雪 人工雪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 04:02 UTC 版)

人工雪

研究と技術

人工降雪機
円筒状の送風機の先端にある爪状のノズルから水を噴霧し、氷点下の大気中で凍らせて人工雪を作る。
人工降雪機によって作られる人工雪

1936年3月12日北海道帝国大学中谷宇吉郎が雪の結晶を世界で初めて人工的に作成した。中谷が作った人工雪発生器は、ウサギの毛を結晶の核として用い、器具の中で水蒸気を対流させるものであった。発生器を用いた研究で、中谷は、雪の結晶の形が気温と湿度によって変わることを明らかにした。中谷は「雪は天から送られた手紙」という言葉を残している。

気象レベルでの人工降雪は、人工降雨と原理的に変わらない。雲の中にヨウ化銀を撒布する方式が主に用いられる。

人工降雪機

雪が少ないスキー場では、人工降雪機を用いて人工雪を作るが、この人工雪は氷点下において大型の送風機の先端から加圧した水を噴霧し、噴霧した水が減圧による断熱冷却と周囲の大気による冷却により凍結することによって、雪のような微細な氷の粒を生み出すものである。よって、ある程度気温が低い環境、概ね-2 ℃以下でなければ人工雪を生成できない。人工降雪機によって作られた人工雪は霧状の水が凍ってできた単なる球状の氷の粒であり、自然現象による雪や中谷らの研究が生んだ人工雪のように、大気中で成長する核を持った結晶とは質的に異なるものである。

雪に関する文化

季語

季語としての(ゆき)は、の季語(晩冬の季語)である[41]。分類は天文[42]。季語「雪」は、の「」、の「」と並んで、冬のを代表する景物である[43][41]豪雪地帯では雪害が先に立つであろうが、日本文化の中心地であった京都江戸の人々にとっての雪は、珍しく、美しいものであり、雪見なども行われた[44]

  • 例句:下京しもぎやうつむ上の よるの雨 ─ 野沢凡兆猿蓑』(元禄4年〈1691年〉刊)[44]
  • 例句:たふとさや降らぬ日も ─ 松尾芭蕉 『芭蕉句選拾遺』(宝暦6年〈1756年〉刊)
  • 例句:我がと おもへばかろし 笠の ─ 榎本其角(1661-1707年)
  • 例句:寝ならぶや しなのゝ山も 夜の ─ 小林一茶 『旅日記』
  • 例句:いくたびも の深さを 尋ねけり ─ 正岡子規 『子規句集』
  • 例句:降る明治は遠くなりにけり ─ 中村草田男 『長子』(1936年〈昭和11年〉刊)
  • 例句:はげし 抱かれて息のつまりしこと ─ 橋本多佳子 [44]

「雪」を親季語とする子季語[* 11]は、以下に示すとおり、多様で数も極めて多い。

  • 六花(むつのはな) - 雪の別称。結晶六角形であることに由来する名称[42]
  • 雪の花(ゆきのはな) - 雪をに譬えていう語[42]
  • 雪の声(ゆきのこえ、歴史的仮名遣:ゆきのこゑ) - 雪がなどに当たる[42]樹木などに積もった雪が落ちる音[45]
  • 深雪(みゆき) - 深く積もった雪[42]
  • 雪明り/雪明かり(ゆきあかり) - 雪のために闇夜が薄明るく見えること[42]。積もった雪の反射で、夜も周囲が薄明るく見えること[46]
  • 粉雪(こなゆき) - 粉のようにサラサラしている雪[42]
  • 細雪(ささめゆき) - 細かい雪[46]。まばらに降る雪[46]
  • 小米雪(こごめゆき) - 小さく粉けた米のように細かい雪[42]
  • 餅雪(もちゆき) - のようなフワフワした感じの雪[46][45]。綿雪[46][45]
  • 衾雪(ふすまゆき) - 雪がものを厚く包んでいるさま[42]。一面に白く降り積もった雪[46][45]
  • 今朝の雪(けさのゆき) - 立冬当日の雪。
  • 根雪(ねゆき) - 解けないうちに雪がさらに降り積もって、雪解けの時期まで残る下積みの雪[46]
  • 積雪(せきせつ)
  • べと雪(べとゆき) - 粉雪に対する語[42]
  • 雪紐(ゆきひも) - や木の枝などに積った雪が融けて滑り出し、のように垂れ下がったもの[42]
  • 筒雪(つつゆき) - 電線などに凍りついてのようになった雪[42]
  • 冠雪(かむりゆき) - 門柱・電柱などに積って大きく松茸状になったもの[42]
  • 雪庇(せっぴ) - 山の急な傾斜面にできる雪の[42]
  • 水雪(みずゆき) - 水分をたくさん含んだ積雪[42]
  • 雪華(せっか) - 雪の異称[42]。雪の結晶、または、雪の降るのを花に譬えた語[46]
  • 雪片(せっぺん) - 雪の異称[42]。雪のひとひら[45]
  • しまり雪(しまりゆき) - 積雪のきめの細かい絞まったもの[42]
  • ざらめ雪(ざらめゆき) - 表面の雪がいったん融け、また凍ってざらめ状になったもの[42]
  • 湿雪(しっせつ) - 粉雪に対する語[42]
  • 雪月夜(ゆきずきよ[42]、ゆきづきよ[46]) - 雪のあるときの月夜[42]
  • 雪景色(ゆきげしき) - 雪の降っている景色[46]。雪が一面に降り積もった風景[46]
  • 暮雪(ぼせつ) - 夕暮れに降る雪[45]。夕暮れの雪景色[45]
  • 雪国(ゆきぐに) - 雪の多い地方[46]
  • 銀化※読みと意味に関する資料未確認
  • 雪空(ゆきぞら) - 雪模様の[42][46]。雪が降ってきそうなようすの空[46]
  • 白雪※読みと意味に関する資料未確認
  • 明の雪(あけのゆき) - 夜明けの雪[42]
  • 新雪(しんせつ) - 新しく降り積もった雪[46]

雪の異称

六花 / 六辺香 / 六出(りっか、ろっか) 六角形の雪の結晶の形から。「むつのはな」ともいう[47]。六弁の花の意[48]
天花(てんか) 雪の形容。「天華」とも書き、「てんげ、てんけ」で、天上界に咲く花を指す仏教用語
風花(かざはな、かざばな) 晴天時に風に乗って舞う雪の形容。
青女(せいじょ) 古代中国における、霜や雪を降らすとされている女神のこと。そこから転じて、雪の形容。
白魔(はくま) 主に、災害に相当する大雪を悪魔に見立てるときなどに用いられる言葉。

雪ぐ

読み方は変わるが、日本語の「雪」は名詞だけでなく動詞がある。「雪ぐ(すすぐ)」は祓い清めるという意味で使われ、「雪辱」(せつじょく)という熟語がある(「雪辱をすすぐ」との用法は、同じ意味の動詞を2度繰り返しているので誤用。「雪辱を果たす」「汚辱をすすぐ」が正しい)。なお、朝鮮語でも同じく「雪辱(설욕)」であるが、中国語では「雪耻」がこれに当たる。

雪にちなむ名

芸術

  • 主に六角形の雪の結晶を配した模様を雪華模様といい、日本では江戸後期に広く普及した。

文学

  • 江戸後期に鈴木牧之が著した『北越雪譜』には、雪に関する種々の随筆(一部挿絵あり)がおさめられている[49]

地球以外の雪

火星の南極では二酸化炭素の雪(ドライアイス)が降ることがわかっており、北極でも夏に数時間にわたって二酸化炭素の雪が猛烈な勢いで降っている可能性があるとされる[50]


注釈

  1. ^ 例えば、イヌクティトゥット語版ウィキペディアでは「雪」の項目は「ᐊᐳᑦ/aput」=「雪(一般的用法)」というタイトルが付けられている。
  2. ^ en:2007 Siberian orange snow
  3. ^ 大気中における雪片の融解現象に関する研究 気象研究所技術報告第8号、1984年3月。2章p.19-p.20に輪島、松本、日光各地のデータに基づく相対湿度と地上気温を軸にとった雨雪判別図が、同章p.15に回帰分析によって得られた近似式が掲載されている。上に挙げた二式はともに松本のもの。
  4. ^ 日本の気象庁の場合、観測時に1.0mm/h未満・視程約1km以上で強度0、同1.0mm/h以上3.0mm/h未満・0.2km以上1km未満で強度1、同3.0mm/h以上・0.2km未満で強度2[26]
  5. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  6. ^ METARTAF
  7. ^ サスツルギ(ロシア語: Заструга)、シュカブラ(ノルウェー語: skovla)、snow ripplesとも。
  8. ^ 山岳用語としての雪田は、高山の稜線付近に夏まで融けずに残る雪を意味し、稜線上の山小屋には貴重な水源となっている。
  9. ^ 雪祭りは、現代では北海道の札幌市および旭川市長野県飯山市新潟県十日町市などで開催される。日本以外の地域の場合、「冬祭り」「氷祭り」「雪祭り」はあまり区別されていない。
  10. ^ 経済産業省北海道経済産業局『平成26年度北海道電力需給実績(確報)』「【表-1】総需要電力量(用途別・月別) (PDF) 」「【表-3】総発電電力量(事業用+自家用)実績 (PDF) 」(2016年6月14日)によれば、北海道の総需要電力量は、2014年(平成26年)8月は2,906,419千 kWhであるのに対して、2015年(平成27年)1月は3,776,733千 kWhであり、夏より冬のほうが電力需要が多いことが分かる。また、2014年8月の北海道の水力発電電力量は641,890千 kWhであるのに対し、2015年1月は319,457千 kWhであり、夏より冬のほうが水力発電電力量が少ないことが分かる。
  11. ^ ある主要な季語について別表現と位置付けされる季語を、親子の関係になぞらえて、親季語に対する「子季語」という。「傍題」ともいうが、傍題は本来「季題」の対義語である。なお、子季語の季節と分類は親季語に準ずる。

出典

  1. ^ 雪の研究室 - 北海道雪たんけん館”. 北海道雪たんけん館. 2014年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月6日閲覧。
  2. ^ a b c 気象観測の手引き』、2007年改訂、pp.58-65「第12章 天気」
  3. ^ アスピリンスノーとは”. 北海道方言辞書. Weblio 辞書. 2017年7月11日閲覧。
  4. ^ 王子製紙 (1938年). “紙業提要”. Google Books. 2013年9月23日閲覧。 [要ページ番号]
  5. ^ a b c d e f g h 「予報用語 降水」、気象庁、2023年1月24日閲覧
  6. ^ アメリカ・ニューヨーク州で観測された雪結晶” (PDF). 菊地 勝弘. 2019年2月9日閲覧。
  7. ^ 菊地 勝弘, 亀田 貴雄, 樋口 敬二, 山下 晃「中緯度と極域での観測に基づいた新しい雪結晶の分類 -グローバル分類-」『雪氷』第74巻第3号、2012年5月、223-241頁。 
  8. ^ 小倉 2016, pp. 96–97.
  9. ^ 藤原滋水、青木輝夫「氷の色・雪の色」(PDF)『天気』第40巻第3号、日本気象学会、1993年3月、1-2頁、2012年12月3日閲覧 
  10. ^ 黄砂問題検討会中間報告書”. 大気環境・自動車対策 黄砂問題検討会報告書集. 環境省 (2004年9月). 2012年12月3日閲覧。 [要文献特定詳細情報]
  11. ^ Russia probes smelly orange snow”. BBC News (2007年2月2日). 2023年1月24日閲覧。
  12. ^ Lydia Smith (2018年3月25日). “Strange 'orange snow’ phenomenon reported across eastern Europe”. The Independent. 2023年1月24日閲覧。
  13. ^ a b 雨や雪について”. よくある質問集. 気象庁. 2016年2月23日閲覧。
  14. ^ 雪と氷の辞典、pp.68-69
  15. ^ a b Buffalo Lake Effect Page”. National Weather Service(アメリカ国立気象局 (2012年3月2日). 2012年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月3日閲覧。
  16. ^ 播磨屋敏生、松尾敬世、永田雅、藤吉康志「1992年度日本気象学会秋季大会スペシャル・セッション「雪」の報告」(PDF)『天気』第40巻第6号、日本気象学会、1993年6月、pp.417-420、2012年12月3日閲覧 
  17. ^ a b c 雪と氷の辞典、pp.65-68
  18. ^ a b c d e 雪と氷の辞典、pp.69-77
  19. ^ Jeff Haby. “Lake effect forecasting”. theweatherprediction.com. 2012年12月3日閲覧。
  20. ^ 第二部大気と海の科学 3-6 空気中の水蒸気 山賀進
  21. ^ 〜こんにちは!気象庁です!平成21年1月号〜[リンク切れ] 気象庁
  22. ^ 最新気象学のキホンがよ〜くわかる本[要ページ番号]
  23. ^ 『気象観測の手引き』、2007年改訂、pp.4-8「第2章 降水」
  24. ^ 気象観測ガイドブック』、気象庁、2002年12月、p.47
  25. ^ 国際式の天気記号と記入方式」、気象庁、2023年1月21日閲覧。
  26. ^ a b c 天気記号表”. 過去の気象データ検索 利用される方へ. 気象庁. 2023年1月24日閲覧。
  27. ^ 理科年表FAQ > 山内豊太郎「天気の種類はいくつあるのですか。その記号も教えてください。」、理科年表オフィシャルサイト(国立天文台、丸善出版)、2008年3月、2022年1月21日閲覧。
  28. ^ METAR報とTAF報の解説」、那覇航空測候所、2023年1月21日閲覧。
  29. ^ 「報道発表 地方気象台における目視観測通報を自動化します」、大阪管区気象台、2019年11月16日、2023年1月24日閲覧
  30. ^ a b 雪(初雪)の観測は誰がどのように行っているのですか?」、福岡管区気象台『はれるんマガジン』36号、2022年12月27日、2023年1月24日閲覧
  31. ^ 雪に関する予報と気象情報について」気象庁、気象等の情報に関する講習会、2012年12月7日、2023年1月24日閲覧
  32. ^ "雪食作用". 『日本大百科全書』、小学館. コトバンクより2023年1月24日閲覧
  33. ^ “(風のまにまに 南会津雑記:4)只見のブナ原生林 自然首都の誇り 岡村健/福島県”. 朝日新聞デジタル(asahi.com) (朝日新聞社). (2008年5月23日). http://www.asahi.com/shimbun/nie/tenkai/kankyo4d.html 2012年5月26日閲覧。 
  34. ^ "雪田植物群落". 『世界大百科事典』第2版、平凡社. コトバンクより2023年1月24日閲覧
  35. ^ 小野寺弘道、「樹木と環境 第1回 雪と樹木」、『樹木医学研究』15巻、2号、2011年 doi:10.18938/treeforesthealth.15.2_57
  36. ^ “(4)地域の暮らしと環境を活かした事例 新潟県安塚町 ~雪の活用と田舎体験~”. 平成15年度国土交通白書 (国土交通省総合政策局). (2004年7月). https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h15/hakusho/h16/html/F1012140.html 2019年2月6日閲覧。 
  37. ^ 『近畿農政局』の『農村振興』の『農業・農村の整備』の『管内国営事業(務)所のご案内』の『国営新湖北農業水利事業』の『湖北平野の自然』”. 2010年12月7日閲覧。
  38. ^ a b 越後上布 雪国で育まれた伝統の布”. 国際交流サービス協会. 2020年12月13日閲覧。
  39. ^ a b c 東北地方多雪・寒冷地設備設計要領”. 国土交通省東北地方整備局. 2017年9月9日閲覧。
  40. ^ "雪目". 『デジタル大辞泉』、小学館、『世界大百科事典』 第2版、平凡社. コトバンクより2023年1月24日閲覧
  41. ^ a b 「雪」(ゆき)晩冬”. 季語と歳時記-きごさい歳時記. 季語と歳時記の会 (2011年3月14日). 2018年2月22日閲覧。
  42. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 日外アソシエーツ『季語・季題辞典』
  43. ^ 大澤水牛 (2012年). “雪(ゆき)”. 水牛歳時記. NPO法人双牛舎. 2018年2月22日閲覧。
  44. ^ a b c 日本大百科全書:ニッポニカ』「季語」
  45. ^ a b c d e f g 大辞林
  46. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 大辞泉
  47. ^ 大辞林 第三版 2481頁。
  48. ^ 大辞林 第三版 2726頁。
  49. ^ 鈴木牧之 編『北越雪譜』〈岩波文庫〉1996年。  [要文献特定詳細情報]
  50. ^ 火星では夜に激しい雪が降る、研究成果”. ナショナル ジオグラフィック 日本語版. 2020年12月13日閲覧。






雪と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「雪」の関連用語

1
98% |||||

2
98% |||||

3
98% |||||

4
98% |||||

5
98% |||||

6
98% |||||

7
98% |||||

8
98% |||||

9
98% |||||

10
98% |||||

検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



雪のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの雪 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS