片足
『古事記』上巻 クエビコ(=崩彦)は足は歩けないが、天下の事をことごとく知っている神であった。クエビコは、今でいう「山田のそほど(=山田のかかし)」のことである。
*後には「そほど」を「僧都」と解するようになった→〔藁人形〕3の『和漢三才図会』巻第78。
*自身は動かず、1ヵ所にいながら世界のことを知るというのは、北欧神話のオーディンと同様である→〔烏(鴉)〕2の『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第38章。
道陸神(どうろくじん)様と弁天様の伝説 道陸神様が美女の弁天様に恋したが、弁天様は池の中に逃げ込んで一本橋をかけた。道陸神様は一本足なので、一本橋を渡れず、しかたなく池の傍らに立っている。そのため、足の悪い人は道陸神様を拝んで、わらじを供えるのだという(群馬県邑楽郡千代田町赤岩)。
『しっかり者の錫の兵隊』(アンデルセン) 錫の材料不足のため、一本足の玩具の兵隊ができた。兵隊は、片足を上げた踊り子の紙人形を見て、「彼女も一本足なんだろう。自分の嫁にちょうどいい」と思う。しかし兵隊は子供の手で、踊り子は風に吹かれて、ストーブに放りこまれ一緒に燃えてしまう。
『宝島』(スティーブンソン) ジョン・シルバーは海賊で、銃撃によって片足を失った。彼は松葉杖を使い一本足で器用に動き回り、前身を隠しコックとなって、宝島を目指す船に乗り込む。彼は船員たちをそそのかして反乱を起こし、宝の横取りをたくらむが、やがて形勢不利と見て、反乱の首謀者でありながら寝返り、船長や「わたし(少年ジム・ホーキンス)」たちの側につく。
『白鯨』(メルヴィル) かつてエイハブ船長は、白鯨モービー・ディックのために片足を喰い切られた。一本足になったエイハブは鯨骨製の義足をつけ、白鯨に復讐すべく、30人の乗組員を率いてピークォド号で大洋に乗り出す。ピークォド号は赤道付近で白鯨を見つけ、追跡と死闘が3日続く。白鯨はピークォド号に体当たりし、沈没させる〔*ただ1人生き残った乗組員イシュメイルが、この物語の語り手となる〕。
『三人の職人』(グリム)KHM120 3人の職人が、仕事を求めて旅をする。りっぱな服装(みなり)の人が、「私の言うことを聞いてくれれば、お前さんたちを大金持ちの旦那にしてあげる」と声をかけてくる。その人の足もとに目をつけていると、馬の足と人間の足とが片方ずつ見えたので、職人たちは、「こいつは悪魔だ」と気づく〔*悪魔は職人たちに手伝わせて、ある殺人者の魂を取って行った〕。
『ファウスト』(ゲーテ)第1部「ライプチヒなるアウエルバッハの酒場」 悪魔メフィストフェレスが人間の姿になり、ファウスト博士を書斎から連れ出して、学生たちがたむろする地下酒場へ案内する。学生たちはメフィストフェレスを見て、「こいつ、なんで片足を引きずっているのだろう」と不審がる〔*左足が馬の足なので、引きずっていたのである〕。メフィストフェレスは学生たちを翻弄し、ファウスト博士とともに酒樽に乗って飛び去る。
『悪魔の足』(ドイル) 人間の足の形と小羊の足の形とが半々になった植物の根があり、その形状から「悪魔の足」と名づけられている。これを燃やすと猛毒の気体が発生し、脳中枢に働きかけて、人を恐怖と死へ追いやる。モーティマという男が財産の独り占めをねらって「悪魔の足」を用い、兄弟2人を発狂させ、妹ブレンダを殺した。ブレンダの恋人だったスターンデール博士が、同様の方法でモーティマを殺し、復讐した。ホームズはスターンデール博士を告発せず、そのまま去らせた。
★5.片足の登山。
雷電山の山姫の伝説 雷電山の頂上に片足の姫神が住み、神楽を奏していた。この姫神に逢うには、片足で山上まで登らねばならない。1人の青年が神楽を聞き、「姫神に逢いたい」と思いつめ、片足で山を登り始める。しかし9合目で力尽き、両足を地に着けてしまった。疲労に絶望が加わり、青年は死んだ。以来、姫神の神楽の音も絶えた(埼玉県比企郡玉川村日影)。
★6.片足で立つ王。
『金枝篇』(初版)第3章第1節 シャムでは春季に、本物の王とは別に、一時的な仮の王が任命される。彼は3日続く儀式の間、右足を左膝に乗せ、木にもたれかかって片足で立っている。冬季の儀式では、彼は天蓋の木枠で身体を支え、3時間ほど、椅子の上に片足で立つ。もし片足を下ろしたら、彼は財産を没収され、彼の一族は奴隷となる定めだ。片足を上げ続けるというのは、おそらく本来は、稲を高く実らせるための呪術であったろう。
★7.片足に靴をはき、片足は裸足の男。
『アルゴナウティカ』(アポロニオス)第1歌 イオルコスの王ペリアスは、「片方だけサンダルをはいた男に気をつけよ」との神託を得る。やがて、王位の正統な継承者イアソンがやって来る。彼はアナウロス河を渡る時、一方のサンダルを流れの中でなくし、片足は裸足のままペリアスの前に現れる〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)巻1-9に類話〕。
『今昔物語集』巻6-3 達磨和尚が死に、埋葬して14日後、朝廷の使者宗雲が、葱嶺(パミール高原)で天竺に帰る達磨に出会った。達磨は片足に草鞋をはき、片足は裸足だった。後に達磨の墓へ行き棺を開いて見ると、遺体はなく、ただ履の片方だけが残っていた。
『足袋』(松本清張) 商事会社の総務部長・村井英男(42歳)は、謡曲の師匠・津田京子(38歳)との不倫関係を断ち切った。しかし京子は、村井の家に無言電話を何度もかけ、深夜、家のまわりをうろついた。ある朝、村井の家の郵便受けに、白足袋の左の片方が投げ込まれた。やがて玉川上水から、和服姿の京子の溺死体が上がる。遺体の脚は、白足袋を右の片方だけはき、左は素足であった。
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