貝殻 貝殻の概要

貝殻

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/03/25 05:55 UTC 版)

貝殻

概要

基本的には殻本体炭酸カルシウムCaCO3の結晶とコンキオリンと呼ばれるタンパク質を主とする物質の複合体)と、キチン質の殻皮とから成る。貝殻はトロコフォア幼生の時に殻腺から分泌形成され、成長とともに新たな部分が外套膜上皮から分泌・付加されながら大きくなっていく。このため、侵食などで失われない限り古い部分がそのまま残り、一時的な成長停止や捕食者の襲撃痕など、その個体の過去が記録されやすい特異な器官でもある。また、貝殻を持つ軟体動物の個々の種の生活様式の一部も、貝殻の形態に如実に示されていることが多い。動物本体を「軟体」と呼ぶのに対し、貝殻を「殻体」と呼ぶことがある。

ヒザラガイ類では背面に8個の殻をもち、巻貝類、ツノガイ類、頭足類では原則として1個、二枚貝ではその名のとおり背面で分かれる2枚の殻をもつ。よく発達したものでは内部に動物体全体を引っ込めて全身を鎧のように防御することができる。また頭足類では内部に体液が排出された空室が発達して浮き袋の役割を果たし、中性浮力を実現して遊泳を助けており、イカ類ではこれが体内に埋もれている。しかし進化途上で縮小し、体の一部しか覆わなくなったものや、ナメクジウミウシタコなどのように二次的に貝殻を失った軟体動物も多い。中にはカイダコ類のようにメスが産卵用の殻を形成するものもあるが、これは特定の膜状に広がった1対の触手(いわゆる足)の上皮から分泌されるもので、貝類が外套膜から分泌する貝殻とは相同ではないと考えられている。またサザエなどのフタも貝殻に似るが、これは足の背面の上皮から分泌されるもので本来の貝殻とは別物であり、二枚貝の片方に相当すると考えるのは誤りである。

節足動物門甲殻綱フジツボカメノテエボシガイなども、それぞれ形が違うが貝殻のような殻をもつ。これは頭胸部の背甲に由来する器官から分泌される。この器官は、軟体動物と同様に外套と呼ばれるが、同一起源ではなく、相似器官である。 また、腕足類として化石種も多く知られる腕足動物門も二枚貝様の殻を持つが、その鉱物層はリン酸カルシウムの結晶から成る他、軟体動物とは異なり背腹を覆う構造を持つ。

構造

いろいろな二枚貝の貝殻
オオミヤシロガイ(Tonna galea)の殻のX線写真

鉱物

殻本体は炭酸カルシウムの結晶とコンキオリンと総称されるタンパク質を主とする間基質からなる。その構造は、多数の結晶が間基質によって繋ぎ合わされたもので、結晶をレンガに、間基質をレンガを接着するモルタルにたとえると構造が理解しやすい。炭酸カルシウムの結晶は結晶構造によって、三方晶系の方解石(カルサイト:calcite)、斜方晶系のアラレ石(アラゴナイト:aragonite)、六方晶系のファーテル石(バテライト:vaterite)の3種に分けられるが、ファーテル石は自然界には少なく、貝殻に利用されるのも方解石アラレ石の2種のみである。

殻体構造

貝殻を形成する結晶の並び方にもいろいろな種類があり、「~構造」という名前で区別されている。このうち方解石からなるものには海産種の稜柱構造(角柱構造)や葉状構造などがあり、アラレ石からなるものには淡水種の稜柱構造や真珠構造、交差板構造、均質構造などがある。稜柱構造は多角形の柱状の結晶が殻表面に対して垂直に並ぶ構造、葉状構造は水平方向に重なる構造、交差板構造は斜めに傾いた結晶の列があり、隣の列は逆方向に傾斜し、それらが交互に連続する強度のある構造である[1] 。また真珠構造は多角形板状のアラレ石結晶が何層にも重なった、レンガ積みのような構造となっている。

これらの構造は貝の種類や貝殻の部位(外面-内面や中心-辺縁など)によって使い分けられており、一個の殻に複数種が見られるのが普通である。また同じ構造でも貝の種類が違えばコンキオリンの粗密などにも違いがあり、強度その他も異なる。これらの構造は殻の破断面から観察することができる。それぞれの構造はある程度の層を成しているのが一般的で、それぞれの層はその構造から、稜柱層(角柱層)や真珠層などと呼ばれる。

このように貝殻は結晶構造や間基質が複雑に関係しあって形成されるため、殻質は系統によって大きく異なることもある。非常に硬くて丈夫な殻もあれば、間基質で囲まれた稜柱層(角柱層)のみからなり、薄質で柔軟なものもある。酸などで貝殻の炭酸カルシウムを脱灰すると、殻皮と間基質のみが溶解せずに残るが、基質の割合が高い殻では貝殻の原形がほぼそのまま残ることがあり、逆にアルカリを用いた場合には、基質が溶けて殻が部分的にばらばらになってしまうこともある。

殻皮

殻皮は殻の外側を覆うキチン質の薄膜で、主として結晶形成の際の支持と環境水中への溶解防止の役割をもつ。特に殻の縁辺部での拡大成長における殻皮の機能は重要で、殻皮の縁が内側に折れ込み、これと外套膜の縁辺部がかみ合って環境水から隔離された微細な小室を形成し、イオン環境がコントロールされたこの中で、結晶成長が起こる。

しかし中にはそれに止まらず、殻皮が様々に変化して毛状や襞状になって殻本体の概観を変化させているものもある。このような種類では、殻皮のあるものと殻皮を除去したものとの外見が大きく異なることがあり、たとえばカコボラは多肉質な質感の毛むくじゃらな殻をもつが、殻皮を除くと太い畝のある殻が現れ、イモガイ科では厚い殻皮を除くと鮮やかな色彩が現れるものがある。またタニシカワニナなど淡水の貝類には殻本体が白色や淡色のものも多いが、丈夫な殻皮とその表面に付着した酸化物とで真っ黒に見える。

殻皮は時間ととも剥離したり脱落することも多く、殻皮が失われた貝殻は(特に環境水中にカルシウムイオンの乏しい淡水の貝類で著しい現象だが)表面から溶解侵食するが、通常は内側の外套膜から常に新たな炭酸カルシウム層が付加されるため、軟体部の内臓嚢が露出したり、殻自体が消えてなくなることはない。

タカラガイ科・マクラガイ科・コゴメガイ科などは殻皮がない。成長の途中では薄い殻皮を持っているはずだがすぐに失われ、代わって滑層が形成され、光沢を持つ表面になる。

有機質層

一部の貝類は、貝殻の内部に有機質の層を持つ(ミクロなコンキオリンと異なり肉眼で視認できるマクロ構造である)。イシガイ科・カワシンジュガイ科など淡水・汽水生の二枚貝に多いが、クチベニガイ科など海生種にも見られる。

彫刻

貝殻表面の凹凸構造を彫刻と呼ぶ。線状の彫刻を肋(ろく)と呼ばれる。

二枚貝の肋は、殻縁に平行な輪肋(共心円肋)と、殻頂から放射状に伸びる放射肋が代表的である。これらが共に形成され格子状となることも多い。このほか、斜めの斜肋、放射肋が分岐する分岐肋、放射肋に似るが殻縁に常に直角の直交肋などがある。

巻貝の肋には、螺旋に沿った螺肋と、螺旋に垂直で貝殻全体に対し縦に伸びる縦肋がある。二枚貝の輪肋・放射肋と同様に共に形成され格子状となることも多い。

多くの貝に棘がある。棘には、捕食者に対する防御と、殻の向きを安定させるという役割がある。

棘は、成長途中に殻口縁の一部が急激に伸張してから再び閉じることで形成される。

螺旋

貝殻は原則として、それまでの貝殻に付加して成長するため、形を保ったまま(相似なまま)成長できる形は限られる。多くの貝殻は対数螺旋を取る。

典型的な対数螺旋は巻貝で見られるが、掘足類の殻も巻きのゆるい螺旋である。単板類の殻は、丈の短い螺旋である。二枚貝は、そのような螺旋が2枚合わさっている。

しかし螺旋でない貝殻もある。

  • ウキヅノ、ウキツボ、絶滅したチョッカクガイなどは、まっすぐな円錐状である。ただしこれは、掘足類のようなゆるい螺旋と大きな違いはない。
  • 絶滅した異常巻きアンモナイトは、普通の貝殻が1種類しかとらない巻きのパラメータが規則的に変化し、複雑な形を取る。
  • 翼形類カキの仲間)などの固着性の貝は、付着対象の凹凸に沿って成長するため、種として定まった形を持ない不定形である。

また、それ以上成長する必要のない成長の最終段階で、螺旋から外れた成長をする貝もある。多くはタカラガイのように、外敵に備えるために殻口を狭める。

再吸収

貝殻は基本的に付加でのみ成長するが、主に巻貝で、一部が再吸収されることがある。

  • 巻貝の棘は、殻の成長が一周してその上に新たな殻が形成されると、再吸収される。
  • ニシキウズガイ上科やアッキガイ科は、内部になった殻の表面の彫刻を再吸収する。
  • イシダタミ属やアマオブネガイ属は、殻口に歯状突起があるが、常に前方が成長しながら後方が再吸収されている。ただし、成長の最終段階にのみ歯状突起を形成する貝もいる。
  • 殻の内部の内壁には外壁ほどの厚みは必要ないので、イモガイ科やマクラガイ科では再吸収して薄くする。アマオブネガイ科やヤマキサゴ科では内部が完全に再吸収され、貝殻の中はひとつながりの大部屋になっており、動物体(軟体部)も螺旋状ではない。
  • 背の高い貝には殻頂部を脱落させるものがいるが、この脱落は直接・間接に再吸収によって引き起こされている。



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