TBSビデオ問題 TBSビデオ問題の概要

TBSビデオ問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/02/22 00:10 UTC 版)

オウムビデオ事件オウムビデオ問題、単にTBSオウム事件TBS問題TBS事件TBSビデオ事件ともいう[1]

経過

年表

  • 1989年10月26日 - オウム真理教について翌日27日の放送で取り上げることを企画していた『3時にあいましょう[2]は、26日午前中にオウム真理教批判の急先鋒であった坂本のインタビューを録画。同日、昼から『3時にあいましょう』金曜日担当プロデューサーの武市功率いる取材班(社会情報局)はオウム真理教富士山道場にて報道局社会部と合同で麻原彰晃(松本智津夫)による「水中クンバカ」の実演を取材。報道局社会部記者の西野哲史のインタビューが終了後、『3時にあいましょう』取材班のインタビューが開始。紛糾するインタビューの中で、武市は坂本のインタビューを麻原の実演の様子と一緒に放送することをオウム側に明らかにした。結局、オウム側に事前にビデオを見せることを提案し、その場の事態を収拾する。オウム真理教の早川紀代秀上祐史浩青山吉伸らが同日の深夜、TBS(当時の千代田分室)を訪れ、インタビューが収録されているビデオを見せることを執拗に要求。ここで番組総合プロデューサーの多良寛則が、部下にインタビューを収録した当該ビデオを3人に見せるよう指示し、3人はビデオを視聴。早川はこのときのことをメモにとっている。結局、オウム側の抗議にTBS側スタッフはインタビュー(企画していたオウム特集自体)を放送しないことを承諾・約束し、オウム側幹部はその場を後にする。
  • 1989年10月31日 - 早川、上祐、青山ら3人が横浜法律事務所を訪れたが、坂本からは教団を告訴する旨を告げられ交渉は決裂。
  • 1989年11月4日 - 坂本堤弁護士一家殺害事件(当時は「失踪事件」)が発生。
5年10か月後
  • 1995年9月5日 - 神奈川県警がTBSへ捜査協力を依頼。9月中に東京地検がTBS関係者(武市、多良と「水中クンバカ」を合同取材した報道局社会部西野記者も含む)からの事情聴取を行う。
  • 1995年10月9日 - TBSが社内調査委員会を設置。
  • 1995年10月12日 - TBSが、東京地検の要請に応じて坂本のインタビューテープを任意提出。
  • 1995年10月19日 - 日本テレビが昼のニュース番組『NNN昼のニュース』で、TBSが放映前の坂本のインタビュービデオをオウム幹部に見せたと報道。同日、TBSは夕方のニュース番組『ニュースの森』内で否定の声明を放送。尚、日本テレビは同日夕方の『プラス1』と夜の『きょうの出来事』でもこの事を報じた。後日、TBSは総務局長名義で日本テレビ宛に抗議文書を送付。
  • 1996年3月11日 - TBSは坂本のインタビュービデオを見せた事実はなかったという「社内調査概要」を発表。
  • 1996年3月12日 - 早川被告公判。TBSのプロデューサーおよび早川の供述調書の要旨告知(事件の核心となる早川メモが公表される)。横浜法律事務所、TBSに対して公開質問状。TBSは会見で重ねて否定。
  • 1996年3月19日 - TBSは、横浜法律事務所の公開質問状に対する回答書提出。坂本のインタビュービデオを見せた事実はなかったと回答。TBSの大川常務、衆議院法務委員会に参考人招致。社内調査概要に従って発言。
  • 1996年3月23日 - 「早川メモ」の全容が明らかとなる。
  • 1996年3月25日 - TBS社長の磯崎洋三、坂本のインタビュービデオを、オウムの早川たちに見せたことを認める内容の緊急記者会見を行う。同時に、武市の懲戒解雇処分を発表。
  • 1996年3月28日 - TBS前常務の大川、衆議院法務委員会で陳謝。
  • 1996年4月2日 - 磯崎ら、衆議院逓信委員会に参考人招致。
  • 1996年4月3日 - 磯崎ら、衆議院逓信委員会に参考人招致。
  • 1996年4月30日 - TBSは坂本のインタビューテープ問題についての社内調査概要など発表。19時00分から19時20分まで磯崎社長による特別番組「視聴者の皆様へ」、19時20分から22時50分まで「ビデオ問題検証特番『証言・坂本弁護士テープ問題から6年半』」を放映。郵政省に最終報告書を提出。多良の懲戒解雇と磯崎社長ら三役の辞任を発表。
  • 1996年5月1日 - 磯崎が引責辞任。後任社長に砂原幸雄が就任。
  • 1996年5月20日 - TBSは、23時50分から5分間の特別番組「視聴者の皆様へ」で砂原社長より経過報告と今後の対策および謝罪放送を行った。
  • 1996年5月20日 - TBSは不祥事による自粛措置として5月24日まで深夜放送を取りやめ。
  • 1996年5月24日 - TBSは横浜法律事務所に公開質問状に対する再回答書提出。3月19日の回答書を全面的に撤回し、坂本インタビュービデオを見せたことを認めるとともに、遺族と横浜法律事務所などに陳謝。
  • 1996年5月30日 - 衆議院逓信委員会で砂原は「スーパーワイド」の終了、情報系番組の見直しを言及[3]
  • 1996年5月31日 - 問題の発端となった『3時にあいましょう』の後継番組『スーパーワイド』の放送終了。
  • 1996年12月18日 - TBS「放送のこれからを考える会」(座長・堀田力弁護士)が、報道現場における「個の確立」を求める提言。
  • 2009年11月 - 各放送局が「弁護士一家殺害事件から20年」を特集する中、TBSがこの件について報道することはなかった。

国会参考人招致 

  • 1996年3月19日

社内の調査は、予断を排し、厳正、公正に行いました。その結果を隠すことなく発表いたしました。社内調査では、オウムの三人に対応しました二人の社員のほか、当日建物内におりました外部スタッフなどに状況を聞きました。(中略)そうした状況から、我々はテープは見せていないと確信しております。検察庁の捜査結果につきましては私どもはコメントできませんけれども、社内の調査では、見せたという事実は出ていないと確信しておる次第でございます。

大川参考人、 衆 - 法務委員会
  • 1996年3月28日

三月十九日、当法務委員会の場で私どもの社内調査の結果を御報告申し上げましたが、その後、新たな事実が判明いたしました。TBS社員がオウム真理教の幹部三人に、坂本弁護士のインタビューテープを見せていたのであります。前回、当委員会に御報告した内容は誤りということであります。まことに申しわけございません。訂正させていただくとともに、おわび申し上げます。

大川参考人、衆 - 法務委員会

TBS批判とその過熱

報道倫理の逸脱

TBS側スタッフがオウム幹部にビデオを見せたことは、情報源の秘匿というジャーナリズムの原則に反し、報道倫理を大きく逸脱するものとして批判された。また、TBSがビデオをオウム幹部に見せたことで坂本が殺害されたという非難もあり、TBS以外の報道機関や世論もこれを認め、TBSを批判して責任を追及した。さらには、オウム幹部の公判において当事者の供述やメモが明らかになったことを受け事実を認めるまでの5か月以上にわたり、「内部調査」を根拠に疑惑を否定し続け、この間の調査の不透明さから、TBSは事実を把握しているのに意図的に隠しているのではないかと疑われた。こうした杜撰な対応による危機管理の失敗も、TBS批判をさらに加速させる要因となった。

内部調査の破綻

当初、調査委員会設置時には報道局を中心とした善後策がまとめられていたが、1995年10月19日の日本テレビの疑惑報道で事態は一変する。一連の経緯を把握していなかった一部経営幹部が、日本テレビに抗議を指示。幹部らの独断に近い形で『ニュースの森』内での抗議声明の放送が決定してしまう。この抗議声明の放映により、TBSは疑惑を否定せざるを得ない状況に追い詰められてしまったのだった。それから調査委員会は経営幹部中心となるが、その調査は該当プロデューサーらからの聞き取りのみで、その発言を鵜のみにした「結論ありき」のものだった。しかも、該当プロデューサーはTBSの内部調査と検察の事情聴取に異なった証言をしており、TBSの調査委員会はこのことすら把握できていなかった。一連の経緯からビデオ問題はジャーナリズムや報道機関への信頼を大きく揺るがす非常に重大な事件とされる。

マスメディアと視聴者との信頼関係

1996年3月25日、TBSは一転してビデオを見せたことを認めて謝罪する羽目になってしまった。TBS夜の看板報道番組『筑紫哲也 NEWS23』のキャスターを務める筑紫哲也は、当日の番組コーナー『多事争論』内で、マスメディアが視聴者との信頼関係の上で存在していることに触れ、「TBSは今日、死んだに等しいと思います[4]。……今日の午後まで私はこの番組を今日限りで辞める決心でおりました」と発言した[5]。この発言も大きな反響を呼んだが、筑紫自身もそれまではビデオを見せたことを否定する発言をしていた。

相次ぐ波紋と批判

一方で、世論のTBS批判や「TBSがビデオをオウム幹部に見せたことで坂本が殺害された」という非難に対しては「坂本はそれ以前にラジオに出演し、麻原と電話での討論を行っており『TBSが見せたテープの内容が殺害の直接の動機となったのではないか』との報道は妥当性を欠いている」との反論や「TBSバッシングに興じることで(報道倫理としての)問題の本質を見逃してしまう」とする異論[6]があった。また、取材テープを取材対象者からの要請で見せる行為は当時多くの放送局で行われていた事に加え、ビデオを見せたのは一連のテロ事件が起きる前であり、この時点でオウム真理教により坂本弁護士及びその関係者がオウムに殺害されるという事態はメディアの側からしても想定不可能であった事から、結局この事件は「たまたまTBSで起きただけで、どこの放送局でも起き得た事件ではなかったのか?」という非難もなされており、多良・武市両プロデューサーの取材ビデオを見せた行為も個人情報保護法がなかった当時は違法行為ではなかった為、彼らへの懲戒解雇処分も不当解雇ではないのかとの批判もある[7]。更にこれらの批判が行き過ぎ、批判の対象が殺害実行犯のオウム真理教からTBSに移ってしまったことで、一連のオウム事件そのものの真相究明がおろそかになったとの意見もある。

なお、TBSは遺族に対しても不誠実な対応をしている。坂本の妻・都子の父、大山友之の著書から引用する。

1週間後の3月19日、衆議院法務委員会において、参考人として招致されたTBS常務は、この矛盾を突かれ、返答に詰るといった醜態を晒す結果となっています。挙句の果てに、その年の4月30日、TBSは、監督官庁である、郵政省に、事の顛末を報告しています。私は、この「坂本テープ調査報告の要旨」について、日刊紙数社の記事を読み比べましたが、TBSの誤魔化しの意図が見えすぎる半面、事態の真相が全く見えてこないことに激しい憤りを感じました。そこで、私は、直接TBSに問い合わせをしてみました。真相をこの目とこの耳で確認したかったのです。自宅からTBS本社に電話をかけ、広報担当の部署へつないでもらい、住所氏名、どういう立場の人間かを細かく申し述べ、用件を手短かに伝えると、電話の相手が代わりました。そこで私はさらに細かに説明すると、先方はこう言いかけました。「今、責任者が席をはずしていて…」ところが、それも言い終わらないうちに、今度は別の男の声でいきなり、「いったい、何をどうしろと言うんだ!何を要求するんだ!」 そう恫喝してきたのです。これには驚きました。激しい怒りも湧いてきました。しかし、私は真相を知ることと,郵政省に提出した報告書と同じものを入手することが目的であることを思い、ぐっと堪えて、「要求でなく、お願いの電話です。坂本ビデオの報告…」と言いかけたところで、また、電話の相手が代わりました。「私は広報部副部長の〇〇です」居たのです! 責任者は席を外している筈なのに、その場にいたのです! 丁寧に名乗ってはくれましたが、用件を伝えると、「あるにあるが、残る部数も少ないし、部外者に見せる物ではないが、仕方がない、送ります。」そういう答えが返ってきたのです。やはり私は部外者だったのです。『仕方がねえ、送ってやらあ。有難く思え』で済む程度の人間として扱われたのです。マスコミという特権意識に舞い上がった、彼らの思い上がりを強く感じたものです。勿論、マスコミを十把一絡げにして物をいうつもりはありません。しかし、刑法に抵触するとまでも言えないにしても、およそ、理性ある人間として、してはならない過ちをしでかし、それを恥じる事もなく、逆に隠し切ろうとしたTBSの当時の経営陣は、マスコミの末席にも置けない、いや置いてはならない、という思いは今でも変わっていません。このような経緯はありましたが、96年5月2日付けで、広報部長の添え書きと共に、次の表題の書類を送って頂いたことは幸いでした。

大山友之(妻、都子の父)、「都子 聞こえますか」(2000年新潮社)[8]P227以下






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