公有民営方式とは? わかりやすく解説

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公有民営方式

読み方:こうゆうみんえいほうしき

交通インフラ経営において、施設・土地などの所有管理自治体引き受け民間事業者乗務員車両管理し運行を行う官民一体経営方式。公有民営方式では、自治体所有する施設・土地民間事業者無償貸し付けることができるため、赤字経営が続く交通インフラ再構築のために導入されることが多い。

日本では、主に地方鉄道再興に公有民営方式の導入進められている。また、官民いずれか経営費用の負担偏ることを防ぐため、自治体所有する鉄道事業施設用地範囲は、各鉄道事業者自治体の間での取り決めによって変動する2009年鳥取県若桜鉄道が公有民営方式によって事業再構築行った後は、自治体線路第三種鉄道事業者として所有し民間鉄道事業者無償貸し出す例が広がっている。

交通インフラ経営のうち、実際運行業務乗務員管理は「上」、施設・土地などの保有は「下」と呼ばれる。公有民営方式では「上」と「下」の運営それぞれ民間事業者自治体担当するため、「公有民営方式による上下分離」と表現されることが多い。

上下分離方式

(公有民営方式 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/22 16:38 UTC 版)

上下分離方式(じょうげぶんりほうしき)とは、鉄道道路空港などの経営において、下部(インフラ)の管理と上部(運行・運営)を行う組織を分離し、下部と上部の会計を独立させる方式である。

一般には、中央政府・自治体公営企業第三セクター企業などが土地や施設などの資産(下)を保有し、それを民間会社や第三セクターが借り受けるなどして運行・運営(上)のみを行う営業形態がとられることが多い。

日本での採用事例

鉄道

高速道路とバス会社のように、本来はインフラ(線路や土地)と運行(車両や営業)を分離することを指し、日本にもJR貨物青い森鉄道南海空港線和歌山港線などの事例がある。しかし日本では疑似上下分離とでも言うべき類型が増加しており[1]、以下に一例を示す。

鉄道における上下分離方式の採用例

鉄道事業者名 線区 公的主体

投資
公的主体の投資+
ランニングコスト負担
公的主体の保有 固定資産税の
減免措置
青い森鉄道 全線 あり あり 車両以外の鉄道資産 あり
三陸鉄道 全線 車両 トンネル・橋梁・車両 トンネル・橋梁 税相当額補助
上信電鉄 全線 あり インフラと車両 なし あり
上毛電気鉄道 全線 あり インフラと車両 なし あり
富山ライトレール 全線 あり インフラと車両 なし なし

次の一覧は、土佐電気鉄道(現・とさでん交通)が2010年12月2日提出した資料より[2]

実施例

みなし上下分離実施例

鉄道における上下一体方式の採用例(参考)

鉄道事業者名 線区 公的主体

投資
公的主体の投資+
ランニングコスト負担
公的主体の保有 固定資産税の
減免措置
えちぜん鉄道 全線 あり なし なし なし
三岐鉄道 北勢線 あり なし 土地のみ なし
和歌山電鐵 全線 あり なし 土地のみ なし
凡例
鉄道事業者名の下地:緑色は第三セクター黄色は中小民鉄
  • 各欄の下地:青色は都道府県主体赤色は沿線市町村主体紫色は都道府県+沿線市町村主体
  • 投資に国庫補助が入る場合、国も公的主体に含まれる。
  • 上表中のランニングコストとは、車両における車両保存費、インフラ部分の線路保存費・電路保存費、土地の場合の固定資産税・都市計画税を指す(欠損補助という意味ではない)。

並行在来線における採用例

整備新幹線を建設する場合、原則として並行在来線に指定された在来線は、新幹線の開業と同時にJRから経営分離されることとなっており、沿線自治体が並行在来線の経営分離に同意しない限り新幹線の着工ができないこととされている[3]

しかし、西九州新幹線武雄温泉駅 - 長崎駅間)の場合、並行在来線となる長崎本線肥前山口駅 - 諫早駅間。諫早駅 - 長崎駅間および長与駅経由の旧線は引き続きJR九州が第一種鉄道事業者として上下一体で運営[4])の経営分離に鹿島市江北町が強硬に反対し、2005年度以降毎年予算を計上しながら着工できない状態が続いた。このため、同区間に上下分離方式を採用してJR九州からの経営分離を回避することにより、鹿島市・江北町の同意そのものを不要とすることでようやく新幹線の着工にこぎつけたという経緯がある[5][6]

これに基づき、西九州新幹線が開業した2022年9月23日より長崎本線江北駅(同日「肥前山口」より改称) - 諫早駅間には上下分離方式が導入された。その概要は以下の通り。

鉄道施設の維持管理や設備投資などにかかる費用は佐賀県1:長崎県2の割合で負担し(ただし佐賀・長崎鉄道管理センターの設置から上下分離化までにかかった経費については両県で折半)[9]、維持管理の実務はJR九州に委託されている[10]ほか、土地については佐賀・長崎両県が保有して佐賀・長崎鉄道管理センターに貸し付け、佐賀・長崎鉄道管理センターが鉄道施設と一体でJR九州に無償で貸し付けるスキームがとられている[7]。また、上下分離区間を含む肥前浜駅 - 長崎駅間は電化設備が撤去され非電化となった一方、肥前鹿島駅への電車特急乗り入れや佐賀方面との直通運転のため[11]引き続き維持される江北駅 - 肥前浜駅間の電化設備のうち、JR九州の提案により当初計画より延長された肥前鹿島駅 - 肥前浜駅間の電化設備管理費についてはJR九州が負担することとされている[12]。 なお、JR九州による運行は上下分離化後23年間とされており[13]、その後の体制がどうなるかについては2022年現在未定である。

道路

道路における上下分離方式の採用例

2005年10月以降、公社管理道路を除く高速道路日本高速道路保有・債務返済機構が道路とその付帯施設を保有し、ネクスコ3社(NEXCO東日本NEXCO中日本NEXCO西日本)と首都高速道路阪神高速道路本州四国連絡高速道路の各社がそれを借り受けて管理・運営している。

また、公社管理道路でも上下分離方式の採用例がある。(一例として、2016年10月以降、地方道路公社である愛知県道路公社が道路とその付帯施設を保有し、前田建設工業の連結子会社である愛知道路コンセッションがそれを借り受けて管理・運営している。)

空港

日本の多くの空港においては、滑走路など赤字体質の航空系事業(下)は行政が行い、ターミナルビルなど健全経営が可能な非航空系事業(上)は多くが地元自治体なども出資する第三セクター方式で運営され、その経営幹部の椅子が事実上の「天下りポスト」となることも珍しくなかった[14]

2013年には民活空港運営法が施行され、2016年7月には仙台空港国管理空港として初めて民営化するなど、上下一体での民営化が進められている。[14]

2012年7月以降、関西国際空港では関西国際空港土地保有(旧・関西国際空港株式会社が名称変更)と新関西国際空港による上下分離方式が取られていたが、コンセッション方式により選定されたオリックスヴァンシ・エアポートを主体とする関西エアポートへ2016年4月に空港運営権が移管した。

航路

2024年より大分市大分港(西大分地区)と大分空港の間を結ぶ予定の大分空港海上アクセスにおいて、船体(ホバークラフト)は大分県が保有し、運航は第一交通産業グループの大分第一ホーバードライブが行う形で上下分離方式が採用される。

ヨーロッパでの採用事例

鉄道

欧州連合国有鉄道の上下分離を指導したため、大部分のヨーロッパの国有鉄道(に相当する鉄道)は、上下分離方式となっている。

ヨーロッパでは、上下分離は大きく分けて二通りの仕組みが見られる。一つ目は、下部と上部の会計分離だけを目的としたものである。スウェーデン、スイス、フランスなどで採用されている。基本的に、上部の運営会社は一つである場合が多い。例えば、フランスでは、日本における公共企業体に近い「商工業的公施設法人」(EPIC)のフランス国鉄(SNCF)の機構改革の際には、フランス国鉄本体をEPICのまま、列車の運行・車両の保有などを行なう鉄道運営法人とし、線路やなどの鉄道施設(インフラ)は、新たに設立されたEPICのフランス鉄道線路事業公社(RFF)が保有する形式に改革された。

二つ目は、上下分離とともにオープン・アクセス英語版を導入して複数の上部組織が存在するケースである。代表的なのはドイツとイギリスである。東西統一後のドイツでは1994年に既存の西国鉄の統合再編において株式会社化・上下分離を行い、上部の組織は新設のドイツ鉄道の下で長距離・近距離・夜行・貨物などの会社に分割した。その上でオープンアクセスを導入し、新規参入の列車運行会社にも線路使用を認めている。列車運行会社のうちフランチャイズ方式によらないものは、オープン・アクセス・オペレーターと呼ばれる。この仕組みを利用して、地方自治体が軽量ディーゼルカーを購入してローカル列車を運転するケースが増えている。イギリスでは、国鉄(British Rail)改革に際して、上下分離と大々的なオープンアクセスを導入したが、線路の保有・管理会社として設立されたレールトラック社に技術力がなく利益を優先して保守経費を節約したため、1999年10月5日ロンドン近郊パディントンでの大事故をはじめ、数々のトラブルを招いた、という指摘がある。

アメリカ合衆国での採用事例

鉄道

アメリカ合衆国の旅客鉄道も、上下分離方式である。旅客列車は公共企業体アムトラックが運行しているが、アセラ・エクスプレスが走る東海岸の幹線(北東回廊)など一部を除けば線路を所有しておらず、貨物鉄道会社の線路を借りて運行している。貨物鉄道会社は民営企業であるため、下部が民営、上部が国営というケースである。

関連項目

脚注

  1. ^ 蒲郡市資料[1]
  2. ^ 高知県[2]
  3. ^ 整備新幹線の取扱いについて 政府与党合意
  4. ^ 国土交通省. “北海道・東北・九州新幹線の並行在来線区間” (PDF). 2017年11月12日閲覧。
  5. ^ “長崎新幹線着工へ-在来線、JRが運行”. 佐賀新聞 (佐賀新聞社). (2007年12月18日). オリジナルの2009年2月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090203050404/http://www.saga-s.co.jp/view.php?pageId=1071&mode=0&classId=&blockId=737025&newsMode=article 2014年12月7日閲覧。 
  6. ^ 「年度内着工認可を確認-財源確保策も論議」『佐賀新聞』2008年1月24日のインターネットアーカイブ(2022年8月9日閲覧)
  7. ^ a b JR長崎本線(肥前山口〜諫早)の鉄道事業許可 〜九州新幹線(西九州ルート)の開業時に、運行と施設保有を分離します〜』(PDF)(プレスリリース)国土交通省鉄道局鉄道事業課、2022年1月31日。 オリジナルの2022年1月31日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20220131084607/https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001461584.pdf2022年1月31日閲覧 
  8. ^ “佐賀・長崎で新法人「鉄道管理センター」鹿島市に設立”. 佐賀新聞. (2021年4月1日). オリジナルの2021年4月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210419124928/https://www.saga-s.co.jp/articles/-/654317 2021年4月19日閲覧。 
  9. ^ “<新幹線長崎ルート>並行在来線負担「佐賀1対長崎2」合意履行 両県が発表”. 佐賀新聞. (2021年2月12日). オリジナルの2021年4月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210419124540/https://www.saga-s.co.jp/articles/-/632277 2021年4月19日閲覧。 
  10. ^ 事業計画書(令和4年4月1日から令和5年3月31日まで) - 佐賀・長崎鉄道管理センター、2022年12月25日閲覧
  11. ^ “<新幹線長崎ルート> 並行在来線の電化区間を1駅分延伸 「肥前鹿島まで」から「肥前浜まで」へ JR長崎線”. 佐賀新聞. (2021年6月17日). オリジナルの2021年6月17日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210617105347/https://www.saga-s.co.jp/articles/-/692577 2021年7月20日閲覧。 
  12. ^ “JR長崎線の並行在来線、肥前浜まで電化区間延伸 管理費はJR九州負担”. 西日本新聞. (2021年7月20日). オリジナルの2021年6月16日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210616093751/https://www.nishinippon.co.jp/item/n/755568/ 2021年6月16日閲覧。 
  13. ^ 「九州新幹線(西九州ルート)の開業のあり方に係る合意』(PDF)(プレスリリース)長崎県、2016年3月29日。 オリジナルの2016年9月10日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20160910011222/http://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2016/03/1459303406.pdf2016年9月10日閲覧 
  14. ^ a b 増田和史 (2020年12月18日). “航空業界の危機で懸念される「空港民営化」の行方、東京商工リサーチが解説”. ダイヤモンド・オンライン. 2020年12月23日閲覧。
  15. ^ 『地域公共交通の活性化及び再生に関する法律案』について ~公共交通の改善に頑張る地域を応援します!~”. 国土交通省 (2007年2月9日). 2021年3月5日閲覧。
  16. ^ 鉄道ピクトリアルNo.852 2011年8月臨時増刊号 pp.21-24
  17. ^ 地方鉄道の活性化に向けて” (PDF). 国土交通省. 2021年3月5日閲覧。
  18. ^ (2)地方鉄道の活性化に向けて” (PDF). 国土交通省. 2021年3月5日閲覧。


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