戦術的都市主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2025/11/03 08:54 UTC 版)
戦術的都市主義（Tactical urbanism: タクティカルアーバニズム、ゲリラ都市主義、ポップアップ都市主義、都市修復、DIY都市主義[1]、 計画実行、都市鍼灸、都市プロトタイピング[2]）は、都市建造環境への低コストかつ一時的な改良であり、主に近隣地域や都市の集会場所などの改善に用いられる[3]。
戦術的都市主義は、主に市民主導で行われ、中には政府機関が主導することもある。コミュニティが仮設する際は、政府機関に対し、より恒久的またはより高価な施設改良を迫る目的で設置されることがしばしばある[4]。
用語
この用語は2010年頃から始まり、既存の様々な手法にも用いられるようになった。ストリートプランズ・コラボレーティブは、「戦術的都市主義」を、都市変革へのアプローチとして以下の5つの特徴を定義している[1]。
- 変化を促すための意図的で段階的なアプローチ。
- 地域計画の課題に対する地域的な解決策。
- 長期的な変化に向けた第一歩としての短期的な取り組み。
- リスクは低く、高い効果が得られ安い。
- 国民間の社会資本の発展と、公的機関、民間機関、非営利団体とその構成員を連携させる組織力の構築。
フランスの作家ミシェル・ド・セルトーの『* 日常生活の実践』の1984年の英訳では「戦術的都市主義」という用語が用いられているが、これは1968年にパリで起こった出来事に言及したものであった。セルトーが述べた「戦術的都市主義」は「戦略的都市主義」とは対立するものであり、現代の概念では両者は区別されない傾向がある。この用語の現代的な意味は、ニューヨークを拠点とする都市計画家マイク・ライドンに由来する[5]。
- 公共空間プロジェクトでは、都市設計家のエリック・レイノルズによる「より軽く、より早く、より安く」が、戦術的都市主義が表現するのと同じ基本的なアプローチを表現している[6]。
起源
戦術的都市主義運動は、* シクロビア、パリ・プラージュ[7] などの都市実験や、ジャネット・サディク・カーンがニューヨーク市運輸局長を務めていた時代にニューヨーク市で導入された広場や歩行者専用モールなどの都市実験から発想を得た[8]。
戦術的都市主義は、持続可能な建物、道路、近隣地域、そして都市の創造において、個人が責任を持つよう促すことを原動力にしており、2010年11月にニューオーリンズで開催された次世代ニューアーバニスト（CNU NextGen）グループの会合より、正式な運動となった。この会合の後、NextGenのグループによって「タクティカル・アーバニズム：短期行動｜長期変化」と呼ばれるオープンソース・プロジェクトが開発され、戦術的都市主義の定義、都市設計の改善と近隣地域やコミュニティにおける前向きな変化を促進するための様々な介入策の推進を目指している[9]。
事例
ハワイ州ホノルルは、米国で歩行者死亡率が高い都市のである（Wong 2012）[10] 。交通量の多い交差点の多くは、通過交通量と速度が劇的に変化したにもかかわらず、過去の市の基準のままであった。2014年、一部の住民が抗議行動を起こしました。ある交通量の多い交差点の横断歩道に住民が危険な場所に人間味を加えようとハワイの伝統的な挨拶である「アロハ」を書き加えた。しかし、市当局は規則違反であるとした[11]。
2016年春、シカゴ市は交差点にユニークな「右折禁止」標識を設置した。この注意喚起として、ある人物が横断歩道上に小さなプランターボックス2つを設置し、そこに花を咲かせた。多くの人が好意的に反応した一方で、地元企業は交通パターンの変化とそれがビジネスに与える影響を懸念した[12]。
介入の種類
戦術的都市計画プロジェクトは、その範囲、規模、予算、法的根拠、そして支援がそれぞれ大きく異なる。プロジェクトは草の根レベルの介入から、他の都市に広がることが多く、後に自治体の最適な手法となることもある。以下に、一般的な介入をいくつか挙げる。
公共スペースの改善
- ブロックイニシアチブ改良
- 安価な資材や寄付された資材、ボランティアを活用して、一時的に商店街を改造する。屋台、歩道テーブル、仮設自転車レーンの設置、道路幅の狭小化などにより、空間を変貌させる[13]。
- チェア爆弾
- 回収可能な資材を取り除き、公共の椅子を設置する。椅子は静かな場所や快適に座れない場所に設置される[14]。
- フードカート/キッチンカー
- フードカートやキッチンカーは、利用されていない公共スペースに人々を引き寄せ、起業家に小規模なビジネスチャンスを提供する。
- オープンストリート
- 歩行、自転車、スケート、社会活動に空間を一時的に提供し、地域経済の発展を促進し、都市空間における自動車の影響についての意識を高める。「オープンストリート」とは、ボゴタ発祥の南米の「* シクロビア」の英語化された用語です。
- 駐車場デイ
- 路上駐車場を公園スペースに変えてしまう年次イベント[15][16] 。 駐車場デイは、2005年に* レバーアート＆デザインスタジオが始めた。
- 舗装から広場へ
- ニューヨーク市で普及した「舗装から広場へ」は、街路空間を公共空間に変える取り組みである。タイムズスクエアを車両通行禁止にし、低コストで歩行者広場に転換したのは、舗装広場の典型である[17][18]。
- ポップアップカフェ
- 駐車場に仮設されたパティオやテラスを、近隣のカフェや通行人のための座席にする。歩道が狭く、屋外に座ったり食事をしたりするスペースがない都市部でよく見られる。
- ポップアップ公園
- 十分に活用されていない空間を美化し、地域のふれあいエリアにする。
- ポップアップストア
- 空き店舗や空き物件に開設される臨時小売店。
インフラストラクチャ
横断歩道ペイント
- * ゲリラ横断歩道とは、市当局が横断歩道を設置していない道路や交差点に地域住民が横断歩道を描く。[19][20]
- 実質的な歩道
- * デザイア・パスとは、都市において計画的に設置されずに、人が通ることで獣道のように作られた歩道などです。特定の目的地へ実用的なルートであるため、後から改良または舗装されるものもある。
- Protected bike lanes保護された自転車レーン
- * ポップアップ自転車レーンは、通常、鉢植えやその他の物理的な障壁を設置して、ペイントされた自転車レーンの安全性を高める。既存の自転車レーンがない場合もあり、物理的な保護手段が唯一の境界となることもある。
- 改善された標識
- カナダの一部のバス停[21] 、カリフォルニア州州間高速道路110号線の出口レーン[22][23]
撤去
- フェンス撤去
- 隣人同士の障壁をなくし、コミュニティを美化し、コミュニティの構築を促進することを狙い、不要なフェンスを取り除く[24]。
- * 舗装撤去
- 不要な舗装を取り除き、私道や駐車場を緑化し、雨水を吸収し、近隣地域を美化する[25]。
- 敵対的な建築物の破壊
- 通常はホームレス対策用の排除アートなど敵対的な建造物を妨害、汚損、または撤去し、効果を損なう行為。多くの場合、* ホームレス対策法への抗議が目的である。特にこれらの行為は、しばしば破壊行為とみなされる[26][27]。
自然
- 花ゲリラ
- 放棄された敷地、手入れされていない地域、私有地など、庭師が利用する法的権利を持たない土地を耕作すること。
- ゲリラ接ぎ木
- 実のなる枝を不妊街路樹に接ぎ木して食べられる街を作る。
別項目
さらに読む
- The Street Plans Collaborative, Inc. (通称Street Plans）は、Ciudad EmergenteおよびCodesign studioと共同で、無料の戦術的都市計画電子書籍シリーズを制作しています。第1巻と第2巻は北米の事例研究に焦点を当て、第3巻は南米のプロジェクトに関するスペイン語版ガイド、第4巻はオーストラリアとニュージーランドを網羅し、2011年のクライストチャーチ地震:2011 Christchurch earthquakeへの対応も取り上げている。
- ストリートプランズのマイク・ライドンとアンソニー・ガルシアは、 2015年3月に戦術的都市計画の本を出版した[28]。
== 脚注 ==
- ^ a b Lydon, Mike; Bartman, Dan; Garcia, Tony; Preston, Russ; Woudstra, Ronald (March 2012). Tactical Urbanism Short-term Action Long-term Change Volume 2. The Street Plans Collaborative. p. 7 2014年10月23日閲覧。
- ^ Lydon, Mike; Garcia, Tony (December 2016). Tactical Urbanism Materials and Design Guide. Street Plans Collaborative. 11 2021年10月19日閲覧。
- ^ Pfeifer. “The Planner's Guide to Tactical Urbanism”. Regina Urban Ecology. 2014年10月23日閲覧。
- ^ Mittendorf, Robert (2022年5月29日). “Bellingham neighbors wanted quick action to stop speeding. So they went rogue.”. The Bellingham Herald (Bellingham, Washington) 2022年5月29日閲覧. "As Bellingham elected officials and traffic engineers are deciding where to prioritize transportation projects such as roads, bike lanes and sidewalks over the next several years, some residents are seeking a speedier remedy. They’re trying to goose the bureaucracy into taking quick action to slow the commuters ... To get the city’s attention earlier this year, about 50 Columbia residents spent a few hours building a pair of DIY crosswalks, using colored chalk and some traffic cones, materials that cost about $200"
- ^ “Tactical Urbanists Are Improving Cities, One Rogue Fix at a Time”. Smithsonian. 2025年11月3日閲覧。
- ^ “Lighter, Quicker, Cheaper: A Low-Cost, High-Impact Approach”. pps.org. 2025年11月3日閲覧。
- ^ Bossart (2014年8月11日). “The rise of tactical urbanism”. Next Pittsburg. 2014年10月23日閲覧。
- ^ Davis. “On Broadway, Tactical Urbanism”. faslanyc. 2014年10月23日閲覧。
- ^ Lydon. “The Next Urbanism: A Movement Evolves”. Planetizen. 2014年10月23日閲覧。
- ^ Wong Alia (2012年9月2日). “Don’t Walk: Hawaii Pedestrians, Especially Elderly, Die At High Rate”. Honolulu Civil Beat. 2022年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月3日閲覧。
- ^ Nathaniel M. Hood (2014年2月12日). “Don't be stupid. Be flexible.”. StrongTowns blog. 2016年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月3日閲覧。
- ^ Greenfield (2016年4月21日). “Eyes on the Street: Tactical Urbanism Blooms on Broadway”. StreetsBlog Chicago. 2025年11月3日閲覧。
- ^ “The Better Block”. The Better Block. 2014年10月23日閲覧。
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- ^ Best (2011年9月16日). “Park(ing) Day!”. Spacing Toronto. 2014年10月23日閲覧。
- ^ “Wikispaces”. streetswiki.wikispaces.com. 2014年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月29日閲覧。
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- ^ Durkin (2013年12月23日). “Bloomberg predicts Times Square pedestrian plaza will stay under de Blasio”. nydailynews.com. 2020年4月29日閲覧。
- ^ Kroman, David (2022年5月26日). “Seattle residents painted their own crosswalk. It didn't go over well.”. The Seattle Times (Seattle) 2022年5月26日閲覧. "There’s a name for when community members make unsanctioned changes to city-owned streets: “tactical urbanism.”"
- ^ Mittendorf, Robert (2022年5月29日). “Bellingham neighbors wanted quick action to stop speeding. So they went rogue.”. The Bellingham Herald (Bellingham, Washington) 2022年5月29日閲覧. "As Bellingham elected officials and traffic engineers are deciding where to prioritize transportation projects such as roads, bike lanes and sidewalks over the next several years, some residents are seeking a speedier remedy. They’re trying to goose the bureaucracy into taking quick action to slow the commuters ... To get the city’s attention earlier this year, about 50 Columbia residents spent a few hours building a pair of DIY crosswalks, using colored chalk and some traffic cones, materials that cost about $200"Mittendorf, Robert (May 29, 2022). "Bellingham neighbors wanted quick action to stop speeding. So they went rogue". The Bellingham Herald. Bellingham, Washington. Retrieved May 29, 2022.
As Bellingham elected officials and traffic engineers are deciding where to prioritize transportation projects such as roads, bike lanes and sidewalks over the next several years, some residents are seeking a speedier remedy. They're trying to goose the bureaucracy into taking quick action to slow the commuters ... To get the city's attention earlier this year, about 50 Columbia residents spent a few hours building a pair of DIY crosswalks, using colored chalk and some traffic cones, materials that cost about $200
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- ^ Nelson (2014年6月12日). “Victory As Tesco Abandons Anti-Homeless Spikes After Concrete Vandalism” (英語). HuffPost UK. 2024年4月26日閲覧。
- ^ Lydon, Mike; Garcia, Anthony (2015). Tactical Urbanism: Short-term Action for Long-term Change. Washington, DC: Island Press. ISBN 9781610915267
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