骨粗鬆症 ガイドライン

骨粗鬆症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 04:07 UTC 版)

ガイドライン

診療ガイドラインの国際標準の作成手順とされているGRADEを用いて作られたガイドラインは、NICEガイドラインとUSPSTFのみである。

骨粗鬆症の診療ガイドラインには、日本の骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会が作成した『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』の他に、イギリスのNICEガイドラインとSIGNガイドライン、アメリカ合衆国のICSI、NOF、USPSTFが有る。また、ステロイド骨粗鬆症では日本骨代謝学会が『ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン2014年改訂版』を作成しており、アメリカ合衆国には2010年に改訂された『米国リウマチ学会のステロイド骨粗鬆症の予防と治療の推奨[20]』を発表している。

骨粗鬆症のスクリーニング対象

日本の『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』に、骨粗鬆症のスクリーニング対象者の記載は無い。USPSTFでは65歳以上の女性をスクリーニング対象としている。慣習的に65歳以上の女性、65歳未満でステロイド系抗炎症薬の全身投与を行う予定を有する男女、転倒やふらつきのリスクを有する男女をスクリーニング対象とする場合が多い。スクリーニングでリスク評価をする項目は、骨密度の測定と骨折リスク評価ツールであるFRAXを用いる。その結果以下の4パターンでは薬物療法の適応と考えられるが、これらの基準は絶対的な物ではない。例えば、寝たきりで転倒する機会が乏しい場合、余命が限られているため、服薬が困難な場合は治療する意義は乏しくなる。

  • 骨粗鬆症性骨折の既往が有る。
  • 骨密度(DXA測定)がTスコアが2.5(YAM70%)未満である。
  • 骨密度(DXA測定)がTスコアが1.0-2.5でFRAXで10年以内の骨粗鬆症性骨折のリスクが15%以上である。
  • ステロイドホルモン薬の長期全身投与を行っている。または、行う予定が有る。

検査

骨密度測定

日本では性別ごとの若年成人平均値(young adult mean、YAM)を基準値として何%かで算出される。これに対して欧米では若年女性(20 - 29歳)の骨密度を基準とした標準偏差値であるTスコアを用いる。Tスコアの-2.5がYAM70%に相当する。なお同年齢との比較はZスコアで行われる。

DXA(dual-energy X-ray absorptiometry、躯幹骨2重X線吸収法)

DXAまたはDEXAと呼ばれる骨密度測定法は2種類の異なるX線を骨に照射して、骨と他の組織におけるX線の吸収率の差から骨密度を測定する方法である。DXAは正確に骨密度を測定できる方法としてWHOの基準に組み込まれており、2017年現在、骨粗鬆症の標準的な診断方法とされている。骨塩定量とも言う。

測定部位はJCS2015では腰椎(L1 - L4またはL2 - L4)と大腿骨近位部の両方を測定する事が推奨されている。

DXAの診断特性はTスコア-2.5以下を基準とした場合、椎体骨折の有無に対して腰椎のDXAは、感度71.2%で特異度97.2%であった。大腿骨近位部のDXAでは感度33.8%で特異度が97.2%であった。椎体骨折に関しては椎骨のDXAの方が望ましい。なお、椎体圧迫骨折が有ると見かけ上の骨密度が高くなるため、椎骨のDXAを用いる場合には、予め腰椎レントゲン写真撮影で圧迫骨折が無い事の確認が必要である。

日本骨代謝学会によるフローチャートによると、腰椎側面のX線撮影で病的骨折が認めなければ、骨塩定量を行なう事としている。若年成人平均値(YAM)を基準値として、70%未満であれば、どの部位であっても骨粗鬆症と診断する。測定部位は腰椎大腿骨橈骨、第二中手骨、踵骨いずれでも良いとされているが、最も望ましい部位は、腰椎とされている。YAM70%-80%の範囲では、骨粗鬆症ではなく、単に「骨量減少」とする。橈骨ではビスホスホネート(ビスフォスフォネート)の治療効果判定ができない。超音波を使用した骨密度定量は結果のばらつきが大きく、骨粗鬆症の診断に使用するのは適切ではないとして、適正な測定方法に含まれていない。高齢女性においては、二重エネルギーX線吸収法(DXA法)は骨折予測にあまり有用でないという報告も存在する[21]

MD法、DIP法

手の骨と、階段状に加工したアルミニウム板とを同時にX線撮影し、骨とアルミニウム板とのX線の透過度を比べる事によって骨密度を測定する。

QCT法、pQCT法

CTを用いて、骨を撮影する。

QUS法

超音波を用いて骨密度を測定する。X線による被曝の恐れが無い。

FRAX(Fracture Risk Assessment Tool)

FRAX は2008年にWHOから、10年以内の大腿骨近位部骨折と主要な骨粗鬆症性骨折(大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、臨床的椎骨骨折)のリスク評価するためのツールとして提唱された。FRAXによる骨折リスクの評価は、欧米・アジア・オーストラリアでの10コホート研究から検討された12項目の骨折危険因子から計算される。対象年齢は40 - 90歳成人で、危険因子は年齢、性別、体重、身長、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、ステロイドホルモン薬使用、関節リウマチ、続発性骨粗鬆症、1日3単位以上の酒の摂取、大腿骨近位部骨密度からなる。リスクとしては大腿骨近位部骨折の家族歴が最も高く、関節リウマチ、ステロイドホルモン薬の使用、骨粗鬆症性骨折の既往が続く。 JPOS(Japanese Population-Based Osteoporisis)では日本語版FRAXで計算された10年以内の骨折リスクと実際に10年間フォローアップした際の骨折率を比較した比較し、両者に大きな差は認められなかった。FRAXは日本の医療現場でも実用可能と考えられる。FRAXには大腿骨近位部の骨密度の項目があるが、この項目は使用しなくとも計算された骨折リスクに大きな影響は与えていない。そのため骨密度が測定できない診療所でも利用可能である。FRAXの問題点としては以下の7項目が指摘されている。まずは制作過程が明らかにされていないこと。入力できる骨密度は大腿骨近位部に限られているため、椎体骨折の評価としては不充分な可能性があること。骨折リスクの1つであるステロイドホルモン薬の使用量と使用期間が考慮されないこと。大腿骨近位部骨折の最大の原因である転倒が、危険因子に含まれていないこと。骨折歴では骨折数や部位が考慮されていないこと。プロトンポンプ阻害薬抗うつ薬抗凝固薬ループ利尿薬など、その他の骨折リスクを上げる薬剤の使用が考慮されていないこと。40 - 90歳成人を対象としているツールなのでそれ以外の年齢では利用できないことが挙げられる。

骨代謝マーカー

骨吸収マーカーであるDPDやNTX、TRACP-5bおよび、骨形成マーカーBAP、P1NPが知られている。


注釈

  1. ^ なお、骨を作ってゆく際に、骨が異常に厚く重くならないように、形の作り直しを行う作用をリモデリング(remodeling)と言う。これに対して、古くなった骨を新しく作り直す作業は、ターンオーバー(turn-over)と言う。
  2. ^ 無重力状態で生活すると、骨に荷重がかからないため、ヒトの骨密度が一気に低下する事は、良く知られている。
  3. ^ 閉経後の女性にエストロゲンを補充すると、破骨細胞の活動が抑制されるため、骨量の減少が抑制される事は判っている。しかしながら長期間にわたってエストロゲンの補充を行うと、今度は乳がんなどの発症リスクを、上昇させるなど、重大な有害作用が出現し得る。
  4. ^ 女性は、男性に比べて骨密度が低い傾向にあり、妊娠すると胎児へと母体のカルシウムを供給するために骨密度の低下が発生し易く、閉経するとエストロゲンが激減して破骨細胞の押さえが効かなくなるために骨吸収が盛んになるなど、骨粗鬆症に至り易い。ちなみに、これは女性に限らないものの、過度な減量も骨密度の低下を招き、骨粗鬆症に至る原因になる。肥満は様々な生活習慣病の原因だが、骨粗鬆症の場合は肥満ではなく低体重が発症リスクの1つである。したがって、肥満でないのであれば、過度な減量を行うべきではない。
  5. ^ エストロゲンと言えば女性ホルモンとして有名だが、男性の体内にも低濃度ながら存在する。ただ、男性には卵巣が無いため、類似の構造を持つテストステロンから変換して産生している。
  6. ^ ビタミンDは肝臓と腎臓の両方で処理されて初めて活性型に変換されるため、これらの臓器が正常でない場合には、効果を期待できない可能性もある。

出典

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