89式5.56mm小銃 閉所戦闘訓練用教材

89式5.56mm小銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/06 20:38 UTC 版)

閉所戦闘訓練用教材

仙台で行われたアメリカ海兵隊との共同訓練の様子(2004年2月9日

2000年代以降、陸上自衛隊は、ゲリラ特殊部隊市街地へ侵入するといった事態に対処するため、市街地や閉所(屋内)などでの戦闘を想定した訓練を実施しており、更なる市街地戦闘能力の向上を図るため、各方面隊への市街地訓練場の整備や、至近距離での戦闘評価機能を追加した交戦訓練用装置(バトラー)の配備を行っている。だが、攻撃の命中判定をセンサーで行うバトラー装置では、センサーの無い手足の末端などを銃撃するといった細かな判定が行えず、さらに、銃器の管理が厳しい自衛隊では、自主的な訓練のために実銃を持ち出すのが困難といった問題点があった。これについて防衛庁(当時)は、遊戯銃メーカーの東京マルイが89式小銃型の電動ガンエアソフトガン)を開発中との情報を得て、これを閉所戦闘訓練用に導入することとした。開発に際しては実銃のデータが提供され、より実銃に近い89式小銃型の電動エアガンが開発されることになった。

開発された自衛隊向け電動ガンの正式名称は「閉所戦闘訓練用教材」もしくは「89式小銃型訓練用電動エアガン」で、弾は市販のものと同じく6ミリBB弾を使用する。エアガン本体、整備用品、バッテリー、弾倉、収納袋などで構成されており、1セット当たり約8万円となっている。調達は平成17年度予算から始まり、2006年2月末までに600セットが納入された。それ以後も平成18年度予算で1,160セット、平成19年度予算で120セットが調達され、現在でも調達が継続されている。なお、納入されているのは固定銃床式のみで、折曲銃床式は自衛隊からの依頼がないため納入されていない。実銃と訓練機材、民間向け商品を区別するため、自衛隊に納入された物は銃床・銃把がオリーブドラブ色、銃把、弾倉底部がオレンジ色、消炎制退器から被筒までの銃身露出部分がになっており、刻印も異なる[90]。また、民間向け電動ガンは、自主規制措置として薬莢受け取りつけ部や銃剣の着剣ラグを意図的に実銃と異なる形状にしてあり、不正流出した実銃部品が使用しにくい構造となっている。

この訓練教材が採用される以前は、一部の部隊ではM16M4カービンなどの電動ガンを部隊費などで購入し、それらを使用して訓練を行っていた。一方で、閉所戦闘訓練用教材は配備が始まったばかりで、閉所戦闘訓練で必要とする部隊全てには行き届いていない。このため、一部の部隊では民間仕様の89式小銃型電動エアガンを購入して訓練を行っている。

2006年7月半ばには、初速と色が自衛隊納入用と若干異なる民間向け電動ガンの販売が製造元の東京マルイより開始された(後述)。


注釈

  1. ^ MINIMI軽機関銃は通常のベルト給弾のみならず、小銃用の箱型弾倉を装着して給弾・射撃を行うことができる。MINIMIは小銃分隊などに配備されている現行の軽機関銃である。そして、前代の64式7.62mm小銃も62式7.62mm機関銃との弾薬互換性を持っていた。
  2. ^ 他に二脚を標準装備する5.56mm口径の小銃としてはSIG SG550FA-MASなどがある。
  3. ^ スイス製のSIG550などでも同様の操作方法が採られている。
  4. ^ グリップに手をかけたまま親指で操作することも可能ではある。
  5. ^ 他に安全装置が右側配置で一段目がフルオートになっている自動小銃としては、ロシア連邦のAKシリーズがある。
  6. ^ 筆者で自身も自衛官として64式や89式をはじめ、諸外国のアサルトライフルを扱った経験のあるかのよしのりは、同書内で安全装置の次にフルオートが配置されていることについて、「大急ぎで安全装置を解除しなければならない状況とは、至近距離で敵と出会った時で、正確な狙いをつける余裕もなく連射することになる」とし、実戦的であると評価している。
  7. ^ 小銃における擬製弾の役割は少ない。装填は禁じられており、大抵は教育訓練における弾薬の説明や機関銃訓練における模擬弾薬として装填しない状況下での訓練において使用される。
  8. ^ 小口径弾は距離が遠くなるほど殺傷力が低下するが、この弾頭であれば重心位置が弾頭尻付近となり、人体に命中し、骨などの固い個所に当たるとタンブリング(回転している弾丸が倒れる現象)を起こし、弾丸が体内を転がりまわりながら突き抜けていくことになる。これによって、遠距離射撃の際の殺傷力低下を補うとされる。
  9. ^ 原則として、30発入り弾倉は前線にて戦闘行動を行い射撃を行う可能性の極めて高い普通科施設科部隊に対して優先的に配備し、射撃機会が少ないとされる特科機甲科などの後方部隊は20発入り弾倉を携行する。この他にコア部隊のように後方任務を主体に行う部隊には最初から20発入り弾倉が配備されることもある。有事の際は20発入り弾倉配備部隊にも30発入り弾倉が配分される予定。
  10. ^ ダイレクトガスインピンジメント
  11. ^ 普通科教導連隊など、射撃訓練が通常の普通科の数倍以上の弾薬を使用する部隊は、通常の普通科連隊よりは部品などの摩耗などによる耐用限界を迎えやすい。
  12. ^ 特殊警備隊が薬莢受けを使用している姿は確認されている。
  13. ^ 厳密には、薬莢受けの固定具上部にダットサイトを取り付けているに過ぎない。バトラー装着用固定具も薬莢受け固定具と同型状のため、それら固定具に直接ダットサイトを取り付けるようダットサイト側固定具が改造されている。通常の固定具を使用した状態よりも若干高めに取り付けられることになる。
  14. ^ これは、空包を撃つタイプの小銃擲弾を実弾で発射しようとしてしまう事故を防げる点で重要である。擲弾が自爆すると本人と周囲の隊員が死傷するという重大な事故に発展する。
  15. ^ 時期や生産ロットによって価格は変動し、2005年1月時はキットが110,220円、完成品が152,220円だった。
  16. ^ 電子式のバーストモデルは、過去に電子制御可変バーストシステムを搭載したSIG SG550/551が存在したが、電動ガン用の強い電流のバッテリーに対応した回路は、電子部品の価格が高価という問題があった。
  17. ^ 新型マガジンフォロアーが採用されており、従来の物とは異なり全弾撃ち切れる。これも自衛隊での訓練を考慮し採用されたものである。

出典

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