火山
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/21 11:29 UTC 版)
火山の噴火はしばしば人間社会に壊滅的な打撃を与えてきたため、記録や伝承に残されることが多い。
Volcano は、ローマ神話で火と冶金と鍛冶の神ウルカヌス(ギリシア神話ではヘーパイストス)に由来し、16世紀のイタリア語で volcano または vulcano と使われていたものが、ヨーロッパ諸国語に入った。このウルカヌス(英語読みではヴァルカン)は、イタリアのエトナ火山の下に冶金場をもつと信じられていた。シチリア島近くのヴルカーノ島の名も、これに由来する。日本で volcano の訳として「火山」の語が広く用いられるようになったのは、明治以降である。
火山の構造
成層火山の構造(断面図) | |
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1. マグマ溜り 2. 基盤 3. 火道 4. 地表 5. 岩床 6. 岩脈 7. 火山灰層 8. 側火山 | 9. 溶岩層 10. 咽喉 11. 寄生火山 12. 溶岩流 13. 噴火口 14. 主火口 15. 噴煙 |
火山の地下には、必ずマグマ溜りが存在する。マグマ溜りの深さは、地下数kmから数十kmとされる。このマグマ溜りから岩盤を突き抜け、何らかの理由でマグマが地上に放出される、その地点が火山である。マグマが地上に到達するまでに通るルートを火道と呼び、火道が地上に抜ける地点を噴火口と呼ぶ。火道はしばしば主火道から逸れて形成され、その副火道が地上に噴出すると側火山と呼ばれる小火山を形成する。また、副火道が地上に噴出せず地下にとどまったままのものを岩脈、岩脈が地層に沿って平行に地中で広がったものを岩床と呼ぶ。
火山の分類
地形による分類
現在の地形に加えて、形成過程や内部構造も考慮して分類されている。
複成火山
同じ火口から何度も噴火を繰りかえして、大きな火山体を成長させる火山[1]。
- 成層火山
- 主に、同一箇所の火口から噴火を繰り返して、その周囲に溶岩と火山砕屑岩が積み重なった、円錐形に近い形の火山体。日本の火山の多くは成層火山である。マグマの粘り気は中くらいである。火山の噴火タイプとしては、ストロンボリ式噴火やブルカノ式噴火をする火山がこうした火山になりやすい。
- 例 - 富士山、岩手山、開聞岳、伊豆大島、羊蹄山、スーフリエール・ヒルズ(モントセラト)
- 楯状火山
- 流動性の高い玄武岩質の溶岩が積み重なった、傾斜のゆるい火山体。そのため、通常は面積が広い。日本でこれまで「アスピーテ」とされてきた火山は、成層火山が侵食によって平坦になったり、もともと平坦であった場所に小規模な溶岩流が重なったりしたものであり、楯状火山ではない。また、伊豆大島や三宅島は、玄武岩を主に噴出する火山だが、火砕物の量が多く、楯状火山ではなく成層火山である。火山の噴火タイプとしては、ハワイ式噴火やストロンボリ式噴火をする火山がこうした火山になりやすい。
- 例 - マウナ・ロア山、キラウエア火山、スキャルドブレイダー山(アイスランド)
- 溶岩台地
- 大規模な溶岩流が多数積み重なって、広大な台地となっているもの。通常は、玄武岩質の溶岩からなる。火山の噴火タイプとしては、ハワイ式噴火をする火山がこうした火山になりやすい。
- 例 - デカン高原、コロンビア台地
- 火砕流台地
- 大規模な火砕流によって運ばれた、大量の火山灰・軽石・礫などが厚く堆積して、上面が平坦な台地となったもの。
- 例 - シラス台地、関東ローム層
- カルデラ
- 火山活動によって形成された大規模な凹地。通常、直径が1.6kmから2km以上のものを指す。通常、中央部にカルデラ形成後に形成された小火山である中央火口丘が一つまたは複数存在し、その周辺にはカルデラ床と呼ばれる平坦な地形が広がる。カルデラ床に水が溜まったものはカルデラ湖と呼ばれる。カルデラの外側は、外輪山と呼ばれる山が円形に取り囲んでいる。外輪山の内側はカルデラ壁と呼ばれ、急峻な崖となっていることが多い。大規模爆発によって形成されるカルデラの場合は、クラカトア式噴火をする火山がこうした火山になりやすい。
- 例 - 阿蘇山、箱根山、十和田湖、屈斜路湖、摩周湖、洞爺湖、鹿児島湾北部
単成火山
1回だけの噴火で形成されたもの。複成火山の一部である場合も多い。また、単成火山が多数集まっていて、全体が一連のマグマ活動と考えられる場合、単成火山群として複成火山扱いとすることがある(伊豆東部火山群、阿武火山群、小値賀火山島群、ル・ピュイ=アン=ヴレの小火山群 (フランス) など)。
- 爆裂火口
- 爆発的な噴火によって火口(穴)だけができ、噴出物はほとんど積もっていないもの。
- マール
- 水が大量にある場所でマグマ水蒸気爆発が起こり、円形の火口となったもので、水が溜まっていることが多い。噴出物は、火口の周囲にわずかに積もっている程度で、主にベースサージ堆積物である。
- 例 - 目潟、波浮港、米丸
- 火山砕屑丘(火砕丘)
- 火口の周囲に火山砕屑物が積もって、円錐形に近い形の小さい山(丘)になったもの。主な構成物質によってさらに細分し、火山灰丘・軽石丘・スコリア丘という。
- 例 - 大室山、米塚、ダイヤモンドヘッド
- 溶岩ドーム(溶岩円頂丘)
- マグマの粘性が高く(流動性が小さく)、かつガスが少ないために、爆発的な噴火を起こさず、火口から塊となって押し出されたもの。形は多様であるが、高さには限界があり、噴出量が多い時は平坦になる傾向がある。溶岩ドームをさらに細分して、上面が平坦になったものを溶岩平頂丘、火道内で固化したまま押し出されてきたものを火山岩尖、また、地表を隆起させたが溶岩自体は噴出しないで終わった(溶岩ドームになりそこなった)ものを潜在ドーム(潜在円頂丘)という。
- 例 - 昭和新山、アトサヌプリ、茶臼岳、妙高山、平成新山、雲仙岳、金峰山 (熊本県)
側火山
複成火山の主火口から離れたところにできる小火山を、側火山または寄生火山と呼ぶ。その名の通り、大火山の側にできる別の火口である。多くは一度の噴火で形成される単成火山である。
旧分類
1911年、ドイツのカール・シュナイダーは、火山地形を次のように分類した。
- トロイデ(鐘状火山、しょうじょうかざん)
- コニーデ(成層火山、せいそうかざん)
- アスピーテ(楯状火山、たてじょうかざん)
- ホマーテ(臼状火山、きゅうじょうかざん)
- ベロニーテ(火山岩尖、かざんがんせん)
- マール
- カルデラ
- ペジオニーテ(溶岩台地、ようがんだいち)
- ラピリ台地(火砕岩台地、かさいがんだいち)
この分類は、日本では、特に地理分野で広く使われたが、海外では、過去においてもほとんど使われていない。この分類は、成因をまったく考慮せずに、現在の地形だけで定義したものであった。火山の研究が進むにつれて、形成過程がまったく違うのに、侵食などによって同じような地形になってしまう例(たとえば、成層火山であるのに侵食で平坦になった偽アスピーテ)が次々発見され、シュナイダーの分類では不都合であることが明らかとなった。このことは、1950年代にはすでに認識され[2]、マールを除き、日本の火山学、地質学においては、1970年ごろからほとんど使用されないようになった。ただし、地理の分野では、現在でも使用例があり、観光地の看板などにこれらの名称が残っている場合があるので、完全に、死語となっているわけではない。多くの火山研究者はシュナイダーの分類用語を使わないことを推奨している。
活動度による分類
かつては活発に活動中である活火山、噴火活動の記録はあるがその時点において噴火活動が起きていない休火山、有史以来噴火活動の記録のない死火山に分類されてきた。しかし、休火山や死火山が突如として噴火する事態が多発し、実状に合わないとして段階的に見直しがされた。現在では「活火山」と「それ以外の火山」に分けられている。日本の火山噴火予知連絡会・気象庁による定義によれば、活火山は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」とされている。また、活火山内においても活動の頻度には大きな差があるため、火山噴火予知連絡会は活火山をその噴火頻度によってABCの3つのランクに分けて分類している[3]。
火山のできる場所
火山は地球上のどこにでもできるわけではない。火山ができる場所は大きく分けて3種類ある。
- プレート発散型境界(リフトバレー、海嶺)
- プレートテクトニクスによれば、地球上で最も火山活動が活発なのは、熱いマントルが上昇してきて、地殻が新たに生成される場所、すなわち発散型境界である。発散型境界はふつう、長く続く谷地形となっているので、リフトバレーとも呼ぶ。リフトバレーの多くは海底にあり、海嶺とよばれる。海嶺では、地下から新しい玄武岩質マグマが次々に供給されて、海底で固まり、海洋地殻となって海嶺の両側に移動していく。世界で唯一、アイスランドが海嶺を地上で観察できる場所で、アイスランド島は中央部の地溝から東西に拡大しつつあり、活発な火山活動が起きている[4]。また、陸上のリフトバレーの代表的なものがグレート・リフト・バレー(東アフリカ大地溝帯)であり、同様に活発な火山活動を伴って東西に拡大しつつあるが、ここはプレート境界ではなく、ホット・プルームによってアフリカプレートが引き裂かれつつある部分と考えられている[5]。
- プレート収束型境界(海溝)
- プレートテクトニクスによれば、発散型境界で生成したプレートは、収束型境界で他のプレートとぶつかり、マントルまで沈み込んで消滅したり、プレート同士が重なり合ったりする。火山が発生するのは主に前者で、海洋プレートが他のプレートの下に沈み込む海溝に沿って分布する。海溝で沈み込んでいる海洋プレート表面の岩石には、多量の水が含まれている。水分を含んだ岩石は、融解温度が低下するので、沈み込みにより地下深部に達すると、通常よりも低い温度で融けはじめ、マグマが発生すると考えられている[6]。マグマの発生条件は、水分のほか主に温度と圧力に依存し、温度と圧力はほぼ深さによって決まる。従って、マグマが発生するのは、海溝から沈み込んだプレートがある一定の深さに到達した場所であり、それより海溝に近い(沈み込んだプレートが浅い)場所ではマグマは発生しない。マグマは発生した場所から浮力によってほぼ真上に上昇し火山を形成するので、必然的に、火山は海溝から一定の距離だけ離れた位置に、海溝に平行に分布することになる。この火山列を、これより前(海溝側)には火山がないという意味で火山フロント又は火山前線という[7]。また、これよりも海溝から離れた位置にも火山が点在することが多いが、このような場所では、沈み込んだプレートがさらに深い場所に達し、別の成分が融解するなどして、散発的にマグマが発生すると考えられている。沈み込み帯では、沈み込んだプレートが融解する時に、すでに海底堆積物が混入していたり、マグマが上昇する途中で地殻の岩石が混入したりするため、火山から噴出するのは、安山岩質から流紋岩質のマグマであることが多い。日本やカムチャツカ半島をはじめとする太平洋周辺や、地中海の火山はこのタイプである。
- ホットスポット
- 地表の特定箇所に、継続的に大量のマグマが供給される場所があり、これをホットスポットという。ホットスポットの位置は、プレートの動きとは無関係に一定しており、プレートよりも下のマントルに発生源があると考えられている。ハワイ火山列島がこのタイプで、固定したホットスポットで噴火が起こり火山島ができる一方で、太平洋プレートが北西に動くため、古い火山島が北西にずれていくとともに、南東側に新しい火山島ができ、結果として北西ほど古く南東ほど新しい火山列島となっている[8]。他に、イエローストーン、ガラパゴス諸島がホットスポットとして知られており、また、アイスランドは大西洋中央海嶺とホットスポットが重なっているため、火山活動が特に活発であると考えられている。
これら3種類以外に、過去にスーパープルームと呼ばれる、核付近からの大規模なマントル上昇による大噴火もあったと考えられている。また、21世紀初頭には、プチスポットと呼ばれる、上記3タイプに該当しない新たな海底火山が発見されている[9]。
- ^ “複成火山と単成火山”. 静岡大学小山研究室. 2014年10月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月9日閲覧。
- ^ 久野久 1954.
- ^ 最近一万年間の火山活動に基づく火山活動度指数による日本の活火山のランク分けについて 林豊・宇平幸一 気象庁 験震時報71巻 pp.59-78
- ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p105 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
- ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p123-124 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
- ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p156-158 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
- ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p192-194 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
- ^ 「島の地理学 小さな島々の島嶼性」p40-42 スティーブン・A・ロイル 中俣均訳 法政大学出版局 2018年8月30日初版第1刷発行
- ^ 平野直人 (2006年8月17日). “新種の火山を発見〜プチスポット火山〜”. 火山学最前線レポート. 日本火山の会. 2012年4月13日閲覧。
- ^ 「南太平洋を知るための58章 メラネシア ポリネシア」p25 吉岡正徳・石森大知編著 明石書店 2010年9月25日初版第1刷
- ^ 図説 火山と人間の歴史 2013, p. 107-108.
- ^ 火山に強くなる本 2003, p. 35.
- ^ 基礎地球科学 2010, p. 186.
- ^ https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/rovdm/Miyakejima_rovdm/miyakejima_gas.html 「火山ガス」気象庁三宅島火山防災連絡事務所 2022年1月19日閲覧
- ^ 基礎地球科学 2010, p. 185.
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- ^ http://www.sabopc.or.jp/library/volcanic_disaster/ 「火山災害」土砂災害防止広報センター 2022年1月19日閲覧
- ^ “アイスランドの噴火で欧州の空に混乱、英国では全飛行を禁止”. AFPBB News. (2010年4月15日) 2016年5月9日閲覧。
- ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130822/362219/ 「海底火山が生んだ幻の新島」ナショナルジオグラフィック日本版 2013.08.28 2022年1月19日閲覧
- ^ “パプアニューギニアで火山が噴火、航空機は迂回”. AFPBB News. (2014年8月29日) 2016年5月9日閲覧。
- ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/031400115/?P=1 「古代の超巨大噴火、人類はこうして生き延びた」ナショナルジオグラフィック 2018.03.14 2020年9月8日閲覧
- ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/041500050/ 「史上最大の噴火は世界をこれだけ変えた 200年前のタンボラ山噴火から現代の被害を想像する」ナショナルジオグラフィック 2015.04.16 2020年9月8日閲覧
- ^ https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-volcano-horiki/ 「観光地と災害について考える」堀木美告 日本交通公社 2015年12月4日 2022年1月19日閲覧
- ^ https://izugeopark.org/maps/category-c04/ 「湧き水・温泉」伊豆半島ジオパーク 2022年1月19日閲覧
- ^ a b 火山工学入門 2009, p. 199.
- ^ 「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p374-375 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷
- ^ https://www.city.date.hokkaido.jp/hotnews/detail/00001026.html 「有珠山噴火に備えて」伊達市 2022年1月19日閲覧
- ^ 「2020-2021 日経キーワード」p149 日経HR編集部編著 日経HR社 2019年12月4日第1刷
- ^ 「御嶽山の噴火災害を踏まえた火山情報の見直しについて~「火山の状況に関する解説情報」等の変更~」気象庁、2015年5月12日付、2016年5月9日閲覧
- ^ 太陽系探検ガイド 2012, p. 5.
- ^ 太陽系のすべて 2006, p. 42.
- ^ 太陽系のすべて 2006, p. 20.
- ^ 太陽系探検ガイド 2012, p. 177-180.
- ^ 太陽系探検ガイド 2012, p. 9.
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