生霊 病とされた生霊

生霊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 12:59 UTC 版)

病とされた生霊

竜斎閑人正澄画『狂歌百物語』より「離魂病」。生霊を病気の一種として解釈したもので、左側の女性の隣に生霊が現れている。

江戸時代には生霊が現れることは病気の一種として「離魂病」(りこんびょう)、「影の病」(かげのやまい)、「カゲワズライ」の名で恐れられた。自分自身と寸分違わない生霊を目撃したという、超常現象ドッペルゲンガーを髣髴させる話や[10]、生霊に自分の意識が乗り移り、自分自身を外側から見たと言う体験談もある[21]。また平安時代には生霊が歩く回ることを「あくがる」と呼んでおり、これが「あこがれる」という言葉の由来とされているが[1]、あたかも体から霊だけが抜け出して意中の人のもとへ行ったかのように、想いを寄せるあまり心ここにあらずといった状態を「あこがれる」というためと見られている[22]

生霊と類似する行為・現象

丑の刻参り」は、丑の刻にご神木に釘を打ちつけ、自身が生きながら鬼となり、怨めしい相手にその鬼の力で、祟りや禍をもたらすというものである。一般にいわれる生霊は、人間の霊が無意識のうちに体外に出て動き回るのに対し、生霊の多くは、無意識のうちに霊が動き回るものだが、こうした呪詛の行為は生霊を儀式として意識的に相手を苦しめるものと解釈することもできる[21]。同様に沖縄県では、自分の生霊を意図的に他者や動物に憑依させて危害を加える呪詛を「イチジャマ」という[23][24]

また、似ていることがらとしては、臨死体験をしたとされる人々の中の証言で、肉体意識が離れたと思われる体験が語られることがある。あるいは「幽体離脱」(霊魂として意識が肉体から離脱し、客観的に対峙した形で、己の肉体を見るという現象)も挙げられよう。生霊は、依存や執着しやすい人・未練がある人が取り憑かれやすいと言われる。[25]

脚注


  1. ^ a b c d e 池田 1959, pp. 186–190
  2. ^ a b c 今野 1969, pp. 64–98
  3. ^ 新村出 編『広辞苑』(第4版)岩波書店、1991年、122頁。ISBN 978-4-00-080101-0 
  4. ^ 今野 1969, p. 69
  5. ^ 芳賀矢一, ed. (1921), 卷第廿七/第20: 近江國生靈來京煞人語, , 攷証今昔物語集 3 (下): pp. 367-, https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/945416 
  6. ^ 現代訳:今野 1969, pp. 93–96の「生霊の遊離」の章で「11 夫を取り殺した青衣の女」として収録。
  7. ^ 神沢貞幹 (神沢杜口 1710-1795), ed (1906). “巻56 (「松任屋幽霊」の段)”. 翁草. 6. 池辺義象 (校訂). 五車楼書店. pp. 66-7. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/772573 
  8. ^ 『図説 日本妖怪大鑑』(ISBN 978-4-06-256049-8)などの水木しげるの著書では「幽霊憑(ゆうれいつき)」の名で紹介されている。
  9. ^ a b 高田編 1989, pp. 13–15
  10. ^ a b 東アジア恠異学会, ed. (2003), 怪異学の技法, 臨川書店, pp. 314-, ISBN 4653038465, https://books.google.co.jp/books?id=XlAEAQAAIAAJ&redir_esc=y&hl=ja 
  11. ^ 『曾呂里物語』の類話」『東京学芸大学紀要. 人文社会科学系 I』第60巻、2009年、307-309頁、ISSN 18804314 。題名は「女のまうねんまよひありく事」と表記。
  12. ^ 東アジア恠異学会, ed. (2003), 怪異学の技法, 臨川書店, pp. 314-, ISBN 4653038465, https://books.google.co.jp/books?id=XlAEAQAAIAAJ&redir_esc=y&hl=ja 
  13. ^ a b 柳田, 國男 (1952) [1946], 77章:生まれ替り, , 定本柳田國男集 (筑摩書房) 10: p. 145, https://books.google.co.jp/books?id=y1MnAQAAIAAJ ; 『全集13』(1990), p.199
  14. ^ 今野 1969, pp. 67, 68
  15. ^ a b c 大藤他 1955, pp. 46–293
  16. ^ a b c 今野 1969, pp. 100–105
  17. ^ 柳田國男「遠野物語拾遺:160話」『遠野物語角川書店角川ソフィア文庫〉、2004年(原著1948年)、146-151頁。ISBN 978-4-04-308320-6 
  18. ^ 今野 1969, pp. 81, 82。『遠野物語』より引用
  19. ^ 今野 1969, pp. 101–102。鈴木棠三「怪異を訪ねて」『大法輪』第26巻、第6号、1059年。 より引用
  20. ^ 今野 1969, pp. 103–104。出典:中村, 浩 (1929). “能登島採訪録”. 民俗学会 (Minzokugaku) (民俗学会) 1 (2): 42–44. https://books.google.co.jp/books?id=iTIEAAAAMAAJ. 
  21. ^ a b 多田 2008, p. 283
  22. ^ 村上健司編著『日本妖怪大事典』角川書店〈Kwai books〉、2005年、24-25頁。ISBN 978-4-04-883926-6 
  23. ^ 上江洲均 著、大塚民俗学会 編『日本民俗事典』(縮刷版)弘文堂、1994年(原著1972年)、41頁。ISBN 978-4-335-57050-6 
  24. ^ 島袋源七 著「山原の土俗」、池田彌三郎他 編『日本民俗誌大系』 第1巻、角川書店、1974年(原著1929年)、373頁。ISBN 978-4-04-530301-2 
  25. ^ 生霊とは? [1]


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