音質 音質の概要

音質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/26 02:08 UTC 版)

音質は、人間が実際に音を聞いて判断する主観評価や、音の何らかの性質を測定して決める客観評価で定量化することができる。 音の物理的特性だけではなく人間の聴覚システムの特性が音質に大きな影響を与えるため、主観評価が音質評価の基本になるが、多くの評価者や専用の評価設備が必要で時間・コスト共に掛かり環境や評価者による評価のばらつきがあるため、音の物理的特性から主観評価値を推定する様々な客観品質評価法が研究されている。

概要

音は以下の3つの側面があり[1]、音質はそれらの相互作用により決まる。

  • 物理信号としての側面
  • 聞く人間の聴覚心理学的な側面
  • 音声や音楽など音の集まりで表された表現という側面

音質に関係する物理量として、古典的には以下のものがよく用いられている。

音質はこれらの物理量だけでは決まらない。 例えば、AACMP3などのオーディオ圧縮方式で符号化された音は、聴感上全く感じないにもかかわらず、元の信号に対する物理的なSN比が非常に低いものがある[2]。これは圧縮の際に知覚の特性を利用し人間に聞こえにくいよう符号化の際の雑音や歪みを制御しているためである。 このようなシステムの音質は物理量のみでは評価できず、聴覚心理学的特性や対象となる音声や音楽の特性を反映した評価が必要になる。

主観評価と客観評価

音質を比較・管理するためには定量化する必要がある。定量化の方法として主観評価と客観評価がある。

音質を人間が実際に音を聞いて判断する方法が主観評価subjective assessment)で、人間が感じる品質を聴覚心理実験によって直接測定する。音質は本来主観的なものであり [3]、 人間が直接判断するという点で音質評価の基本となる評価法である [4][3]。 主観評価法として、複数の評価者が品質を「非常に良い」~「非常に悪い」の5段階で評価し平均を求める平均オピニオン評点mean opinion scoreMOS)がよく使われる。

主観評価は品質を直接測定できるが、試験環境の違いや評価に使用する音源(音声、音楽)、評価者によって評価がばらつく欠点がある。

試験環境での周囲騒音室内反響条件周波数レスポンス音圧レベルなどは同じ条件にする必要があり、例えば音圧レベルを大きくしただけでも人間の耳の特性(等ラウドネス曲線)のため低音が豊かに感じ[5]、全く同じ機器でも評価が上がることがある。

また、評価対象になる音の組み合わせや順序にも注意する必要があり、同じ音であっても評価試験で使用する他の音の質に悪いものが多ければ評価が高くなり、逆に他の音の質が全体的に高ければ評価は低くなる[4]。 音質の評価は使用する音の内容によっても影響を受け、評価に使用する音楽のジャンル(クラシックロックポップスなど)によって同じ環境でも評価が異なることはよく知られている[6]

主観評価を適切に行うためには、以下のことに留意する必要がある。

  • 多数の評価者を用意しばらつきの影響を減らす。(国際的な品質評価試験では通常24名以上の評価者が必要[4]
  • 必要に応じ、ばらつきを少なくするために評価者のトレーニングを行ったり、経験者や専門家(音響技術者など)が評価を行う。
  • 専用の評価設備を使い、周囲騒音室内反響条件周波数レスポンス音圧レベル、リスニングポジションなどを統一する。
  • 評価に使用する音源(音声、音楽)を統一する。

主観評価は、十分な評価者数と専用の評価設備を用意することで人間の聴覚特性を反映した信頼性の高い評価結果を得ることができるが、多大な労力・時間と経費が必要になるという問題点がある。

客観評価objective assessment)は、音のさまざまな物理的特徴から主観評価値を推定する手法で、入力となる信号から信号処理技術を用いて人間の聴感特性を考慮した特徴パラメータを抽出し、特定のアルゴリズムを用いて評価値を求める。客観評価は以下のような特徴を持つ[4]

  • 多くの評価者や専用の評価設備が不要になり、時間と経費が削減できる。
  • 同じアルゴリズムと音源(音声、音楽)を使用すれば必ず同じ評価値を得られ、また異なる場所での評価値との比較が可能。

どの物理的特徴を用いどのようなアルゴリズムで判断するかは、評価対象としたい品質(明瞭度、音の自然さ、聴感上の雑音や歪みなど)に依存するため、客観評価の方法は対象となるアプリケーションごとに異なる。

以下に主観評価と客観評価の特徴をまとめる。

主観評価 客観評価
総合性・汎用性 ×
コスト ×
再現性 ×
自動化 ×

品質評価法

電子機器や通信機器などで扱う音は、大きく分けて電話などでの音声と、放送オーディオ機器での音楽などのオーディオ信号とに分類できる。それぞれに対し国際標準化団体の国際電気通信連合ITU)が以下のような主観品質評価法と客観品質評価法を勧告しており、音質の評価のために使われている。

主観品質評価法(音声)
規格番号 名称
ITU-T P.800 Methods for subjective determination of transmission quality
ITU-T P.830 Subjective performance assessment of telephone-band and wideband digital codecs
主観品質評価法(オーディオ)
規格番号 名称
ITU-R BS.1284 General methods for the subjective assessment of sound quality
ITU-R BS.1116-1 Methods for the subjective assessment of small impairments in audio system including multichannel sound systems
ITU-R BS.1534
(MUSHRA)
Method for the subjective assessment of intermediate quality levels of coding systems (MUSHRA)
客観品質評価法(音声)
規格番号 名称
ITU-T P.563 Single-ended method for objective speech quality assessment in narrow-band telephony applications (no-reference algorithm)
ITU-T P.861
(PSQM)
Objective quality measurement of telephone-band (300-3400 Hz) speech codecs
ITU-T P.862
(PESQ)
Perceptual evaluation of speech quality (PESQ), an objective method for end-to-end speech quality assessment of narrow-band telephone networks and speech codecs
客観品質評価法(オーディオ)
規格番号 名称
ITU-R BS.1387-1
(PEAQ)
Method for objective measurements of perceived audio quality

  1. ^ N. Rémy. Sound quality : a definition for a sonic architecture. Proc. 12th International Congress on Sound and Vibration, Lisbon. July 2005.
  2. ^ Ted Painter, Andreas Spanias. Perceptual Coding of Digital Audio. Proceedings of the IEEE, pp.451-513. 2000.
  3. ^ a b Jacob Benesty, M. M. Sondhi, Yiteng Huang (ed). Springer Handbook of Speech Processing. Springer, 2007. ISBN 978-3540491255.
  4. ^ a b c d 主観評価と客観評価”. 2010年6月15日閲覧。
  5. ^ Glen Ballou (ed). Handbook for Sound Engineers, Second Edition: The New Audio Cyclopedia. Focal Press, 1991. ISBN 978-0240803319.
  6. ^ 石川 俊行, 降旗 建治, 柳沢 武三郎. 音楽再生時における物理的歪と音色の好みの関係. Technical report of IEICE. EA 102(398), pp.57-62, 2002. など参照のこと。
  7. ^ ITU-T 勧告 P.800: Methods for subjective determination of transmission quality
  8. ^ ITU-R 勧告 BS.1284: General methods for the subjective assessment of sound quality
  9. ^ ITU-R 勧告 BS.1116: Methods for the subjective assessment of small impairments in audio systems including multichannel sound systems
  10. ^ a b G. Stoll, F. Kozamernik. EBU listening tests on Internet audio codecs. EBU TECHNICAL REVIEW. June, 2000.
  11. ^ a b c ITU-R 勧告 BS.1387: Method for objective measurements of perceived audio quality (PEAQ)






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