尼
『黒水仙』(パウエル他) ヒマラヤ山麓の寒村に、学校と診療所を作ってほしい、との依頼を受けて、イギリスから5人の尼僧が赴任する。しかしキリスト教国とは異なる環境で、尼僧たちの心も動揺する。病気の赤ん坊が診療所へ運ばれたが死んでしまい、「尼僧たちが赤ん坊を殺した」と村人は言う。尼僧の1人が、村にいる唯一の白人男性に恋い焦がれ、錯乱状態で転落死する。結局尼僧たちは、半年もたたぬうちに村を去る。
『尼僧物語』(ジンネマン) ベルギーの医師の娘ガブリエルは家族や恋人と別れ、修道院に入る。彼女はシスター・ルークの名を与えられ、神に仕えて沈黙と服従の日々を送る。彼女はアフリカのコンゴの病院での看護の仕事を志願し、外科医フォチュナティへの尊敬の念は恋心に近いものになる。しかし、やがてガブリエルはベルギーに呼び戻される。第2次大戦が始まり、父はナチスによって射殺された。ガブリエルは、尼僧として俗世に完全中立の立場を貫くことはもはや不可能であると悟り、修道院を出る。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ88 ある人が泉の側を通りかかり、1人の尼僧が沐浴するのを見た。尼僧は短刀で自分の腹を切り裂き、内臓を取り出して洗っている。見た人は、その生臭さで気を失いそうになった。尼僧は、おそらく八百比丘尼の類だったのだろう。彼らは数百年も生き、時折、真水で内臓を洗わないと、腐れてしまうのである。
『捜神後記』巻2-5(通巻16話) 晋の大司馬・桓温(312~373)の屋敷に、1人の尼僧が逗留する。尼僧はいつも長時間入浴するので、桓温がのぞき見る。尼僧は刀で腹を裂いて臓物を取り出し、首を斬り落とし手足を刻んでいた。尼僧はもとの姿にもどって、桓温に「帝位を奪おうとする者は、あんなふうになる」と忠告する。桓温は帝位簒奪の計画を取りやめ、臣下として生涯を終える。
★3.不思議な尼。
『陰火(尼)』(太宰治) 9月29日の夜更け、若い尼が「僕」の部屋を訪れた。尼は、「月夜の蟹が痩せているのは、砂浜に映る自分の醜い月影におびえ、終夜ねむらずよろばい歩くからです」というお伽噺をし、蒲団に横たわって、「私が眠ると、如来様が毎晩遊びにおいでになるので、ご覧なさい」と言う。尼は眠ったまま、にこにこ笑い続け、そのうちだんだん小さくなって、2寸ほどの人形になった。
*Kは砂浜に映る自分の月影を見て、昇天した→〔昇天〕4の『Kの昇天』(梶井基次郎)。
★4.尼天狗。
『稚児今参り』(御伽草子) 天狗にさらわれた稚児を捜して(*→〔稚児〕3)、姫君が山中をさすらい、尼天狗の庵にたどり着く。「仏の道に入りたい」と念願していた尼天狗は、「自分の身を犠牲にしてでも、稚児を救ってやろう」と考える。尼天狗は、子供の天狗たちをだまして稚児を取り戻し、姫君のもとへ返す。そのため尼天狗は、子供の天狗たちに殺されてしまう。尼天狗は稚児と姫君から手厚い供養を受け、「私は兜率の内院に生まれた」と夢で知らせた。
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