疥癬とは? わかりやすく解説

疥癬


疥癬はヒゼンダニ疥癬虫Sarcoptes scabiei )が皮膚の外層である角皮層に寄生し、人から人へ感染する疾患である。
非常に多数ダニ寄生認められるノルウェー疥癬(角化型疥癬)と、少数寄生であるが激し痒みを伴う普通の疥癬とがある。近年わが国では病院老人ホーム養護施設などで集団発生事例増加しており、疥癬感染防止対策マニュアル作成が行われているが、予防治療法などに混乱があり、医療および介護関係者の間で深刻な問題となっている。

感染経路

 ヒゼンダニ大きさは雌成虫体長400μm体幅325μmで、卵形円盤状で(写真1)、肉 眼ではほとんど見えない。雄は雌よりさらに小型である。卵→幼虫若虫成虫と約2週間成熟する幼虫若虫、雄成虫は人の皮膚表面歩き回るため、皮膚同士接触によって感染するまた、皮膚内に掘った穴や毛包内に隠れていたりするため、ダニ寄生部位特定するのは難しい。皮表を歩き回っている雄は角質層内の雌を探し交尾する交尾後の雌成虫 は、角質層特徴的な疥癬トンネル掘り進みながら、4~6週間わたって1日2~3個ずつ産卵し続ける。卵は3~4日孵化し幼虫トンネル出てはいまわる 写真1.ヒゼンダニ

ヒゼンダニ乾燥弱く皮膚から離れると2~3時間程で死ぬ。なお、イヌタヌキなどの動物疥癬による偶発的症例報告されており、感染したヒト皮膚症状を示すが、皮膚内でダニ繁殖しないために、一時的な寄生で終わる。
疥癬患者は年間8~15万人予想されている。感染経路は人と人との接触がほとんどであ る。従って、家族介護者、セックスパートナーの他、ダンス相手やこたつで行う麻雀仲間また、畳での雑魚寝などでも感染する可能性がある。まれに寝具衣類などから感染することもある。ヒゼンダニヒトの体温より低い温度では動き鈍く16ではほとんど運動しなくなる。通常の社会生活で、普通の疥癬患者と数時間並んで座った程度では、感染する可能性ほと んどない感染直後は全く症状がないが、感染後約4~6週間多数ダニ増殖し、その体、脱皮殻や排泄物(糞)によって感作されることにより、アレルギー反応としての激し痒みが 始まる。なお、角化型疥癬の患者から感染受けた場合には 多数ダニが移るので、潜伏期間も4~5日と非常に短くなる
集団生活が行われている老人福祉施設養護施設などでは、一人角化疥癬患者の入所集団発生危険性生じる。1996年東京都神奈川県千葉県埼玉県養護老人 ホーム特別養護老人ホーム506施設に、疥癬の集団発生に関するアンケート調査実施した報告では、集団発生経験したことがある施設養護老人ホーム45%、特別養護老人ホーム79%であった多く10人以下の集団発生であったが、41人以上の集団発生も5施設あった。患者発生持続する期間は1~6カ月89%、6カ月1年8.2%、1~2年2.6%で、2年以上も1施設みられた(皮膚病診療19:4681977)。

臨床症状診断
激し痒みは特に夜間増強し睡眠妨げられることがある。ただし、高齢者角化型 疥癬の患者では掻痒訴え少な場合もある。疥癬に特徴的な皮疹は疥癬トンネル(小隆 起茶色調、曲がりくねった線状疹)で、手首の屈側、手掌尺側、指、指間、肘、アキレス腱部 などに認められる。その他、丘疹小水疱痂皮小結節なども見られる陰嚢部には小結節認めことがあるまた、下腹部背部腋下などにも丘疹認めることもあるので、全身くまなく観察することが必要である。
疥癬の確定診断ヒゼンダニ検出することである。しかし、問診皮膚症状で疥癬が疑わ れる患者からのヒゼンダニ検出率は、皮膚科医が行った場合でも60%前後であり、検出率向上 は主治医努力かかっている。したがって、強い掻痒を伴う疑わしい皮疹がある場合には、早期皮膚科専門医診察依頼する検査陰性であっても掻痒皮膚症状が収まるまで、数週間おいて繰り返し検査する必要がある
ヒゼンダニ検出方法は、疥癬トンネル皮疹部を先の曲がった眼科用ハサミ先端切り 取ったり、あるいは、メス皮疹表面をこすって採取した組織片をスライドグラス載せ20% 水酸化カリウム液を皮膚小片滴下し透過させて鏡検する体や卵のほか、体の一部、卵の抜け殻などを検出する血液像血液生化学検査などは正常である。免疫学的検査 法開発されていない


角化型疥癬(ノルウェー疥癬、痂皮型疥癬)

 角化型疥癬は、桁違い多数ヒゼンダニ感染した疥癬の重症型である(写真2)。患部は、肥厚した灰白色~帯黄白色の角質増殖痂皮覆われた状態になり、亀裂生じる。ダニの数は通常の疥癬では数十匹であるが、角化型では100万200匹といわれている。
写真2

 患者から剥がれ落ちた鱗屑痂皮には多数ヒゼンダニがいるので、集団発生感染源になる。角化疥癬患者には、高齢者多くみられる運動機能低下障害、あるいは免疫学的異常な種々の基礎疾患があり、ステロイド剤内服注射などの全身投与外用なども重症化一因となる。角化型で は爪なども侵され掻痒不定治療抵抗性である。角化型ではヒゼンダニ検出が容易であるので、特徴的な皮疹診て疥癬を疑うことが診断上重要である。


治療・予防
現在使用されている抗ダニ薬剤を表に示す。疥癬への保険適用薬剤イオウ剤のみであるが、外用剤使用感悪く効力も弱い。イオウ入浴剤はやや有効であるが、入浴しすぎたり浴槽多く入れすぎると肌が荒れるので注意する診療現場でクロタミトン軟膏多く使用されている。外用剤は首から下の全身塗布するのが肝要で、特に手や指、陰部などに塗り残しないようにする。しかし、効果弱く処置煩雑なため、著効する内服剤への期待高く保険適用望まれている。掻痒に対しては、抗ヒスタミン剤内服用いられている。角化型 疥癬は厚い痂皮を取ることが必要である。疥癬を湿疹誤診してステロイド塗布治療を行うと、一時的に皮疹痒み軽減するが、すぐに悪化してくる。ステロイド外用剤使用してならない
感染拡大予防のためには患者早期発見が重要で、疥癬が疑われる場合早期皮膚科検査依頼すること、さらに一人患者見つかった場合患者家族や同じところで寝泊りした人など、無症状者にも検査を行うことが必要となる。また、集団発生時は角化疥癬患者 など当該施設感染源特定すること、感染機会があった入所者・スタッフ検査を行うことが必要となる。普通の疥癬患者とは皮膚の直接接触避ければ感染の心配はないので、隔離必要ないが、角化疥癬患者は短期間個室管理とし、処置をする場合感染予防努める。

表. 疥癬の主な治療薬剤







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