地球の出とは? わかりやすく解説

地球の出

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/20 02:30 UTC 版)

1968年12月24日に撮影された「地球の出」
フランク・ボーマンとウィリアム・アンダースが「地球の出」の撮影中に交わしたやりとり
4周目の月軌道上でアポロ8号の乗組員からみた月の地平線上を昇る地球のシミュレーション。途中で乗組員の撮った2枚の写真と重ねられる。

地球の出(ちきゅうので、: Earthrise)は、アポロ8号ミッション中の1968年に宇宙飛行士ウィリアム・アンダースが撮影した地球の写真のことである。「史上最も影響力のあった環境写真」として知られ、アースデイをはじめ様々な環境運動のアイコンとなった[1]

撮影

アポロ8号は人類初となる有人の月周回飛行を行った。「地球の出」とはこのミッション中の1968年12月24日に月の周回軌道上からウィリアム・アンダースがハッセルブラッド社のカメラで撮影した写真(NASA image AS8-14-2383)に与えられた名前である[2][3]。直前に船長のフランク・ボーマンが白黒写真でこの光景を収めており、その後にアンダースが70mmのカラーフィルムを見つけた[4]。ボーマンの写真は地球の明暗境界線が月の地平線に接しているという違いはあるが、大陸の位置と雲の模様はカラーの「地球の出」と同じものだった[5]

このときの様子は録音されており[6]、文字にも書き起こされている。

ボーマン:オー・マイ・ゴッド! この景色をみてくれ! ほら地球が昇ってきている。ワオ、美しいじゃないか。
アンダース:撮るのかい、予定にないよ
ボーマン:(笑いながら)ジム、カラー・フィルムはある?
アンダース:早くカラーのフィルムをわたしてくれないか…[7]

同じ場所で何枚もの写真が撮影された。ミッション中の録音テープから、ボーマンが指示しラヴェルとアンダースが喜んで協力したことがわかる。アンダースが最初の1枚を撮り、ラヴェル(設定値を記録している[8])が続き、アンダースが異なる露光量でもう2枚の写真を撮影した。

フロム・ジ・アース・トゥ・ムーン」はアンドルー・チェイキンの「人類、月に立つ」をもとに製作されたテレビドラマだが、第4話(「激動の1968年」)で「予定にない」という台詞をボーマンに語らせている。しかし、その発言の主をアンダースに帰しているPBSのほうが正しいことは上述の録音からも明らかだ。実際のところ船長のボーマンがそんなことを言ったならば、いまのようなカラー写真は撮影されることはなかっただろう。

1988年に出版されたボーマンの自伝には、彼の写真の白黒版がほぼ1ページ大で使われており、「写真史に残る非常に有名な1枚―ビル・アンダースから放たれたカメラを私が受けとめて撮影した」と解説されている。さらにボーマンはこの写真を「郵政公社が切手に採用しており、この写真以上に複製された画像となるとごくわずかしかない」と書いている[9]。しかしフランク・ボーマンの自伝に複写された「地球の出」は、アンダースの写真とそっくりだが、水平方向に反転している上に切り取られて印刷されている。

切手もアンダースの写真通りに雲や色合、地形の模様を再現している。ボーマンによれば「原子力工学の修士号」を持っていたアンダースは、「科学者兼乗組員として…実際に月に着陸するアポロ号の船員にとって非常に重要な義務である写真撮影も行う」ことになっていた[10]

地球のすがた

この写真の地球は出版物では次のような方位になっている

  • 南極は左、北極は右を向いている(南極大陸が10時の方向)
  • 赤道は西から右上隅へと中心を走っている
  • 日没の境界線がアフリカ大陸を交差している(左手のやや明るい場所がナミビアナミブ砂漠で、右手が西サハラあるいは西アフリカ)
  • 我々が思い浮かべる典型的な北極/南極を上下とする図から時計回りに135°ずれている。

影響

切手になった「地球の出」

ライフ誌で組まれた特集「世界を変えた100枚の写真」で自然写真家のガレン・ローウェルはこの「地球の出」を「史上最も影響力を持った写真」と呼んでいる[11]。「地球の出」という名が初めて活字になったのは、1968年12月にシカゴ・トリビューンに掲載されたAP通信の写真につけられた解説である[1]1966年ルナ・オービター1号が最初の地球の出を白黒写真に収めているが、こちらはあまり知られていない[1]。スケジュール通りであれば撮影対象でなかった「地球の出」は、1972年に撮影された「ブルー・マーブル」とともにまったく新たな地球のイメージをもたらした。それまで「巨大で」「なかば無限大」であった地球は、ジョン・ダウニングによれば、いまや可憐かつ孤独な惑星であり、人々に保護をもとめる存在となったのだ。「地球の出」はそうしたエコロジカルな世界観のもとで、さまざまな環境運動の旗印に用いられ、20世紀において最も広く流通した画像の一つになった[12][13]

切手

1969年、アメリカ郵政公社は月を周回したアポロ8号を記念した切手(スコット・ナンバー#1377)を発行した。「地球の出」の写真を細部まで(特に色合い)描いていることが特徴で、船員たちがアポロ8号の中で読んだ創世記の「初めに、神は…」という言葉が添えられている(アポロ8号での創世記の朗読も参照)。

動画

2008年4月6日(日本標準時)、初めてハイビジョンカメラ(1080p)により「地球の出」が動画撮影された。この「満地球」の出没はJAXAの月周回衛星「セレーネ」(日本では「かぐや」の愛称で知られている)から撮られたものである。1年と8ヶ月にわたって月を周回することに成功した「セレーネ」は、2009年6月10日 (UTC) に予定通り月面に落下し運用が終了した[14]

脚注

  1. ^ a b c Paul Dickson (2009). A Dictionary of the Space Age. The Johns Hopkins University Press  p.65
  2. ^ The Earthrise Photograph
  3. ^ APOD: 24 December 2005 - Earthrise
  4. ^ Australian Broadcasting Corporation
  5. ^ Poole, Robert. Earthrise: How Man First Saw the Earth. New Haven, CT, USA: Yale University Press. ISBN 0-300-13766-4 
  6. ^ NASA audio tape encoded in MP3
  7. ^ PBS "American Experience"
  8. ^ 1/250th of a second at f/11
  9. ^ Borman, Frank. Countdown: An Autobiography. New York, NY, USA: Morrow (Silver Arrow Books). ISBN 0-688-07929-6  p.212
  10. ^ Ibid. p.193
  11. ^ 100 Photographs that Changed the World by Life - The Digital Journalist
  12. ^ Wilford, John Noble (2009年7月14日). “On Hand for Space History, as Superpowers Spar”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2009/07/14/science/space/14mission.html?pagewanted=all April 24, 2011閲覧。 
  13. ^ John D. H. Downing (2010). Encyclopedia of Social Movement Media. Sage Publications  p.176
  14. ^ KAGUYA (SELENE)Image Taking of "Full Earth-Rise" by HDTV April 11, 2008 (JST), Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA),Japan Broadcasting Corporation (NHK)

関連項目

外部リンク


地球の出

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/25 02:43 UTC 版)

アポロ8号」の記事における「地球の出」の解説

詳細は「地球の出」を参照 軌道四周目に月の裏側から出てきたとき、飛行士たちは「地球の出」を目撃したことを報告してきた。この現象1966年8月23日NASAルナ・オービター1号が月を周回しているときに写真撮影されたことはあったが、人類としてこれを目撃するのは彼らが初めであったボーマンは月の地平線向こうから地球が昇ってきたとき思わず興奮して他の二人呼びかけ白黒カメラ写真撮ったそのあとアンダース急いで撮った写真は『地球の出』と呼ばれ、後に『ライフ』誌の「世界を変えた100枚の写真」の中の一つとして取り上げられた。地球と月自転と公転同期しているため、地球の出は通常は月の表面からは見ることができない目撃することができるのは月の周回軌道上か、もしくは地球から見て月の「へり」に当たる部分で、秤動 (ひょうどう) と呼ばれる現象起こって地球が月の地平線上をわずかに上下するような限られた部分だけである。 アンダース写真撮り続け、またラヴェル宇宙船操縦引き継いだので、ボーマンはやっと休息することができた。騒がし船内縮こまって眠るのは相変わらず困難だったが、彼は軌道を二周する間わずかに睡眠をとった。その間にもときどき目を覚まして宇宙船の状態について質問したが、仲間ミス犯した聞いたとき完全に目が覚めた。彼らは質問の内容理解できなくなり、あるいは逆に質問対す答えくり返すよう求めるようになっていた。ボーマン全員がこの三日間ろくに寝ていなかったため、きわめて疲労していることに気づいた。彼はアンダースラヴェル対し残り飛行計画月面観測関わるものを中止し睡眠をとるよう命じたアンダース最初は「大丈夫だと言って拒否したが、ボーマンは譲らなかった。最終的にカメラ自動セットして月面写真撮り続けるのであれば休息してもよい」と言ってようやく同意したが、このとき二度目テレビ中継時間迫っていた。地上ではきわめて多く人々期待して待っていることが分かっていたので、念頭に置いておくようにとボーマン言った次の二周で、ボーマン舵を取っている間にやっとアンダースラヴェルは眠ることができた。その後アポロ計画では、複数飛行士同時に睡眠をとるような状況になることは避けようになった

※この「地球の出」の解説は、「アポロ8号」の解説の一部です。
「地球の出」を含む「アポロ8号」の記事については、「アポロ8号」の概要を参照ください。

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