出して、ことごとく彼らをしりぞける〔*『今昔物語集』巻31-33の類話では、諸上達部や殿上人に、「空に鳴る雷」・「優曇花」・「打たぬに鳴る鼓」を要求する〕。
『旅の道づれ』(アンデルセン) 王女が、自分の考えていることを求婚者たちに当てさせる。皆当てられず殺される。ヨハンネスと旅の途中で道連れになった男(*実は死者→〔死体〕9c)が、王女と魔物の相談を盗み聞き、王女が考える内容(靴・手袋・魔物の顔)を、ヨハンネスに教える。ヨハンネスは王女と結婚し、王になる。
『トゥーランドット』(プッチーニ) 中国の王女トゥーランドットは、求婚者たちに3つの謎を出し、解けない時はその首をはねる。大勢の求婚者たちが死んだ後、ダッタンの王子カラフが、「夜毎に生まれ暁とともに消える虹色の幻は何か?」「それは『希望』」、「炎のごとく跳ね飛ぶが人が死ねば冷たくなるものは何か?」「それは『血潮』」、「人に火を与える冷たい氷とは何か?」「それは『王女トゥーランドット』」と、謎をすべて解き、王女と結ばれる〔*→〔九十九〕3の『千一夜物語』「九十九の晒首の下での問答」に類似する〕→〔名当て〕4。
『ニーベルンゲンの歌』第6~7歌章 イースラント(アイスランド)の女王プリュンヒルトに求婚する者は、彼女と槍投げ・石投げ・幅跳びの3種競技をして勝たねばならない。その結果、多くの男が敗れ、首を失った。しかしグンテル王がプリュンヒルトに求婚した時には、ジーフリト(ジークフリート)が隠れ蓑で姿を消し、グンテル王につきそって力を貸した。グンテル王は、槍投げ・石投げ・幅跳びのすべてでプリュンヒルトに勝ち、彼女を妻とした。
『ろばの皮』(ペロー) 王が自分の娘である王女を恋し、結婚を迫る。王女は空の色・月の色・太陽の色のドレス・金貨を産むろばの皮などを望んで、王の求婚を拒否しようとするが、王はすべてを王女に与える。王女はやむなく他国へ逃げる〔*『千匹皮』(グリム)KHM65では、太陽・月・星のごとく輝く衣装と、千種類の毛皮を集めた外套を、娘が父王に要求する〕→〔父娘婚〕6。
『古事記』上巻 スサノヲが、娘スセリビメの夫オホナムヂ(=大国主命)を蛇の室に寝かせる。スセリビメが蛇の領巾(ひれ)をオホナムヂに与え、オホナムヂは領巾を3度振って、蛇を追い払う。翌晩は、呉公(むかで)と蜂の室に入れられるが、同様に呉公(むかで)と蜂の領巾を用いて、危難を逃れる。次にスサノヲは、野に火を放ってオホナムヂを焼き殺そうとする。鼠がオホナムヂを救う→〔鼠〕4b。
『天人女房』(昔話) 天女のあとを追って天に昇った婿に、天女の親が「籠で水を汲め」・「田へまいた粟を拾って来い」などの難題を出す。天女が、籠に油紙を敷いたり、鳥を放って粟粒を拾わせたりして、婿を助ける(香川県三豊郡)→〔異郷訪問〕4。
『怪鳥(ばけどり)グライフ』(グリム)KHM165 百姓のハンスが王女の婿になろうとするが、父王がそれをいやがる。父王はハンスに、「陸上を走る船を造れ」・「百羽の兎の番をせよ」・「怪鳥グライフの羽を1枚持って来い」という難題を出す。ハンスは小人の助けなどを得て、これをやり遂げる→〔りんご〕1。
『大和物語』第147段 津の国の女に、同国の男と和泉の国の男が求婚する。女の親が、「生田川の水鳥を射当てた方に娘を奉ろう」と言う。1人の男は水鳥の頭を射、もう1人は尾を射る。
『天稚彦草子』(御伽草子) 天稚彦(天稚御子)の父親である鬼が、息子の嫁に、牛数千の世話をする・米千石を運ぶ・百足の倉や蛇の城にこもる、という難題を出す。嫁は天稚彦からもらった袖の呪力で、これらをなし遂げる。父親の鬼は、天稚彦と嫁との仲を認めるが、彼らの逢瀬に制限をつける→〔天の川〕1。
『黄金のろば』(アプレイウス)第6巻 女神ヴェヌスは息子エロスの嫁プシュケに、穀物の山を種類別に選り分ける・金色の羊の毛を取る・冥府のペルセポネから美の小箱をもらって来る、などの難題を出す。蟻や葦の援助などを得て、プシュケはこれらをやり遂げる。
黒姫の伝説 信州中野の城主高梨政盛の娘・黒姫に、大沼池の主(ぬし)である大蛇が求婚する。高梨は「明日、私が乗馬して城の周囲を21回まわる。ついて来れたら姫を与えよう」と言う。高梨は城の周囲に何本もの刀を逆植えにしておいたので、大蛇は全身に深い傷を負うが、それでも21回まわり終える。しかし高梨は「大蛇に姫はやれぬ」と拒絶し、大蛇は怒って、洪水と山崩れで城下を滅ぼす(長野県中野市東南方・大沼池)。
佐久の生駒姫の伝説 佐久地方の領主望月氏の娘・生駒姫に月毛の馬が恋し、姫は帝への入内を断って「月毛とともに暮らしたい」と言う。望月は月毛に「四つ(午前10時)から九つ(正午)までに、領内の御牧七郷を3度駆け巡ったら、姫を与えよう」と言う。月毛は懸命に駆け、3周しそうになるので、望月はまだ時間内なのに九つの鐘を鳴らす。月毛は絶望し、断崖から落ちて死ぬ。その時から生駒姫も行方知れずになる(長野県北佐久郡望月町望月)。
*娘が蛇に「瓢箪千個を沼に沈めよ」と、難題を課す→〔瓢箪〕4の『蛇婿入り』(昔話)「水乞型」。
★3b.后が老人に難題を出す。
『綾鼓』(能) 筑前国・木の丸の御所の庭を掃く老人が、女御を一目見て恋心を抱く。女御は「池のほとりの桂の木の枝に鼓をかけ、それを老人に打たせて、音が皇居まで聞こえたら、もう1度姿を見せよう」と言う。老人は懸命に鼓を打つが、皮の代わりに綾を張った鼓なので、いくら打っても鳴らない。絶望した老人は、池に身を投げる。老人は魔境の鬼(=怨霊)となり、「綾の鼓が鳴るものか。打ちて見給へ」と、女御を責める。
『恋重荷』(能) 菊の下葉を取る老人が、白河の女御の姿を見て恋心を抱く。女御は、重い巌(いわお)を美しい綾羅錦紗で包み、軽そうに見せて、「この荷を持って、庭を千度百度往復するならば、もう1度、我が姿を拝ませよう」と告げる。しかし荷は重くて上がらず、老人は嘆いて死んでしまう。老人は霊となり、「巌の重荷、持たるるものか」と怒りつつ、「女御が私の後世(ごせ)を弔って下さるならば、恨みを捨てて、守り神となりましょう」と約束する。
『魔笛』(モーツァルト)第2幕 王子タミーノは、恋人パミーナを得るに際して、賢者ザラストロから3つの試練を課せられる。第1は「沈黙」の試練である。王子タミーノは、パミーナにさえ口をきかずに、これをなし遂げる。第2は「火の道」、第3は「水の道」を行く試練である。王子タミーノは、魔法の笛を吹いて身を守り、パミーナとともに火の中・水の中を通り抜ける。
★5.王などの権力者が部下の妻を奪おうとして、部下に難題を出す。
『今昔物語集』巻4-20 天竺の国王が人妻を奪おうとして、邪魔な夫に「40里先の池へ行き、4種の蓮華を取って7日以内に持って来い」との難題を出す。夫は、妻の教えてくれた三帰法文の力で鬼神や毒蛇の難を逃れ、無事に戻る。国王は反省し、妻を夫に返す。
『今昔物語集』巻16-18 近江の国司が、伊香(いかご)の郡司の妻に横恋慕する。国司は、和歌の上句(「近江なる伊香の海のいかなれば」)を書いて封印し、「これに下句をつけよ。できなければ汝の妻を我に与えよ」と郡司に要求する。郡司は嘆くが、石山観音の化身の女が、ぴったり合う下句(「見る目もなきに人の恋しき」)を教えてくれる。
『千一夜物語』「法学上の難問解決」マルドリュス版第990~991夜 教王が侍従に、彼の所有する美しい女奴隷を譲るか売るかしてくれるよう頼む。しかし侍従は、かつて「女奴隷を他人に与えも売りもしない」との誓言をしていたので、法官が「半身を献上し半身を売れば良い」という案を出す。
『太平広記』巻83所引『原化記』 呉堪は、田螺の化身である美女を妻とする。県知事が、その妻を自分のものにしようと考え、「蝦蟆の毛・鬼の腕・蝸斗を持って来なければ罰する」との難題を、呉堪に課す。妻がそれらを用意するが、蝸斗は火を食い火を排泄する獣だったので、知事は焼け死ぬ。
『梵天国』(御伽草子) 玉若中将は梵天国王の姫君を妻とする。帝が姫君に横恋慕し、「迦陵頻伽と孔雀を内裏で舞わせよ」「鬼の娘の十郎姫を連れて来い」「天の鳴神を内裏へ呼び下せ」などの難題を出して、玉若を苦しめる。しかし妻の助けで、玉若は難題を解決する。
『三本の柱』(狂言) 屋敷を普請する大果報の者が、家来3人の智恵を試すため、「山にある3本の柱木を、3人が2本ずつ持って参れ」と命ずる。太郎冠者・次郎冠者・三郎冠者は三角形状に向かい合い、1人が左右の肩にそれぞれ柱の端を乗せて「3本の柱を3人の者どもが2本ずつ持ったり」と歌い踊りつつ帰って来る。
『英雄伝』(プルタルコス)「アレクサンドロス」18 アレクサンドロスがゴルディオンを占領して、クラニアという樹の皮の紐で縛った車を見る。何本もの紐を縒り合わせた結び目(ゴルディアスの結び目)を解く者が全世界の王となる定めだ、との言い伝えを住民から聞き、アレクサンドロスは剣で結び目を切る〔*『虞美人草』(夏目漱石)3、京都の旅宿で宗近一と甲野欽吾がこの物語を語り合う〕。
『蒙求』135「斉后破環」 秦の昭王(=始皇帝)が斉の襄王の后の知恵を試すべく、鎖のように連なって解けない玉連環を贈り、「この連環が解きほぐせるか」と問う。后は槌で連環を打ち砕き、「解けました」と答える。
『知恵のある百姓娘』(グリム)KHM94 王が百姓の娘に、「着物を着ず裸にならず、馬に乗らず車に乗らず、道を通らず道の外へ出ずに、私の所へ来い」との難題を出す。娘は裸体に網をまきつけ、網をろばの尾に結んで引きずらせる。ろばは車のつけた輪の跡の中を歩き、娘は足の親指だけで地面を踏んで行く。王は感心して娘を妃にする。
『マハーバーラタ』第5巻「挙兵の巻」 魔神ヴリトラがインドラと和解する時、「乾いたもの・湿ったもの・石・木・遠距離から狙える武器・手で用いる武器のいずれによっても、また昼にも夜にも、私を殺してはならない」という条件を出した。インドラは昼でも夜でもない夕暮れ時に、乾いても湿ってもいない泡を多量にヴリトラに投げつけて、殺した。
★9.Aでありつつ同時にBでもあれ、という難題。
『千一夜物語』「エジプト豆売りの娘」マルドリュス版第888~889夜 サルタンの王子が、豆売りの男に「衣服を着るとともに裸体で、笑うと同時に泣き、獣に乗りつつ歩いて来い。さもなくば命はないぞ」と命ずる。豆売り男の娘が「裸体の上に網をまとい、玉葱で目をこすり、小さなロバの子にまたがって行けばよい」と教える。
*帯剣の禁制を遵守しつつ、剣を持って昇殿せねばならぬ、という難題→〔禁制〕5aの『平家物語』巻1「殿上闇討」。
★10.最強の物どうしがぶつかり合い、競い合ったらどうなるか、という難題。
『韓非子』「難一」第36 楚の人で、盾と矛を売る者がおり、「吾が盾は堅く、なにものにも突き通されない。吾が矛は鋭く、どんなものでも突き抜く」と自慢した。ある人が、「お前の矛でお前の盾を突いたら、どうなるか?」と問うた。商人は答えることができなかった〔*「難勢」第40にも同記事〕。
*最強の攻撃兵器と最強の防御装置の激突→〔力くらべ〕4の『信用ある製品』(星新一)。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 誰にも捕らえられぬよう定められた雌狐が、テーバイの土地を荒らして、人々を苦しめた。すべてのものをつかまえる力を持つ犬が、雌狐を追いかけた。ゼウスが両方を石に化して、この難題にけりをつけた。
*負けて死ぬことはあり得ない最強の2人が、1対1の決闘をする→〔決闘〕8の『座頭市と用心棒』(岡本喜八)。
『二十四孝』(落語) 唐土の孟宗は、母が寒中に「筍が食べたい」と言うので、竹薮へ捜しに行くが見つからない。「これでは孝行ができぬ」と孟宗が天を仰いで泣くと、たちまち雪の中から筍が出る。また、王祥は、母が「鯉が食べたい」と言うので、池の氷の上に腹ばいになり、氷を溶かそうとする。天の助けで、そこから鯉が飛び出る。
★12.難題を、解かないことによって解く。
『呂氏春秋』巻17「審分覧・君守」 魯の庶人が、難しい「閉(=知恵の輪)」を2つ作った。ある人が1つを解いたが、もう1つは解けなかった。その人は「これは、もともと解けない知恵の輪なのだ」と言った。庶人は「そのとおりです。私は作った本人だから、解けないことを知っているが、作った当事者でもないのに解けないことがわかったとは、私以上の巧者ですな」と言った。これすなわち、解かないことによって解いたわけである。
難題と同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書から難題を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から難題を検索
- >> 「難題」を含む用語の索引
- 難題のページへのリンク