護衛艦 艦内の編制

護衛艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/07 09:42 UTC 版)

艦内の編制

自衛艦では、職能に応じたものと、内務管理のためのものとで、2つの見方からの編成方式をとっている[35]

職能管理

護衛艦では、職能に応じた分類として、7つの科が編成されている[35]

砲雷科
艦砲ミサイル魚雷機関砲の他、火器管制レーダーソナー、探照灯、錨、短艇、クレーンの操作も担当する。
科の長は砲雷長であり[36]、またその所掌業務の一部を分掌するため砲術長、水雷長および立入検査長が配される[37]。その他の幹部自衛官として、砲術長の下に砲術士・電整士、水雷長の下に水雷士、立入検査長の下に立入検査士、また運用士も配される[36]。海曹士としては、射撃員魚雷員水測員および運用員が配される[38]
船務科
情報、電測、通信、航空管制(全通飛行甲板DDHを除く航空機が発着艦可能な護衛艦に限る)及び船体消磁に関することを担当する[36]
科の長は船務長であり、またその他の幹部自衛官として船務士や通信士、電整士が配される[36]。また海曹士としては、電測員通信員電子整備員が配される[39]
最初期には「情報科」と称されていたが、1954年頃に「船務科」と改称されたという経緯があり、また移行期には「戦務科」と称されることもあった[40]
航海科
航行、信号、見張及び操舵、また気象・海象に関することを担当する[36]
科の長は航海長であり[36]、またその所掌業務の一部を分掌するため気象長が配される[37]。海曹士としては航海員気象海洋員が配される[38]
機関科
エンジンや発電機・補機、空調機器の運転・整備、燃料、真水、空調の管理を担当する。また、火災や浸水に対して、ダメージコントロールといわれる応急作業を担う。
科の長は機関長であり[36]、またその所掌業務の一部を分掌するため応急長が配される[41]。その他の幹部自衛官として機関士が配されるほか、場合によって応急長の下に応急士も配される[36]。海曹士としては、蒸気員、ガスタービン員、ディーゼル員電気員応急工作員艦上救難員が配される[42]
補給科
経理、補給、庶務、給食、艦内の衛生管理や乗組員の健康管理や診療、衛生機材の整備などを担当する。
科の長は補給長とされ、またひゅうが型・いずも型ではその他の幹部自衛官として補給士も配される[36]。海曹士としては補給員経理員給養員が配される[42]
衛生科
科の長は衛生長とされ[36]、またその他の幹部自衛官として衛生士が配されることとされているが、これらの幹部隊員(衛生担当)の配員がない場合は補給長が兼務することになっている[43]。海曹士としては衛生員が配される[42]
飛行科
艦載機の操縦、発着艦指揮、運用、整備、およびそれに係る補給を担当する。航空機非搭載艦には存在しない。
科の長は飛行長であり、またその所掌業務の一部を分掌するために整備長、艦上救難長(ひゅうが型・いずも型の場合)が配される[36]。その他の幹部自衛官として飛行士および航空管制士(ひゅうが型・いずも型の場合)が配されるほか、整備長の下に整備士、艦上救難長の下に艦上救難士が配される[36]。海曹士としては、航空機体整備員航空発動機整備員航空電機計器整備員航空電子整備員航空武器整備員、発着艦員、航空管制員(ひゅうが型・いずも型の場合)が配置されている[44]

内務管理

分隊

自衛艦は自己完結型で長期の行動もすることから、内務面の編成に意を用いている。これが分隊編成で、護衛艦の場合、艦長・副長英語版の下に5つの分隊がある。各分隊は下記のようにおおむね科と連動しているが、分隊長は必ずしも科長がある必要はない[45]。たとえば砲雷長が副長である場合、第1分隊では次席幹部の砲術長か水雷長が分隊長となる。同様に、例えば機関長が副長ではなくとも先任士官(副長の次の幹部)である場合、第3分隊ではやはり次席の応急長が分隊長となることが多い[35]。また分隊の先任海曹は、人事や昇任などで直接に分隊員の面倒をみる[45]

  • 第1分隊 - 砲雷科
  • 第2分隊 - 航海科・船務科
  • 第3分隊 - 機関科
  • 第4分隊 - 補給科・衛生科
  • 第5分隊 - 飛行科

警衛と甲板

艦内には、分隊のほかに、副長を頂点とする内務管理の系統が存在する[35]

警衛
乗員の規律の管理を行うための系統で、各分隊で先任の海曹が「分隊警衛海曹」となる。そしてこれらの分隊警衛海曹を統括するのが先任伍長である[35]。またその指導監督にあたるのが「警衛士官」である[46]
甲板
日課の施行や艦内の整備、外容の整斉など、艦の威容を保つために日常行われる諸作業の系統で、各分隊で中堅どころの海曹が当番制で「分隊甲板海曹」となる。これを統括する「甲板海曹」は「親甲板」とも俗称され、掌帆長(運用員長)が兼任する[35]。これらを指揮する「甲板士官」としては、最も若い幹部が指定されて、副長の下で「総員起こし」から「巡検」まで、一日中艦内をくまなく見て回ることになる[47]

この先任伍長や掌帆長、分隊先任海曹などは先任海曹室(CPO)を構成し、艦の内務における重要な地位を占めている[45]

艦内の部署

大別して戦闘部署、緊急部署、作業部署の3部署がある[45]

戦闘部署
  • 合戦準備部署
  • 戦闘部署
  • 艦内哨戒部署
  • 対潜戦闘部署
  • 対空戦闘部署
  • 対水上戦闘部署
  • 掃海部署
  • NBC部署
  • 臨検部署
  • 立入検査隊部署
緊急部署
  • 防火部署
  • 防水部署
  • 応急操舵部署
  • 溺者救助部署
  • 総員離艦部署
  • 海上救難部署
  • 航空救難部署
  • 航空機緊急着艦部署
作業部署
  • 出入港部署
  • 出入渠部署
  • 艦内閉鎖部署[注 3]
  • 航海保安部署
  • 荒天準備部署
  • 霧中航行部署
  • 灯火管制部署
  • 非常配食部署
  • 弾火薬等搭載部署
  • 艦内公開部署
  • 流出油防除部署
  • 引き船引かれ船部署
  • 臨戦準備部署
  • 洋上移送部署
  • 洋上給油部署
  • 空中給油部署
  • 航空機発着艦部署
  • 海難救助隊派遣部署
  • 飛行救難隊派遣部署
  • 派遣防火部署
  • 生存者救助部署

艦内生活


注釈

  1. ^ KはHunter-Killer(HUK)に由来する。なお当初は、アメリカ海軍のカーペンター級駆逐艦に倣った「DDE」という記号が用いられていた[11]
  2. ^ 民間の文献では「大型汎用護衛艦」とも称された[15]
  3. ^ 艦内の防水扉等の閉鎖は、一部閉鎖の警戒閉鎖と、完全閉鎖の非常閉鎖がある
  4. ^ 写真は幹部居室。曹士の居室には固有の机などはなく、3段ベッドの艦も多い。
  5. ^ 自衛隊公式SNS等で「ロービジュアル」との記載があるが、これを訳せば「低い視覚」「低画質」などとなり文法的におかしく、正しい軍事用語としては「ロービジビリティ」(訳:低視認性)が存在し、各種文献にも「ロービジュアル」の記載がないことから、誤植と判断する。

出典

  1. ^ 海上幕僚長 (30 March 2020). 海上自衛隊の部隊、機関等における英語の呼称について (PDF) (Report). p. 15.
  2. ^ 護衛艦』 - コトバンク
  3. ^ Wertheim 2013, pp. 360–369.
  4. ^ Saunders 2009, pp. 417–427.
  5. ^ 防衛庁長官 江崎真澄 (24 September 1960). "別表第1". 海上自衛隊の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令 (PDF) (Report).
  6. ^ 海上幕僚監部 1980, ch.2 §1 概説.
  7. ^ a b c d e f 高須 1984.
  8. ^ 香田 2015, p. 36.
  9. ^ a b c 海上幕僚監部 1980, ch.4 §8 ミサイル装備艦の建造に着手/1次防艦の建造.
  10. ^ a b 海上幕僚監部 1980, ch.2 §9 艦艇建造のれい明期/国産艦の建造.
  11. ^ a b c d 牧野 1987, pp. 299–328.
  12. ^ a b c 海上幕僚監部 1980, ch.3 §10 長船首楼(ろう)艦の誕生/30年代初期国産艦の建造.
  13. ^ a b 海上幕僚監部 1980, ch.5 §10 多用途護衛艦の登場/2次防艦の建造.
  14. ^ a b c d e 海上幕僚監部 1980, ch.6 §13 翼を備える護衛艦/3次防艦の建造.
  15. ^ 丸スペシャル 海上自衛隊艦艇シリーズ 護衛艦たかつき型★No.57/1981.11
  16. ^ a b 海上幕僚監部 1980, ch.7 §12 国産艦の世代交代始まる/4次防艦の建造.
  17. ^ a b 長田 1995.
  18. ^ a b c d e f 海上幕僚監部 2003, ch.2 §7 システム化進む国産艦/ポスト4次防艦の建造.
  19. ^ 香田 2015, pp. 188–207.
  20. ^ 香田 2015, pp. 224–231.
  21. ^ 海上幕僚監部 2003, ch.2 §12 新たな体制への移行/08中防計画艦.
  22. ^ 香田 2018.
  23. ^ 香田 2015, pp. 67–68.
  24. ^ 香田 2015, pp. 118–123.
  25. ^ 香田 2015, pp. 167–169.
  26. ^ 山崎 2017.
  27. ^ 防衛庁技術研究本部 1962, p. 102.
  28. ^ 香田 2015, pp. 210–213.
  29. ^ a b c 海上幕僚監部 2003, ch.5 §10 待望の艦隊防空能力の向上なる/61中防計画艦の建造.
  30. ^ a b 山崎 2014.
  31. ^ a b c d 池田 2019.
  32. ^ 防衛装備庁取得プログラムの分析及び評価の概要(新艦艇) (PDF)
  33. ^ “艦種記号「FFM」新設 多機能化の30護衛艦に適用”. 海上自衛新聞 (第2610号): p. 1. (2018年4月6日) 
  34. ^ 海上幕僚監部 1980, ch.6 §6 態勢を整える地方隊/地方隊の改編.
  35. ^ a b c d e f g h i 渡邉 2005.
  36. ^ a b c d e f g h i j k l 海上自衛隊 1972, 別表(第2条関係).
  37. ^ a b 海上幕僚長 2013, p. 47.
  38. ^ a b 海上幕僚長 2013, p. 70.
  39. ^ 海上幕僚長 2013, p. 68.
  40. ^ 稲葉 2014.
  41. ^ 海上幕僚長 2013, p. 48.
  42. ^ a b c 海上幕僚長 2013, pp. 71–72.
  43. ^ 海上幕僚長『海上自衛隊物品管理補給基準について(通達)』(レポート)1998年http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/e_fd/1998/ez19981208_05621_000.pdf 
  44. ^ 海上幕僚長 2013, p. 71.
  45. ^ a b c d e f g 渡邉 2009.
  46. ^ 海上幕僚長 2013, p. 51.
  47. ^ 佐藤常寛 (2010年6月5日). “佐藤常寛氏(海上自衛隊元海将補)インタビュー”. 2020年12月29日閲覧。
  48. ^ a b c d e f g 森 1989, pp. 118–125.
  49. ^ a b c d 岡田 1997, pp. 240–252.
  50. ^ a b 松本 2023.
  51. ^ イカロス出版 2021.






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