開眼
★1.唾による開眼。
『舜子変』(敦煌変文) 継母に憎まれ、井戸に埋められそうになった舜は、他郷へ逃れ、10年ほどがたつ。舜は市場へ米を売りに行って、零落した盲目の父瞽叟と再会する。彼が舌で父の眼をなめると、父の眼は開いた〔*『三国伝記』巻7-5の類話では、重花(=舜の前名)が父の眼を押拭い天を仰いで涕泣すると、たちまち父の両眼は開いた、とする〕→〔継子殺し〕4。
『ヨハネによる福音書』第9章 イエスが地に唾を吐いて泥を作り、それを盲人の目に塗って「シロアムの池に行って洗え」と言う。盲人の目は開く。
*→〔唾〕4の『マルコによる福音書』第8章。
★2a.尿で洗って開眼。
『歴史』(ヘロドトス)巻2-111 ペロス王は神罰を受け盲目となった。10年の後、「夫以外の男を知らぬ女の尿で眼を洗えば、開眼する」との神託を得て、后の尿で試みるが、効果がない。そこで次々と多くの女について試み、ようやく眼が見えるようになった王は、それ以前の女をすべて殺した。
『捜神記』巻11-19(通巻281話) 広陵(江蘇省)の人・盛彦(せいげん)は、病気で失明した母の世話をしていた。母は気むずかしく、女中たちを鞭打つことがあり、恨んだ女中が、「すくもむし」を丸焼きにして母に食べさせた。それを知った盛彦は、母に抱きついて泣いた。その時、母の目がぱっと開き、そのまま病気は治ってしまった〔*「すくもむし」は眼病の薬になる。もちろん女中はそんなことは知らなかった〕。
*類話である『聊斎志異』巻12-458「杜小雷」では、母に「くそむし」を食べさせようとした嫁が、豚になる→〔豚〕2a。
★3.歌の徳で開眼。
『今物語』第32話 石清水八幡の袈裟御子が、病んで眼のつぶれた娘を若宮の神前へ連れ行き、「奥山にしをる枝折は誰がため身をかきわけて産める子のため」の歌を詠ずる。すぐに娘の病は治り、眼も開いた。
『三国伝記』巻10-6 盲鶏を憐れんだ修行者が、「鶏の鳴く音を神の聞き乍ら心つよくも目を見せぬ哉」の歌を短冊に書いて鶏の頸に付けると、鶏の眼は開いた。
★4.仏の力で開眼。
『今昔物語集』巻2-38 盲目の乞食児に仏が前世の因縁を解き、頭を撫でると両眼が開いた。
『今昔物語集』巻13-18 盲僧妙昭は長年『法華経』を信受し、ついに開眼した。
『今昔物語集』巻13-26 太宰府官人の妻が失明し、後世のために『法華経』を読誦する。4~5年後、夢に貴僧が両眼をなでると見て、開眼した。
『三宝絵詞』上-13 盲目の老夫婦が深山へ入り、仏道修行をする。孝子施無が両親の世話をするが、誤って弓で射られて死ぬ。帝釈が憐れんで施無を蘇生させ、老夫婦の眼も開く〔*前半部は→〔見間違い〕3bの『ラーマーヤナ』第2巻「アヨーディヤーの巻」と同様の展開〕。
『日本霊異記』下-11 盲目の女が薬師如来像に開眼を祈ると、像の胸から桃の脂のごときものが出る。それを食べて女の眼は開く〔*『今昔物語集』巻12-19に類話〕。
『日本霊異記』下-12 盲目の男が何年もの間、千手観音の日摩尼手の名を唱える。不思議な2人の人が来て、男の眼を治す〔*『今昔物語集』巻16-23に類話〕。
『日本霊異記』下-21 僧長義は片方の眼が見えぬこと5ヵ月、大勢の僧に金剛般若経を3日3夜読誦せしめて開眼する〔*『今昔物語集』巻14-33では両眼がつぶれた、とする〕。
『満仲』(幸若舞) 美女御前が斬られたと思いこんだ母御台は、悲しみで盲目となる。後、美女御前が僧円覚となって訪れ仏神に祈り、母を開眼させる。
『宝物集』(七巻本)巻4 唐の僧弼(そうひつ)は、25歳で重病をうけ、盲目になった。山寺へ行って、拝むべき本尊を請うたところ、沙弥が僧弼を馬鹿にして、「これが本尊だ」と言って白紙を1枚与えた。僧弼は「仏様だ」と信じて一心に拝み、やがて開眼した。
『しんとく丸』(説経) 陰山長者の娘乙姫は、信吉(のぶよし)長者の息子しんとく丸と夫婦約束をしたが、しんとく丸は盲目の癩者になってしまった。乙姫が、しんとく丸の病気平癒を祈って東山清水寺にこもると、観世音が「寺の一番外の階段に鳥帚(とりぼうき)があり、それで身体をなでれば病は治る」と夢告する。乙姫は鳥帚で盲目のしんとく丸を開眼させ、しんとく丸もまた鳥帚を用いて、盲目の乞食となった父信吉長者を開眼させる。
『まつら長者』(説経)6段目 陸奥安達の郡の池に棲む大蛇が、さよ姫の読経によって成仏し、その恩返しに、龍宮世界の如意宝珠をさよ姫に与える。さよ姫は故郷大和へ帰り、盲目の母を尋ねあて、両眼を如意宝珠でなでると母の眼は開く。
*膚守りの地蔵菩薩で、母の両眼をなでると開眼→〔再会(母子)〕1の『さんせう太夫』(説経)。
★7a.手術による開眼。
『即興詩人』(アンデルセン)第2部の6・13・14 即興詩人アントニオは旅の途中、乞食の群れの中にいた盲目の美少女ララと出会う。アントニオは彼女に銀貨を与え、その額に接吻する。後にララは手術を受けて開眼し、ヴェネツィア市長の姪となる。彼女は名前を「マリア」と改め、アントニオと再会して結婚する。
『街の灯』(チャップリン) 浮浪者チャーリーが金を工面して、貧しい盲目の花売り娘に開眼手術を受けさせる(*→〔盲目〕5)。開眼した娘は、繁華街に花屋を開く。ある日、たまたま通りかかったチャーリーの憐れな姿を見て、娘は1輪の花と小銭を与える。その時の掌の感触で、娘は、目の前にいるのが、手術代を手渡してくれた恩人であることを知る。
『虚勢』(太宰治) 貞一は幼い頃盲目になり、責任を感じて実母は死んだ。貞一は父と継母のもとで育ち、21歳になって開眼手術を受ける。眼の開いた貞一が見たものは、醜い風采の父、気持ちの悪い顔をした継母、汚らしい東京の街だった。貞一は父母を罵り、「もとの盲目にもどりたい」とまで言う。しかし、怒った父が硫酸を貞一の眼にかけようとすると、貞一は「いやです。せっかく治ったのに」と言って逃げ去る。
『田園交響楽』(ジッド) 牧師である「私」は、15歳ほどの盲目の少女をひきとり、ジェルトリュードと名づけて教育する。「私」の息子ジャックがジェルトリュードを恋するが、彼女と「私」は深い信頼と愛情で結ばれていた。ジェルトリュードは手術を受けて開眼し、美しい世界を見、ジャックを見、「私」を見る。彼女が慕い、心に思い描いていたのはジャックの顔であり、老いた「私」の顔ではなかった。ジェルトリュードは小川に身を投げて死んだ。
『トビト書』(旧約聖書外典) トビヤは天使ラファエルと一緒に旅をする途中で、大きな魚を捕まえる。ラファエルは、魚の胆汁と心臓と肝臓を取り出してしまっておくよう、トビアに命じる。旅を終えて帰宅した後、トビアはラファエルの教えにしたがい、魚の胆汁を盲目の父トビト(*→〔盲目〕4a)の両眼に塗って、開眼させた〔*魚の心臓と肝臓は、悪魔退治に用いた〕→〔心臓〕2。
*血による開眼→〔血〕2。
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