バラード 第1番 ト短調とは? わかりやすく解説

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ショパン:バラード 第1番 ト短調

英語表記/番号出版情報
ショパン:バラード 第1番 ト短調Ballade g-moll Op.23 CT2作曲年: 1831-35年  出版年1836年  初版出版地/出版社: Breitkopf & Härtel  献呈先: Baron de Stockhausen

作品解説

2008年7月 執筆者: 朝山 奈津子

 ショパンピアノ曲用いたスタイル観察する方法は幾通りもあるが、抒情的なものと物語的なもの、という分類がひとつ可能だろう前者の代表は《ノクターン》、《マズルカ》であり、後者典型が《バラード》と《スケルツォ》である。
 抒情的な構成において各フレーズや音型は羅列的で、その連結きわめて緩やかであるのに対し物語的な構成では、1曲の中にいわば起承転結感じることができる。なぜ明確なドラマ性が生じるかといえば、まず、和声進行明解で、とりわけドミナントトニック(転から結へ進む部分)の定型がよく守られるからである。また、動機変奏転回反復拡張などの手法を用いて発展することもあり、ヴィーン古典派ソナタのような労作はなされなくとも、複数主題複雑に組み合わされて曲が作られている。
 つまり、《バラード》、《スケルツォ》、《ボレロ》など物語構成を持つ作品では、ダイナミックドラマティックな、始まりから終わり必然をもって突き進むような音楽的時間生み出されるのであり、こうした要素鑑賞上のポイントとなっている。(蛇足ながら抒情的な作品では、わずかずつ変容しながら留まり続け戻り進みそれほど明確でない、いわば音楽的空間中に鑑賞者の耳を遊ばせることになる。)
 さて、では、各4曲が残されている《バラード》および《スケルツォ》の違いはどこにあるのか。
 これらがジャンルとしてショパン創作の中で隣接していることは、音楽見れば何より明らかである。しかも、両ジャンル形式から明確に区別することはほとんどできないように思われる。ひとつには、これがショパン固有のジャンルであるからで、それぞれ由来する思われるジャンル伝統調べて手がかり出てこない。しかし、音楽外形からは区別できなくとも、それぞれの音楽内容、いわば物語の内容はやや異なっている。
スケルツォ》はイタリア語で「冗談」を意味し従来簡明な形式で明るく軽く小規模な曲を指したベートーヴェンメヌエット代えてソナタ第3楽章取り入れた時も、やはり極めて急速でユーモア富んだ性格与えられた。ショパンの《スケルツォ》は、一見するとこうした伝統にまったく反し暗く深刻なうえに大規模である。だが、《バラード》と比べてみると、《スケルツォ》がいかにユーモア内包しているかがよく判る4つの《スケルツォにはいずれも、きわめて急速でレッジェーロ動機がひとつならず登場し随所で「合いの手」を入れている。また、各部激烈なまでの音量コントラスト指定されている。
 こうした手法が《バラード》にはほとんどない。各動機、各音は前後しがらみ囚われており、逸脱許されない沈鬱主題次々と現われ、それらは鬱積し怒濤をなし、ついには破滅的な終末迎える。《スケルツォ》が軽妙な音型や滑稽なまでのコントラストでこの種のストレス解消するのとは、対照的である。
 なお、《バラード》4曲はすべて複合2拍子、《スケルツォ》は3拍子書かれており、これが唯一の外形的な特徴といえなくもない。が、《スケルツォ》は全篇通じてほとんどが2小節で1楽句作るため、やはり2拍子強烈な推進力内包している。


バラード》はショパンピアノ作品初め用いた名称で、直接的には、ポーランド詩人アダム・ミツキェヴィチバラッドインスピレーション得た、といわれている。具体的にどの詩がどの曲に当てはまるのかは諸説あるが、どれも確証得られず、俗説に留まっている。しかし、ショパンがたとえ実際にいずれかの詩をもとに作曲進めたにせよ、これほど豊かな音楽性秘めて結実した作品何かひとつ筋書き当てはめ、聴き手想像力制限することは、作曲家本意ではあるまい
 より広く視野をとるなら、1820年代ワルシャワ界隈ではバラッドなる歌曲流行しており、こうした文学上のジャンルショパン精神生活にはなじみ深いのだった考えられる加えてシューベルトバラードや、パリグランド・オペラ用いられバラード風のアリアなどもショパン大きな感銘与えた。従って、あらゆる体験集約してショパン独自の新ジャンルバラード》が誕生したみるべきだろう。

バラード第1番は、「ソナタアレグロ形式」つまりソナタ第1楽章形式にほぼ則っている。7小節半の序奏ののち、Moderato部分(第8小節以降)が3拍子舞曲リズム倚音付き分散和音による第1主題Meno mosso部(第68小節以降)が幅広い音域渡って朗々と謳われる明る第2主題a tempo(第94小節)によって展開部入り再現部(第166小節)は第2主題から回帰が始まる。Meno mosso による第1主題(第194小節)はごく簡潔にコーダへのブリッジ程度現われるコーダ(第208小節以降)はPresto con fuoco指定され、短い動機切迫するように繰り返されたのち、ピアノ鍵盤の幅いっぱい使った壮大なパッセージワークで幕を閉じる。
 こうしてみるとショパンはこの作品において、物語枠組みを――文学上のジャンルよりもむしろ――伝統的な音楽形式借りたということができる。


ストロング:バラード 第1番 ト短調

英語表記/番号出版情報
ストロング:バラード 第1番 ト短調Ballade No.1 in G minor Op.22出版年: c1885年 

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