IHI 概要

IHI

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 02:06 UTC 版)

概要

幕末以来160年を超える歴史があり、重機などの重工業において、日本を代表する企業の一つである。東京駅丸の内駅舎の鉄骨の建造(施工は大林組が担当し、1914年に開業)[4]永野治による日本初のターボ・ジェットエンジン開発(1945年)、日本国内最大の大型海水淡水化装置建設(1967年)、東京湾アクアライン工事用シールド掘進機納入(1997年)、明石海峡大橋ケーソンやタワー(主塔)の建設(1998年)などに関わってきた[要出典]

同社のトップは政財界でも様々な活動を行っている。最近では伊藤源嗣日本経済団体連合会(日本経団連)の評議員会副議長を務めていた(就任時は社長、2003年~2007年)[5]。1980年代に中曽根康弘首相が進めた行政改革においては、その基本方針をまとめた第二次臨時行政調査会の会長を同社出身の土光敏夫が務め[6]、その主要政策として実行された日本電信電話公社の民営化では真藤恒が同公社の最後の総裁、及び日本電信電話(NTT)の初代社長としてその移行を実現させた。また、稲葉興作は1993年から2001年に日本商工会議所の会頭であった[7]

元来独立系の企業だが、土光敏夫が三井グループの東京芝浦電気(現・東芝)の再建に関わって[6]以来、東芝と密接な関係にあり、三井グループを構成する二木会(社長会)・三井業際研究所(二木会直轄のシンクタンク)・綱町三井倶楽部(三井系の会員制クラブ)[8]及び月曜会(三井グループ各社の役員間の相互親睦と情報交換を目的とする会合)に加盟している[9]。一方、旧石川島重工業と旧・第一銀行とのつながりから、メインバンクはみずほ銀行であり、IHIは第一勧銀グループにも属している[10]

2012年10月からコーポレートメッセージを「Realize your dreams」としている[11]


注釈

  1. ^ 公式Twitterでの投稿によれば、"Ishikawajima-Harima Heavy Industries"の頭字語[2]
  2. ^ 田無工場(東京都西東京市)は、相馬事業所への移転完了に伴い閉鎖となった。

出典

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ロイヒ

(IHI から転送)

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概要

ロイヒはハワイ-天皇海山列のなかで一番新しくできた火山である。

ロイヒはハワイ諸島を構成する火山列の中で形成された年代が最も若い。ハワイにある火山の成長史のなかで、現在のロイヒは幼年期(Submarine preshield stage:直訳すると「海底火山/先盾状火山期」「先楯状期」)に相当する。2012年の現時点では、ロイヒ以外に幼年期にあたる火山は、ハワイ諸島の火山のなかでは発見されていない。ロイヒは海底深くで火山島へと成長しつつある海底火山であるといえる。

ロイヒは約40万年前に形成を始めた。今後1万から10万年後頃になれば、海面上に姿を現しはじめるだろうと予測されている。ロイヒは深海底から比高3,000 m (10,000 ft)以上に聳え立っている。この高さはセント・ヘレンズ山1980年に起こした破局的な噴火で低くなる前の海抜標高に匹敵しているか、それを追い抜くほどになっている。今のところ、山頂は海面下975 m (3,000 ft)に届いている。ロイヒ山頂周辺の熱水噴出孔には多種多様な微生物群が生息している。

特徴

地質

ロイヒは地球最大の楯状火山であるマウナ・ロア山の中腹に存在している海山である。この火山はハワイ・ホットスポットが生み出した、長大なハワイ-天皇海山列を構成する火山の中で最も若い火山である。形成年代が古いマウナロア山とロイヒとの山頂間の距離は、およそ80 km (50 mi)である。この距離は偶然にもハワイ・ホットスポットの直径と一致している。[4]ロイヒの頂上部は、三つの火口ピット・クレーター英語版)があり、それぞれ、山頂直下から北方向に11 km (7 mi)、南南東方向に19 km (12 mi)の長さにわたって割れ目帯(リフト・ゾーン英語版)が伸びている[8]

3つの頂上火口は、それぞれ、西火口(West Pit)、東火口(East Pit)、そしてペレ火口(Pele's Pit)と名付けられている[9]。ペレ火口はこの中で一番若く、山頂の南部にある。ペレ火口の火口壁は200 m (700 ft)の高さで立ち上がっている。これは、1996年7月に、その前身であるペレ噴出口(Pele's Vent)が陥没して形成された。ペレ噴出口は、ロイヒ山頂直下にあった熱水噴出領域であった。[7]ペレ火口の壁が驚くほど分厚いことは、これらの火口は過去に何度も溶岩で充たされたことがあることを示唆している。この火口壁は、平均して20 m (70 ft)の幅が有る。特記すべきはこの厚みで、ハワイの陸上によく見られる火口と比較しても異常なほどである[10]

ロイヒ周辺の水深測量で得たデータから起こされた水深図;矢印の先はペレ火口を示す。

ロイヒには南北方向に延びるリフト・ゾーンがある。これが海山特有の南北に細長く引き伸ばされた形をつくる元になっている。それゆえ、この海底火山の名前はハワイ語で”長い”を意味する「ロイヒ」と命名されたのである[11]。北リフトゾーンは、長い西の分枝部と短い東リフトゾーンから成っている。観測結果から、南北両方のリフトゾーンには海底の堆積物が積もっていないことが明らかになっている。このことから、地質年代的にごく近い時期に火山活動を起こしたことを示している。北リフトゾーンの膨出部は3つの60–80 m (200–260 ft)の円錐形をした高まりを内に含んでいる[10]

1970年まで、ロイヒは太古の昔に活動を止めた火山だと考えられていた。海洋底拡大に伴い、太平洋プレートに乗って、あたかもベルトコンベア上に載せられた小包のようにして、生まれた場所から遥か離れたこの地まで運ばれてきたのだと思われてきた。ハワイ諸島が下に敷いている海洋底は東太平洋海膨で作られてから8千万年から1億年たっている。太平洋の海洋底拡大軸でマントルからマグマが湧き上がっては噴出してできた新たな海洋地殻は、拡大軸から離れる方向へ動き続けている。そのような長期間にわって、ハワイの下の海洋底は東太平洋海膨から6,000 km (4,000 mi)西に行った現在の位置まで旅をして古代の海山を運んできたのだと思われてきた。ロイヒがハワイ-天皇海山列の正式なメンバーであると判明したのは、1970年、ハワイ島沖で起きた群発地震を科学調査した時である。ロイヒの山頂火口の年齢パターンは、ロイヒ自体がハワイホットスポットの真上にあった発生地点から動くにつれて火山活動の中心をゆっくりと東に移らせているということを確証させた[2]

海山の3D-CGレンダリング

ロイヒは海底から3,000 m (10,000 ft)以上もそびえたっている[2]。しかし、未だその頂きは海面よりも975 m (3,199 ft)下にある[1]。ロイヒは約5度の傾きのある海底で形成された。マウナロアの中腹にある海山の北側の基盤は海面下1,900 m (6,200 ft)にある。しかし、その南側の基盤は更に深いところ、海面下4,755 m (15,600 ft)の深海にある。それゆえ、山頂は、海山の北麓を基準にして測ると931 m (3,054 ft)の比高が有るといえるが、南麓を基準にして測ると3,786 m (12,421 ft)の比高があるといえる[4]

ロイヒは、ハワイ型の火山の成長段階を辿る途中にある。それは、ハワイ諸島に所在する全ての火山に典型的なものである。ロイヒの溶岩からの地球化学的な知見は、幼年期から盾状火山期(Shield volcano stage)への過渡期にあるということを示している。[12]この火山は、ハワイにある火山における初期の発達段階の研究についての価値ある手がかりを提供してくれている。ハワイの幼年期の火山は急峻な山裾があり、火山活動は低調でアルカリ玄武岩溶岩を噴出することが判っている[12][13]。火山活動が長期間にわたって継続すれば、現在ロイヒ海山の存在する海域がやがては火山島になるだろうと期待されている。ロイヒは数回にわたる海底地すべりを経験してる。海底火山が上へ上へと成長することは、その斜面を不安定な状態にする。実際に、山体崩壊によって堆積したと思われる広大な緩斜面が急峻な南東斜面の下に存在している。他のハワイにある火山で採取された同様の堆積物は、ハワイの火山の初期の成長段階にとって地すべりによる岩屑は重要なものであるということを示している[5]。ロイヒは今後1万年から10万年以内には海面に顔を出すであろうと予想されている[1]

成長段階と火山の年齢

ロイヒから採取された岩石標本の年代を特定するために放射年代測定が使われた。ハワイ火山学センター(Hawaii Center for Volcanology)は、数回の学術調査を目的とした航海で記録されたサンプルを試験した。特筆すべきは1978年の17回もサンプルを浚い上げるのに成功した調査航海であった。殆どのサンプルは古代にその起源をもつように思われた;最も古い記録が残された岩石は30万年前のものであった。1996年イベントを受けて、作られてからそう年代を経ていない火山砕屑岩角礫岩Breccia)数個も採集された。サンプルを基にして、科学者チームはロイヒの生成年代を、今よりおよそ40万年前であろうと推定した。山体は、基底部では1年当たり平均して3.5 mm (0.14 in)、頂部では7.8 mm (0.31 in)の割合で積み重なっていた。もし、例えばキラウエア火山のような他の火山で得られたデータモデルがロイヒでも当てはまるとすると、火山の重量の40パーセントが最近10万年以内に形成されたことになる。リニアな成長モデルが当てはまると仮定すれば、ロイヒは形成開始から25万年経っていることになる。しかしながら、全てのホットスポット火山と同様に、ロイヒの火山活動レベルは時間が経過するとともに増大したと考えられる;それゆえ、このような火山がロイヒの規模に達するまでに、少なくとも40万年は掛かったと考えられる[5]。ハワイ諸島の火山は北西方向に年間10 cm (4 in)の割合で引きずられているので、ロイヒは、海底で初めて噴火した時には現在地より40 km (25 mi)南東にあったはずである[14]

火山活動

ロイヒは地質学的には形成年代が若く、活発な火山活動をしていることが顕著な海底火山である。しかしながら、近くにあるキラウエア火山より火山活動は激しくない。過去のある短期間には、ロイヒで数回にわたる群発地震が発生した。その中で最大の物は下記に示す表中にまとめられている[15]。現在では、この海山の火山活動は、火山によって引き起こされる地震が1959年から収録されている地震計での記録波形をさかのぼることでも研究が進められている[16]。ロイヒで起こる大抵の群発地震は一度始まってから2日間以内に収まってきた。うち2件の例外は数か月にも及んだ1991年から1992年にかけての地震、および、1996年の噴火事象(以下1996年イベント)である。これは短期間で終わったが、論文に取り上げられる群発地震のなかで一番多く言及されている。両方の地震とも、山腹から始まり、山頂にかけて広がっていくという、決まった地震活動の様式を踏襲していた。1996年イベントは、自律的海底観測所(autonomous ocean bottom observatory :OBO)で、直接観測されていた。これにより、科学者にとって、震源は山頂直下6 km (4 mi)から8 km (5 mi)までの深さにあると判明した。この場所はロイヒのごく浅いマグマだまりに近い位置である[5]。この計算結果からは、ロイヒでおこる群発地震は火山に起源をもつものであるという証拠になった[9]

1959年からロイヒで詳細に記録された低レベルの地震活動により、2回から10回の地震が山頂で起こっていることが突きとめられた[16]。 群発地震のデータはロイヒを構成する火山岩が地震波をどのくらい良く伝播するか、および、地震と噴火の関係を調べるために使われた。この低調な地震活動は、100回ほどの地震で構成された大規模な群発地震により、周期的に中断されていた。大部分の地震の震源域は山頂近くには分布していなかったが、北から南へと震源域の分布が延びる傾向があった。むしろ、強いて言うならば、ほとんどの地震はロイヒの南西部でおきていた[5]。1971年、1972年、1975年、1991から1992年、1996年の期間に、ロイヒで記録的な最大規模の群発地震が発生した。強烈な地震が集中して起こる場所は、ロイヒの周囲30 km (20 mi)からハワイ島の南岸にかけてである。マグニチュード2以下の地震イベントは頻繁に記録されるが、小さい地震の震源の位置は的確に検知できないでいる[17]。これとは対照的に大規模な地震の場合は震源が正確に特定できる。実際のところは、ロイヒの中腹に設置されたHUGOがハワイ火山観測所(HVO)の地震ネットワークで記録されたよりも10倍の頻度で地震を記録している[5]

1996年の群発地震

主要な火山活動
西暦 摘要
1996
1996年初に噴火した形跡、夏、大規模な群発地震、良好な記録が残る。1996年2月25日に開始し、同年8月9日までには終息[17][18]
1991
最近の群発地震を追跡するために海山に設置されているOBO(自律的大洋底観測所)が、山体が収縮している兆候を集めた。マグマの地下深くへの収縮によると推定[5]
1986
噴火の可能性、1986年9月20日(1日限り)[18]
1984–85
M3以上の9回の事象。1984年11月11日から1985年1月21日にかけて、3.0から4.2の地震が記録された[17]。おそらく噴火したと思われるが詳細不明[18]
1975
1975年8月24日から同年11月にかけて、際立った群発地震[18]
1971–72
1971年9月17日から1972年9月にかけて噴火した可能性あり[18]。噴火の詳細については判っていない。
1952
1952年にロイヒで起こった群発地震により初めてこの火山に科学的関心が向けられた。その以前にはロイヒは死火山であろうと考えられていた[5]
50 BC
± 1000
記録から確認された古代の噴火[18]
5050 BC
± 1000
記録から確認された古代の噴火[18]
7050 BC
± 1000
確認された古代の噴火、東側山腹で活動した見込みが最も有力[17]

この表では、噴火した可能性のある事象、および、主要な噴火事象しか記載していない。ロイヒは複合的な群発地震がほぼ年2回を基本として起こる場所でもある。

ロイヒで記録された最大規模の活動は、1996年の7月16日から同年8月9日にかけての群発地震、その数4070回を数えたものであった[4]。この一連の地震は、現在までにハワイにある火山で取られた地震記録の中で揺れの強烈さと回数の双方において最強クラスのものだった。ほとんどの地震はモーメント・マグニチュードにしてM3.0未満の規模であった。マグニチュード3.0以上のものは数百回、その中でも40回以上がM4.0以上であり、M5.0を記録した微動もあった[17][19]

群発地震の最後2週間は1996年8月に発足したクイック・レスポンス・クルーズ(quick response cruise)によって観測されていた。アメリカ国立科学財団は、ハワイ大学のフレデリック・K・ドゥエネビアー(Frederick K. Duennebier)率いる科学者チームによる探査(学術調査航海)のために研究費を交付した。この学術航海は、ロイヒの試料採取と火山活動の解明を目的とし、1996年8月から続いた一連の群発地震及びその起源を徹底的に調べるためにはじめられた。科学者たちの想定は、研究の大半を占め、何回となく繰り返された学術航海で構成され、また、仮説の裏付けとなったフィールドワークに基礎を置いていた[20]。ロイヒに対する追跡調査が行われた。その中では8月と9月に有人潜水艇パイシーズ号の投入も行われた。 これ等の調査は非常に多くの海岸を基本とした研究により、不足した箇所を増補された[19]。調査航海の間に採集された新鮮な岩石により、群発地震のおこる以前に噴火が起こっていたことが明らかになった[21]

8月に実施された潜水調査は、1996年9月から10月にかけてNOAAが資金援助した研究から支援された。これらの細部にわたった研究で、現状ではロイヒ山頂の南端が陥没していることが明らかにされた。火山自体からマグマ溜まりへと火道を満たすマグマが急速に後退したこと、および、群発地震との両方によって引き起こされたものであろうと考えられている。差し渡しが1 km (0.6 mi)、深さが300 m (1,000 ft)の火山岩塊でできた山頂火口が作られた。この1996年イベントは100 million立方メートルの火山噴出物の流出を伴っていた。山頂にある10 km2 (3.9 sq mi)から13 km2 (5.0 sq mi)の領域が、バス並みの大きさの枕状溶岩で置き換えられ、岩の塊がごろごろし、さながら海中のガレ場の様相を呈していた。巨岩は新たに形成された火口の外縁一帯に不安定な状態で留まっていた。1996年イベントで緊急調査する以前、山頂南端にあるこの場は、「ペレ噴出口」("Pele's Vents")と呼ばれた熱水噴出領域(熱水フィールド)があり、安定して長期間にわたって存在するだろうと考えられていた。しかし、そこは、完全に崩落・陥没して巨大な窪みを形作り、地名を「ペレ火口」("Pele's Pit")に改められた。海底火山南端[22]にできたばかりのピット・クレーターに海水が流入し、遊離した無機塩類やバクテリア代謝物と混じり合い、ロイヒ山頂の西縁から流れ出していた。その結果できる流速が非常に強い海流は、この海域への有人潜水艇による調査を非常に危険なものにしていた[20]

研究員たちは、噴煙のような硫化物硫酸塩の濁りが絶え間なくもうもうと立ち込めているのに遭遇した。ペレ噴出口が突然崩壊してしまったことで、熱水噴出口生成物(hydrothermal material)が莫大に放出されていた。混合物の中に或る特定の指標鉱物の存在は、熱水の温度が摂氏250度を超えてしまったことを示唆していた。この記録は海底火山で見つかった熱水噴出口の水温の現在まで残る最高記録である。ロイヒの熱水に含まれている物質の構成は、ブラックスモーカーから出てくる熱水を構成する物質と同じであった。ブラックスモーカーとは、中央海嶺の周囲にある熱水噴出口の一種であり、濁った熱水を、あたかも工場や銭湯の煙突から吐き出す黒煙のように噴出しつづけるものである。 熱水噴出口からの物質が堆積してマウンドのようになった小山から得られたサンプルはホワイトスモーカーから得られたサンプルとよく似ていた[23]

いくつかの研究は火山学的にも熱水活動的にも一番活発な地域は南リフト・ゾーン沿いに所在する事を論証してみせた。それほど活動的ではない北縁での潜水調査において、その地域での微小地形はやや安定していて柱状節理が発達していることが判った[20]。新たにできた熱水フィールド(Naha Vents:「ナハ・ベント」)はアッパーサウス・リフトゾーン(upper-south rift zone)の深さ1,325 m (4,350 ft)の場所に位置していた[5][24]

最近の活動

1996年イベント以来、ロイヒはそのほとんどの期間を静かにして過ごしていた。2002年から2004年にかけて、全く地震活動が記録されていなかった。2005年、再び、その海山は火山活動の兆候を示し、そこで記録された他のどのような地震よりも大きな地震をおこした。ロイヒで、それぞれ5月13日にM5.1、7月17日にM5.4の規模の2回の地震が発生した。USGS-ANSS(Advanced National Seismic System)は、これらの地震を記録していた。両方とも震源の深さは44 km (27 mi)であった。4月23日、深さおよそ33 km (21 mi)の場所でM4.3の地震が記録された。2005年12月7日から年が明けて1月18日にかけて、凡そ100回の群発地震が発生した。記録されたうち最大のものはモーメント・マグニチュードにして4の規模であり、深さ12 km (7 mi)から28 km (17 mi)にかけて発生したものだった。そのほかの地震では、後に、ロイヒとハワイ島南岸の街パハラの殆ど中間地点で記録された、M4.7の地震がある[15]


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