逆浸透膜
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/07 04:05 UTC 版)
用途
2007年現在、世界の逆浸透膜の製造面積ベースでは海水淡水化への利用が圧倒的に多いとみられる。が、生産国が日米欧以外にも韓国、中国、インド、ブラジルなどに拡大してきており、これらの国の生産統計が明らかでないために実態は不明である。
一方、浄水処理(水道水の製造)には日本国内での約200件をはじめとして全世界で幅広く使われており、また純水や超純水の製造、下水の再利用、果汁や乳製品・化学薬品の濃縮などにとっても逆浸透膜は欠かせないものになっている。
更に、水道水の水質が必ずしも良好でないアメリカで、1960年代から家庭用浄水器にも使われ始め、これが1997年頃から日本にも輸入されるようになってきた。
注意
塩素を除去する全ての浄水器について同様の事だが逆浸透膜は、透過後の水に細菌やカビなどの繁殖が起こらないことを必ずしも保証できない。これは水道水の次亜塩素酸など、元の水に含まれる殺菌成分が全て除去されてしまうためである。よって逆浸透膜の後段には、細菌を除去するためのフィルターや紫外線殺菌灯などを置いたり、次亜塩素酸やオゾン、銀イオン、銅イオンといった殺菌成分を再添加する等の方法もある。逆浸透膜浄水器は多くの通水経路が密閉式となるため、常にフィルターが外気に触れている一般的な浄水器よりバクテリア侵入の可能性は低くなるが、バクテリアの中には時間をかけて自身を変形させてパッキンを回り込んでくるものもあり、バクテリアを100%排除した状況を作るのは不可能である。また人間はバクテリアと共生しており、有害無害は別としてバクテリアは至る所に存在している。浄水後に次亜塩素酸などの再添加は塩素臭除去も目的とする家庭用浄水器の使用法としては本末転倒であり、浄水器についてはその使用頻度を高めることによりバクテリアなどの濃度を希釈し、低いレベルに保つことが現実的な処方箋となる。
また、最近の逆浸透膜の材質は多くが芳香族ポリアミド(後述)であり、水道水中の夾雑物による膜表面の目詰まり、次亜塩素酸などの塩素化合物により逆浸透膜を構成するポリアミド樹脂の溶解などにより逆浸透膜の寿命を著しく縮めてしまう。このため、逆浸透膜の前段には、そうした不純物をあらかじめ除去する活性炭やフィルターを設けるのが一般的である。
なお、そうした付帯設備は逆浸透膜自体も含めて、必ず定期的な交換や補充、あるいは洗浄といったメンテナンスを行わないと機能が低下するため、注意が必要である。
近年、一部のスーパーなどでは来店客へのサービスの一環として、大型の逆浸透膜浄水装置を設置して無償あるいは有償で水の提供を行っている。消毒用塩素等の存在しない水は全て、外部から侵入するバクテリアに対して殺菌する力を持たないので持ち帰った水は速やかに消費すること、またボトルの衛生管理にも配慮する必要がある。
種類
膜の構造は高い圧力に耐えるよう改良が進められ、現在では以下のいずれかとなっている。
- 中空糸膜(ちゅうくうしまく)
- 直径3~7ミリメートル程度の太さで中が空胴の糸状に成型し、通常は糸の外側から内側へろ過する(逆のタイプもある)。
- スパイラル膜
- 1枚のろ過膜を、強度を保つための網など(サポートと呼ぶ)と重ね合わせ、2つ折りにして袋状に接着した後、縦一直線に切れ目を入れた集水管で袋の口を挟み、これを芯にしてロールケーキ状に巻く。ロールケーキの断面方向から加圧し、反対側の断面から濃縮水を、集水管から透過水を得る。
- チューブラー膜
- 中空円筒状で中空糸膜より太いもの。直径は最大数センチメートルのものまである。濃縮水の流速を高くでき不純物の膜表面への付着を防ぎやすい反面、これが仇ともなってエネルギーコストが高くなる上、設置面積が大きくなる。
また、膜の材質は主に以下の4種類が使われる。
- 酢酸セルロース
- 芳香族ポリアミド
- ポリビニルアルコール
- 最近では単独の素材として使われることは少なく、専ら芳香族ポリアミドを不純物の付着に強くするための複合材として用いられる。
- ポリスルホン
- 比較的堅牢だが塩類の阻止率が低いため、果汁や乳製品・化学薬品などの濃縮処理、および家庭用浄水器に使われたり、最近では孔を大きくして芳香族ポリアミドの膜サポート(重ね合わせて強度を増すための素材)や複合材としても多用されている。
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