62式7.62mm機関銃 評価

62式7.62mm機関銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/17 07:38 UTC 版)

評価

部品点数の多さから分解・結合に手間がかかる、機関部の設計不良による自然撃発が発生するなどの問題があるとされる[7]

64式7.62mm小銃と同様の部品点数の多さによる整備性の悪さと、それによる重量増加、部品の隙間が大きいことによる部品脱落、キャリングハンドルを持って斜めに傾けて持ち上げると銃身がレシーバー本体から引っこ抜ける、連射時の命中率の悪さ、不発・給弾不良・暴発や引き金を引くのを止めても発砲が止まらない自然撃発などの作動不良や故障の多さなどから、「62式(ろくに)言うこと聞かん銃」、「62式単発機関銃」、「キング・オブ・バカ銃」、「無い方がマシンガン」、「分隊自滅火器」といった蔑称が、運用している隊員間でつけられたと、メディアでも紹介されている[9]

64式小銃の開発者の一人である津野瀬光男は、著書「幻の機関銃」の中で、62式機関銃は連続射撃の頻度が高い機関銃であるにも関わらず、64式小銃と比較しても銃身の外径が小さく(64式小銃の銃身外径34ミリに対し62式機関銃は銃身外径28ミリという細身の銃身を採用)、構造が脆弱であると述べている。この細身の銃身こそが62式機関銃の欠陥の根本原因とされる。62式機関銃の銃身重量は、銃身長約20.5インチで約2kg(1インチ当り97.6g)とされており[10]、同時期の他国の7.62mm汎用機関銃であるFN MAG(24.8インチ、3kg、1インチ当り121.0g)[11]や、M60機関銃(22インチ、4.17kg、1インチ当り189.5g)[12]と比較しても軽量な部類に入る。なお、M60は1980年代に軽量化を施したM60E3にて22インチのまま2.18kg(1インチ当り99.1g)まで軽量化した銃身を採用しているが、軽量化の代償として200発以上の連続射撃は銃身の過熱を招くため、危険であるとされ、後に重量を2.68kg(1インチ当り121.8g)まで増大したヘビーバレルを追加配備している[12]

津野瀬同様に64式小銃の開発者の一人であった伊藤眞吉の資料[13]では、62式機関銃の銃身後部の薬室について、腔圧は64式小銃と同様の50,000ポンド/平方インチであるが、肉厚は8.6mmと記載されている。これは資料上は64式小銃よりも3.5mm薄い数値で、フランスM1890レーベル小銃と同じ厚さとなっている。伊藤は上記資料の「鉄砲の安全(その4)」において、62式機関銃につき直接否定的な見解は述べていないが、「レーベルとナガン(肉厚7.0mm)は薬室は薄いが、薬莢テーパーが強く、腔圧が低い」と指摘すると共に、薬室が厚い利点として「連続多数弾を発射した時に温度上昇が少なく、実包の自爆の危険性が低い」、「薬莢が薬室に張り付かないので打殻薬莢が軽く抜き出せる」、「破裂に対する強度が大きく、安全」、などと記述している。

62式機関銃の開発過程において、細身の銃身を原因とする過熱による薬室への薬莢の張り付きを解消するため、強いガス圧により大きな遊底を高速度で前後させる事で薬莢の引き抜き力を上げる事を試したが、命中精度の低下を招いた上、今度は強い引き抜き力に薬莢が堪えきれずに千切れるトラブルが発生した。それを受け最終的には、遊底の下部に揺底と呼ばれる部品を追加し、薬莢を前後に揺すりながら徐々に引き抜く作用を与える事で、命中率を考慮した低めのガス圧でも安定した引き抜き力を確保する事とした。これが62式機関銃の大きな特徴である前端揺動式ティルティングボルト閉鎖機構と呼ばれる構造であるが、世界に類例を見ない複雑な構造であり、後に作動不良が多発する要因となった。なお現場では、62式機関銃の薬莢張り付き問題対策に、薬莢や機関部に吹き付ける、KURE 5-56などの潤滑剤を携帯している。

また、遊底の後退延長が長すぎる点も難点として指摘されており、万一連射中にガス圧不足などの要因で遊底の後退量が不足して、逆鈎に遊底が到達できなかった場合、引き金を引いていなくてもそのまま連射が継続されてしまうという致命的なトラブルが発生する事にもなった。

前述の通り、津野瀬や伊藤らが所属する豊和工業は、64式小銃の開発の過程で銃身外径は最低でも34mm以上が適しているとの知見を得ており、62式機関銃の開発が難航する要因が銃身が細すぎる事に起因するものであるとして、河村や日特に重量を犠牲にしてでも銃身厚を確保して信頼性の向上に努めるように助言したものの、独自の設計と軽量化に固執した日特は、62式機関銃にその知見を採り入れる事は無かったという。

後継の5.56mm機関銃MINIMIの採用により調達は終了しているが、これらの問題点は制式採用から約40年間、正式な改善・改良は施されなかった。

結局、こうした本質的な欠点が改められるのは、車載専用とする事で可搬性を犠牲にしてでも銃身厚を確保する設計にできた、派生型の74式車載7.62mm機関銃になってからであった。

ただし、現在でも装甲戦闘車両で使用され続けている74式機関銃についても、61式戦車以前の米軍供給兵器を知る世代の隊員からは、ブローニングM1919重機関銃(cal.30)のほうが断然信頼度が高かったという証言がなされている[14]

2013年に住友重機械工業は、少なくとも1974年より数十年間に渡り生産された機関銃の内、少なくとも5,350挺の銃身の耐久性や弾の発射速度などの検査データを改ざんし、要求性能に満たない機関銃を防衛省に納入したとして指名停止処分されており[15]、その中に62式機関銃も少なからず含まれていたと見られている。


注釈

  1. ^ 外国の文献などでの名称である「NTK-62」の"NTK"とは日特金属(NiTtokuKinzoku)の略号を意味する
  2. ^ 後継機種である5.56mm機関銃MINIMIは、本体が軽量で反動も軽減されているため、「かかえ撃ち」の負担は少ない
  3. ^ 7.62x51mm NATO弾を国産化した弾薬

出典

  1. ^ a b c d e f g 「エリートフォーセス 陸上自衛隊編[Part1]」p107
  2. ^ 7、陸上自衛隊武器学校小火器館の日本の機関銃 2 - 日本の武器兵器.jp
  3. ^ 河村 正弥 - Webcat Plus
  4. ^ 河村正弥 - 土木機械写真貼 別館
  5. ^ 「いまこそ知りたい自衛隊のしくみ」p121
  6. ^ https://modernfirearms.net/en/machineguns/japan-machineguns/type-62-eng/
  7. ^ a b c d 「エリートフォーセス 陸上自衛隊編[Part1]」p108
  8. ^ a b c 「エリートフォーセス 陸上自衛隊編[Part1]」p109
  9. ^ そこが変だよ自衛隊! 大宮ひろ志(ISBN 4-7698-0994-8 2001年光文社)
  10. ^ 62式機関銃 - 福住製作所
  11. ^ MAG™ Machine Gun 7.62 x 51 mm
  12. ^ a b Kevin Dockery, The M60 Machine Gun, Osprey Publishing, 2012/11/20
  13. ^ 伊藤眞吉「鉄砲の安全(その4)」『銃砲年鑑』10-11年版、117頁、2010年
  14. ^ 61式戦車 Story of Type61 tank
  15. ^ “住友重機を指名停止 = 機関銃の試験データ改ざん - 防衛省”. 時事ドットコム. (2013年12月18日). オリジナルの2013年12月22日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/rWY8J 


「62式7.62mm機関銃」の続きの解説一覧




固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「62式7.62mm機関銃」の関連用語

62式7.62mm機関銃のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



62式7.62mm機関銃のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの62式7.62mm機関銃 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS