離縁・離婚
『風と共に去りぬ』(ミッチェル) スカーレット・オハラはアシュレを愛しつつも、結婚することは叶わず、チャールズ、次いでフランクと結婚し、2度とも夫と死別する。レット・バトラーが3番目の夫になるが、スカーレットの思いはあいかわらずアシュレの上にあり、それを知ったレットは、彼ら夫婦の間に生まれた娘ボニーに、もっぱら愛情を注ぐ。しかしボニーは4歳で事故死し、それを機に、レットはスカーレットに別離を告げる。
『人形の家』(イプセン) 新銀行頭取の夫とノラは結婚して8年になり、子供が3人いる。かつてノラは夫の転地療養費を得るため、借用証書に偽の署名をした(*→〔クリスマス〕4c)。それを知った夫は、「これが公になれば破滅だ」と言ってノラを罵る。しかし、表沙汰にならずに済むことがわかると態度を一変させ、ノラを許す。社会的体面のみを考える夫にノラは見切りをつけ、1人家を出る。
『伸子』(宮本百合子) ニューヨーク滞在中の19歳の佐々伸子は、35歳の苦学生佃一郎に心ひかれ、周囲の反対を押し切って結婚する。しかし帰国してからの2人の生活は、芸術的雰囲気のうちに人間性を伸展させようとする伸子の理想と程遠く、小市民的な安住を求める佃に伸子は絶望し、ついに離別を宣言する。
『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻1-3「跡の剥げたる嫁入長持」 加賀の絹問屋の美貌の娘小鶴はわがままで、14歳で呉服屋に嫁いで以来、夫を嫌ったり店の仕事に難をつけたり、果ては癲癇の仮病までして離縁されるようにしむけ、25歳までに18回、離婚を重ねた。やがて財産もなくし、もと下男を夫として、年老い窮死した。
『万の文反故』(井原西鶴)巻2-3「京にも思ふやうなる事なし」 仙台出身の九兵次は、悋気する妻を捨てて京へ上り、白粉屋の娘と結婚するが、無駄遣いが甚だしいので離縁する。次に、年上の妻をもらうと52~53歳だったので、これも離縁する。その後も彼は結婚離婚を繰り返し、17年間に23人の妻を持ち換えて、身代をつぶす。
★3.離婚を望む夫婦。
『蓼喰う虫』(谷崎潤一郎) 斯波要(かなめ)は美佐子と結婚して男児をもうけるが、まもなく美佐子を性的に愛さなくなる。要にとって美佐子は、仰ぎ見る対象でも玩弄物でもない中途半端な存在だった。要は美佐子に愛人を公認し、自身は外国人娼婦と馴染む。夫婦は、互いを傷つけず円満に離婚する方法を模索する。
★4a.妻が妊娠したため、離婚できなくなる。
『神経病時代』(広津和郎) 鈴本定吉は、新聞記者としての仕事に疑問を抱き、妻のヒステリーに悩んで、憂鬱な毎日を送る。定吉は田舎で静かにトルストイを読む生活を夢見て、妻に別れ話を切り出すつもりで帰宅する。ところが妻は「2人目の子を身ごもったらしい」と告げ、定吉は絶望する。
『この子』(樋口一葉) 「私(山口実子)」は、3年前、裁判官の夫に嫁いだ。勝気な「私」は、無口な夫に飽き足らず、夫に冷たい態度をとる。夫は外で遊ぶようになる。「私」は、夫が離婚を言い出してくれるのを待ち望む。しかし離婚寸前のところで、「私」は男児を産んだ。そうなると子供がかわいくてたまらず、「私」の心はすっかり変わった。夫も「私」に優しくなり、「私」たちは幸福な夫婦となった。
★4c.両親の離婚後の子供が、父とともに暮らすか、母とともに暮らすか。
『クレイマー、クレイマー』(ベントン) ジョアンナ・クレイマーは、仕事人間の夫テッドに見切りをつけ、7歳の1人息子ビリーに心を残しつつ、家を出る。妻に去られたテッドは、慣れない家事と育児に悪戦苦闘し、苛立つ。テッドはビリーを叱り、ビリーはテッドに反抗するが、しだいに父と子は強い絆で結ばれてゆく。1年余の後、ジョアンナは「ビリーを引き取りたい」と望み、裁判を起こす。しかし「ビリーを、今まで育ったこの家から連れ出すことはできない」と悟って、涙ぐむ。
*子供が2人いれば、父と母で1人ずつ分けることができる→〔双子〕3bの『ふたりのロッテ』(ケストナー)。
★4d.両親の離婚後の子供が、父の家と母の家を行ったり来たりする。
『離婚の子』(川端康成) 「彼」も「彼女」も小説家だった。2人は結婚し、1人息子の健坊が6歳の時に離婚した。健坊は快活に、「彼」の家と「彼女」の家を何日かおきに往復する。健坊は、父も母も自分のものにしておきたいと、健気(けなげ)にふるまった。やがて「彼」は再婚する。新しい妻は、健坊が「彼女」の家へ行くのをいやがり、「私が健ちゃんを育てたい」と請う。「彼」は妻を殴り倒し、広い青空の街へ飛び出して行く。
『知恵のある百姓娘』(グリム)KHM94 王が百姓娘を妃にして何年か経た後に、「もとの百姓小屋へ帰れ」と離縁を宣告する。「離縁のしるしに、いちばん大切なものを持って行って良い」と王が許可するので、妃は王を薬で眠らせ、白い布で包んで自分の家へ運ぶ。目覚めた王は、妃を城へ連れ帰り、あらためて結婚式をする。
『引括』(狂言) わわしい(=口うるさい)女房に閉口した夫が、離縁状を渡す。女房は怒り、「何か暇(いとま)のしるしをくれるならば出て行こう」と言う。夫が「何なりとやろう」と言うと、女房は袋を夫の首にかけて「これが欲しい」と言う。
『十三夜』(樋口一葉) 下町娘お関は、奏任官原田勇に見そめられ、その妻になる。ところが、一子・太郎を身ごもった頃から、原田は2人の身分差や、彼女の無教育を言い立て、何かと辛くあたるようになる。結婚後7年、お関はついに離婚を決意し、十三夜の晩に実家へ帰る。しかし父は「かわいい太郎のため、辛抱せよ」と説き、また、お関の弟亥之助も原田の世話になっていることもあって、彼女は離婚を思いとどまる。
『イタリア旅行』(ロッセリーニ) イギリス人夫妻アレックスとカテリーヌは、離婚寸前だった。彼らは所用でイタリアを訪れ、ポンペイ遺跡を見に行く。2千年前の男女が、抱き合ったまま化石になって発掘されたので、カテリーヌは衝撃を受ける。帰り道、祭りの群集に巻き込まれ、アレックスとカテリーヌは離れ離れになる。カテリーヌは必死で夫の名を呼び、アレックスは群集の流れに逆らって妻のもとへたどり着く。カテリーヌは「あなたを失いたくない」と言う。
★6.神々の離婚。
『古事記』上巻 黄泉国から脱出しようとする夫イザナキを、妻イザナミが追う。イザナキは、黄泉国と地上との境界である黄泉比良坂(よもつひらさか)を、千引の石(ちびきのいわ)で塞ぎ、イザナミを黄泉国に封じこめる。石を中に置いてイザナキ・イザナミは向かい合い、夫婦別れの宣言をする〔*『日本書紀』巻1・第5段一書第6に類話〕。
*太陽と月の離婚→〔太陽と月〕2の『月と太陽の離別』(中国の民話)。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』23 アース神ニョルズは、巨人スィアチの娘スカジを妻とした。スカジは「父の旧居がある山奥のスリュムヘイムに住みたい」と望むが、ニョルズは「天界の海辺ノーアトゥーンにいたい」と言う。2人は、まずスリュムヘイムに9日間、次にノーアトゥーンに9日間滞在することで折り合った。しかしニョルズは「山は嫌いだ」と歌い、スカジは「海鳥の声で眠れぬ」と歌って、結局スカジはスリュムヘイムに帰って行った。
★7.姑が嫁を離縁する。
『塩狩峠』(三浦綾子) 明治10年代。永野貞行の妻・菊は、クリスチャンであることを、姑トセに告白せずにいた。長男信夫が生まれた後、トセは菊がクリスチャンであると知って、離縁した。しかし貞行は離縁された菊のもとへひそかに通い、女児をもうけた。トセはそれを知った夜に、脳溢血で死んだ〔*長男信夫は成人後クリスチャンとなり、自らを犠牲にして大勢を救った〕→〔犠牲〕1。
『心中宵庚申』(近松門左衛門)中之巻「上田村」~下之巻「八百屋」 半兵衛は、22歳で大阪の八百屋伊右衛門の養子になり、働きづめで店を大きくし、妻千代を得て睦まじく暮らす。しかし姑が千代を嫌い、半兵衛が実父の17回忌のため浜松へ出かけた留守に、姑は、妊娠4ヵ月の千代を離縁する。
『半七捕物帳』「お文の魂」 好色な悪僧が、旗本の若妻お道を自分のものにしたいと考え、「あなたは離婚しなければ、命にかかわる災難に遭う運命だ。幼いお嬢さまにも災いが及ぶ」と言って、巧妙に脅す。お道は「自分はともかく、娘お春を救わねばならぬ」と思いつめ、お春の夜泣き(*→〔夜泣き〕2)を利用して、「毎夜、幽霊が出るからこの屋敷にはいられない。離縁してほしい」と訴える〔*半七が悪僧のたくらみをあばき、お道を安心させる〕。
★9.離婚の町。
『荒馬と女』(ヒューストン) ネバダ州のリノは、離婚の町として有名である。リノに6週間滞在すれば離婚の諸手続きが完了するので、離婚を望む夫婦たちが、全米からやって来る。都会の女ロズリンは、リノに来て離婚した後、カウボーイのゲイをはじめとする3人の独身男に出会う。男たちは原野で野生の馬を追い、投げ縄で引き倒す。ロズリンは「残酷だわ」と抗議し、「人でなし!」と泣き叫ぶ。ゲイは「生き方を変え、ロズリンとともに暮らそう」と考える。
『太陽はひとりぼっち』(アントニオーニ) ビットリアは婚約者リカルドに別れ話を切り出す。理由を問うリカルドに、彼女は「わからない」としか答えられない。その後、ビットリアは株式市場で働く青年ピエロと知り合い、性関係を持つ。しかし結婚する気にはなれない。彼女は1人、物思いにふけりつつ、街を歩く。恋人のことを考えているのか、他のことを考えているのか、わからない。
*20世紀には、→〔変身〕3a・3bの『変身』(カフカ)・『犀』(イヨネスコ)のような「理由のわからない変身」、→〔誓約(うけひ)〕2の『法王庁の抜穴』(ジッド)のような「動機のない犯罪」、などという物語が時々あらわれる。
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