食物繊維 効果

食物繊維

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/23 13:39 UTC 版)

効果

熟した果物などに含まれている水溶性食物繊維は、食後の血糖値の急激な上昇の抑制[18][19]や、コレステロールの吸収を抑制する作用が報告されている。

野菜や穀類、豆類等に含まれている不溶性食物繊維は、大腸の蠕動運動を促す。

食物繊維の効用として、脂質異常症予防、便秘予防、肥満予防、糖尿病予防、脂質代謝を調節して動脈硬化の予防、大腸癌の予防、その他腸内細菌によるビタミンB群の合成、食品中の毒性物質の排除促進等が確認された。長寿地区住民の高齢者の食物繊維摂取量と同一人の腸内細菌叢を分析することによって、食物繊維の摂取量が多いと、働き盛りの青壮年なみに有用菌(ビフィズス菌等)が優勢で老人特有の有害菌(ウエルシュ菌等)は抑えこまれていることが実証された。さらにこの有用菌は腸内腐敗防止、免疫強化、腸内感染の防御、腸管運動の促進といった作用のあることがわかった。

消化管内の必須栄養素であるカルシウムと結合し腸管からの吸収を阻害する働きもある[注 1]

日本では、特定保健用食品(トクホ)の表示が認可されている[20]

2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)による「食事、栄養と生活習慣病の予防[21]」(Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases) では、肥満、2型糖尿病、心臓病のリスクを下げると報告し、野菜や果物や玄米のような全粒穀物からの摂取をすすめている。

リード (N.W. Read) とティムス (J.M. Timms) による「トンネルの向こうに光は見えるか」という1987年の論文[22]では「食物繊維によって重症の便秘が軽減することは少ない」と著されている。

2007年11月1日の世界がん研究基金アメリカがん研究協会によって7000以上の研究から分析したがん予防の報告書[23]では、結腸や直腸のがんの予防との関連がありうるとしている。

食物繊維摂取量との関連が検討された生活習慣病は多岐に及び、心筋梗塞の発症ならびに死亡、糖尿病の発症との間に負の関連を認めたとする研究報告が数多くある。また、循環器疾患の強い危険因子である血圧並びに血清(または血漿LDLコレステロールとの間でも負の関連が示唆されている。さらに、肥満との関連を示した疫学研究も多数存在する。一方、がん、特に、大腸(結腸並びに直腸)がんとの関連については、最近の疫学研究の結果は必ずしも一致していない[1]。ハーバード大学公衆衛生学部は、「食物繊維の摂取は、健康効果のある健全な食事としてもてはやされ、心臓病、糖尿病、憩室疾患、便秘を含む様々な疾患のリスクを減少させていた。多くの人が信じていたにもかかわらず、食物繊維には大腸がんのリスクの減少の効果はほとんど認められなかった。」と発表している[24]

肥満防止
水溶性食物繊維は胃で膨潤することで食塊を大きくし、粘性を上げ、胃内の滞留時間を延ばし満腹感を与え、不溶性食物繊維は食物の咀嚼回数を増加させ唾液や胃液の分泌を促し食塊を大きくすることで効果を現す。
18-20歳の女子学生を対象に食事の調査を行ったところ、食事のGI値(炭水化物が消化されて糖に変化する速さを相対的に表す数値)が高い群ほどボディマス指数(BMI)(肥満の程度を表す値)が高くなり、食物繊維の摂取が多い群ほどBMIの値が低い結果が得られた[25]
コレステロール上昇抑止
水溶性食物繊維が効果的、水溶性食物繊維は食物コレステロールの吸収抑制、コレステロールの異化・代謝・排泄の促進、胆汁酸の回腸からの再吸収阻害による代謝・排泄の促進などがされる。
血糖値上昇抑制
水溶性食物繊維は粘度の高い溶液をつくり、胃から小腸への食物の移行を緩やかにする。また、拡散阻害作用、吸水・膨潤作用、吸着作用などがあり、摂取した食物は胃で消化され、緩やかに移行し、吸着され、吸収速度が緩慢となる結果、グルコースの吸収を緩慢にして血糖値の上昇を抑える[26]
熟した果物などに含まれている水溶性食物繊維(難消化性デキストリン)は、食後の血糖値の急激な上昇の抑制[18][27]作用が報告されている。
ペクチンを食事とともに摂取すると、血糖上昇が抑制され、インスリンの分泌も抑制された[28][29]。ペクチンは、サトウダイコンヒマワリ、アマダイダイ(オレンジ)、グレープフルーツライムレモン又はリンゴなどの果物に多く含まれる。
グルコマンナンコンニャクに多く含まれる水溶性食物繊維であり、グルコマンナンとグルコースを同時に摂取した場合、グルコマンナンには血糖値上昇抑制効果があった。グルコマンナンの粘性によるグルコースの拡散抑制による可能性がある。セルロースプルランでは効果が認められなかった。なお、プルランは粘性が高いものの人体の消化酵素で消化されてしまう[29]
アルギン酸ナトリウムは、主に褐藻に含まれる多糖類の一種であり、水溶性食物繊維の粘性により血糖上昇抑制効果があり、また、二糖類分解酵素の阻害効果による血糖上昇抑制効果も認められたとする研究がある[30]。また、米飯に寒天を添加して摂取したところ米飯のみと比較して食後の最大血糖値が低下し、GI値も減少が認められたとする研究がある[31]
水溶性食物繊維のイヌリンについて、ジャンボリーキ(無臭ニンニクジャンボニンニク)の乾燥粉末(イヌリン60%含有)を糖尿病モデルラットに食餌とともに与えたところ食後血糖値の上昇が抑制された[32]。2型糖尿病の女性49人を対象にイヌリンを投与したところ、空腹時血糖値、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、マロンジアルデヒドの低下が認められ、スーパーオキシドディスムターゼの活性が高まるなど抗酸化能力の増加が認められた[33]
次の植物(キクイモダリアゴボウアザミタンポポヤムイモアーティチョーク(朝鮮薊)、チコリー、葛芋、タマネギニンニクリュウゼツラン(竜舌蘭))は水溶性食物繊維である高濃度のイヌリンを含む。
エンバクの水溶性食物繊維の大部分はβグルカンである。エンバク由来のβグルカンについて血中コレステロール値上昇抑制作用、血糖値上昇抑制作用、血圧低下作用、排便促進作用、免疫機能調節作用などが欧米を中心に多数報告されている[34]。エンバクはオートミールに利用されている。
大麦には豊富な水溶性食物繊維が含まれており、その大部分はβグルカンである。大麦の摂取による血中コレステロール値上昇抑制作用、血糖値上昇抑制作用、BMI値低減効果が報告されている[34]麦飯も参照のこと)。βグルカンは、植物、キノコ類に多く含まれている。
水溶性繊維であるグアーガムを食餌とともに摂取すると、血糖上昇が抑制され、インスリンの分泌も抑制された[28][29]
水素ガスの産生と抗酸化作用
難消化性である食物繊維や乳糖の摂取と腸内細菌により呼気やおならへのガスの産生と排出が高まる。産生されるガスは水素とメタンが多いが、メタンは個人差がありメタン産生菌を有していないとメタンは産生されない。おならと呼気の水素量の相関は0.44と高い[35]αグルコシダーゼ阻害剤である糖尿病治療薬のアカルボースを服用すると炭水化物の吸収が抑制され大腸の腸内細菌により水素などが発生するが、アカルボースの服用が心血管事故を抑制する可能性があり、この原因として高血糖の抑制に加えて、呼気中に水素ガスの増加が認められ、この増加した水素の抗酸化作用により心血管事故を抑制するメカニズムが想定されている[36]。水素による抗酸化作用が各種研究で報告されているところであり、また、腸内細菌は難消化性である食物繊維などから水素を産生している。コンカナバリンAを用いて肝炎を誘導したマウスの実験では、抗生物質を使用して腸内細菌にる水素発生を抑制させたマウスと比較して、通常の腸内細菌が発生させた水素はマウスの肝臓の炎症を抑制することが認められた[37]
排便促進
不溶性食物繊維は結腸や直腸で便容積を増大させ、排便を促進する。
ダイオキシン類の排出
ダイオキシン類を吸着して排泄する効果もあるため、体内からの排出速度を2 - 4倍に高めることで、ダイオキシン類の健康に対する影響が防げると示唆されている[38]

注釈

  1. ^ 健常人の平均として経口摂取した一日必要量600mgのうち、腸管から吸収される分が約350mg/日、腸管から上皮細胞とともに脱落する分が約200mg/日で、尿として約150mg/日、便として約450mg/日が排泄される。食物繊維以外にもポリフェノールも腸管からのカルシウム吸収を阻害する;「清水 誠」、「カルシウムの吸収・代謝と骨の健康」、『食と健康 食品の成分と機能』、放送大学テキスト、p.157、2006年。

出典

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