野菜 歴史

野菜

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/18 21:57 UTC 版)

歴史

現代において世界で栽培される野菜の多くは、中国インドから東南アジア中央アジア近東地中海岸、アフリカサヘル地帯及びエチオピア高原)、中央アメリカ、南米のアンデス山脈の8地域を起源としている。これらの地域は農耕文明の発祥地と重なっている。また、もともとの生息域が広く、栽培化地域が複数にまたがっている野菜も多い。中国においてはハクサイ、ネギ、ゴボウが、インドから東南アジアにおいてはキュウリやナス、サトイモ、中央アジアではダイコン、ニンジン、タマネギ、ホウレンソウ、ソラマメなどが栽培化されている。近東地域ではレタスやニンジンやタマネギが栽培化されている。地中海岸は野菜の一大起源地であり、キャベツやエンドウマメ、アスパラガスやセロリが栽培化されている。アフリカのサヘルからエチオピア高原にかけては、ササゲオクラなどが栽培化された。中央アメリカにおいてはインゲンマメやサツマイモ、カボチャが栽培化された。南アメリカ・アンデスにおいては、トマトとジャガイモ、それにトウガラシやピーマン、カボチャの栽培化が行われた[57]。こうした中心地のほか、世界各地で野草採集から発展した独自の野菜が栽培されており、各地独特の食文化の重要な要素となっている。

日本における歴史

日本においては、フキウドミツバなどのように日本原産の野菜も存在するが、ほとんどの野菜は日本列島の外で栽培化されたものが持ち込まれたものである。

その移入の歴史は古く、すでに縄文時代の遺跡である福井県鳥浜貝塚においては、ゴボウ、カブ、アブラナ、リョクトウエゴマシソなどの種子が出土し、栽培されていたと考えられている。この発見は弥生時代の稲作伝来以前からすでに農耕が開始されていたこと、および縄文時代にすでにはるかな遠隔地で栽培化されていた野菜(カブやアブラナは地中海沿岸、エゴマやシソやリョクトウはインド原産)が伝来しており、大陸をはじめとする広範囲な移動がすでに行われていたことを示した[58]

このほか、1世紀ごろまでにはゴマ、サトイモ、ニンニク、ラッキョウ、ヤマイモ、トウガンなどがすでに伝来しており、古墳時代にはナス、キュウリ、ササゲ、ネギが伝来した[59]

古事記日本書紀にはカブやニラの、万葉集では水葱(なぎ、現代のミズアオイコナギ)やジュンサイヒシセリ、瓜(マクワウリ)などの記述が存在する。このほか、現代ではあまり野菜としては使用されない水葱や羊蹄(しのね、現代のギシギシ)なども使用されていた[60]

その後も日本に伝来した野菜があり、レタス8世紀には「萵苣」(わきょ/ちしゃ)という名前で日本に伝来している(玉状のものは明治になってからの伝来)[61]

江戸時代に入り、平和が続き経済が成長すると野菜の需要も高まり、特に一大消費地である江戸の周辺では大量の野菜が栽培され都市へ運び込まれるようになった。小松菜や練馬大根などのように、地名をつけブランド化する野菜が現れ始めたのもこのころのことである[62]

こうした傾向は江戸に限ったことではなく、京野菜加賀野菜をはじめ、各地で特色ある野菜が開発され定着したのも江戸時代のことであった。明治時代に入ると文明開化の潮流とともにタマネギやトマト、キャベツをはじめとする西洋野菜が多く流入し、日本の野菜はより多様なものとなった。

スーパーマーケットでは外観を重視し、変形が見られるものは「規格外」として取り扱わず、「訳あり」などとして格安で売られるか、採算が取れないと農家が判断し廃棄されることもあった。消費者の意識が過度に美観を重視する姿勢から変化していることもあり、外観を規格に合わせるための栽培法を止める試みもある[63]


  1. ^ ニンジンとカブの合算
  2. ^ a b c d 乾物及び生野菜の合算

注釈

  1. ^ a b c d 葉もの野菜にグループ分けされることもある[18]

注釈

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  2. ^ バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアン編『世界の食用植物文化図鑑』(柊風舎) 140ページ
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  9. ^ 農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』農山漁村文化協会 p.1542 2006年
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  11. ^ a b c 斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.2 1991年
  12. ^ 野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1参照
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