潜水艦 構造

潜水艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/21 05:08 UTC 版)

構造

船体形状

潜水艦の船体形状には、以下のようなものがある。

水上船型船体。WW2時期の独海軍UボートVII型。船体中央部の張り出しは非耐圧性の海水・燃料槽
涙滴型。キロ型潜水艦
葉巻型船体。そうりゅう型潜水艦
鯨体型船体。トラファルガー級原潜
魚体型
プロテクター号やホランド号など、黎明期の潜水艦に見られた。魚体型は水中抵抗が少ない船体形状であり、後の涙滴型や葉巻型の先駆けというべき形状であった。もっとも、その効果を意図的に狙ったというよりは、単にの外見を真似て造形されたために出来上がった形状であった。
水上船型
第一次世界大戦 - 第二次世界大戦頃の潜水艦に見られる形状。当時の潜水艦は潜航時間より浮上時間の方が圧倒的に長かったので、水上戦闘艦と同様に水上抵抗(造波抵抗)が少ない水上船型形状を採用していた。
第二次世界大戦後は次第に涙滴型や葉巻型に代替されていったが、水上航行時には利点が大きいので、通常動力型潜水艦の一部には未だに水上船型船体のものも存在する。
涙滴型
水滴型とも呼ばれる。水中抵抗が少ない形状である。高性能な蓄電池や原子力機関の登場で、潜水艦の水中行動能力が増加したために採用されるようになった。史上初の涙滴型潜水艦は、1950年代に米海軍が就役させた実験潜水艦「アルバコア」である。ただし、涙滴型は抵抗が少ないが船体空間容量が乏しいため、改良型である葉巻型が登場した。
葉巻型
魚雷型などとも呼ばれる。涙滴型の船体中央部を延伸することで、船体容積の増加を図った形状。第二次世界大戦後から現代に至る潜水艦の大半はこの形状である。
葉巻型の亜流に鯨体型がある。鯨体型船体は船体下部のみを船型とした形状であり、葉巻型に比べ水上航行に適している。

耐圧殻

潜水艦は潜航時には水圧が加わるので、船体は水圧に潰されない強度が必要である。船体の耐圧部分は耐圧殻と呼ばれる。耐圧殻の配置形式には大別して単殻式と複殻式がある。

単殻式
船体は耐圧構造船殻一層のみで、その内部に居住区画、機関、海水タンク、燃料タンクなどを収容している。つまり、船体自身が耐圧殻といえる。構造が単純であり、船体の小型化が可能であるが、海水槽を船体内部に搭載する必要があり、船体容量が少なくなる。
サドルタンク式
基本的に単殻式と同一であるが、船体外部側面にバルジを設置して、バルジ内部空間を燃料タンクとして利用したもの。第二次大戦期の潜水艦で多く採用された。バルジに加わる水圧は燃料を介して内殻に伝わるため、バルジは非耐圧でも問題ない。ただし、燃料消費後はバルジ内部が空になり、そのままだと水圧で潰されてしまうので、代わりに海水を注入する。
複殻式
非耐圧構造の外殻と耐圧構造の内殻の二層からなる二重構造船体であり、ちょうど魔法瓶のようにできている。外殻と内殻の空間は燃料タンクまたは海水タンクとして利用し、内殻内部に居住区画その他を収容する。
外部の海水から掛かる水圧は外殻には掛からず、外殻と内殻の間にある海水または燃料を介して内殻に伝わる。そのため、外殻は非耐圧でも問題ない。
複殻式の特徴は以下のとおり。
  • 外殻と内殻の間を、燃料や海水を入れる空間に利用可能である。そのため、航続力や予備浮力を増加できる。
  • 外殻と内殻が離れているため、外部に漏れる騒音を減らすことができる。また、外殻が中空装甲として機能するので、被弾時に外殻や間の海水・燃料が爆圧を吸収し、内殻への衝撃が少なくなり、被害を低減できる。そのため、生存性向上に寄与する。
半殻式
部分複殻式とも呼ばれる。船体に単殻式部分と複殻式部分を混在させた、両者の中間的形態である。
複眼式
外殻内部に2本の内殻がある構造。伊四百型潜水艦タイフーン型原潜など、大型の戦略級潜水艦に見られる。

船殻材

船殻材(船体構造材)には、深海での水圧に耐えられる高強度の素材が必要とされる。潜水艦の船殻(せんこく)には主に高張力鋼が用いられている。

ソ連のアルファ型原潜など、チタン合金を採用したものもある。チタン合金は、高張力鋼より磁性が低く、磁気探知機による被捕捉率が低く、同じ重量の高張力鋼より強度も高いなどの利点がある。しかし、加工が困難なこと、音波の反射性が高いこと、高張力鋼より材料費が高いことなどから一般化していない。

潜水機構

艦内各部にはタンクが配され、重量と姿勢を制御する

潜水艦は浮上時は、船体排水量が浮力より小さいので、水上に浮いている。潜りたい時は、艦内の海水槽に海水を注入し、船体排水量を浮力より大きくすることで沈降する。海水槽にはメインバラストタンク(メインタンク、バラストタンクなどという。)、ネガティブタンクトリムタンクがある。メインタンクは海水または空気を注入する船体浮力調整用タンクである。ネガティブタンクはメインタンクの補助用の浮力微調整用小型タンクで、通常メインタンクとは逆の注排水を行う。トリムタンクはトリム(艦の前後の傾き)調整用であり、船体前後に2箇所設置されており、船体前後の浮力比を操作する。

潜水艦は潜航する場合、まずベント弁(メインタンク内部空気排出弁)を開く。すると、フラッドホール(メインタンク下部の海水注入用の穴)から海水が入り、船体浮力が低下して艦が沈下を開始する。その後、トリムタンクや舵を操作して艦首を下げ、目標深度へ到達する。目標深度到達後は、トリムを調節して水平状態を保てるようにする。浮上時には、艦内の圧縮空気タンクからメインタンクへの空気を注入すると、タンク内から海水が排出されて船体浮力が増し、艦は浮き始める。この操作は(メインタンク・)ブローと呼ばれる(艦長の下命も同様に発声する)。

なお潜水艦の最大潜航深度は重要な軍事機密であり、観艦式などでは、外部の人間に深度計を見られないように、貼り紙などで隠してしまうほどである。したがって、公表潜航深度は参考程度の価値しかないが、それらによると、攻撃型潜水艦の潜航深度は300 - 600m程度、戦略ミサイル原潜が100 - 500m程度である。武装した潜水艦の潜航深度記録は、1985年にチタン合金船殻のソ連原潜「K-278」が記録した1,027mで、K-278はこの深度で魚雷発射が可能であったと言われている。当時この深度の潜水艦を探知・攻撃する能力はどの国にも無かった。なお、軍事以外の潜水艇の深度世界記録は、1960年に深海調査艇「トリエステ」が出した深度10,916mである。

操舵系統

潜水艦は水上艦と違い、トリムバランス以外にも水中での三次元立体運動を行う必要があるため、縦舵の他に横舵と潜舵を装備している。

潜舵は反応性が良好な艦首部に装着されていた(バウ・プレーン方式)。しかし、艦首部にソナーなどの音響装置が装着されるようになると、艦首部ソナーへの雑音低減のために潜舵は艦橋側面に装着されるようになった(セイル・プレーン方式)。ソ連・ロシア海軍の潜水艦は北極海において浮上する際に海氷を艦橋上部で破砕するため、艦橋に潜舵があると損壊する危険があるためバウ・プレーン方式を維持している。

また、艦尾の操舵部分は十字型が多かったが、近年は「事故による損傷からのフェイルセーフ」と「水中での操舵性向上」のためX型の操舵翼が増えてきている。

推進装置

潜水艦の推進装置には、スクリュー・プロペラが使用される。潜水艦では特に、キャビテーションが大きな問題となる。キャビテーションはプロペラの腐食、振動、推進効率低下などを引き起こすが、潜水艦では特に騒音の発生が問題となる。

キャビテーション低減のため、ハイスキュード・プロペラと呼ばれる三日月型櫂を持つプロペラが開発された。このプロペラの加工には高度な製造技術が必要であり、形状から性能も推し量れるため、各国とも最新鋭潜水艦の進水式ではプロペラ部を隠して進水させている。海上自衛隊呉史料館の「あきしお」のように旧式艦となって退役後に展示される場合もダミーのプロペラに交換されている。また、プロペラ加工装置を巡って、東芝COCOM違反事件のような日米外交問題もかつては発生した。

キャビテーションを抑制するため、シュラウドリング(円環)を装備したポンプジェット推進方式(ダクト付きプロペラ方式)もある。これは一般プロペラと比べて推進効率が低く(45%程度。一般プロペラの推進効率は65%程)、出力に余裕がある原子力潜水艦での採用がほとんどであり。なお、ソ連・ロシアの潜水艦にはポンプジェット推進でなくても北極海の海氷からプロペラを保護する目的でシュラウドリングを装備したものもある。


注釈

  1. ^ 上記文でも述べられているフォークランド紛争中盤、イギリスの潜水艦に巡洋艦を沈められたアルゼンチン海軍はそれ以上の艦艇の損失を恐れてそれまで外洋に展開させていた海上部隊(空母含む)を本国の港に帰還させ、以降紛争終結まで海上作戦をとることはなかった[4](詳細は「フォークランド紛争#航空・海上優勢を巡る戦闘」を参照)。もっともイギリス海軍はこの一件で制海権をほぼ確保できたとはいえ、アルゼンチン空軍シュペル・エタンダールA-4スカイホークに代表される攻撃機の空襲、唯一外洋に展開するアルゼンチン艦となった潜水艦「サン・ルイス英語版」に悩まされることになる。
  2. ^ かわぐちかいじの漫画『沈黙の艦隊』の英題も「The Silent Service」である。
  3. ^ IDAS (ミサイル)#潜水艦発射の対空ミサイルキロ型潜水艦#概要UボートVII型#バリエーションを参照。
  4. ^ 一般にシャワーはあるものの、浴槽はスペースと水の関係から無いことが多い。

出典

  1. ^ トム・クランシー 1997, p. 246 - 328.
  2. ^ a b トム・クランシー 1997, p. 16
  3. ^ 山内敏秀 2015, p. 4.
  4. ^ アルフレッド・プライス、ジェフリー・エセル『空戦フォークランド ハリアー英国を救う』江畑謙介(訳)、原書房、1984年、73頁。ISBN 4-562-01462-8 
  5. ^ 学習研究社 2001, p. 10.
  6. ^ 坂本明 2013, p. 9.
  7. ^ 山内敏秀 2015, p. 130.
  8. ^ トム・クランシー 1997, p. 30.
  9. ^ a b 世界の艦船 増刊 第105集『潜水艦 100のトリビア』著:海人社 p.16
  10. ^ Lance, Rachel M. (2017年8月23日). “Air blast injuries killed the crew of the submarine H.L. Hunley” (英語). PLOS ONE. pp. e0182244. doi:10.1371/journal.pone.0182244. 2022年6月1日閲覧。
  11. ^ 三訂版, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,日本大百科全書(ニッポニカ),百科事典マイペディア,旺文社世界史事典. “ルシタニア号事件とは”. コトバンク. 2022年6月2日閲覧。
  12. ^ 日本放送協会. “豪華客船ルシタニア沈没の真実|BS世界のドキュメンタリー|NHK BS1”. BS世界のドキュメンタリー|NHK BS1. 2022年6月2日閲覧。
  13. ^ 北林雄明「英潜水艦の戦歴」『世界の艦船』454(1992年8月号)より。
  14. ^ 世界の艦船 増刊 第105集『潜水艦 100のトリビア』著:海人社
  15. ^ BGM-109 Tomahawk - Operational Use”. www.globalsecurity.org. 2022年6月5日閲覧。
  16. ^ http://www.dtic.mil/cgi-bin/GetTRDoc?AD=ADA441621&Location=U2&doc=GetTRDoc.pdf NATIONAL WAR COLLEGE 'Do We Still Need Ballistic Missiles?'
  17. ^ 通信途絶「想定せず」 潜水艦事故で山村海上幕僚長:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2021年2月11日閲覧。
  18. ^ “USS Los Angeles Embarks With a Piece of Submarine History”. US Navy. (2007年5月16日). http://www.navy.mil/search/display.asp?story_id=29429 2013年2月10日閲覧。 
  19. ^ 徽章 階級章等アクセサリー 海自のファッション - 海上自衛隊八戸航空基地
  20. ^ 海上自衛隊の潜水艦で初の女性乗組員 広島 呉 - NHK
  21. ^ 教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(2019年1月12日放送)、朝日放送テレビ制作。
  22. ^ 「女性進出」の韓国海軍、今度は潜水艦に=「閉鎖された空間に若い男女、絶対何か起きる」「これは隊員の生命に関わること!」―韓国ネットレコードチャイナ(2017年11月16日)2017年12月9日閲覧
  23. ^ おバカ映画のような不祥事次々… 英潜水艦「セックス&ドラッグ」事件 デイリー新潮(2017年11月16日)2017年12月9日閲覧
  24. ^ アルゼンチン海軍の潜水艦、連絡途絶える 同国初の女性潜水艦将校も乗艦”. AERA.dot (2017年11月18日). 2018年11月17日閲覧。
  25. ^ 世界初 魚雷迎撃魚雷「シースパイダー」あらわる 潜水艦と水上艦の戦い 変わるのか? - 乗りものニュース
  26. ^ a b c d e 世界の艦船 2012.9増刊 第105集『潜水艦 100のトリビア』著者: 海人社 p.90-91
  27. ^ 海上自衛隊の職種”. www.mod.go.jp. 自衛隊. 2022年8月2日閲覧。
  28. ^ Kalinyak, Rachael (2017年4月17日). “Sailors test new submarine steam suits” (英語). Navy Times. 2022年8月2日閲覧。
  29. ^ Damage Control”. americanhistory.si.edu. 国立アメリカ歴史博物館. 2022年8月2日閲覧。
  30. ^ 軍艦の防御 その3 著:山本善之 出版社:日本船舶海洋工学会
  31. ^ 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.54(2), Jun, 2019 潜水艦からの個人脱出 著:池田 知純
  32. ^ ИДА-59М” (ロシア語). Люди Воды. 2022年5月30日閲覧。
  33. ^ ☠ Статьи о дайвинге”. freecorsair.com. 2022年5月30日閲覧。
  34. ^ Strandgut - Januar” (ドイツ語). Deutsches U-Boot-Museum. 2022年5月31日閲覧。
  35. ^ 中国が世界最大の通常動力潜水艦を建造 多くの新型武器搭載_中国網_日本語”. japanese.china.org.cn. 2022年5月31日閲覧。






潜水艦と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「潜水艦」の関連用語

潜水艦のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



潜水艦のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの潜水艦 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS