水面 生物と水面

水面

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 00:46 UTC 版)

生物と水面

水面の生態

ここでは、水面を主とする環境における生態について概説する。

水面を生活の場とする生物をニューストンという。これには、アメンボのように水面の上に乗るもの、ウキクサのように水面に接して存在するもの、アサガオガイ英語版のように水面に裏側から接するものなどがある。アサガオガイは空気の袋を作り、これにぶら下がって水面に生息する。クラゲの一種であるカツオノエボシギンカクラゲは気体の入った大きな浮き袋を持ち、水面を生活の場とする。

アメンボ程度以下の動物の場合、水面を漂うことはさほど困難ではない。普通のアメンボには、長い足など水面に浮かぶための適応が見られるが、小型のアメンボ類であるカタビロアメンボ類英語版などは特に水上生活に適応したととれる部分が少ない。トビムシ類も水面に出てくるものが多くある。逆にこのような小型動物では水面を突っ切るのが困難である。トンボのうち、水中に産卵するものは、水草の茎にすがりついて水中に進入する。クモ類(蛛網類)では、ハシリグモ類に水上生活に適応している種類が多い。

また、水面は空中と水中の間の障壁としても機能する。例えば、水面上から水中の獲物を狙うためには、水面の光の反射はきわめて邪魔である。また、水面での光の屈折は、獲物の位置の特定を難しくする。斜め方向から水中の獲物を狙うサギのようなは、この見える位置と狙うべき位置を補正しなければならない。カワセミなどは水面の真上から垂直に飛び込んで獲物を狙うため、補正は少なくて済むが、これも常というわけではない。また、トビウオやトビイカ (Sthenoteuthis oualaniensis) の滑空は水中の捕食者(主に高速で追ってくる肉食魚)から逃れるための生態である。視界が遮られる水面より上に飛び出して捕食者の眼からいったん逃れ、その後、着水地点を予想されることのないよう直進を避け、トビウオは鰭をトビイカはエンペラと腕[注 2]を使って滑空コースを変えることで初めて捕食を免れ得る。音波に関してはさらに遮断が厳しい。ウオクイコウモリ反響定位によって獲物を狙うとされるから、おそらくは魚が水面から体の一部を出した瞬間を狙うものと考えられる。

ガス交換の面として

水中は空気中に比べて酸素の量が多くない。そのため、水中動物も酸素の供給を空気に依存している面がある。魚類では水中で鰓呼吸をするが、水中の酸素が不足すると、水面で口をぱくぱくする鼻あげを行う。魚を容器で保護する場合、水の量より水に対する水面の広さに配慮する。極端な場合、水が無くても湿ったもので包んでおいた方がましである。

陸上から水中生活に入ったものでは、水中生活であっても空気呼吸をするものが多い。水生昆虫ゲンゴロウタガメボウフラなどもそうである。したがって、水面に油膜などができると呼吸できずに死滅する。ネッタイシマカのボウフラでは密度効果が水面の面積に対する個体数で決まる。

拡散反射

水中から見た場合、昼間の水面は光が拡散反射(乱反射)するなどしてその向こうにある空間を視認性の悪いものにしてしまうことが多い。多くの回遊魚の腹部が銀色であるのは、捕食者に下から狙われた場合、白銀色に光輝く水面に紛れて逃げおおせる可能性が高まるからで、つまりは保護色である。

また、カナダ島嶼部に生息するアメリカグマの生態観察の知見として、アメリカクロクマに比べてシロアメリカグマのほうがサケなどの魚を捕らえる能力に長けているのであるが、これは、黒い体色をしているために水中の魚から視認されやすいアメリカクロクマに比べて、水面の色に紛れてしまう白い体色をしているシロアメリカグマは気付かれにくいということが有利に働いているものと考えられている。なお、シロアメリカグマは、無闇に目立つ体色であるがゆえに生き残る上で不利とされるアルビノではなく、正常に適応進化を遂げた種、すなわち白変種であり、上述したものはこの種が具える優れた特性である。また、ホッキョクグマホッキョクギツネホワイトタイガーホワイトライオンなどといった他の様々な白変種の捕食動物は、シロアメリカグマと同じ性質を具えている可能性があるが、シロアメリカグマと違ってはっきりしない。

鏡面化した水面は、多くの捕食動物にとって視覚情報の取得を妨げる障害であるが、他の捕食者にとっての障害はそれを問題としない特殊能力者にとっては利益であるのも自然的摂理である。ミサゴチョウゲンボウのように、上空より水面に狙いを定めて魚食(実際には水生動物も食べる)をよくする猛禽類は、反射光を遮断して鏡面化を無効とするを具えているのであり、そのような者にとっては競合者を寄せ付けない都合のよい環境条件となっている。特にミサゴは、魚食の傾向がどの種よりも強い分だけこの能力に優れている。

微生物にとって

水面に広がる鉄バクテリア。酸化被膜が広がると、油膜のような虹色の反射(薄膜干渉)を行う。

水面を特に利用する微生物もある。水生不完全菌は水中を漂うような枝のある胞子を作るが、この胞子が水面に広がるのがよく見られる。それらはその胞子の表面が水を弾いて水面に漂う。また、半水生菌と呼ばれる菌群は、螺旋状やカゴ状などの胞子を作り、これは内部に空気を抱え、水面を漂うのに適応した形と考えられる。これらは水際で生活するものと考えられている。

動きのない水面では、水面に油脂有機物の薄膜が広がると、その面はさまざまな微生物にとって基盤として機能する。このような環境では、大気が重要な酸素の供給源であり、それに面する水面は微生物の重要な活動の場でもある。細菌類はその面に広がったり、その下面に集団を作る。それらの捕食者である原生動物ワムシなどもその面をよく徘徊する。ツリガネムシ襟鞭毛虫など一部の固着性の生物も水面裏につく例がある。また、陸生のカビ類が水中の基質に生育した場合、菌糸は水中でも伸びるが、胞子はほとんど作られない。これらは、往々にして水面に菌糸を伸ばし、水面から胞子柄を伸ばして空気中に胞子を作る。

動物の水面移動

アメンボ表面張力を利用して水面を移動する。

ハゼ科魚類であるトビハゼやアンダミア属(en、ヨダレカケの仲間)は尾鰭で水面を叩くことで水面上を飛び跳ねるように移動することができる。

水面の裏面を這うアオミノウミウシ

トカゲの1種であるバシリスクが二本の後肢を使って水面上を駆け抜ける。バシリスクの場合、表面積を広くした水掻き付きの足英語版で水面を激しく蹴りつけて浮力を生み出しつつ、左右の後肢を交互に素早く繰り出すことで「沈むより早く浮く」という方法によって水面を「走る」。

サカマキガイモノアラガイプラナリアなどは水面の裏側を這うことができる[2]。これらは幅広い腹面の足を水面に広げて、水面にぶら下がるようにして這う。海ではアオミノウミウシなどが同ように水面を這って生活する。


注釈

  1. ^ surface waterではないことに留意。英語でsurface waterと言うのは、地表にある水(表流水)のことであり、地下水と対比される[1]
  2. ^ トビイカは滑空するとき、適度な隙間を保ちながら10本の腕を合わせて菱形を作り、揚力を生み出す翼として機能させる。コース変更が可能であるという事実に基づいて、この翼も調整に使っていると考えられる。
  3. ^ ラカン。「鏡像段階」という説。
  4. ^ 日本では、昭和時代以前の庶民的な逸話として、肥溜めに落ちる話がよく語られるが、ただの地面と見分けが付けられずに踏み抜いて嵌り込むのであり、底無し沼との共通点は多い。

出典

  1. ^ Groundwater and Surface Water” (英語). HistoryofWaterFilters.com. 2022年10月15日閲覧。
  2. ^ 忍術を使う動物”. movspec.mus-nh.city.osaka.jp. 2023年1月17日閲覧。
  3. ^ 湖面に立てる「ゼロポイント」 洞爺湖夏季限定ツアー(毎日新聞)
  4. ^ How "Jesus Lizards" Walk on Water. News.nationalgeographic.com. Retrieved on 2010-08-19.
  5. ^ David L. Hu and John W. M, Bush (2003). “The hydrodynamics of water strider locomotion”. Nature 424 (6949): 663–666. doi:10.1038/nature01793. PMID 12904790. 
  6. ^ WATER-WALKING” (英語). (official website) (2003年8月16日). 2011年12月22日閲覧。
  7. ^ 森山和道 (2006年6月20日). “ミミズにアメンボ、カタツムリ~生物に学び、安全なロボットを目指す -中央大学 バイオメカトロ研究室訪問-”. (公式ウェブサイト). 2011年12月22日閲覧。


「水面」の続きの解説一覧




水面と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「水面」の関連用語

水面のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



水面のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの水面 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS