清 文化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/15 13:18 UTC 版)

文化

康熙字典
音楽家

後金から清成立時にはモンゴル文字から満洲文字が作られ、歴史記録の編纂が始まった。この初期の記録は後に20世紀初に内藤湖南により発見され、「満文老档」と名付けられている。

順治帝は漢文化に傾倒したことで有名であり、康熙・雍正・乾隆の三世はいずれも類稀な文人でもある。しかしその事は文化の保護に繋がらず、逆に弾圧に繋がった。異民族支配による文人達の反抗を抑えるために文字の獄と呼ばれる厳しい弾圧を行い、幾人もの文人が死罪になっている。 初期清朝は、満洲旗人達の教育に有用な漢籍を「官書」として満洲語訳して読ませたり、旗人達に漢字の習得を義務化した。

清初期ではイエズス会の宣教師等を通じて数理天文学、数学、測量技術、医学、解剖学等の西洋科学の導入が進んだ。使用言語に関してはフランス語等の西洋諸語から漢語文言文(漢文)、西洋諸語から満洲語に訳されたものが漢語文言文へという流れが存在した。フェルディナント・フェルビーストは満洲語を習得し康熙帝に進講している。

「御製五体清文鑑」の一部。上から満洲語、チベット語、チベット語の発音を満洲文字で示したもの、モンゴル語、ウイグル語(アラビア文字表記)、ウイグル語の発音を満洲文字で示したもの、漢文

上記三世の皇帝は康熙期の『康熙字典』、乾隆期の『四庫全書』などの文化事業を行ったが、それは同時に政府の近くに文人達を集める事による言論統制の意味があった。

一方で満洲語を習得している満洲八旗が減少している事を危惧し、特に乾隆帝の勅命により1787-94年(乾隆52-59)頃に満洲語、チベット語、モンゴル語、ウイグル語(アラビア文字表記)、漢語に対応した辞書の「御製五体清文鑑」 (han-i araha sunja hacin-i hergen kamciha manju gisun-i buleku bithe) が編纂された。

清の文化は越南に多大な影響を与えている。

思想

厳しい思想統制が行われる中で、考証学と呼ばれる新しい分野が生まれた。

これは聖人の教えを精釈して、忠実な思想を受け継ごうというものである。具体的にはそれまでの主観的に四書五経を読み解いている(と考えられる)朱子学陽明学を批判して、過去の経書に遡って解釈を行うこととなる。そして最も重視されたのが代のものである。

考証学では全ての経書に細密な考証が加えられ、その結果、孔子の子孫の家の壁から現れたと言う『古文尚書』が後に作られた偽作であると判明した。このようにそれまで絶対視されてきた経書にも疑問が投げかけられ、儒教自体が相対化されることになる。

また史書・地理志にも考証学の技法が用いられて、それらの誤脱を見極めて正しい事柄を見極めようとした。この分野では『二十二史箚記』の著者趙翼が有名である。

しかしこの分野は政府による文字の獄の中で次第に政府を刺激するような物は避けられるようになった。確かに研究の上では非常に大きな成果をもたらしたが、技術のための技術へとなってしまい、純粋な学問となってしまったとの批判がある。日本では学問が浮世離れしていてもごく普通に感じるかもしれないが、中国では学問とは何よりも政治のためのものであって、現実世界に寄与しない学問は無意味であるとの考え方が強い。これらの批判を受けた学者達は『春秋公羊伝』を経典とした公羊学を行うようになる。

中国文学

紅楼夢の挿絵

清代に入り、それまでの中国的な文人像が相対化されたことでそれまではこれをしなければ文人にあらずと思われていた漢詩の分野もまた相対化されて、必須のものではなくなった。もちろん多数の作者により、多数の作品が作られており、全体的には高いレベルにあったが、しかし飛び抜けた天才・名作は無い。

一方、明代から引き継いで小説戯曲の大衆文化は盛んであり、小説では『聊斎志異』『紅楼夢』、戯曲では『長生殿伝奇』『桃花扇伝奇』などが作られている。それまでは俗と考えられていたこの分野もこの時代になるとそうは捉えられなくなり、官僚層の間でも小説を評価する動きが出てきた。

現代中国で普通話のもととなる北京語が成立したのも清代である。本来北京周辺で話されていた言葉と満洲語の語彙が混じり合ったものとなったため、北京語は他の方言とは異なる特徴を持つ言葉となった。

美術

絵画の分野ではイエズス会ジュゼッペ・カスティリオーネ(郎世寧)によってもたらされた遠近法を取り入れた新しい絵画の誕生が見られる。また明初の石濤八大山人といった明の遺民たちは清に対する抵抗を絵に描き表した。

陶磁器の分野では景徳鎮は陶磁器生産の大工場としての地位を保っており、明代から引き継いで赤絵染付などの生産が行われた。しかし乾隆以降はこれらは急速に下火になり、質的にも大きく劣ると評価される。

瀋陽にある清の旧王宮北京と瀋陽の明・清王朝皇宮として世界遺産に登録されている。


注釈

  1. ^ 光緒末年から宣統改元に作成され、篆書体で「大清帝國之璽」と書かれている。
  2. ^ 五行相克では、
    • 木徳→土徳→水徳→火徳→金徳→(木徳に戻る)
    「水克火(水は火に克つ)」となる。
  3. ^ 大清皇帝に即位し崇徳と改元。
  4. ^ 一旦「祺祥」と公布されたが、辛酉政変のため改元前に同治と変更された。
  5. ^ 2004年、愛新覚羅家より廟号「恭宗」、諡号「愍皇帝」が追贈された。
  6. ^ 清朝の滅亡後は、1924年の優待条件修正案公布まで紫禁城内でのみ使用。
  7. ^ 日本銀は16世紀中期以降、石見銀山や但馬銀山などでの生産が急増し、16世紀後半には1200〜1300トン、17世紀前半には2400トンの銀が中国に流れた[13]。南蛮貿易はのち、台湾安平古堡と長崎の出島を拠点とするプロテスタント勢力のオランダ東インド会社に引き継がれた。その後の江戸には蘭学は広まったがフリントロック式燧石銃)はほとんど輸入されなかった。

出典

  1. ^ a b 譚璐美 (2021年6月23日). “狙いは民族抹消、中国が「教育改革」称してモンゴル人に同化政策”. JBpress (日本ビジネスプレス). オリジナルの2021年6月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210623060906/https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65762?page=3 
  2. ^ 宣和堂 (2017年5月21日). “その後の「制誥之寶」とマハーカーラ像”. 宣和堂遺事. 2019年11月16日閲覧。
  3. ^ 中研院歷史語言研究所歷史文物陳列館”. museum.sinica.edu.tw. 2019年11月16日閲覧。
  4. ^ 貝と羊の中国人, p. 92.
  5. ^ ネルチンスク条約:「凡山南一帶,流入黑龍江之溪河,盡屬中國(中国)。山北一帶之溪河,盡屬鄂羅斯(ロシア)...將流入黑龍江之額爾古納河為界,河之南岸屬於中國(中国),河之北岸屬於鄂羅斯(ロシア)...中國(中国)所有鄂羅斯之人(ロシア人),鄂羅斯(ロシア)所有中國之人(中国人),仍留不必遣還」
  6. ^ 道光帝. 『御製大清一統志序』 
  7. ^ 『清史稿』志二十九 地理一 
  8. ^ 『清史稿』志三十、三十一、三十二 地理志二、三、四 
  9. ^ 『大清一統志』盛京
  10. ^ 清史稿地理一
  11. ^ 貝と羊の中国人, p. 90-91.
  12. ^ 貝と羊の中国人, p. 93.
  13. ^ 日本銀』 - コトバンク。旺文社世界史事典 三訂版。
  14. ^ ブリュッセイ, 2019年岩井, 2012
  15. ^ 韃靼漂流記
  16. ^ 『福井県史』通史編3 近世一
  17. ^ 松方冬子「18世紀オランダ東インド会社の遣清使節日記の翻訳と研究」東京大学史料編纂所。
  18. ^ 楠木賢道「はじめに (<特集>東アジア学のフロンティア : 清朝・満州史研究の現在)」『東洋文化研究』第10巻、学習院大学東洋文化研究所、2008年3月、307-307頁、hdl:10959/2879ISSN 1344-9850CRID 1050001338012832128 
  19. ^ 上海で拘束された台湾「八旗文化」編集長、何が中国を刺激したのか? Newsweek
  20. ^ 清朝とは何か.
  21. ^ 金振雄「日本における「清朝史」研究の動向と近年の「新清史」論争について : 加藤直人著『清代文書資料の研究』を中心に」『四分儀 : 地域・文化・位置のための総合雑誌 : クァドランテ』第20号、東京外国語大学海外事情研究所、2018年3月、169-174頁、doi:10.15026/91617ISSN 1344-5987NAID 120006457726 






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