第四間氷期
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/15 04:21 UTC 版)
作品が書かれた時代背景と概略
- 政治
- ソビエト連邦がまだ存在する冷戦時代であり、米ソ宇宙開発競争が活発であった。1957年(昭和32年)10月4日にソビエトが人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げて、アメリカにスプートニク・ショックを与えた[7]。アメリカは科学技術の分野でソビエトに後れを取ったことになり、ソビエトに対抗して1958年(昭和33年)1月31日にエクスプローラー1号を打ち上げて、米ソの宇宙開発競争が始まった。
- コンピュータ
- コンピュータ(作中では電子計算機、当時はそう呼ばれるのが一般的であった[7])は当時すでに知られていたが、一般の目に触れるものではなかった。作中の予言機械は今日のスーパーコンピュータととらえることができるが、当時は汎用コンピュータの祖とされるIBMシステム/360(1964年発表)もまだ登場していない。日本では1957年(昭和32年)3月に日本電信電話公社電気通信研究所がパラメトロン電子計算機MUSASINO-1を開発し、安部もこのMUSASINO-1を取材で見学している[8]。その時代に電子頭脳の可能性を「予言」した安部の慧眼が読みとれる。なお、作中では人格をもシミュレーションする予言機械であるが、入力機器としてはパンチカードを使用している。
- 水棲生物
- 1950年代には、獲得形質が遺伝するというトロフィム・ルイセンコの主張が、日本においても一定の影響力を持っていた[9]。ワトソン、クリックによりDNAの二重らせん構造が発表されたのは1953年(昭和28年)である。なお、作品では生物の改造に直接の遺伝子操作ではなく、進化の名残を利用しようとする。地上の動物もその成長の過程でかつての魚の形態も通過するが、そこに手を加えることで水中呼吸のための鰓を残したまま成長させようとする。物語の終盤では、水棲人の不思議な生態や陸棲人(元の人類)との立場の逆転した関係も描かれる。
- 地球水没
- 水没の要因として二酸化炭素の増加による温暖化、それに伴う氷河の消滅も作中で取り上げられているが、全面的な水没の主要因として地球の火山活動による海水の生成によるものとしている。
- SF作家
- この作品が書かれた当時、すでに活動していたSF作家としては、戦前から活躍していた海野十三や、戦後にデビューした漫画家の手塚治虫や、デビューしたての星新一がいる。海野十三は『第五氷河期』[10]という作品を発表している。小松左京、筒井康隆がSF作家としてデビューするのは後のことである。
- ^ a b 奥野健男「安部公房――その人と作品」(『世界SF全集27 安部公房』)(早川書房、1974年)
- ^ a b c d e 安部公房「あとがき」(『第四間氷期』)(講談社、1959年)
- ^ a b c d 「作品ノート9」(『安部公房全集 9 1958.07-1959.04』(新潮社、1998年)
- ^ a b 『新潮日本文学アルバム51 安部公房』(新潮社、1994年)48-49頁
- ^ 安部公房(荒正人・埴谷雄高・武田泰淳との座談会)「科学から空想へ――人工衛星・人間・芸術」(世界 1958年1月号に掲載)
- ^ a b 安部公房「『今日』をさぐる執念」(新聞紙上 1962年)。苅部直『安部公房の都市』(講談社、2012年)122頁
- ^ a b 苅部直『安部公房の都市』(講談社、2012年)128頁
- ^ 「『第四間氷期』のため、日本電信電話公社にてコンピューターの取材写真(1959年)」(『日本現代文学全集103 田中千禾夫・福田恆存・木下順二・安部公房』)(講談社、1967年)。苅部直『安部公房の都市』(講談社、2012年)133頁
- ^ 鳥羽耕史「安部公房『第四間氷期』――水のなかの革命」(早稲田文学『国文学研究』123集、1997年10月)
- ^ 『第五氷河期』:新字新仮名 - 青空文庫
- ^ 堀川弘通「私はあきらめない」(『安部公房全作品4』月報9)(新潮社、1973年)
- 1 第四間氷期とは
- 2 第四間氷期の概要
- 3 登場人物
- 4 作品が書かれた時代背景と概略
- 5 映画化脚本
- 6 関連項目
第四間氷期と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
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