滋賀県 歴史

滋賀県

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/17 06:09 UTC 版)

歴史

滋賀県はその地理的特性から、奈良・京・大坂への物資や人材の供給源および中継地、あるいは畿内と東国・北国とを結ぶ要衝として発展し、日本の中央史に大きく関わってきた。

白洲正子は随筆『近江山河抄』の中で「近江は日本の楽屋裏」と評した。また歴史学者の今谷明は著書『近江から日本史を読み直す』の中で「近江の歴史を書くことは、日本通史を著すのと同じこと」と語り、近江の歴史的価値と重要性を奈良・京と同等かそれ以上に高く評価している。

延暦寺横川中堂
安土城大手道
近江八幡市新町通り重伝建
彦根城特別史跡
滋賀県最高峰伊吹山とJR東海東海道新幹線 (N700系)

古代

弥生時代から多くの渡来人が入植し、都に近いために早い時期から開発が進められた。

伝承の時代ではあるが、記紀の記事によれば、第12代景行天皇、第13代成務天皇、第14代仲哀天皇志賀高穴穂宮(大津市)で天下を治めたとあり、古代から政治的に重要な地域であったことを示唆している。

国造が分立した時代には、滋賀県は淡海国造安国造の領域であった。その他、犬上県主や息長氏蒲生稲置三上祝など有力豪族が多く存在した。

古墳時代の5世紀中葉に現皇室の直系の皇祖に当たる継体天皇が近江で生誕し、仁徳朝の25代目武烈天皇が断絶したため、507年に第26代天皇として即位している。飛鳥時代には近江大津宮天智天皇)、奈良時代には紫香楽宮聖武天皇)や保良宮淳仁天皇)が置かれた。壬申の乱藤原仲麻呂の乱といった戦乱の舞台となることがたびたびあった。

奈良時代に藤原仲麻呂が編纂した藤原氏の「家伝」には、「近江国は宇宙(あめのした)に名の有る地なり。地広くして人衆(おお)くして、国富み家給(そな)う。」[13] と書かれており、古代近江は琵琶湖の淡水を介在し、広い平野に多くの人達が住んでおり、豊かな地であった。

近江は延喜式内社の総数が近畿圏では、大和に次いで2番目、全国でも大和、伊勢、出雲に次いで4番目に多く、古代から近江は日本の重要な地位を担っていたといえる。(近江国の式内社一覧

中世

平安時代初期に近江出身の僧最澄比叡山延暦寺を開創した。延暦寺は数々の名僧を輩出し、現代に続く日本の仏教文化を大きく発展させた。

平安中期より佐々木氏が近江に起こった。佐々木氏は源頼朝関東地方で勃興するとこれに積極的に加わり、近江一国の守護職を得た。以降、六角氏京極氏に分かれながら、佐々木一族は戦国時代に至るまで近江国を支配した。南北朝期にはばさら大名で有名な佐々木道誉(高氏)が出て京極家の勢威を伸ばした。

本願寺蓮如の大布教が始まると、大津付近は一向宗色が強くなった。このため、これを喜ばない比叡山がたびたび攻撃を仕掛けた。比叡山東麓の坂本は一向宗の堅田と経済的にも対立していたことから、両者の抗争は頻繁であった。この後に蓮如は大津に一向宗拠点を構えた。

戦国時代

戦国時代に入ると、北部に浅井氏が台頭する。形の上で京極氏を奉じた浅井氏は南部を領する六角氏と抗争する。織田信長と結んだ浅井長政に至って六角氏を駆逐するが、後に将軍の信長包囲網に加わって信長に抵抗、小谷城の戦いにより、1573年(天正元年)に滅んだ。

近江国を支配圏に入れた信長は、根拠地として近江盆地安土城を築城する。信長の死後は畿内を地盤とする羽柴秀吉と、越前国北の庄を地盤とする柴田勝家の係争地となり、北部で行われた賤ヶ岳の戦いにおける秀吉の勝利で決着がつけられた。秀吉は初めての領地が長浜であった関係で、多数の近江国住民を主に事務方として登用した。石田三成はその1人である。また秀吉の甥豊臣秀次八幡山城およびその城下町を築き、琵琶湖につながる運河八幡堀を整備し、商業を振興させた。

その他、近江からは蒲生氏郷藤堂高虎大谷吉継など数々の名武将を輩出した。戦国時代から江戸時代にかけての甲賀郡では甲賀流忍者が活動していた。

近世

徳川家康は、徳川氏における精鋭軍を率いる井伊氏を関ヶ原に近い彦根に入封させて西国の抑えとし、北部の大部分は彦根藩の領土となった。まとまった大藩は彦根藩のみであり、その他は膳所藩水口藩大溝藩西大路藩宮川藩山上藩三上藩といった小藩、交代寄合の最上家の大森陣屋、交代寄合の朽木家の朽木陣屋、さらに他国の諸藩領や天領などが入り交じり、江戸時代の近江国の領地区分は複雑な様相を呈していた。江戸時代初期には将軍上洛用御殿が水口城、永原御殿、伊庭御殿、柏原御殿とあったが、3代将軍家光以降は上洛が途切れ御殿が次第に老朽化して、廃れていった。

文化面において特筆すべきは、江戸初期の人物で近江聖人とも称された儒教学者中江藤樹が活躍し、日本の陽明学を発展させた。松尾芭蕉義仲寺に眠る)は近江を旧里と呼ぶほど好んで訪れ俳諧を高めたとともに、近江蕉門と呼ばれる数多くの門人を輩出した。

また江戸時代には、鎌倉時代から続く商工業が飛躍的に発達し、犬上・愛知・神崎・蒲生・高島の各郡、特に八幡日野五個荘などから近江商人を多く輩出した。一部の商人は幕末から明治維新の混乱で没落したものの、近代以降も多くの近江商人が活躍し、今日に至る日本経済の発展に寄与した。

近代

明治維新により幕府領旗本領大津県が設置された後、廃藩置県によって各藩は各県に移行し、1871年11月22日、新たな大津県(滋賀郡・蒲生郡以南)と長浜県(高島郡・神崎郡以北)に統合された。翌1872年1月19日に大津県が滋賀県[14]、2月27日に長浜県が犬上県にそれぞれ改称され、9月28日に両県が合併し、近江国、並びに現在と領域を同じくする新たな滋賀県が成立した。その後、1876年8月21日から1881年2月7日までの4年半には、現在の福井県嶺南地方(敦賀市以西)を編入した[15]。この間、滋賀県は若狭湾に面していたことになる[16]。敦賀市以西を分離する際、地元では反対運動がおこり、時の滋賀県令、籠手田安定が1881年2月、反対文書(若狭・越前四郡離脱に対する建議書[17])を、太政大臣三条実美内務卿松方正義宛に送った。本庁舎は大津に置かれたが、南西に偏在しているため、近江国最大の城下町であった彦根も候補に上がっていた。1891年1936年の2度、大津から彦根への本庁舎移転運動が起こったことがある[18]


注釈

  1. ^ 琵琶湖の鮎は琵琶湖に留まったままでは大きく成長しない。近江の商人もそれと同様に、近江から出ていった方が大成できるという意味。
  2. ^ 総務省の2010年(平成22年)国勢調査によると、2005年(平成17年)から2010年(平成22年)の人口増減率が47都道府県中5位(首都圏を除くと沖縄県に次いで2番目)
  3. ^ ただし、びわ湖放送が当該天気予報コーナーをネットしたかどうかは不明。
  4. ^ 北川(北川水系)と藤古川(木曽川水系)を除き、全て淀川水系である。
  5. ^ 浅井郡・伊香郡の変更以外で、1950年(昭和25年)4月1日の時点で大宝律令以来の郡と区域が異なっていたのは以下の地域。
    神崎郡葉枝見村(現:彦根市)の愛知郡への移行(1896年)
    坂田郡相撲庭(現:長浜市)の東浅井郡への移行(1889年(明治22年))
    大津市(1898年(明治31年)に市制移行、滋賀郡離脱。1950年(昭和25年)時点では坂本以北と瀬田川以東を含まず)・彦根市(1937年(昭和12年)に市制移行、犬上郡離脱。1950年(昭和25年)時点では鳥居本・高宮と荒神山・河瀬以南含まず)・長浜市(1943年(昭和18年)に市制移行、坂田郡離脱。1950年(昭和25年)時点で平成の大合併直前の市域と同じ)の市制移行による郡からの離脱
    栗太郡物部村(現:守山市)の野洲郡への移行(1921年(大正10年))など。
  6. ^ 以前の呼称は大津・志賀地域
  7. ^ 以前の呼称は湖南地域。
  8. ^ 以前の呼称は中部地域。
  9. ^ 湖北地域とともに東北部地域とされることがある。
  10. ^ 以前の呼称は湖西地域。
  11. ^ 琵琶湖に面している自治体は琵琶湖の面積を含む。
  12. ^ 教育テレビは大阪放送局管轄。なお県内には教育テレビの中継局が所在する。
  13. ^ 第2放送は大阪放送局管轄。大阪府羽曳野市の送信所からの直接受信。
  14. ^ 放送免許範囲の問題から地上波では受信可能なのにもかかわらず、当初はケーブルテレビ局での再送信が認められなかった。

出典

  1. ^ 「近江を制するものは天下を制す」信長、秀吉ゆかりの“城の国”…埋もれた山城を発掘“地方創生”に”. 産経WEST (2015年3月12日). 2017年1月15日閲覧。
  2. ^ 新評論「地域再生 滋賀の挑戦」(森川稔編集)より。
  3. ^ a b 滋賀県なんでも一番|滋賀県ホームページ”. 滋賀県. 2023年1月15日閲覧。
  4. ^ 企業「環境先進県進出はメリット」(読売新聞)[リンク切れ]
  5. ^ 田中, 将隆 (2014年2月19日). “数字でみる滋賀県:積雪量世界記録11.82メートル /滋賀”. 毎日新聞 地方版/滋賀 (志賀: 毎日新聞社): pp. 27 
  6. ^ 国会図書館レファレンス共同データベース
  7. ^ 「琵琶湖研究所所報 (1986)」 流域を読む(姉川編)2 - 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
  8. ^ a b 国土交通省気象庁・気象統計情報
  9. ^ 観測地点名は彦根地方気象台の「防災情報で使用する地点名」に拠った。
  10. ^ 国土交通省気象庁・気象統計情報・過去の気象データ検索
  11. ^ 『角川日本地名大辞典 25 滋賀県』1979年、角川書店、24頁。
  12. ^ 県内の市町一覧/滋賀県
  13. ^ 古代近江の三都 大津宮 紫香楽宮 甲賀宮 保良宮の謎を解く サンライズ出版 (2021/3/5) P5
  14. ^ 滋賀県のはじまり - 滋賀県
  15. ^ 敦賀県廃止、越前国敦賀郡並びに若狭国を滋賀県へ編入の件 - 滋賀県歴史的文書【明い81(3)】
  16. ^ 滋賀県県政史料室 - 滋賀県(日本海に面した滋賀県の地図)
  17. ^ 若狭・越前四郡離脱に関する建議書 - 滋賀県歴史的文書【明お76合本5(31)】
  18. ^ 【コラム1】滋賀県庁舎の移転騒動 - 滋賀県
  19. ^ a b c 奥平真也. “滋賀県人口微増、草津や守山で増加 国勢調査”. 朝日新聞. https://www.asahi.com/articles/ASPD36W7KPD1PTJB00F.html 2022年4月29日閲覧。 
  20. ^ 日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)
  21. ^ 全国比較でみる滋賀県の財政状況[リンク切れ]より。
  22. ^ a b 滋賀県内の農業、JA滋賀中央会、2014年1月26日閲覧
  23. ^ 近江の茶、滋賀県農政水産部、2014年1月26日閲覧。
  24. ^ 内閣府の2006年(平成18年)度県民経済計算によると、総生産に占める第2次産業の割合が46.7 %で1位。
  25. ^ 平成22年滋賀県工業統計調査 による。
  26. ^ 厚生労働省都道府県別医薬品生産金額 厚生労働省、2023年11月3日閲覧
  27. ^ 豊かな自然と歴史の流れの中で育まれた地場産業”. 滋賀県中小企業団体中央会. 2023年11月3日閲覧。
  28. ^ 滋賀健康創生特区が指定
  29. ^ 県内総生産額ランキング 都道府県格付研究所、2023年11月3日閲覧
  30. ^ 内閣府平成25年度県民経済計算 一人当たり県民所得ランキング 社会実情データ図録、2023年11月3日閲覧
  31. ^ 桑畠滋 (2011年12月14日). “2020年度までの都道府県別成長率予測”. ニッセイ基礎研究所. 2023年11月3日閲覧。
  32. ^ 平成27年版 労働経済の分析 -労働生産性と雇用・労働問題への対応-(第4章第3節) 厚生労働省
  33. ^ 総務省統計局・労働力調査(基本集計)都道府県別結果
  34. ^ 滋賀ふるさと観光大使 西川貴教氏の大型野外フェス、タイトル、第二弾出演アーティスト発表!(県政eしんぶん)
  35. ^ 2014年9月現在、2015年9月30日閲覧
  36. ^ 滋賀の大学 滋賀県、2020年10月7日閲覧。
  37. ^ 都道府県別四年制大学生数 都道府県別統計とランキングで見る県民性、2020年10月7日閲覧。
  38. ^ ほぼ日刊イトイ新聞みうらじゅんに訊け! ―この島国篇―、2008年6月15日、2010年6月20日閲覧。
  39. ^ 国土交通省発表内閣総理大臣賞 より。
  40. ^ 京都新聞による 京都府・滋賀県の市郡別各紙朝刊部数データ京都府・滋賀県の新聞のシェアデータ から、中日新聞(前者データの「その他」と後者データの「F紙」)の滋賀県および県内各市郡での部数・シェアがわかる。
  41. ^ 『角川日本地名大辞典 25 滋賀県』1979年、角川書店、25頁。
  42. ^ NHKが1996年に実施した「全国県民意識調査」によると、「『よそ者』というような言葉が、この地域ではまだ生きている。」という項目で2位。
  43. ^ 祖父江孝男「県民・日本人気質」河出書房新書編集・発行(木津川計『含羞都市へ』61-62頁)
  44. ^ 『風俗文選(森川許六 選)・和漢文操(各務支考 編)・鶉衣(横井也有 著)』藤井紫影、武笠三諸 校訂、有朋堂書店(有朋堂文庫)1918年(大正7年)38頁
  45. ^ 新潮社「近江路散歩」より
  46. ^ 司馬遼太郎『街道をゆく』より「近江というこのあわあわとした国名を口ずさむだけでもう、 私には詩がはじまっているほど、この国が好きである」
  47. ^ 京都新聞記事「平成23年 滋賀県、昨年の観光客が最多に」
  48. ^ 京都新聞記事「湖国ラーメン 戦国期へ」
  49. ^ 読売新聞記事「旅行企画、県などブランド認定」
  50. ^ 第1次ナショナルサイクルルートを指定しました!
  51. ^ 文化庁「文化財指定等の件数






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