紙 紙の歴史

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/04/28 08:32 UTC 版)

紙の歴史

紙発明以前

紙が発明・普及する前から、人間は世界各地でさまざまなものを文字などを筆記する媒体として利用してきた。例えば、次のものが知られている。

筆記媒体 地域 説明
粘土板 古代メソポタミア 泥を、板の形にして干したもの
パピルス 古代エジプト、のち西アジア・ヨーロッパ パピルス(植物)の幹を薄く削ぎ、直角に交叉させ、おし叩いて接着したもの。なお、「papyrus」は英語で紙を意味する「paper」の語源となっている。
羊皮紙 西アジア・ヨーロッパ 動物の皮を筆記用に加工したもの。
貝多羅葉 インド 椰子の葉を筆記用に加工したもの。写経などに使われた。かさばるため、大量の筆記には不向き。
木簡竹簡 中国・日本 木や竹を、で筆記できるように細長い板にしたもの。丈夫であり、削って再利用できる利点があることから、紙が普及してからも荷札などで使われた。
絹帛 中国・日本 絹の布。

中国での紙の発明と改良

世界最古の紙は現在、1996年に中国甘粛省放馬灘(ほうばたん)から出土したものだとされている[3]。この紙は、前漢時代の地図が書かれており、紀元前150年頃のものだと推定される。次いで古いのは、紀元前140年87年頃のものとされる灞橋麻紙(はきょうまし)である。灞橋麻紙は陝西省西安市灞橋鎮で出土した。

史書に残された記録では『後漢書』で、105年蔡倫が樹皮やアサのぼろから紙を作り和帝に献上したという内容の記述がある。こうした記述から、紙の発明者は蔡倫だとされたこともあったが、現在では蔡倫は紙の改良者であるといわれることが多い。しかし、この「蔡侯紙」は軽くかさばらないため、記録用媒体として、従来の木簡竹簡、絹布に代わって普及した。西晋の時代(3世紀)には、左思の『三都賦』を写すために紙の価格が高騰したという記録が『晋書』に記載されており、「洛陽の紙価を高からしむ」という故事成語になっている。

紙はその後も改良され、時代(8世紀)には樹皮を主原料とした紙や、竹や藁を原料として混ぜた紙が作られるようになった。の時代(10世紀以降)には、出版が盛んとなったため大量の紙が必要となり、竹紙が盛んに作られた。明末の1637年に刊行された『天工開物』には、製紙の項目で、竹紙と樹皮を原料とした紙の製法を取り上げている。

紙は、上流階級を中心に広く使われる高価なものであった。11世紀の詩人であった蘇舜欽は、自分が勤めていた役所で出た反古紙(書き損じの使い物にならない紙)を売って、その代金で宴会を開いたために横領で糾弾されている。反古紙であっても高値で取引されていた様子がうかがえる。清の第5代皇帝は質素・倹約を掲げていたので、重要な公文書などでない限り、紙は裏返して使うように勧めていた。

日本
7世紀までに伝えられ、その後は和紙として独自の発展を遂げた。また、『百万塔陀羅尼』は現存する世界最古の印刷物である。

イスラム世界への伝播

紙の製法が中国からイスラム世界に伝わった契機は751年タラス河畔の戦いで、アッバース朝軍に捕えられたの捕虜に紙職人がいたことである。サマルカンドでは、757年に製紙工場が造られた。イスラム人は、紙の原料として亜麻を使ったり、サイズ剤として小麦粉から作ったデンプンを使うなどの工夫をした。こうした紙はイスラム世界で広く知られるようになった。

その後、バグダッドダマスカスカイロフェズなどイスラム世界の各都市に製紙工場が造られ、その技術は1100年にはモロッコまで伝わった[3]。紙は、イスラム世界で主要な筆記媒体となり、ヨーロッパへも輸出された。1144年には、当時タイファ(イスラム諸王国)の支配下にあったイベリア半島シャティヴァ英語版に、ヨーロッパ初の製紙工場が造られた。

ヨーロッパへの伝播

1102年にはシチリアに(シチリアの征服(1061年–1091年)完了後間もない頃)、1189年にはフランスエロー[3]1276年にはイタリアファブリアーノで製紙工場(Paper mill)が造られた。これ以降14世紀までの間、ヨーロッパでの紙の供給地は、イタリアとなった。1282年には、ファブリアーノで透かしイタリア語: Filigrana)が発明されている。その後、製紙工場はヨーロッパ各地で造られ、アメリカでも1690年フィラデルフィアに設立されている(フィラデルフィアの建設は1682年に始まったばかりであった)。

印刷技術の確立と原料不足

1450年頃にグーテンベルクにより活版印刷が実用化されると、印刷物が大量に造られるようになった。1473年には機械で印刷された楽譜が初めて登場した。1488年にはイタリアのソンチーノに作られた印刷所"Casa degli Stampatori"(it:Soncino#Musei)でヘブライ語聖書タナハ旧約聖書)が印刷された。こうして印刷物が世界中に広がり、紙の需要は増大した一方で、慢性的な紙の原料不足を引き起こし始めた。

製紙工業の確立

ユグノー戦争1562年 - 1598年)の終わりに、アンリ4世ナントの勅令1598年)を発したことで、多くのユグノーがフランスから亡命した。特にオーヴェルニュアングモアのユグノーが亡命したことは、フランス製の紙を輸入していたイギリス・オランダにも大きな影響を与え、ヨーロッパでは製紙の機械化が進められた。叩解(英語: beating process)には、紙の製法がヨーロッパに伝播した時点から、水車を動力源に石臼を動かすスタンパー英語: stamp mills)が使われており、1680年にはより効率的なホランダーオランダ語版ドイツ語版英語版オランダ語: maalbak または オランダ語: Hollander)が発明された。連続型抄紙機は、1798年にはフランスのエンジニアルイ=ニコラ・ロベールフランス語版英語版(発明家ロベール兄弟は別人)によって小型模型が作られ、1826年にイギリスのエンジニアブライアン・ドンキン英語版が完成させた。

一方、紙の原料不足については、特に19世紀には大きな問題となった。当時、紙の主原料は亜麻や木綿のぼろであったが、木材を使うことで解決された。1719年にフランスのルネ・レオミュールフランス語: René Antoine Ferchault de Réaumur)は、スズメバチが木材をかみ砕いて巣を作っている様子を観察した結果として、木材から紙を作ることができるという内容の論文を発表した。ドイツのフリードリッヒ・ケラードイツ語版英語版1840年)とカナダCharles Fenerty1844年)は砕木パルプを作るためのグラインダーを考案し、グラインダーは1846年に実用化された。また、1851年には苛性ソーダを用いた化学パルプの製造がイギリスで成功し、1854年に実用化した。当時、木材には針葉樹の丸太が使用された。尚、当時はまだ紙は貴重であった。

1844年、イギリスでピール銀行条例によってイングランド銀行中央銀行として銀行券スターリング・ポンド紙幣」の発券を独占した(通貨学派銀行学派)。贋金偽造防止技術として従来の透かし以外の技術が開発され始めた。

20世紀にかけて砕木パルプ・化学パルプともに改良が加えられ、木材を原料とした紙が機械で大量生産されるようになった。1940年代以降、クラフトパルプ製造法が確立され、広葉樹を利用できるようになった。また、1960年には木材チップをパルプ化する方法が開発された。

製紙用薬品の普及

1970年ごろから、酸性紙は50年を超えるような長期保存ができないことが問題となり、硫酸バンドロジンサイズ剤を使わず、石油を原料とした中性サイズ剤を使う方法が考案された。

同じく1970年代ごろから、強度を高める目的で従来のデンプン類に代えてポリアクリルアミド紙力増強剤として使う方法が考案され、また、公害防止のために、排水中のBOD、COD、微細固形物を削減する取り組みが進められ、ポリアクリルアミドを歩留まり剤凝集剤として使うことが広がった。

1980年代以降、古紙リサイクル比率が高まり、古紙に付着している印刷インクを除去する脱墨剤として合成の界面活性剤が応用されるようになった。


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  1. ^ 日本印刷技術協会編、『製本加工ハンドブック 〈技術概論編〉』日本印刷技術協会(2006/09 出版)、ISBN: 9784889830880
  2. ^ a b c d e f g 原 p.71-147 4.洋紙のレシピ
  3. ^ a b c d e f 原 p.15-33 1.紙の来た道“ペーパーロード”
  4. ^ 原 p.35-59 2.文化が育てた“紙”、紙が育てた“文化”
  5. ^ 日本包装技術協会 『包装の歴史、3.包装産業の発達』 日本包装技術協会、1978年、111-125頁。
  6. ^ 三島製紙 - 砂糖キビの絞りかすから生まれたバカス紙について
  7. ^ バナナ・グリーンゴールド・プロジェクト
  8. ^ 化粧紙 - 注目商品 - 事業案内 - 日本紙パルプ商事株式会社
  9. ^ 公益財団法人紙の博物館
  10. ^ 民営化前における官製はがきのこと。
  11. ^ a b c 原 p.149-180 5.紙に要求される機能
  12. ^ ペーパーレス神話と現実






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