箸 使用法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 01:22 UTC 版)

使用法

日本食での配膳例。箸は手前から見て水平に、箸先は通常左向きに置かれる。
中国風セッティング。箸は手前から見て箸先を向こうに向けて置かれる。
正しい箸の持ち方
割り箸を使って帆立の刺身を食べる

箸は通常、他の食器と共に食卓の上におかれる。日本では箸先を左にして横向きに置かれ、現代の中国では箸先を向こうにして縦に置かれるが、陝西省長安県の南里王村に存在する中期の壁画や敦煌莫高窟の壁画では、箸が横向きに置かれた姿で描かれており、少なくとも唐の時代までは箸は横向きで置かれていたと考えられる[41]。現代の中国の箸を縦に置く風習はの頃から定着し始めた[42]

箸は右手に持つ(左利きの場合は必ずしも右手とは限らない)。一本を鉛筆を持つ要領で持ち(親指・人差指・中指で抓んだ状態)、もう一本を中指と薬指の間に挟む(主に親指の付け根と薬指の先の2点で固定する)と、伝統的で正しいとされている箸の持ち方になる[43]。親指・人差指・中指で持っている方を動かし、薬指で支えている方は動かさない[43]

伝統的で正しいとされている持ち方をした場合、二本が 2 - 3 cm の隙間を隔てたまま平行にでき、手のひら側の箸同士は常に間隔が空いた状態となる。また、二本を大きく開かない限りは接触しない。伝統的で正しいとされている持ち方ができているかどうかは、鶏の卵を掴み、垂直に持ち上げられるかどうかや、大のものを掴んだ際、二本が平行に近いかたちとなっているかでもおおむね判断できる。

なお、箸を使う国の中で、箸のみを使って食事をする作法が確立されているのは日本だけといわれる。和食では椀に直接口をつけて汁を飲むことが許容されているため汁物を箸だけで食べるが、中華料理では汁物を食べる際にレンゲを使用し、朝鮮料理ではごはんには匙を、おかずなど副菜をつまんだり麺類を食べたりするときに箸を使うのが一般的である。

マナーの悪い箸の使い方のことを嫌い箸と言うが、これらのマナーもまた、箸を使う国によって異なるようである。

日本では1984年、社団法人公共広告機構(現 AC ジャパン)により、一色八郎指導による子供の箸使い教育、嫌い箸をテーマにした「しつけのはしばし」というキャンペーンが行われ、これに対する投書を元にした投書集も刊行された[44][45]

古来から日本の家庭の箸の使い方で特徴的なのは、属人器であり、各人の専用の箸(茶碗も)が家庭内で定められていることである。これは中国の多くの地域(漢族の地域など)や朝鮮などでは行なわれないことである。ただし、日本においても全ての家庭で行なわれているわけではない。

また、オロチョン族など北東アジア北部の一部の狩猟民族には、民族衣装を着た際、ナイフとともに獣骨で作った箸をの脇に差して携える習慣がある。

取り箸

日本では、各自が食べるものがそれぞれの器に必要量取り分けて供される個食化、および、各個人が使う食器がそれぞれ各人に固定されている食器の属人器化が一般的であり、多人数で共用する大皿料理や鍋料理には通常取り箸や共用匙が置かれ、これを使用して取り分ける。自身が使用している箸で直接取る直箸は非衛生的でマナー違反とみなされる。取り箸がない場合、箸を口につける前に取り分けたり、箸の口につけない頭側の端を使って取り分けることもしばしば行われる[46]

中国では来客に自分の箸で取り分けるのが親愛の情の表現とされるが、最近は公筷(公用箸)・公勺と呼ばれる取り箸・共用匙の利用が推進されている[16][46]。特に2003年の新型肺炎発生以降、香港、シンガポール、中国でレストランや家庭において公筷公勺の使用が積極的に推進された。

香港では香港医学会を中心に「公筷公羹 安全衛生」キャンペーンが2005年から繰り広げられている[47]。取り箸・共用匙の使用は2003年には46%だったが、2005年には65%に増加した[48]。シンガポールでも新型肺炎以降、レストランにおける公筷公勺の使用が強化された。元々生活が洋式化されており、これが取り箸・共用匙の利用が促進される一因となっている。一方、中国では新型肺炎後、中高級ホテル・レストランでの公筷公勺の使用が推進されたが、罰則もなく利用者も必要性を感じないため2005年時点では徐々に廃れていっていることが懸念されている[46]

朝鮮料理ではパンチャン반찬、飯饌)やチゲは通常直箸直匙であるが、朝鮮料理の世界化を目指す上で取り箸や共用匙の使用を薦める意見もある[49]

付属品

箸の付属品に、箸置、箸箱、箸筒、箸立、箸袋などがある[50]

箸置
箸の先をもたせかけるための小物。箸置きの起源は古代から伊勢神宮などで使用されている素焼きの耳かわらけとされている[50]
箸箱
箸の保管や持ち運びの際に用いる箱。
箸立
大衆食堂などで客人が自由に取って使えるように箸を収めた容器[50]
箸袋
平安時代には宮中の女官が箸箱に代えて自分の衣類の端切れを使って箸を保管する風習があり江戸時代まで続いた[50]。割り箸の箸袋は1916年(大正5年)に大阪の藤村という職工が駅弁用に袋に入れた箸を衛生割箸として意匠登録したことに始まる[50]

  1. ^ a b 一色, 1998年, p.40 “日本だけが純粋な箸食”
  2. ^ a b c d 一色八郎 『箸の文化史 世界の箸・日本の箸』 新装版, 御茶の水書房, 1998年8月, p.36 “世界の食法” ISBN 4-275-01731-5
  3. ^ 一色, 1998年, p. 117 “塗り箸”. 『日本の漆器』, 読売新聞社, 1986年, ISBN 978-4-643-62330-7 および 本田総一郎『箸の本』, 柴田書店, 1978年, ASIN B000J8P4P4 第四章からの引用.
  4. ^ 一色, 1998年, p. 95 “神社・仏閣の授与箸”
  5. ^ 誤用されがちな正しい箸の数え方「膳」と「本」の使い分けを解説 小林食品、2022年4月23日閲覧
  6. ^ a b 一色, 1998年, p.132 “調理箸と取り箸”
  7. ^ 一色, 1998年, p.43 “包丁式と真名箸”
  8. ^ 庖丁式が開催されました!! いばらき食の安全対策室.
  9. ^ 水谷令子, 久保さつき, 西村亜希子 (1997). “三重県における真名箸(まなばし)神事”. 鈴鹿短期大学紀要 17: 11-20. NAID 110007042501
  10. ^ パスイ[pasuy]箸[リンク切れ], 札幌市アイヌ文化交流センター, 2009年5月1日.
  11. ^ a b c 一色, 1998年, p. 71 “アイヌ民族のイペパスイ(箸)”
  12. ^ イクパスイ[捧酒箸], アイヌ民族博物館.
  13. ^ I-16-(3) キケウシパスイとカムイイペパスイ, アイヌ民族博物館.
  14. ^ イオマンテ[道具編]パスイ類(2012年12月19日時点のアーカイブ), 財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構.
  15. ^ 二アックニュースレター114号”. 一般財団法人南西地域産業活性化センター. 2021年5月11日閲覧。
  16. ^ a b c d 一色, 1998年, p. 136 “世界の箸”
  17. ^ 割り箸からみる環境問題(2006年5月12日 レコードチャイナ)
  18. ^ a b 2020年4月12日中日新聞朝刊日曜版1面
  19. ^ 橋本慶子 『箸の物語 青山学院女子短期大学学芸懇話会シリーズ 16』, 青山学院女子短期大学学芸懇話会, 1990, (8).
  20. ^ 石毛直道 『食事の文明論』, 中央公論新社, 1982, 第7章. ISBN 4-12-100640-2
  21. ^ (英語) CHOPSPOONS(2008年1月24日時点のアーカイブ
  22. ^ 一色八郎, 『箸』, 保育社, 1991, p. 1 “世界の箸”. ISBN 978-4-586-50816-7
  23. ^ 中尾佐助 『中尾佐助著作集 料理の起源と食文化 (2)』, 北海道大学図書刊行会, 2005年9月, p. 635. 「第IV部 台所と調理の文化 共食器の文化、個人食器の文化 共食器の時代」 ISBN 978-4-8329-2881-7.
  24. ^ (中国語) 嚴志斌 洪梅編著殷墟青銅器︰青銅時代的中國文明』 上海大学出版社、2008年08月、p. 48、“第二章 殷墟青銅器的類別與器型 殷墟青銅食器 十、銅箸 這三双箸長26、粗細在1.1-1.3厘米之間,出土于西北崗1005号大墓。陳夢家認為這種箸原案有長形木柄,應該是烹調用具。ISBN 7-81118-097-9 OCLC 309392963
  25. ^ a b 太田昌子 『箸の源流を探る 中国古代における箸使用習俗の成立』 汲古書院、2001年9月、p. 49-65 “第三章 中国古代における箸の出土について(一)——殷・春秋・戦国時代——” ISBN 4-7629-2661-2
  26. ^  司馬遷 (中国語), 史記/卷038, ウィキソースより閲覧。 紂始為象箸, 歎曰:“彼為象箸,必為玉杯;為杯,則必思遠方珍怪之物而禦之矣。輿馬宮室之漸自此始,不可振也。”
  27. ^  韓非子 (中国語), 韓非子/喩老, ウィキソースより閲覧。 昔者紂為象箸而箕子怖。以為象箸必不加於土鉶,必將犀玉之杯。象箸玉杯必不羹菽藿,則必旄象豹胎。旄象豹胎必不衣短褐而食於茅屋之下,則錦衣九重,廣室高臺。
  28. ^ a b 一色, 1998年, p.48 “中国の箸とその伝来”.
  29. ^ 太田昌子 『箸の源流を探る 中国古代における箸使用習俗の成立』 汲古書院、2001年9月、p. 1-23 “第一章 中国古代における箸使用の定着について——古代文献よりみた定着年代の考察——” ISBN 4-7629-2661-2
  30. ^ a b 一色, 1998年, p.45 “大嘗祭のピンセット状の「折箸」”. 鳥越憲三郎 『箸と俎』毎日新聞社, 1980年, 第一章からの引用.
  31. ^ 一色の記述は橋本慶子 『箸の物語 青山学院女子短期大学学芸懇話会シリーズ 16』, 青山学院女子短期大学学芸懇話会, 1990, (3)からの引用。
  32. ^ 中尾佐助 『中尾佐助著作集 第II巻 料理の起源と食文化』, 北海道大学図書刊行会, 2005年9月, p. 607-611. 「第VI部 台所と調理の文化 包丁とまな板」 ISBN 978-4-8329-2881-7.
  33. ^ 石毛直道『食文化 新鮮市場』毎日新聞社、1992年、pp.218 -219.
  34. ^ 一色, 1998年, p. 159 “食事器具(匙・箸)の推移概要”. 石毛直道 『食事の文明論』, 中央公論新社, 1982, p. 125. ISBN 4-12-100640-2 からの引用。
  35. ^ 一色, 1998年, p. 54 “聖徳太子と箸食制度”.
  36. ^ 北岡2011、pp.233-234。
  37. ^ 一色, 1998年, p. 55 “二本箸の起源”.
  38. ^  陳壽 (中国語), 三國志/卷30, ウィキソースより閲覧。 
  39. ^  魏志倭人伝『魏志倭人伝』。ウィキソースより閲覧。 
  40. ^ 荒野他1993、p.320。
  41. ^ 張 2013,第六章 1.箸はなぜ縦向きに置くのか(1841-/2623)
  42. ^ 張 2013,第六章 1.箸はなぜ縦向きに置くのか(1873-/2623)
  43. ^ a b 正しいお箸の使い方子供に教えてる?”. オリーブオイルをひとまわし. 2022年12月17日閲覧。
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  46. ^ a b c (中国語) 吳曉洋 亞洲大力推廣公筷(2013年4月25日時点のアーカイブ),CCTV.com, 2005年09月02日.
  47. ^ 公筷公羹 安全衛生, 香港醫學會.
  48. ^ (英語) Survey respondents clean up their acts(2007年3月23日時点のアーカイブ), Hong Kong's Information Services Department(政府新聞處), December 26, 2006.
  49. ^ (朝鮮語) 한식이 세계화가 안되는 진짜 이유(2012年7月31日時点のアーカイブ), uKopia, 2009-05-11.
  50. ^ a b c d e 勝田春子「食文化における箸についての一考察 : わが国における箸の変遷 (第3報) (明治時代~昭和時代)」『研究紀要』第22号、文化女子大学研究紀要編集委員会、1991年1月、103-113頁、CRID 1050282812793347328hdl:10457/2257ISSN 028680592023年12月6日閲覧 
  51. ^ 一色, 1998年, p.9 “箸墓古墳と三輪山”
  52. ^ 一色, 1998年, p.11 “箸杉信仰(箸立信仰)”. 本田総一郎『箸の本』, 柴田書店, 1978年, ASIN B000J8P4P4 第三章からの引用.
  53. ^ 一色, 1998年, p.100 “「ハシの日」と御箸まつり”.
  54. ^ どれもすてき“迷い箸”…福井・「箸まつり2010」[リンク切れ], 読売新聞関西発地域経済ニュース, 2010年8月5日.
  55. ^ 「はしの日」で県央食品衛生協会三条支部が恒例のはし供養祭, ケンオー・ドットコム(新潟県央情報交差点), 2010.8.4.






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