黄砂 各国の黄砂

黄砂

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/04/06 04:16 UTC 版)

各国の黄砂

各言語での黄砂の名称は以下の通り。

  • 日本(日本語) - 「黄砂」、読みは「こうさ」。「おうさ」と読まれることもある(小学館国語辞典編集部『日本国語大辞典』第2版(小学館、2001年)の第2巻851頁には「おうさ(黄砂)」の項目が置かれており、「こうさ(黄砂)」の項目への参照項目となっている)。「黄沙」とも表記されるが頻度は低い。
  • 中国中国語) - 黄沙」、「黄砂」、読みはいずれも「拼音: huángshā ホワンシャー」。このほかに「亞洲粉塵」、「黄塵」、「黄河風」、「中國沙塵暴」といった別名がある。ただし、中国では、「黄沙」などの名称は主に研究者の間で用いられており、一般には日本語の「黄砂」に当たるような黄砂現象全体を表現する言葉がほとんど浸透していない。その代わりに(黄砂による)砂塵嵐のみを表す「沙尘暴」拼音: shāchénbào シャーチェンパオ)などが用いられている。
  • 英語圏 - China dust」、「Asian dust」、「Yellow dust」、「Yellow sand」、「Yellow wind」、「China dust storms
  • 韓国北朝鮮朝鮮語) - 「황사」、「黄沙」、「黄砂」、読みはいずれも「ファンサ」。
  • ベトナムベトナム語) - 「Hoàng sa黃砂)」、「bão cát vàng
  • モンゴルモンゴル語) - 黄砂自体の名称ではないが、黄砂の元となる砂塵嵐のことを「トゥイリン」[18]と呼ぶ。

英語の名称は、学術分野では言語に差異に関わらず広く使用されている。このほか、歌や詩などに使われる霾(ばい、つちふる、bai)などの別名があるほか、「灰西」「赤霧」「山霧」「粉雨」[43]といった地域的な呼び名もいくつか存在する。

中国・モンゴル

中国では、気象観測において黄砂は「砂塵天気」に含まれ、視程(水平視程)10 km 以内で風が弱い場合「浮塵」、風が強く視程 10 km - 1 km の場合「揚沙」、風が強く視程 1 km 以下の場合「沙塵暴」とされている。沙塵暴はさらに3級(弱)、2級(中)、1級(強)、0級(特強)に分類される。特に、瞬間風速 25 m/s 以上で視程が 50 m 以下の0級(特強)沙塵暴は、「黒風」や「黒風暴」(カラブラン, Kara Bran)と呼ばれている[43][89]

砂塵天気の分類
  風力(風速 m/s)
0 - 4 (0 - 7.9) 5 (8.0 - 10.7) 6 - 7 (10.8 - 17.1) 8 (17.2 - 20.7) 9 (20.8 - 24.4) 10 - (24.5 - )
視程 (km) 10 km - 1 km 浮塵 揚沙        
1 km - 500 m     沙塵暴 3級(弱)      
500 m - 200 m       沙塵暴 2級(中)    
200 m - 50 m         沙塵暴 1級(強)  
50 m 以下           沙塵暴 0級(特強)
黄砂でかすむ万里の長城・八達嶺長城の遠景
黄砂でかすむ春のソウル市街
黄砂でかすむ岡山県高梁市の様子
2002年4月、アラスカまで到達した黄砂の衛星写真

東部でよく観測され、都市部では、最近の経済発展によるスモッグ煙霧)との相乗効果で、視程がかなり悪くなることがある。北京天津などは発生地とされる砂漠に近く、近年はたびたび大規模な黄砂に襲われている。

発生地から比較的離れた地域でも、黄砂による被害を度々受けている。2007年4月2日には、上海で 623 µg/m³(マイクログラム毎立方メートル)と過去最大の量の黄砂を観測し、大気汚染指数が 500 と過去最悪の数値を観測した[90]。大気汚染指数 (API) は二酸化硫黄と PM10 の濃度を基準にした中国独自の指標である。0 - 500 の数値で表され、300以上が「重度」とされている[91][92]。華北や東北地方では日常的に指数が 100 前後と高く、これまでに 500 を記録したことはあったが、上海で「重度」となったのは初めてのことだった[93]。南方の台湾でも最高 500 µg/m³ 程度の黄砂が春を中心に観測される。

ただ、発生地周辺の中国内陸部やモンゴルでは、単なる黄砂の降下よりも砂塵嵐による被害の方が大きい。農作物に砂が積もることによる不作のほか、住居に砂が侵入したり、視界不良による事故などで死者が出ることもある。

これまでで最も大きな被害は、1993年5月5日に中国北西部(寧夏回族自治区、内モンゴルアラシャン盟甘粛省)で発生した黒風暴によるものである。死者・行方不明者112人、負傷者386人、家畜・牛馬の死亡・行方不明約48万3千頭、4,600本の電柱が倒壊、被害を受けた耕地21万 ha、森林被害 18万 ha、経済損失66億円のほか、多くの道路や鉄道が埋没するという甚大な被害を出した。死者の多くは学校から帰宅途中の子供であった[5][28]。この時、甘粛省で22.9 mg/m³ (22,900 μg/m³) という記録的な黄砂の濃度を観測している[94]

中国の森林管理局によれば、黄砂の影響を受けている中国人は約4億人で、直接的な被害だけでも540億元(約840億円)に及ぶと言う[95]。また別の推定では、1990年代の黄砂に伴う経済損失は年間15億元(Yang および Lu, 2001年)だとされている[5]

韓国

韓国では、黄砂はその程度により、強度0、強度1、強度2の3段階に分類されている[89]

  • 強度0 - 視界が多少混濁している状態。
  • 強度1 - 空が混濁し、黄色い塵が物体表面に少し積もる状態。
  • 強度2 - 空が黄褐色になって日光も弱まり、黄色い塵が物体表面に積もる状態。

また韓国気象庁は、環境部所管の観測網から得られる PM10 濃度の1時間当たり平均値の予報を基に、規定の濃度が2時間以上続くと予想された場合に、3段階の警報体制をとっている。気象注意報・警報などと同様に、地域ごとに発令される[19][43]

  • 黄砂情報 - 300 µg/m³ 以上で、かつ情報提供が必要な場合。
  • 黄砂注意報 - 400 µg/m³ 以上。
    • 一般市民の屋外での激しい運動を自粛するよう勧告。高齢者・子供・呼吸器疾患患者の屋外での活動、幼稚園・小学校の屋外活動をそれぞれ禁止するよう勧告。外出時に長袖の衣服を着て清潔を保つよう指導。
  • 黄砂警報 - 800 µg/m³ 以上。
    • 高齢者・子供・呼吸器疾患患者の外出禁止、一般市民の屋外活動禁止・外出自粛、室外での運動競技の中止・延期を勧告。幼稚園・小学校の屋外活動禁止、および授業短縮・休校などの措置を講じるよう勧告。外出時に長袖の衣服を着て保護めがねマスクなどを使用して清潔を保つよう勧告。畜舎・家畜の保護措置、農産物飼料の覆い、電子・精密機械に侵入する微粒子の遮蔽措置を指導。

以上の基準は、黄砂被害の増加を受けて2007年2月10日に改正されたものである[96][97][98]

2002年3月21日 - 22日の黄砂は記録的な被害をもたらした。ソウルではPM10の濃度が 2,266 µg/m³ を記録、幼稚園や高校5,000校余りが休校し航空機の欠航や精密機器工場の操業見合わせなどの影響が生じた[5]。「1 – 2 km ほどしか見通しもきかず、呼吸ですら困難なほどであった」と地元新聞は伝えている。2006年4月には 2,015 µg/m³ が観測され、空の便も韓国国内便6便が欠航している。

韓国気象庁によれば、韓国に飛来する黄砂は内モンゴル、ゴビ砂漠、黄土高原などを中心に発生し、発生からおよそ1日–8日かけて到達し、最も近い発生源である中国東北地方のものは最短半日で到達する[29]

韓国政府の推定によれば、黄砂の諸影響による同国での経済損失は、年間およそ3兆–5兆ウォンにも達するという[79]。また別の推定(Kang, 2004年)によれば、黄砂による医療福祉分野の被害額や黄砂への対策費用は、年間3,640億ウォンだとされている[5]

北朝鮮

北朝鮮での黄砂の実態は、同国に関する情報が対外的にほとんど発表されていないため、あまり詳細には分かっていない。ただ、人体への影響、動植物や農作物への影響、工場などへの影響が発生したり、発生の可能性が指摘されたりしていることが、近隣諸国のメディアによって報道されている[99]

日本

日本では、気象庁により、黄砂とは大陸性の土壌粒子が飛来し浮遊している現象と定義されており、視程が10 km未満を判断の目安としているが、1989年4月以降は 10 km以上でも明らかに黄砂と分かる場合には黄砂として記録される[43][100]。気象庁は2004年から黄砂に関する予報を開始した。黄砂の発生が予測される場合、都道府県単位で「黄砂に関する気象情報」を発表するほか、ホームページで黄砂の観測値や到達濃度予測を発表している[101]

2月から5月にかけてよく観測され、特に先の4月に多く、に最小となる。西日本日本海側で観測されることが多い。山脈を隔てて東側となる東日本太平洋側、内陸部では観測数は少ないが、時々観測される[5][5]

日本における黄砂濃度の最高値は、黄砂以外も含む浮遊粒子状物質 (SPM) の参考値ではあるが、2002年に1時間値 0.79 mg/m³ (790 µg/m³) という値が観測されている[102]。これは環境基準の約4倍である[103]

1967年以降、日本での黄砂観測日数は平均20日程度であるが、2000年から2002年にかけては50日前後と大幅に増加した。日本で黄砂観測日数が増える年は、中国東北部で低気圧が発達しやすく、西風が強い傾向にある。日本で観測される黄砂は大気が霞み、微量の砂が積もる程度で、大きな被害はほとんど報告されないが、軽微な物理的被害や健康被害は報告されている。気象観測における天気としては煙霧またはちり煙霧に分類される[104]

その他

地上からの観測による情報は無いが、衛星画像による観測の解析から、ロシア沿海州樺太なども黄砂の通過ルートとなっていると考えられている[22]

遠くで観測された例では、アメリカ合衆国ハワイ州[61]、アメリカ本土、カナダなどがある。

2001年4月上旬に発生した黄砂は、同月15日にソルトレイクシティ、18日にはカナダからアリゾナ州にかけてのロッキー山脈、19日には五大湖付近でそれぞれ観測され、20日にはカナダ沖大西洋上空に達した[105]

また、グリーンランドアルプス山脈でも、黄砂由来のものと見られる砂や土壌粒子が観測されたとの報告がある[39]

数値モデルの推定と実測データを統合して解析したデータから、タクラマカン砂漠で発生した黄砂の半数が対流圏上部まで達して長期移動ルートに乗り、一部は北半球を一周して13日後には再びタクラマカン砂漠上空まで移動した、という研究結果もある。黄砂が地球を一周してしまうほど長距離運搬されていることが示唆され、これまで考えられていたよりも広範囲の環境に(良悪含めての)影響を与えている可能性があることが分かった[106][107]

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