M-3SIIロケット M-3SIIロケットの概要

M-3SIIロケット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/16 19:24 UTC 版)

M-3SIIロケット

M-3SIIロケット実物大模型(ISAS相模原キャンパス
機能 人工衛星打ち上げ
製造 宇宙科学研究所
日産自動車
開発国 日本
大きさ
全高 27.8メートル (91 ft)
直径 1.41メートル (4 ft 8 in)
質量 61,000キログラム (134,000 lb)
段数 3段
積載量
低軌道への
ペイロード
770キログラム (1,700 lb)
関連するロケット
シリーズ ミュー
打ち上げ実績
状態 引退済
射場 内之浦宇宙空間観測所
総打ち上げ回数 8
成功 7
失敗 1
初打ち上げ 1985年1月8日
最終打ち上げ 1995年1月15日
特筆すべきペイロード すいせい
M-3SIIロケット

概要

M-3SIIは世界でも稀な、惑星間軌道へ探査機を投入できる全段固体燃料ロケットである。

1981年昭和56年)に東京大学宇宙航空研究所が改組されて発足した宇宙科学研究所では、1986年(昭和61年)のハレー彗星大接近における国際共同調査を行うことを決定した。しかし、惑星間軌道に探査機を載せるには、地球重力を離脱する速度(第二宇宙速度)が必要とされ、既存のM-3Sでは明らかに力不足であり、新たなロケット開発が急務であった。

第一段目のみM-3Sからの流用であるが、そのほかは全て新設計された。1985年(昭和60年)にさきがけすいせいの打ち上げに成功し、1995年平成7年)までに8回の打ち上げが行われ、うち1995年1月15日に打ち上げられたEXPRESS以外の、計7機の探査機と人工衛星の打ち上げに成功した。特にさきがけの打ち上げに際しては、当時の航空宇宙開発関係者にあった「全段固体燃料のロケットのみで、地球の重力圏を脱出することはほぼ不可能」という既成概念に対するISASの挑戦という意味合いも込められた打ち上げであった。そして打ち上げの成功により、M-3SIIは世界初の「燃焼の制御が困難である全段固体燃料ロケットによる地球重力圏の脱出」を成し遂げると共に、海外の航空宇宙開発関係者から注目されることとなる。

近年開発された大型ロケットには珍しく、海側に傾けたレールランチャーにより斜めに発射される。これは、重力ターン方式の飛行マニューバーに従い、積極的な誘導制御を行わず、誘導装置は、あらかじめランチャーによって設定された理想飛翔経路とのズレを補正するのみである事による。次世代のM-Vロケットも、ランチャーによる斜め打ち上げであるが、これはロケットの打ち上げに失敗した場合、いち早く海側に投げ落とすことで発射台の被害を最小限に抑えるためである。

1996年(平成8年)2月21日に打ち上げられたJ-IロケットにはM-3SIIの第二段、第三段が流用されている。

大型の補助ブースタSB-735ラムダ4Sの第一段目を改良)、第一段目・第二段目より太いハンマーヘッド型ノーズフェアリングに代表される独特の外観と、華々しい打ち上げ実績、後述されている痛快なエピソード(スパイクノーズの件や第1段の直径1.4m制約の件など)とが相まって、今でもファンが多い。

仕様

括弧内は参考としてM-3Sのもの。

  • 全長 - 27.8m(23.8m)
  • 直径 - 1.41m(1.41m)
  • 重量 - 61t(48.7t)
  • 低軌道打ち上げ能力 - 770kg(300kg)
公称性能諸元一覧
段数(Stage) 第1段 補助ブースタ 第2段 第3段 キックステージ (オプション)
諸元 全長 27.8m 13.1m 4.67m 1.98m
代表径 1.41m 0.735m 1.41m 1.5m 0.79m 0.63m 0.79m
各段点火時質量 62.2t 17.2t 4.21t 0.61t
固体
ロケット
モータ
モータ名称 M-131,2 M-133- SB-735 M-23 M-3B KM-P KM-D KM-M
全長 13.28m 7.15m 4.82m 1.64m 0.80m 0.63m 0.79m
ケース材料 HT-200
HT-140N
HT-210
HT-140N
HT-140N HT-210
HT-140N
Ti-6Al・4V (α+β) Ti-6Al・4V (α+β) Ti-15V・3Al・3Cr・3Sn CFRP
FW
推進薬 BP-30B BP-30B BP-106J BP-106J BP-106J BP-110J BP-110J
モータ質量 32.5t 32.1t 4.86t 11.60t 3.58t 0.461t 0.287t 0.524t
推進薬重量 27.06t 4.02t 10.40t 3.28t 0.418t 0.280t 0.505t
比推力 240sec* 232sec* 287sec 294sec 287sec 294sec 293sec
平均推力 1,117kN* 296kN* 517kN 132kN 32.2kN 17.6kN 32.3kN
有効燃焼時間 56sec 31sec 55sec 71sec 36.3sec

*海面上でのもの

なお、補助ブースタの頭頂部に、キノコ状の突起が付いている。これは「さきがけ」打ち上げ直前に第一段目の能力不足が判明したため、超音速飛翔時の衝撃波を緩和し、空力的改善により打ち上げ能力を確保するために急遽付加されたスパイクノーズ英語版である。このスパイクノーズの採用により、惑星間軌道投入能力が2kgほど向上している。ちなみに、当時の宇宙研の状況からこの能力不足を公表すると問題となる恐れがあったため、記者会見でこのスパイクノーズの役割を説明するよう求められた際「どうですか、格好いいでしょう」と返答したエピソードがある。

また、オプションとして、最上段に、惑星間軌道投入用キックモータ「KM-P」(「さきがけ」、「すいせい」に使用)や、伸展ノズルを採用した準極軌道投入用キックモータ「KM-D」(「あけぼの」に使用)、月軌道投入用キックモータ 「KM-M」(「ひてん」「EXPRESS」に使用)を付加できる。この場合、構成は4段式ロケットとなる。

科学技術的な事情ではなく、過去の政治的経緯により、M-3SIIまでの宇宙科学研究所のロケットは、「第1段目の直径が1.4m」と言う制約が課されていた[1][2][3]。しかし、「第1段目の直径が1.4m」と言う制約を遵守しながら、大型の補助ブースタを付加した上で、直径1.5mの第三段目を搭載し、かつ直径1.6mのフェアリングを被せたM-3SIIの姿を見て「これは詐欺だ!」と叫んだ官僚が居ると伝えられている(実際、ロケット開発者のうち何人かが、文部省に状況説明を行っている)。そして、ISASの第4世代・第5世代のロケット計画である「Absolute」計画によると、第5世代のロケットとなるM-3SIIの改良型(計画段階でのM-Vに他ならない)は、第1段の直径は1.4mながら、大型の補助ブースタを多数付加し、第2段目以降の直径は1.4mを大幅に越える事となっていた。




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