火葬
★1a.死者を火葬にしたので、蘇生しても魂の戻るべき身体がない。
『天国から来たチャンピオン』(ヘンリー) フットボール選手ジョーは交通事故で死に、天国へ向かうが、天使長が調べると、彼にはまだ50年もの寿命が残っていた。ジョーの死体は火葬されてしまったので、彼は、富豪レオ(妻と情夫に殺された)の身体を借りて生き返る。妻と情夫は、生きているレオを見て驚愕し、もう1度殺す。ジョーはレオの死体から離れ、チームの仲間トム(試合中の怪我で死んだ)の身体に宿る。ジョーはクォーターバックの名選手トムとして、新しい人生を始める。
★1b.自分の身体を火葬で失い、他人の身体を借りて蘇生したため、家族が二倍になった。
『伊勢や日向の物語』(書陵部本『和歌知顕集』所載) 〔第33代〕推古天皇の代(A.D.593~628)のこと。日向国に住む佐伯経基と、伊勢国に住む文屋吉員が、同年・同月・同日・同時刻に死んだ。2人とも41歳であった。伊勢国の文屋吉員はまだ寿命が尽きていなかったが、遺体が火葬されたので、日向国の佐伯経基の土葬された身体を得て、よみがえった。その結果、文屋吉員は、本来の妻子に佐伯経基の妻子を加えて、妻2人・子5人を持つことになった。
*『和漢三才図会』巻第71・大日本国「伊勢」に異伝がある→〔入れ替わり〕4b・4c。
『日本霊異記』中-25 讃岐国鵜垂郡の衣女(きぬめ)は、山田郡の衣女の身代わりに冥府へ連れて行かれる。それに気づいた閻羅王が、鵜垂の衣女を家へ帰すが、彼女の遺体はすでに火葬されていた。そのため鵜垂の衣女の魂は、山田の衣女の身体を得て蘇生する。鵜垂の衣女の両親も山田の衣女の両親も、蘇生した衣女に家財を譲り与え、彼女は4人の父母を持つこととなった。
*蘇生して、「ここは自分の家ではない」と言う人→〔蘇生〕1の『聴耳草紙』(佐々木喜善)110番「生返った男」。
*小栗は土葬され、家来10人は火葬された→〔蘇生〕2cの『小栗(をぐり)』(説経)。
『馬の脚』(芥川龍之介) 北京在勤の忍野半三郎は脳溢血で死んだが、冥府の事務員から「人違いだった」と告げられる。忍野の戻るべき身体は、すでに脚が腐っていたので、死んだばかりの馬の脚が代わりにつけられる。蘇生した忍野は、烈しい黄塵の日、馬の生まれ故郷である蒙古方面へ駆け去った。
*他人の身体を借りて蘇生した人→〔蘇生者の言葉〕1の『酉陽雑俎』続集巻3-922。
★2b.遺体の代わりに得た新しい身体が不満、というばあいもある。
『田村の草子』(御伽草子) 将軍田村丸(俊宗)は、病死した妻・鈴鹿御前のあとを追って7日後に焦がれ死に、冥府へ行く。彼は冥府で暴れ、閻魔王に「妻を現世へ戻せ」と要求する。鈴鹿御前の遺体はすでになく、代わりに、同年齢の美濃国の女の身体が与えられる。田村丸は女を見て、「容姿が劣る。もとどおりにせよ」と立腹する。そこで東方浄瑠璃世界から薬を取り寄せ、女を美しく変身させた。
★3.生体から一時的に魂が抜け出ている間に、その生体を焼いてしまう。
『カター・サリット・サーガラ』「『ブリハット・カター』因縁譚」 インドラダッタ、ヴヤーディ、ヴァラルチの3人の婆羅門が、ナンダ王から10万金を得ようとする。しかしナンダ王が死去したため、インドラダッタがナンダ王の死体に乗り移って、「婆羅門に10万金を与えよ」と大臣に命ずる。大臣はこれを怪しみ、インドラダッタの抜け殻の身体を見つけて、火葬してしまう。戻るべき肉体を失ったインドラダッタは、そのまま贋ナンダ王となり、やがて快楽に溺れて堕落する〔*ヴヤーディは苦行をすべく去り、ヴァラルチは宰相となって王に仕える〕。
★4.仏(=釈迦)の火葬。
『今昔物語集』巻3-34 仏が涅槃に入ったので、弟子たちが遺体を火葬しようとしたが、棺に火を投げかけても、みな消えてしまった。仏の聖なる遺体は、世俗の火では焼けないのである。仏は大慈悲心をもって自らの胸の中から火を出し、棺を焼いた。
★5.火葬の煙。
『保元物語』下「崩御の事」 保元の乱の後、崇徳院は讃岐国に配流された。院は都へ還ることを願ったが、赦されなかった。配流後9年目の長寛2年(1164)に、院は46歳で亡くなった。都への思いが強かったのか、火葬の煙が都に向かってなびいたのは、恐ろしいことであった。
★6.「このしろ」を焼いて、人を火葬したかのごとく欺(あざむ)く。
『和漢三才図会』巻第49・魚類(江海有鱗)「つなし(このしろ)」 「このしろ」を炙るとたいへん臭くて、屍(しびと)の匂いのようである。昔、野州の室の八嶋に美女があり、相思の男がいた。州の刺史(長官)がこの女を強引に自分の嫁にしようとしたが、女も父母もこれを拒絶する。一家は刺史の怒りを恐れ、「女は疫死した」と偽って、棺に数百の「このしろ」を入れて荼毘に付す。女は出奔し、難を逃れた。以来、この魚は「子の代(しろ)」と呼ばれるようになった。
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