理科教育 課題

理科教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/05 02:57 UTC 版)

課題

「科学教育」としての課題

日本の理科教育は、広義にとらえるならば科学教育のひとつである。しかし、狭義に「学校での理科教育」としてとらえた場合、前述のとおり(特に、明治以降、)純粋な科学教育とは若干違う方向の発展をしてきた。

このことに対し、森一夫は、日本の伝統的な自然観に下記の特徴があり、今の理科教育にも影響していることを指摘している[26]

  • 「見える」物事の知覚的経験を重視するが、その背後にある「見えない」法則性・成立根拠を問い直そうとしない即物性(実証主義)がある。
  • 自然をとらえるとき、「学」の対象ではなく、役に立つための「術」の対象と見る実用性(実学主義英語版・技術主義)がある。
  • 自然と人間の不可分・一体化を強調する全体性(ホーリズム)がある。

また、限られた時間で「科学的な法則を体系的に理解させること」と「実体験から科学的な考え方を身につけさせること」を両立させることは難しく、問題解決学習と系統学習、すなわち、「自然に対する観察・体験」と「科学技術体系の注入」のどちらを重視するかで揺れ動いている。

教員養成に関する課題

中学校・高等学校

日本で中学校および高等学校「理科」の教員免許を取得する際には、教育職員免許法施行規則第四条および第五条に基づき、次の内容を含む科目を規定単位数以上履修する必要がある[27]

このほか、第六条第四欄に規定されている「各教科の指導法」として、「理科」の指導法(理科教育法などと呼ばれる。基本的には、理科教育学を含む)を履修する必要がある。また、中学校の免許取得のためには、物理学、化学、生物学、地学のそれぞれについて実験を伴う授業を、高等学校の場合はこれらのうち少なくとも1つの授業を履修する必要がある。

2010年2月現在、中学校・高等学校「理科」教員免許は教員養成系や自然科学系の多くの大学で取得可能である[28]が、五教科()の中では唯一、2010年4月に明星大学通信教育部の教育学科が課程認定を受けるまで、通信教育によって教員免許を取得することができなかった[29]

小学校

小学校教員免許を取得する場合は、教育職員免許法施行規則第六条第四欄「各教科の指導法」で「理科」の指導法を履修する必要がある[30]

また、第三条の「教科に関する科目」に「理科」の単位がふくまれている。この科目は1993年の時点には一種免許状などで必修であったが[31]、2010年2月現在「一以上の科目について修得」すればよいと規定されている。そのため、2010年現在では、「理科」の科目を履修しないで小学校教員免許を取得する場合もありうる。もし受講している場合も、授業時間や担当教員の専門などの理由から、必ずしも理科に関するすべての分野が取り扱われるわけではない。

小学校教員志望者には理科への苦手意識が強い人・文系出身者が多く[32]、理科の基礎教養が身についていない者もいる[33]。また、現職の小学校教員にも「理科(特に物理・地学)の指導について苦手意識が強い」人が多く[34]、「理科の指導法についての知識・技能を大学時代にもっと学んでおいた方がよかったと思っている」という統計もある[34]。このことなどは、初等教育段階での理科教育において大きな課題を抱えているといえる。


  1. ^ 藤島弘純は、「「理科」のなかでの環境教育」について触れている。詳細は、藤島弘純 2003, pp. 163–185を参照。
  2. ^ 板倉聖宣 2009, pp. 16–20.
  3. ^ 中村邦光「日本における「物理」という術語の形成過程」『学術の動向』第11巻第12号、日本学術協力財団、2006年、90-95頁、doi:10.5363/tits.11.12_90ISSN 1342-3363NAID 1300014946642020年9月4日閲覧 
  4. ^ 板倉聖宣 2009, p. 42.
  5. ^ 板倉聖宣 2009, pp. 100–103.
  6. ^ 板倉聖宣 2009, p. 100.
  7. ^ 小学校教則大綱(抄)(明治二十四年十一月十七日文部省令第十一号)”. 学制百年史資料編. 文部科学省. 2009年12月5日閲覧。
  8. ^ 前田善仁 (2015年7月). “理科のはじまりと「指導案」 明治時代の「教授案(指導案)」からわかること” (PDF). 啓林館. 2020年8月22日閲覧。
  9. ^ 森一夫 1993, pp. 40–41.
  10. ^ 板倉聖宣 2009, p. 305.
  11. ^ 板倉聖宣 2009, p. 22.
  12. ^ 森一夫 1993, p. 45.
  13. ^ 神崎夏子「戦後中高理科教育の歴史」(所収:左巻健男ほか(編著) 2009b, p. 244)
  14. ^ 小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について(概要)”. 文部科学省. 2009年5月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年12月12日閲覧。
  15. ^ 神崎夏子「戦後小学校理科教育の歴史」(所収:左巻健男ほか(編著) 2009a, p. 250)
  16. ^ 小谷卓也「知っておきたい学習理論」(所収:左巻健男ほか(編著) 2009a, pp. 135–150)
  17. ^ 森一夫 1993, pp. 50–83.
  18. ^ 理科教育学者である森一夫は、このことを「子どもが科学をつくる」と述べている。森一夫 1993, p. 94より
  19. ^ 西條敏美 2005が詳しい。
  20. ^ 石渡正志「生物(生物分野)で何を学ばせるか」(所収:左巻健男ほか(編著) 2009a, pp. 99–116)
  21. ^ 小田切真「地球と宇宙(地学分野)で何を学ばせるか」(所収:左巻健男ほか(編著) 2009a, pp. 117–134)
  22. ^ a b 日本理科教育学会『理科の学習論』 下、東洋館出版〈理科教育講座 第5巻〉、1992年10月5日。ISBN 4-4910-0995-3 
  23. ^ 『ブリタニカ国際大百科事典』ブリタニカ・ジャパン、2014年。 
  24. ^ 市川博『子どもの姿で探る問題解決学習の学力と授業』学文社、2015年。ISBN 978-4-7620-2562-4 
  25. ^ D・P・オースベル、F・G・ロビンソン『教室学習の心理学』吉田章宏(訳)、松田弥生(訳)、黎明書房、1984年。ISBN 4-6540-0672-9 
  26. ^ 森一夫 1993, pp. 22–32.
  27. ^ 教育職員免許法施行規則”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2009年5月23日閲覧。
  28. ^ 中学校・高等学校教員(理科)の免許資格を取得することのできる大学”. 文部科学省. 2010年3月6日閲覧。
  29. ^ 取得できる教員免許状一覧” (PDF). 私立大学通信教育協会. 2007年10月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年12月16日閲覧。
  30. ^ 備考 その四で規定されている。
  31. ^ 教育職員免許法施行規則(平成三年一一月一四日文部省令第四五号)の第二条より。
  32. ^ 藤島弘純 2003, pp. 139–140.
  33. ^ 藤島弘純 2003, pp. 123–139.
  34. ^ a b 「平成20年度小学校理科教育実態調査」集計結果(速報)について”. 科学技術振興機構 (2008年11月20日). 2009年11月21日閲覧。


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