トリプトレモスとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 学問 > 世界宗教用語 > トリプトレモスの意味・解説 

トリプトレモス 【Triptolemos】

ギリシア神話アテナイ近郊エレウシス王子。名は〈三度耕す者〉の意。五穀女神デメテル親切に遇したので、翼のある竜が引く車を賜った

トリプトレモス

名前 Triptolemos

トリプトレモス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/01 06:08 UTC 版)

デーメーテールとコレーの間にいるトリプトレモス。アテネ国立考古学博物館所蔵。

トリプトレモス古希: Τριπτόλεμος, Triptolemos)は、ギリシア神話の人物で、デーメーテールの使者として世界中に穀物の種をまいて回ったと伝えられるエレウシースの文化的英雄である。その名前は「三倍の戦士」という意味[1]

ソポクレース悲劇『トリプトレモス』を制作し、複数の断片が残されている。

系譜伝承

トリプトレモスは一般的にはエレウシースの王ケレオスとメタネイラの子で[2][3]デーモポーンと兄弟とされるが[2]、様々な系譜伝承がある。以下にそれを列記する。

神話

有翼の蛇の戦車に乗るトリプトレモス。ルーヴル美術館所蔵。

トリプトレモスはエレウシースの秘儀と深い関係があり、『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」によるとディオクレース、ポリュクセイノス、エウモルポス、ドリコス、ケレオスとともにエレウシースの王であり[11]、さらにディオクレース、エウモルポス、ケレオスとともにデーメーテールによって祭儀についての教えと、秘儀の開示を受けたと伝えられている[12]

兄弟の死

デーメーテールはハーデースにさらわれた娘のコレーペルセポネー)を探して世界を放浪した後、エレウシースにやって来て、ケレオス王の館に招かれ、王の子のデーモポーンの乳母になった。デーメーテールはデーモポーンを不死にしようとし、夜毎デーモポーンを火にくべて人間の部分を焼いた。するとデーモポーンは驚くべき速さで成長したが、メタネイラはそれを目撃して悲鳴を上げた[13][14]。そのためデーメーテールは思わず子を火中に落としてしまい、子は焼け死んでしまった[14]

いくつかの文献では、デーメーテールが不死にしようとした赤子はデーモポーンではなく、トリプトレモスとなっている[3][9]。怒ったデーメーテールは本来の姿を現したが、ケレオスの子トリプトレモスに恩寵を与えようと考え、トリプトレモスに有翼の蛇の戦車を作り与え、空を飛んで世界中を巡り、穀物をまいて人々に農耕を教えることを命じた[2][15]

諸国遍歴

有翼の蛇の戦車に乗るトリプトレモス。ミュンヘン、州立古代美術博物館(en)所蔵。

そこでトリプトレモスは女神に教えられたとおりにまずイタリアカルターゴーに赴いて農耕を伝えた[16][17]。おかげでイタリアは白い小麦で有名になった[18]アルカディアではアルカス王に小麦を与え、アルカスはパンの作り方を人々に教えた[19]

アカイア地方のパトライではエウメーロス王に農耕と都市の建設法を教えた[20]。王の子アンテイアスはトリプトレモスが眠っている間に戦車に有翼の蛇を戦車につないで自分も空から種をまこうとしたが、戦車から落ちて死んだ。そこでトリプトレモスとエウメーロスはアンテイアスにちなんで都市アンテイアを建設した[21]

トラーキアではゲータイ人の王カルナボーンに農耕を伝えたが、カルナボーンに捕らえられ、逃げられないように有翼の蛇のうち1匹を殺されてしまった。しかしデーメーテールがやって来て残った蛇を戦車につないで取り返し、カルナボーンをへびつかい座に変えた[22]スキュティアでもトリプトレモスはリュンコス王に命を狙われたがデーメーテールはリュンコスを山猫に変えて救った[23]

ヒュギーヌスの伝承によるとトリプトレモスはエレウシーノスとコートーネイアの子であり、デーメーテールはデーモポーンではなくトリプトレモスを不死にしようとした。しかしトリプトレモスを火にくべる様子を父エレウシーノスに発見されると怒ってエレウシーノスを殺し、トリプトレモスに世界中を巡って農耕の知識を広めさせた。トリプトレモスがエレウシースに帰ってくるとケレオスがトリプトレモスの代わりにエレウシースを支配しており、トリプトレモスを殺そうとしたが、デーメーテールはケレオスに命じて王位をトリプトレモスに譲らせた。王となったトリプトレモスは父にちなんで国名をエレウシースと改め、テスモポリア祭を創始した[9]

解釈

『ホメーロス風讃歌』の「デーメーテール讃歌」におけるトリプトレモスと後世の伝承との間には差異が認められる。「デーメーテール讃歌」ではトリプトレモスはデーメーテールから秘儀を授けられたと述べられてはいるが、単にエレウシースの王(バシレウス)の1人とされているに過ぎない。また後世の伝承に見られるケレオス王との親子関係や、諸国をめぐって農業を伝えたとする伝承は見受けられない。その理由として、トリプトレモスがもともとアテーナイに由来する英雄であったらしいこと、「デーメーテール讃歌」の成立がエレウシースがアテーナイに支配される以前であったことが考えられる。しかし紀元前6世紀以降、アテーナイとエレウシースの秘儀との関係が密接になると、トリプトレモスはケレオスの息子としてデーモポーン以上に重要な役割を担うようになったと考えられている[24]カール・ケレーニイはトリプトレモスとデーモポーン(「民の殺戮者」の意)がともに戦士の名前を持つことから、軍神アレースに似た英雄であったと考えている[1]

脚注

  1. ^ a b ケレーニイ、p.304。
  2. ^ a b c アポロドーロス、1巻5・2。
  3. ^ a b オウィディウス『祭暦』4巻550行。
  4. ^ レーロスのペレキューデース(アポロドーロスによる引用、1巻5・2)。
  5. ^ 偽ムーサイオス(パウサニアスによる引用、1巻14・3)。
  6. ^ オルペウス(パウサニアスによる引用、1巻14・3)。
  7. ^ アテーナイのコイリロスの悲劇『アロペー』断片(パウサニアスによる引用、1巻14・3)。
  8. ^ パウサニアス、1巻14・2。
  9. ^ a b c ヒュギーヌス、147話。
  10. ^ パニュアッシス断片(アポロドーロスによる引用、1巻5・2)。
  11. ^ 「デーメーテール讃歌」151行-152行。
  12. ^ 「デーメーテール讃歌」474行-478行。
  13. ^ 「デーメーテール讃歌」91行-249行。
  14. ^ a b アポロドーロス、1巻5・1。
  15. ^ オウィディウス『変身物語』5巻642行-647行。
  16. ^ ソポクレース『トリプトレモス』断片598(ハリカルナッソスのディオニュシオスによる引用、1巻12・1)。
  17. ^ ソポクレース『トリプトレモス』断片602(エウリーピデーストロイアの女』221行への古註)。
  18. ^ ソポクレース『トリプトレモス』断片600(プリニウスによる引用、18・65)。
  19. ^ パウサニアス、8巻4・1。
  20. ^ パウサニアス、7巻18・2。
  21. ^ パウサニアス、7巻18・3。
  22. ^ ヒュギーヌス『天文譜』2巻14話”. ToposText. 2022年9月29日閲覧。
  23. ^ オウィディウス『変身物語』5巻648行‐661行。
  24. ^ 沓掛訳注、p.68。

参考文献

関連項目


トリプトレモス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/14 11:21 UTC 版)

ケレオス」の記事における「トリプトレモス」の解説

ケレオスの子供のうち、トリプトレモスは初め農耕行った人物とされる。彼はデーメーテール寵愛を受け、空を飛行する有翼の竜の車に乗って世界各地旅し農耕広め役割与えられた。この人物は元来アテーナイ英雄であったらしく、『ホメーロス風讃歌』では単にエレウシース主要な王1人として言及されている。しかしその後エレウシースアテーナイ編入されると、ケレオスの子供とされ、重要な役割を持つようになった考えられている。トリプトレモスの系譜伝承異説多くいくつかの文献ではエレウシースないしエレウシーノスの子となっている。アポロドーロスデーメーテールエレウシース王を訪れたとするパニュアッシス主張紹介しており、ヒュギーヌス紹介する神話いたっては、トリプトレモスはエレウシーノス王の子で、ケレオス彼のとなって現れている。すなわちトリプトレモスが世界旅している間、ケレオスエレウシース代理支配しており、トリプトレモスが帰国する部下命じて暗殺しようとするが、デーメーテール命じられ王国をトリプトレモスに返還する現代の研究では、断片のみ伝わるソポクレースの悲劇『トリプトレモス』はヒュギーヌス同様のケレオス陰謀含んでいたのではないか指摘されている。

※この「トリプトレモス」の解説は、「ケレオス」の解説の一部です。
「トリプトレモス」を含む「ケレオス」の記事については、「ケレオス」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「トリプトレモス」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「トリプトレモス」の関連用語

トリプトレモスのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



トリプトレモスのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
中経出版中経出版
Copyright (C) 2026 Chukei Publishing Company. All Rights Reserved.
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのトリプトレモス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのケレオス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2026 GRAS Group, Inc.RSS