スカパフロー (1914年生まれの競走馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/11 00:21 UTC 版)
スカパフロー(Scapa Flow、1914年 - 1937年)は、1914年生まれのイギリス産サラブレッド。第17代ダービー伯爵エドワード・スタンリーによる生産馬である。繁殖牝馬となって、ファロスとフェアウェイという2頭のイギリス種牡馬チャンピオンを産み、サラブレッドの血統史上重要な足跡を残した。この2頭のほかにも1000ギニー優勝馬のフェアアイル(Fair Isle)を産んでいる[2]。
Scapa Flowの血統 | (血統表の出典)[§ 1] | |||
父系 | セントサイモン系[29]<エクリプス系[29]<ダーレーアラビアン系[29] | |||
父 Chaucer 黒鹿毛 1900 | 父の父 St. Simon鹿毛 1881 | Galopin | Vedette | |
Flying Duchess | ||||
St.Angela | King Tom | |||
Adeline | ||||
父の母 Canterbury Pilgrim栗毛 1893 | Tristan | Hermit | ||
Thrift | ||||
Pilgrimage | The Palmer | |||
Lady Audley | ||||
母 Anchora 栗毛 1905 | Love Wisely 栗毛 1893 | Wisdom | Blinkhoolie | |
Aline | ||||
Lovelorn | Philammon | |||
Gone | ||||
母の母 Eryholme栗毛 1898 | Hazlehatch | Hermit | ||
Hazledean | ||||
Ayrsmoss | Ayrshire | |||
Rattlewings | ||||
母系(F-No.) | Sedbury Royal Mare(FN:13-e) | [§ 2] | ||
5代内の近親交配 | Galopin 3×5、Hermit 4×4、Stockwell 5×5 | [§ 3] | ||
出典 |
注釈
- ^ 「anchora」は、「錨」を意味する語[3]。ラテン語では「Ancora」と綴り、これを英語風に転記したのが「anchora」。英単語としては「アンカー(Anchor)」。
- ^ 1ギニーは1ポンド1シリングに相当。ポンドに換算すると1,365ポンドとなる。一方、サラブレッド・ヘリテイジでは1,966ポンドとしている[2]。
- ^ ダービー伯爵は、ニューマーケットに複数の牧場(スタッド、ファーム)や厩舎を所有していた。スタンリーハウス牧場とスタンリーハウス厩舎は特に有名であるが、17代ダービー伯爵の死後の相続の際に売りに出され、いまはドバイ首長国のシェイク・モハメドが購入して競馬の拠点としている。ウッドランド牧場もダービー伯爵の所有牧場。ウッドランド牧場は文献によって「Woodlands Stud」「Woodland Stud」と複数の綴りが見られ、日本語資料でも「ウッドランズ」「ウッドランド」がみられる。本記事では「ウッドランド」とする。
- ^ チョーサーは、17代ダービー伯爵の父、16代ダービー伯爵の生産馬である。16代伯爵は1908年に没し、17代伯爵が牧場や所有馬を相続した。
- ^ スカパフローの代表産駒のファロス(Pharos)の名は世界の七不思議の一つにもあげられるアレクサンドリアの大灯台(ナイル川河口のファロス島にあり、そこから転じて灯台のことをファロスと呼んだ。)に由来し、フェアウェイの名は「航路」を意味する[3]。1000ギニー勝馬のフェアアイルは、スカパ・フロー軍港があるオークニー諸島から北東30マイルほど沖合にあるFair Isle島の名前。
- ^ 売却競走は「クレーミング(claiming)競走」や「セリング(selling)競走」と呼ばれる。「クレーム(claim)」は「申し出」「債権」「請求」などの意味。
- ^ ストックトン競馬場(Stockton Racecourse)は、ヨーク地方の北部の町ストックトン=オン=ティーズにあった競馬場。イギリス競馬の主要競馬場ではなく、地方の小競馬場の位置づけだが、当時は第一次世界大戦中であり、主要競馬場のなかには閉鎖されるところもあった。直接戦火に晒されたものもあれば、競馬場が軍に接収されて補給基地や捕虜収容所となったところもあった。また、大西洋の航路封鎖によって物流が滞り、イギリス国内全体として物資が逼迫し、ウマに飼料を与える余裕もなくなっていた[9]。なお、ストックトン競馬場は1981年に閉鎖され、いまは使われていない。
- ^ レスターに拠ると、このぐらいの競走馬は、しばしばインドなどの諸外国の競馬に用いるために輸出されていたという。
- ^ Scarborough(スカボロー)のカタカナ表記には、スカボロー、スカーブラ、スカーバラなどさまざまな異表記がみられる。
- ^ ウッドランズ牧場とする文献[3]もある。いずれもニューマーケットにあったダービー伯爵の牧場である。
- ^ 文献により数値は異なっていて、85,649ポンド[4]、86,084ポンド[13][8]などの資料がある。
- ^ 当時のチェスターカップは「2マイル1/4」すなわち「 2マイル2ハロン」で行うとされており、これをメートルに換算すると3621.02メートルとなる。のちに距離表記が改定され、「2マイル2ハロン77ヤード」となった。これをメートルに換算すると約691メートルとなる。
- ^ ダービー伯爵は、1926年に高齢を理由にジョージ・ラムトン調教師を専属調教師から引退させてフランク・バターズ調教師をスタンリーハウス厩舎の専属に据えた。フェアウェイやフェアアイルはバターズ調教師のもとでクラシック競走を勝った[15][16]。
- ^ フェアウェイは3歳のときに5戦して4勝しており、ダービーが唯一の敗戦だった。ダービーでは本命視されていたが、レースの直前に本馬場に入場すると、興奮した観客が大勢フェアウェイを取り囲み、身体中をさわったり、尻尾の毛を引き抜いたりした。この結果フェアウェイは発走前にひどく消耗してしまい、敗れたと考えられている[17][18][3]。
- ^ サー・チャールズ・レスター(9代レスター准男爵)の『サラブレッドの世界』(1959年刊、日本語訳は1971年刊)によれば、セイントマグナスはオーストラリアの種牡馬チャンピオンになったとされている[8]。しかし、サラブレッド・ヘリテイジなどのオーストラリアの歴代種牡馬チャンピオンリストには、セイントマグナスの名はない。(計算の仕方によって「チャンピオン」が変わる場合があり、日本でも同一年に複数の馬を「チャンピオン」とする場合もある。)
- ^ マトライスの曽祖父はフェアウェイであり、マトライスはスカパフローの4×4という近親交配を持っている(フェアウェイとフェアアイルが全兄妹なので、その近親交配とする場合もある。)。マトライスの代表産駒の1頭にパゴパゴ(Pago Pago)がおり、ダンシングブレーヴとジョリファ(Jolypha)の全兄妹を通じてよく知られている。[23]
- ^ 厳密には、1929年の時点では牧場はデュプレ所有ではなく、1930年に購入したものである。
- ^ 実際には、アメリカで発展したネイティヴダンサー系は祖先にスカパフローを持たないものもいる。例を挙げると、1990年代まで直仔が現役競走馬として走っていたレイズアネイティヴはスカパフローを祖先に持たない。いずれにせよ、現代の科学的知識のもとでは、競走馬の血統表中にあらわれる全ての祖先馬がその能力に影響を及ぼすという考え方は否定されている。
- ^ 1976年に日本中央競馬会が編纂した『競馬百科』では、「奇跡の血量」の考え方は現在では「理論として問題にもされていない」として合理性を否定しているものの、歴史的には影響力があったセオリーだったとしている[32]。
- ^ ファラリスが種牡馬になった時点で、すでにチョーサーは種牡馬から引退していたので、この逆の組み合わせ(父がチョーサーで母の父がファラリス)が生じることはありえない[33]。
- ^ 現在ではふつう「ニックス」というが、レスターの著書のなかでは「ニック」と表現されている。
- ^ レスター準男爵は、特定の馬の配合にこうした親和性(ニック)があるという考え方を空想や偶然の産物だとして否定するのは、「健全で常識的」であるとしたが、しかし実際に競走馬を生産するにあたって特定の親和性(ニック)を無視することは優秀な競走馬を生産する機会を失うことにつながるだろうとしている[33]。
出典
- ^ 日本軽種馬協会 Japan Bloodstock Information System Scapa Flow 基本情報 2017年8月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae サラブレッド・ヘリテイジ Scapa Flow 2017年8月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 原田俊治『世界の名馬』,p119-132「胴ながのチャンピオン フェアウェー」
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『Biographical Encyclopaedia of British Flat Racing』,p545「Scapa Flow」
- ^ a b c d e f 『世界百名馬』,p78-79「ファロス」
- ^ a b c d e 『伝説の名馬PartIII』,p247-257「フェアウェー」
- ^ 『英国競馬事典』,p461-463「レースの種類」
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『サラブレッドの世界』,p368-370
- ^ 『The Derby;A celebration of the world's most famous horse race』,p154
- ^ a b サラブレッド・ヘリテイジ Contributors 2017年8月9日閲覧。
- ^ a b 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』,p191
- ^ a b 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』,p235
- ^ a b c 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』,p197
- ^ サラブレッド・ヘリテイジ Phalaris 2017年8月9日閲覧。
- ^ 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』,p252
- ^ a b 『イギリスの厩舎』,61-65「スタンレー・ハウス」
- ^ a b 『世界百名馬』,p88-89「フェアウェー」
- ^ 『ダービー その世界最高の競馬を語る』,p122
- ^ a b 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』,p139
- ^ サラブレッド・ヘリテイジ Leading Sires of Great Britain and Ireland 2017年8月9日閲覧。
- ^ 『最新名馬の血統 種牡馬系統のすべて』,p206-207
- ^ サラブレッド・ヘリテイジ Swynford 2017年8月10日閲覧。
- ^ 『最新名馬の血統 種牡馬系統のすべて』,p142
- ^ a b 『サラブレッドの世界』,p169
- ^ The Straits Times 1933年5月27日付
- ^ Townsville Daily Bulletin 1934年11月2日付“English Racing”2014年4月14日閲覧。“Highlander should be worth money as a sire when he has finished racing.”
- ^ 日本軽種馬協会 Japan Bloodstock Information System Scapa Flow 牝系情報 2017年8月9日閲覧。
- ^ a b c 日本軽種馬協会 Japan Bloodstock Information System Scapa Flow 5代血統表 2017年8月9日閲覧。
- ^ a b c 『競馬百科』p184
- ^ 『競馬 サラブレッドの生産および英国競馬小史』,p184
- ^ 『競馬百科』,p198-201
- ^ 『競馬百科』,p260
- ^ a b c d e f 『サラブレッドの世界』,p101-119
- ^ a b 『サラブレッド』,p72-78
- 1 スカパフロー (1914年生まれの競走馬)とは
- 2 スカパフロー (1914年生まれの競走馬)の概要
- 3 繁殖牝馬として
- 4 影響と評価
- 5 脚注
- 6 関連項目
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