真空管 特徴

真空管

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 12:44 UTC 版)

特徴

真空管の役割は21世紀になってほぼ終焉しているが、高周波大電力(10GHz・1kW以上)の用途では2013年現在でも真空管が用いられている。トランジスタなど半導体と比較した主な特長・長所は次の通りである。

  • キャリアが自由空間中の電子であるため、キャリア移動度が高い。
  • 強電界が加えられるのが真空中であるため、構造によっては高い耐電圧を確保できる。
  • 構造が単純で、絶縁破壊等による不可逆的な損傷が少ない(ごく短時間なら定格を多少超えても破損しにくい)。この特徴を利用して、軍事設備などでEMP攻撃による過負荷が予想される箇所に半導体の代わりに真空管を使うことがある。

一方で、短所は次の通りである。

  • 消費電力が大きい(特に内部のフィラメントやヒータ)。
  • 寿命が短い(通常の製品で1000時間程度、特に内部のフィラメントやヒータ。寿命が尽きて従来の性能が出なくなることを俗に「ボケる」と呼ぶ)。
  • コストが高い(素子単価が高い)。
  • 機械的な振動や衝撃に弱い。
  • 大型である。

動作原理

電極構造と動作

二極真空管による整流作用

二極真空管の模式図

二極真空管(二極管)はガラス管の中に、フィラメント電気抵抗の比較的大きい電線で、両端を外部に引き出してある)と、フィラメントに向き合う板状の電極(アノード、形状からプレートと呼ぶ)を封入したものである。

真空中でフィラメント電極(陰極、カソード)に電流を流すと加熱され、熱電子が放出される。このとき、フィラメントを基準にしてプレート(陽極、アノード)側に正電圧を与えると、放出された熱電子は正電荷に引かれ陽極に向かって飛ぶ。この結果フィラメントからプレートに向けて電子の流れが生じる。すなわち、プレートからフィラメントに向かって電流が流れることになる。また、プレートに負電圧を与えると熱電子は負電荷に反発してプレートには達しない。従って、二極管はプレートからフィラメントに向かう電流のみ通すことになり、整流効果が得られる。

模式図では電極を並列に書いてあるが、実際の製品ではフィラメントを取り囲むような、筒状のプレートをもった構造が普通である。

二極真空管はダイオードと呼ばれたが、今日では同じ機能を持った半導体素子を「半導体ダイオード」、あるいは単にダイオードと呼ぶのが普通である。電源整流用のものはプレート電流が大きく、発熱も大きくなることから寿命が短いことが多い。機器により、立ち上がり時間、突入電流の問題はあるが、半導体ダイオードに置き換えることが可能なため、自作アンプや真空管ラジオの補修等で、整流管のみ半導体に置き換えることも行われている。

自動車用電球には前照灯や制動灯のようにダブルフィラメントのものがある。このうちの一方のフィラメントのみが切れた状態のものは、残ったフィラメントをヒーター、切れたほうの電極をプレートと見れば二極真空管と同等の構造を有していることとなる。内部に不活性ガスが封入され真空でないものはうまくいかないが、ガス圧が極めて低いものはフィラメントに適当な電流を流して整流作用を観察できる場合がある。

三極真空管による増幅作用

三極真空管の模式図

二極管のフィラメント(陰極)とプレート(陽極)の間に粗い網状の電極(形状からグリッドと呼ぶ)を配置する。この三極真空管におけるグリッドは、陰極に対するその電位を変化させることによって、陰極-陽極間の加速電界を増強または抑制させる役割を持っている。二極管と同様に、プレートに対して正電圧が加えられると、陰極から放出された熱電子がプレートに到達する。そのとき一部の熱電子はグリッドに引き込まれるが、それ以外の多くの電子はグリッドを通り抜け加速される。以上により、グリッドに与える電圧の変化(入力信号)を、プレートから電流の変化(出力信号)として取り出すことで、信号の増幅が可能になる。

四極真空管、五極真空管

三極真空管の増幅率を高めるには、グリッドを細かくして多くの電子を捕捉したり、グリッドをカソードに接近させて電子の軌道への影響を大きくしたりする方法が考えられる。いずれも高いプレート電圧が必要となるため、低いプレート電圧で用いるにはグリッドとプレートの間に第二グリッド(スクリーングリッド)を設け、正電圧を加える。これを四極真空管と呼ぶ。第二グリッドはプレートとグリッド間を静電遮蔽し、浮遊容量を小さくする作用もある。

しかし、四極真空管は安定に動作しないことが多い。それはカソードからプレートに到達し、プレートから反射放出された二次電子が第二グリッドに吸収されて電位が変化し、全体の増幅特性に影響するためである。その問題を解決するため、第二グリッドとプレートの間に第三グリッド(サプレッサグリッド)を設け、カソードまたはアースに接続したものを五極真空管と呼ぶ。プレートから反射放出された電子は第三グリッドによって再度反発されるため、二次電子の影響が殆ど無い安定な動作が可能となる。

また、四極真空管の第一グリッドと第二グリッドの位置を、電子が一点に収束するよう調整することでも、二次電子の影響を減少させることができる。これをビーム真空管と呼び、高効率の動作が可能なため電力増幅に多く用いられる(但し、動作時のプレート電流が少ない場合には二次電子の影響が少なからず存在し、特性の暴れが避けられない)。

ビーム四極管

ビーム四極管(または「ビームパワー管」)は、カソードからの電子流を複数の部分的な平行ビームに形成し、アノードとスクリーングリッドの間に低電位の空間電荷領域を生成し、アノード電位がスクリーングリッドの電位より低い場合にアノードからの二次放出電子をアノードに戻す[15][16]。一部の円筒対称ビーム四極管では、カソードが、コントロールグリッドの開口部と一直線に並んだ狭いストリップ状の発光材料で形成されており、コントロールグリッド電流を低減している[17]。この設計は、高出力・高効率パワー管の設計における実用上の障壁のいくつかを克服するのに役立っている。 メーカーのデータシートでは、ビーム四極管の代わりにビーム五極管やビームパワー五極管という用語がしばしば使用され、ビーム形成プレートを示すグラフィック・シンボルの代わりに五極管のグラフィック・シンボルが使用されている[18]。ビーム・パワー管は、同等のパワー五極管よりも長い負荷線、より少ないスクリーン電流、より高いトランスコンダクタンス、より低い第3高調波歪みという利点を提供する[19][20]。ビーム四極管は、オーディオの音質を改善するために三極管として接続することができるが、三極管モードでは出力が大幅に低下する[21]

陰極加熱方法

陰極の加熱方法について分類した呼び名に直熱管と傍熱管がある。傍熱管のほうが長所が多く、傍熱管の発明以降は一般的に傍熱管が広く用いられた。

直熱管
  • フィラメントと陰極(カソード)を兼用した電子管。
  • フィラメント表面から熱電子が放出される。
  • 熱電子放出効率はフィラメント材料により決まる。
  • フィラメントに通電すると、ガラス管の場合、フィラメントが光る様子が容易に観察できる。
  • 傍熱管に比べ、電源投入から動作開始までの予熱時間が短い。
  • 陰極の直流電位はフィラメント電源の直流電位と同電位であり、回路設計上の制約となる。
  • フィラメント電源が交流電源の場合、出力に商用電源周波数ノイズが現れる。オーディオ回路では、このハムノイズを減少させるためフィラメント回路に並列に低抵抗値の可変抵抗器をつなぎ、摺動端子をグラウンドに落として陰極電位を調整するハム・バランサを用いることがある。
傍熱管
  • 筒状の金属管を陰極(カソード)とし、その内側にカソードと絶縁した加熱用の電線(ヒーター)を内蔵する電子管。
  • ヒーターで熱せられたカソードの表面から熱電子が放出される。
  • カソード材質の選択自由度が生まれた結果、効率的に熱電子を放出できるようになった。
  • ヒーターに通電すると、ガラス管の場合、カソードの端部中心からヒーターが暗赤色に光る様子が観察できるが直熱管の場合ほど明るくない。
  • 直熱管に比べ、電源投入から動作開始までの予熱時間が長い。
  • 陰極(カソード)とヒーター回路が分離されているので、陰極(カソード)の直流電位に対する自由度が大きくなり、回路設計の自由度を増すことができる。
  • ヒータ電源が交流電源の場合でも、出力には直熱管ほどハムノイズは出ない。

代表的な真空管

  • 整流用二極管 : 12F(K)、81、35W4、25M-K15、5M-K9、19A3、5G-K3、80BK、80HK、36AM3、35Z5
  • 整流用双二極管 : 80、5Z3、5AR4、5U4G(B)、6X4、5Y3、83、82、5G-K18、5G-K20、5G-K22
  • 検波用双二極管 : 6AL5
  • マジックアイ : 6E5、6M-E5、6M-E10、1629、1N3、1H3
  • 電圧増幅用三極管 : 6C4、76、6J5、6C5、6J4、WE101D、102D、104D、3A/167M
  • 検波用二極電圧増幅用三極管 : 75、6Z-DH3、6Z-DH3A
  • 検波用双二極電圧増幅用三極管 : 6AT6、6AV6、6BF6、6SQ7、6SR7
  • 電圧増幅用双三極管 : 12AX712AU712AT7、12BH7A、6DJ86SN7、6SL7、6240G、12R-LL3、12R-HH14、5678、6350、6414、30MC、109C、3A5
  • 電力増幅用三極管 : 10、12A、71A、45、VT-52、2A3、6B4G、WE300B、211、845、8045G、6(50)C-A10、VT-25(A)、VT-62、PX4、PX25(A)、WE275A、50、801A、R120、Ed、EbⅢ、AD1、6G-A4
  • 電力増幅用双三極管 : 6336A、6080、5998(A)、6528、6AS7、6C33CB、3C33、19、6BX7
  • 電力増幅用ビーム管 : UY-807、KT66、KT88、6550(A)、6L66V6、6AQ5、1619、12A6
  • 電圧増幅用五極管 : 6C6、6D6、6SH7、6SJ7、6SK7、6AU6、6BA6、6BD6、6267、WE310A
  • 電力増幅用五極管 : 6CA7、6BQ5、6AR5、42、30A5、50C5、6K6、6F6、7189(A)、35C5、35(50)EH5、30M-P23、32ET5、34GD5、45M-P21、35(50)L6、47
  • 周波数変換用七極管 : 6SA7、6BE6、6WC5、6A7、1R5、18FX6
  • 電圧増幅用三極五極管など : 6U8(LD611)、6BL8、6AN8、6GH8(A)、6EA8、6R-HV1、6R-DHV1、6R-DHV2
  • 電圧増幅用三極電力増幅用五極管 : 6BM8、6(14)GW8、6R-HP2、8R-LP1、18GV8
  • 送信用三極管 : 3-500Z、3-1000Z、T-307、800、808、830B
  • 送信用四極管 : 4CX250B
  • 送信用五極管 : 6146B、S2001(A)、S2002、S2003、813

注釈

  1. ^ : electron tube
  2. ^ : thermionic valve
  3. ^ 「電子管」は熱電子を利用しないものなど、より広い範囲の素子を指して使われることもある。
  4. ^ : diode
  5. ^ : triode
  6. ^ : tetrode
  7. ^ : pentode
  8. ^ : rectifier
  9. ^ どちらも直熱型三極管
  10. ^ 後のUZ-2A5。
  11. ^ : Nuvistor
  12. ^ GTは「glass tube」の略とされる。
  13. ^ 油脂等の汚れがフィラメントからの熱を吸収し、その部分の温度を上げることでガラスを歪ませるため。製造管理の行き届いた現代の白熱電球においてもハロゲンランプなど、大きさの割には消費電力の大きい電球は、同じく油脂汚れ厳禁である[23]。日本放送協会編 ラジオ技術教科書(1946〜1947年)、電気学会編 電気材料(1960年)にも記述がある。
  14. ^ 高周波での増幅特性で半導体素子を凌駕する事は現在でも珍しくはない。事実、高信頼性と低消費電力が要求される放送衛星通信衛星等の人工衛星では現在でも送信用に真空管の一種である進行波管が使用される

出典

  1. ^ 広辞苑第六版【真空管】定義文
  2. ^ 広辞苑第六版【真空管】定義文の後の叙述文
  3. ^ 平凡社『世界大百科事典』vol.14, p.261【真空管】
  4. ^ "管球". 精選版 日本国語大辞典(小学館). コトバンクより2021年5月22日閲覧
  5. ^ 用例: 論文検索 "球スーパー"”. 日本の論文をさがす. 国立情報学研究所 (NII). 2021年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月22日閲覧。
  6. ^ a b 用例:通商産業大臣官房調査統計部(編)「1 生産動態統計」『平成元年 1989 機械統計年報』、通商産業省、1990年、286-288頁、2021年5月22日閲覧 
  7. ^ "石". 精選版 日本国語大辞典(小学館). コトバンクより2021年5月22日閲覧: 「せき【石】(2)〘接尾〙(2)」
  8. ^ http://www.at-s.com/news/article/economy/shizuoka/456410.html デブリ撮影に浜ホト貢献 真空管カメラ、福島原発投入へ 静岡新聞 2018年3月15日閲覧
  9. ^ https://gigazine.net/news/20140626-nasa-vacuum-transistor/ 半導体に取って代わられた真空管に復権の兆し、超高速のモバイル通信&CPU実現の切り札となり得るわけとは? GIGAZINE 2018年5月18日閲覧
  10. ^ Bijl著「The Thermionic Vacuum Tubes and It's Applications」、1920年
  11. ^ タイン著「Saga of Vacuum Tube」、1977年
  12. ^ 浅野勇著「魅惑の真空管アンプ 上巻」
  13. ^ a b c 甘田, 早苗『初級ラジオ工作』誠文堂新光社、東京、1949年10月10日、86頁。doi:10.11501/1169566https://dl.ndl.go.jp/pid/1169566/1/48 
  14. ^ a b c ラジオ科学社 編『真空管の話』ラジオ科学社、東京〈ラジオ・サイエンス・シリーズ ; 第1集〉、1953年1月20日、29頁。doi:10.11501/2461951NCID BA65558749NDLJP:2461951https://dl.ndl.go.jp/pid/2461951/1/17 (要登録)
  15. ^ Donovan P. Geppert, (1951). Basic Electron Tubes, New York: McGraw-Hill, pp. 164 - 179. Retrieved 10 June 2021
  16. ^ Winfield G. Wagener, (May 1948). "500-Mc. Transmitting Tetrode Design Considerations" Proceedings of the I.R.E., p. 612. Retrieved 10 June 2021
  17. ^ Staff, (2003). Care and Feeding of Power Grid Tubes, San Carlos, CA: CPI, EIMAC Div., p. 28
  18. ^ GE Electronic Tubes, (March 1955) 6V6GT - 5V6GT Beam Pentode, Schenectady, NY: Tube Division, General Electric Co.
  19. ^ J. F. Dreyer, Jr., (April 1936). "The Beam Power Output Tube", Electronics, Vol. 9, No. 4, pp. 18 - 21, 35
  20. ^ R. S. Burnap (July 1936). "New Developments in Audio Power Tubes", RCA Review, New York: RCA Institutes Technical Press, pp. 101 - 108
  21. ^ RCA, (1954). 6L6, 6L6-G Beam Power Tube. Harrison, NJ: Tube Division, RCA. pp. 1,2,6
  22. ^ エレクトロニクス術語解説 1983, p. 256.
  23. ^ 自動車用電球ハンドブック 第6版” (PDF). 日本照明工業会. p. 26. 2022年9月24日閲覧。






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