超加工食品
英語:ultra-processed food
「超加工食品」とは、複数の工業的な添加物(保存料・着色料・香料・乳化剤・人工甘味料など)を多用し、抽出や精製といった複数の工業的プロセスを経て製造され、総じて「素材の面影がほぼ残っていない」という特徴を持った加工食品の総称である。
超加工食品は、食品の加工度合いによって区分した「NOVA分類法」における、最も加工度の高い区分(第4グループ)に相当する。旧来のいわゆる「加工食品」(塩蔵品・チーズ・缶詰など)は第3グループに相当する。
超加工食品の典型例としては、スナック菓子・清涼飲料水・即席麺・冷凍ピザ・一部のファストフード類などが挙げられる。加工というより合成と呼ぶべき過程を経ているものも多い。品質が安定している、安価に販売される、といった利点がある反面、嗜好性の高い商品が多いため濃く味付けされていがちで、カロリー・塩分・脂肪分などの過剰摂取につながりやすいと指摘されている。
近年では食の簡便化に伴い日常的な摂取量が増加傾向にあるとされ、さらには超加工食品の過剰摂取と、肥満・2型糖尿病・心血管疾患・一部のがん・うつ病などとの相関も報告されており、公衆衛生上の問題として国際的に関心が高まっている。
超加工食品
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/05/03 23:45 UTC 版)
超加工食品(ちょうかこうしょくひん、英語: ultra-processed foods、略称:UPFs)とは、複数の食材や食品添加物を配合して工業的に製造される、加工食品の分類の一つ[1]。ウルトラプロセスフードとも呼ばれる。食品を加工の程度とその目的に応じて類別するNOVA分類法において、最も加工の程度が高いグループ4に分類される。通常の家庭料理ではほとんど利用されないような物質を添加することが多い。
超加工食品が初めて広く普及したのは1980年代であるが[2]、「超加工食品(ultra-processed food)」という用語が注目されるようになったのは、2009年にブラジルの研究者がNOVA分類法とともに発表した論文からである[3][4]。 NOVA分類法で超加工食品として分類される食品には、大量生産された市販のパンやその他のスナック菓子、冷凍食品、インスタント食品、アイスクリーム、風味付けヨーグルト、清涼飲料・乳飲料、ダイエット製品、ベビーフード、ファーストフードやいわゆるジャンクフードと呼ばれるものの大部分などがある[5][6]。
栄養疫学的データが示唆するところでは、超加工食品の消費は非感染性疾患及び肥満との相関が示されている[7]。2024年に『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』で発表されたメタアナリシスでは、32件の研究で、超加工食品が健康のアウトカムと負の相関があることが確認された。ただし、この分析では、超加工食品のサブグループ間で異質性が見られる可能性も指摘されている。影響の具体的なメカニズムに関しては明らかになっていない[8]。
定義とNOVA分類法
食品加工 に対する懸念は、少なくとも産業革命の時代から存在している[9]。超加工食品の起源はさらに最近であり、マイケル・ポーランは、影響力のある著書『雑食動物のジレンマ ある4つの食事の自然史』(2006年)の中で、高度に加工された工業用食品を「食べることができる食品に似た物質(edible food-like substances)」と呼んだ[10]。NOVA分類法を考案したカルロス・アウグスト・モンテイロは、2009年の解説記事において、「超加工食品」という用語を作る際にポーランの影響を受けたと述べている[11]。超加工食品を「あらかじめ消化された食品(predigested food)」と記述している資料もある[12][13][14]。
モンテイロのチームは、2010年から未加工食品と加工食品を分類するための「NOVA分類法」を開発した。この分類法における「超加工(ultra-processing)」の定義は、後続の研究を通じて洗練され、最も広く受け入れられるようになった[15]。超加工食品の特定方法やカテゴリー自体は、栄養学や公衆衛生学の研究者の間で議論の対象となっており、他の定義も提案されている[16]。
2021年に行われた食品加工レベルの分類システムに関する調査では、「定義上のテーマ」として、以下の4点が特定されている。
- 加工による変化の度合い(天然の状態からの変化)
- 加工による変化の性質(特性、添加された成分)
- 加工の場所(どこで、誰によって加工されたか)
- 加工の目的(加工の理由、不可欠な加工であるか、あるいは見栄えを良くするためか)[17]
超加工食品には単純な一つの定義は存在しないが、一般的には天然食品や他の有機化合物から合成された、工業的な生産物と理解されている[18][19]。超加工の結果として生産される製品は、しばしば保存料、着色料、香料などの食品添加物を用いて、高い利便性や極めて高い嗜好性(ハイパーパラタブル)を持つよう設計されている[20]。UPFは、成形・押出成形、水素添加、油調理などの工程を経ていることが多い[21]。
NOVA分類法による判定基準は、食品名そのものではなく「どのように製造されたか」という原材料、加工過程、製品のマーケティング手法に基づいている[22][5][20]。具体的には、乳化剤、着色料、香料、非糖質系甘味料、風味増強剤、保湿剤、安定剤、増粘剤、固結防止剤、光沢剤など、家庭での調理では通常使用されない工業的な食品添加物を5つ以上、あるいはひじょうに多くの原材料を含むことが、超加工食品における典型的な特徴の一つとされている[23][5][20]。
このため、栄養成分そのものは評価の対象とならず、同じ種類の食品であっても、製造方法や食品添加物の有無によって分類が異なる場合がある[5][20]。2024年時点、UPFsの影響に関する研究は急速に進展している[8][21]。
モンテイロの2009年のコメンタリー
カルロス・モンテイロがサンパウロ大学の研究チームとともに初めて発表した超加工食品の概念は、以下のように定義された。
超加工食品とは、基本的にはグループ2の成分(まるごとの食品から抽出された物質)を調合したものであり、通常、食品添加物を洗練された方法で利用することにより、食しやすく、嗜好性が高く、かつ習慣形成しやすい性質がある食品である。超加工食品はグループ1の食品(最小限の加工を施した食品)とは実質的な類似性はないにも関わらず、健康的で「新鮮」であるかのように成形されたり、そのようなラベルが貼られて販売されている場合がある。グループ2に含まれる調味料などの成分とは異なり、超加工食品は通常、最小限の加工を施した食品や料理とともに、あるいはその一部として摂取されることはない。対照的に、調理無しでそのまま食べられる(牛乳などの液体を加えるだけの場合を含む)、あるいは加熱するだけで食べられるように設計されており、超加工食品単独で、あるいは他の超加工食品と組み合わせて(スナック菓子とソフトドリンク、パンとハンバーガーなど)摂取されることが多い[24]。
この定義は、特定の成分に基づくものであると同時に社会的な定義でもあるため、専門的な訓練を受けていない消費者であっても、超加工食品という概念を極めて直感的に理解できるように定められている[25][26]。一方で、モンテイロの2009年のコメンタリーに対する返信レターでは、この定義には伝統的な食品科学のような測定可能な定義が欠けているため、「正確性に欠ける(lacks precision)」という指摘がなされた[27]。このため、この定義が科学的な調査の妥当な根拠となり得るかどうかに関して、研究者の間で意見が分かれている[28]。なお、研究者たちは「極めて嗜好性が高い食品(hyperpalatable food)」については定量的な定義を開発しているが、超加工食品については未だ開発していない[29]。
経済的側面
高度な加工が行われるため、超加工食品は天然食品とは異なる経済的制約を受ける。
収益性の高さ
超加工食品は安価な原材料を使用することが多いため、より低い価格で販売することが可能である[30]。さらに、店舗における供給の安定性も高い[31][32]。超加工食品を製造する多国籍食品企業のグローバルな生産ネットワークは、ブランド認知度の高さ、積極的なグローバル化戦略、および類似製品を販売する現地企業の買収によって支えられている[33]。
超加工食品を販売する企業は、若い消費者や開発途上国をターゲットにすることが多い[34][35]。これらの企業の多くは、ビッグデータを活用してマーケティング対象とする消費者を選別している[36]。さらに、超加工食品業界は、大国においても、間接的または直接的なロビー活動を行い、現地の食品政策に影響を及ぼしていることが知られている[37][38]。
価格の手頃さ
超加工食品は賞味期限が長いことが多く、冷蔵保存が困難な低所得の消費者にとって重要な考慮事項となっている。超加工食品が普及している他の理由としては、主原料のコストが安価であることが挙げられる。12年間にわたる調査では、超加工食品の価格変動は未加工食品よりも小さかった[39]。
超加工食品のブランド
1897年にゼリーデザートのジェロー(Jell-O)が発売された。ラードの代用品として、クリスコ(Crisco)が開発され、1911年に消費者市場で販売が開始された。以降数十年の間に、缶詰め肉のスパム、加工チーズのベルビータ(Velveeta)、Kraft FoodsのKraft マック・アンド・チーズ(Kraft Mac & Cheese)、オレオが家庭に浸透したが、これらのブランドが超加工食品として認識されることはなかった。
第二次世界大戦中、賞味期限の長い食品が、主に実戦部隊の食料供給を確保するために開発された。これらの供給食料には、保存料、香料、ビタミンなどの新しい食品添加物が含まれていた。パッケージは、ヘリコプターからの過酷な投下に耐えられるよう設計された。戦後になり、粉チーズ、乾燥ポテト、肉の缶詰、溶けにくいチョコレートバーなどが、収益性の高いコンビニエンス・フード(インスタント食品)として販売されるようになった[40]。
普及と各国の消費状況
1990年代以降、超加工食品の売上は、世界のほとんどの国で一貫して増加、または、高い水準を維持している。
国別のデータは限られているものの、2023年時点の消費ランキングでは、アメリカ合衆国とイギリスが最上位を占めており、1日の摂取カロリーに占める超加工食品の割合は、それぞれ58%と57%に達している。消費量は国によって大きく異なり、25%から35%の範囲に収まる国も多い。チリ、フランス、メキシコ、スペインはこの範囲に含まれる一方、コロンビア、イタリア、台湾の消費水準は20%以下である[21]。日本では、2023年に東京大学が初めて全国規模の調査結果を報告しており、成人の総エネルギー摂取量に占める超加工食品の割合は平均30〜50%であった[41][42][43][44]。
日本における詳細な調査
日本では東京大学の栄養疫学・行動栄養学の研究グループが、2016-2018年に日本の32都道府県に住む18~79歳の日本人成人2742人を対象とする8日間の食事記録のデータを用いて分析を行った。ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者らが開発した食品分類の枠組みを用いて分類を行い、1日の総エネルギー摂取量に対して超加工食品が占める割合の平均値は、超加工食品をより多く見積もるシナリオでは42.4%、加工食品をより少なく見積もるシナリオでは 27.9%であった。また、シナリオにかかわらず、超加工食品からの総エネルギー摂取量に占める割合が最も大きい食品群は、穀類およびでんぷん質の食品(パンや麺など)であった[45]。
また、総エネルギー摂取量のうち超加工食品が占める割合は、60代、70代の群に比べ、18-39歳の群で統計的に有意に高く、過去に喫煙していた群および一度も喫煙したことのない群と比較し喫煙者群で統計的に有意に高いことが判明した。この研究は日本において全国規模の食事調査のデータを用い、超加工食品の摂取量と個人的特性との関連性を評価した最初の研究であった[45]。
健康への影響
超加工食品が健康に及ぼす影響は、主に栄養疫学を用いて調査されてきた。現在までに、体重増加以外の健康アウトカムに対する影響を調査したランダム化比較試験は存在しない[注釈 1]。これらの研究は、心臓代謝性およびメンタルヘルスの悪化、平均余命の短縮など、疾患リスクの全体的な増加を示している[47][48][49]。ただし、超加工食品を種類別に分けた研究では、悪影響は主にソフトドリンクや動物性食品などの一部のサブグループで見られ、シリアルなどの一部のサブグループでは逆の効果が示されている[50][51]。
健康への悪影響に関する仮説の一つとして、汚染物質の混入、特定の食品添加物、これらの超加工食品に対する高温加熱処理の存在が挙げられている[52]。別の研究では、食物依存症(フード・アディクション)も超加工食品の摂取に関連している可能性が示唆されている[53]。しかしながら、現在のところ十分な科学的なコンセンサスは得られていない[54]。
これらの研究結果が公表されたことで、超加工食品をカテゴリー全体として悪者扱いすることに関する論争が生じた。一部の批判者は、よりバランスの取れた観点を求めているが、一方で、超加工食品を容認することで、超加工食品のリスクに関する公衆衛生上のコミュニケーションを損なうことになると主張する者もいる[55][56]。
超加工食品は、食物繊維が少なく、カロリー、塩分、添加糖類、脂肪分が多い傾向にあり、これらの過剰摂取は健康状態の悪化と関連がある。こうした超加工食品の一般的な例としては、パッケージ化されたスナック菓子、ソフトドリンク、レトルト食品(レディ・ミール)、加工肉などが挙げられる[57]。
超加工食品を中心とした食事は、過食と体重増加を促進する。その主な要因は、食感の軟らかさ、エネルギー密度の高さ、そして、嗜好性の極めて高い栄養の組み合わせにより、満腹感や食物報酬(脳の快楽系)を変化させることにある[58]。
超加工食品は脂質やナトリウムを多く含有し、たんぱく質や食物繊維、ビタミン・ミネラル類の含有量が少ないため、過剰摂取により食事全体の質が低下する可能性がある。また、超加工食品の摂取と肥満や心血管疾患などとの関連が報告されていほか、BMIが高い人ほど超加工食品の摂取量が多く、年齢が高いほど少ないなど、個人的特性との関連が指摘される[45][3]。
最近の研究により、超加工食品は生活習慣病、ガン、さらにヒトの脳にまで悪影響を及ぼすことで、うつなどの気分障害や認知機能の低下を招くおそれがあることが指摘されている[59][45]。2022年6月には、医学誌『Nutrients』誌上で、超加工食品を多く含む食事では、うつ病のリスクが44%、不安障害のリスクが48%高くなることが報告された(調査対象に日本は含まれず)。2022年12月に医学誌『JAMA Neurology』に発表された別の研究では、ブラジルでの1万775人の追跡調査で、総カロリーの20%超を超加工食品から摂取する人は、それ以下の人に比較し、全般的な認知機能が28%速く低下したことが明らかにされた。2022年9月に医学誌『Neurology』に発表された報告では、イギリスでの7万2083人の追跡調査で超加工食品の摂取量が10%増えるごとに認知症のリスクが25%上昇していたという。また、一部の人工甘味料やグルタミン酸ナトリウムなどの添加物も、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの脳内物質の働きを阻害し、精神的・感情的な満足度を低下させる可能性も指摘された[59]。
全死亡率との関連
2025年のメタ分析では、超加工食品の摂取量が最も多い参加者は、最も少ない参加者と比較して全死亡リスクが15%高く、また、UPFの摂取量が10%増加するごとに死亡リスクが10%上昇することも観察された。
超加工食品の識別
超加工食品を識別するには、パッケージの食品ラベルを確認することが有効である。以下のような特徴は、超加工食品の指標となる場合がある。
環境への影響
セフェリディ(Seferidi)らは、査読なしの「評論(comment)」の記事で、超加工食品は広範な加工と包装を必要とし、低加工食品と比較してエネルギー消費量と廃棄物排出量の増加を招くと論じた。さらに、超加工食品の原材料のサプライチェーンもグローバル化しており、温室効果ガスの排出に寄与している[63]。
しかしながら、「超加工食品」の分類には植物由来の乳製品や代替肉も含まれており、これらは動物由来の製品と比較すると排出量が少ない[64]。超加工食品を含むプラントベース食品は、健康リスクとの関連が極めて低いだけでなく、温室効果ガスの排出量や水の使用量の削減にも結びついている[65]。さらに、フードシステム全体に焦点を当てた研究では、サプライチェーンから排出される温室効果ガスよりも、土地利用や農業からの排出量の方がはるかに大きいことが一貫して示されている[66]。
規制と政策
超加工食品が健康や環境に及ぼすとされる影響を受けて、これらの製品をめぐる規制や政策の改善を求める声が上がっている。こうした規制は、食品業界からの反対や食品サプライチェーンのグローバル性といった大きな課題に直面している。今後の政策的な取り組みには、より健康的で持続可能な食の選択を促進するために、規制、教育、インセンティブを組み合わせることが必要になる可能性がある。
これまで、ラテンアメリカの4カ国(ブラジル[67]、ウルグアイ[68]、ペルー[69]、エクアドル[70])は、超加工食品を避けるよう推奨する公式の国家食事ガイドラインを公表している。チリでは、一部の超加工食品に警告ラベルの表示を義務付け、加糖飲料に課税している[71]。2020年に世界銀行が発表した肥満に関する報告書では、超加工食品が潜在的な要因の一つとして言及されている[72]。
2022年、イギリスの栄養に関する科学諮問委員会(Scientific Advisory Committee on Nutrition、SACN)は、イギリス政府が超加工食品に対して立場を表明すべきかどうかを検討するために科学文献を精査し、さらなる調査を実施することを推奨した。同委員会は、2024年6月に見解の再検討を予定している[73]。
批判と議論
一部の著者は、「超加工食品」という概念の定義が不十分であることや、NOVA分類法が食品の摂取量よりも加工の種類に偏りすぎていることを批判している[74]。また、主に栄養学分野からは、健康への影響に関するメカニズムが明確に特定されていないとの批判もあり、現在のエビデンスでは、超加工食品が身体システムにどのように影響を及ぼすかについて、具体的な説明がなされていないという見解もある[18]。
脚注
注釈
出典
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関連項目
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