武器 武器のエネルギー

武器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 05:07 UTC 版)

武器のエネルギー

武器に限らず、道具が効果を発揮するにはエネルギーが必要である。まず一つは動作を行うエネルギー源であり、もう一つが攻撃対象に作用するエネルギーである。武器の多くが対象へ物体を衝突させる運動エネルギーによる攻撃方法をとる。

人間の力をエネルギー源とする武器は、使用のたびにエネルギーを失う(疲労する)。これに対し、化学エネルギーをエネルギー源とした武器は、基本的に人力よりも大きなエネルギーを得ることができ、弾薬やバッテリーの交換によりエネルギーの回復が容易である。

運動エネルギー

前述の通り多くの武器が運動エネルギーによる攻撃、つまり物体を運動させ対象へと衝突させる攻撃を行う。 運動エネルギーは質量に比例し、速度(角速度)の2乗に比例する。 運動エネルギーを保持した武器は対象へと食い込み、構造を物理的に破壊する。 棍棒などの打撃武器は衝撃を対象内部へと浸透させて構造を破壊する仕組みをもつ。 青銅のような、硬く靱性(粘り)があり強度の高い材質は変形しにくく堅牢なため武器に向く。 硬さはあるが粘りがない材質(ガラス)は武器に成形しても自壊してエネルギーを逃がしてしまうため、武器には不向きといえる。ただし投射武器としては優秀な物となることがある。即席の打撃武器としても通用しやすく、また鋭利な刃物としても使うこともできるが、長くは維持できない(使用するたび切断力が落ちる)ため、あまり実用性はない。

これらの武器では、運動エネルギーを小さな断面積に集中させ、より大きな効果を得る構造をもつ。 メイスの出縁やの穂先は点に、刀剣は線に集中させる構造といえる。

人力

平治物語絵巻』(ボストン美術館蔵)に描かれた鎌倉時代武士薙刀で戦っている。
弓で鹿を仕留める源経基を描いた『貞観殿月』(月岡芳年「月百姿」)

伝統的武器のほとんどは人間の力をエネルギー源として武器を運動させる。多くは体やひじ・手を軸とした回転運動で、てこの働きにより大きな力となる。長い武器は回転半径が長くなるため効果もまた大きなものとなる。棍棒や剣を「振るう」動作はこの回転運動を利用する攻撃方法といえる。

これに対し、槍などの「突く」動作は「振るう」動作に比べると回転が小さく、動作から生まれるエネルギーは小さい。しかし、使用者もしくは攻撃対象の直線運動を効率よく加えることが可能となっている。 騎兵の槍での突撃と、騎兵に対する槍での防御を思い浮かべるとわかりやすい。また突く動作は動作が小さく「点」での攻撃のため防御されにくいという利点もある。また一点に力が集中するため、エネルギー自体は小さくてもあまり問題はない。

これら伝統的な武器は、単純に言えば、重く硬く長い武器を高速で運動させれば強力な攻撃を行える。ただし、大型の武器はモーメントが大きくなるため扱い辛く、充分に広い場所が必要になり疲労もまた大きい。また安定した足場が必要になるものも多い。またこのような武器(射撃武器などにもいえる)はできる限り構造は単純に構成するほうが強力になりやすく、利点も多い(機械構造を持つナイフでボタン一つで三叉になるものがあったが実用性、信頼性ともに悪かった)。

また、伝統的な武器はその見た目から、その痛みを想像しやすいものが多く、相手に恐怖を与えることが射出武器などよりも容易であり、心理戦においてこれは絶大な効果を持つ。

弾性によって射撃する弓、空気によって矢を飛ばす吹き矢などもあるが、根本が人力であるため大きな変わりはない。

武術
このような自身の体や武器を効率よく操るための技術体系として発展したものが武術である。特に一つの武器に修練を絞ったものは、その武器の名を冠して「○○術」あるいは「○○道」と言った呼び名を与えられる。剣であれば剣道剣術、槍であれば槍術などと日本ではこれらの(槍術の場合、上流階級が代々継承していることも多い。剣術の場合、“間合い”等の関係から全ての武術の基本と考えられているので、厳密には武器を持つほとんどの人も修練していることが多い。またこれら以外にも投石器火縄銃等を習う武士もいた)。流派によっては武器の操法にとどまらず精神修練も含めて修練を納める流派や、技そのものを学び個別の武器の操法を重視しない流派もあり内容は様々である。

他にも色々な武術がある。代表的なものとして、柔術水術古式水泳)、砲術組討術など。

投射する武器では、射出あるいは投擲した後のコントロールはできない。そのため精神的なものを除けば、構えや射出方法がその技術の大半を占めている。特に銃は射出方法も機械式であるため武術的な修練は成立しがたいと考えられている。銃を使用する武術としてはCQBCQCで用いられる現代軍隊の近接戦闘術が近い。ただしCQCが行われる至近距離では銃器はむしろ使用されない。また銃を用いる銃剣術は銃と銃剣を用いた格闘術なので発砲をその技術に含んでいない。

火・燃焼

ベトナム戦争ナパーム弾を投下するアメリカ軍

熱エネルギーを燃焼する武器は人力以外では古い歴史を持つ代表的存在である。可燃物を延焼させる火の性質を利用するものと、燃焼によって生じるエネルギーを利用するものがある。

火炎・燃焼
人類の火の利用の歴史は古く、武器への利用もまた古代から行われていた。木製の建築物や船舶、陣地を焼き払うのに威力を発揮する火矢は広く世界で使われてきた。古くは可燃性の液体を用いたギリシア火薬、火薬を用いた焙烙玉があり、現代の火炎放射器焼夷弾は、大規模な延焼のみならず酸素消費、発生する煙・ガスによる窒息効果をもたらす。ロケット兵器や爆弾では可燃性の炸薬や推進剤に、火をまき散らす副次効果をもたせたものがある。
爆発
燃焼による急速な気体膨張は爆発と呼ばれ、特に膨張速度が音速 (sonic) を超えるものは爆轟(ばくごう)と呼ばれ超音速 (supersonic) の衝撃波を伴う。特に爆轟は大きな破壊力と爆風を生み出し炸薬の量と質によっては大規模な破壊を起こす。弾頭に炸薬を充填し命中時に爆発するミサイルは現代の軍事において重要な役割を担っている。小規模な爆発を利用した武器も多く、爆弾手榴弾砲弾は衝撃と爆風を利用する。これに対し、破片手榴弾や指向性対人地雷は、爆発によって破片や弾丸に運動エネルギーをあたえ飛散物による攻撃を行う。
発射薬・推進薬
銃は火薬の燃焼によって発生する高圧のガス圧力によって、弾丸を運動させる(発射する)武器である。火箭やミサイル・ロケット弾は燃料によって飛翔体を推進させる武器で、これらの中には発射時の速度が遅さと安定度の低さを補うため、発射薬で撃ち出し初速を得るものがある。

特殊なものでは、燃焼によって発生する光や煙を利用するものがある。発煙弾や閃光弾・曳光弾はそれらにより、視界を遮ったり逆に目印とすることを目的としている。原始的な化学兵器も燃焼によって発生する有毒ガスや煙を利用したものであった。

生物(兵器)

古代でも動物を兵器として利用する方法が模索されていた。もっともポピュラーなのは、土器のツボに毒サソリや毒ヘビなどを詰め投石機(カタパルト)で跳ばすというもので、特に密集している部隊や、軍船や要塞などの密閉した空間に対し絶大な混乱作用が期待できた。中世には病気で死んだ動物を投石機で城内まで跳ばし、病原菌を充満させ敵兵士に感染させ戦力を低下させるのに使っていた。

特殊な方法としては、確実性に欠けるが市街地を襲撃する際に、町から飛んできた鳥を重点的に捕まえて足に小さめの松明をくくり付けて放し巣に帰った所で巣に引火して、都合良く行けば家屋に火事(小火かできれば大火事)を狙い目標の混乱を誘い、突撃時の足がかりにする方法や、牛を野戦の陣地等に対し、前線突破の際、前列に布陣して強襲に使うなどがある。

電気

電気エネルギーは機械的な制御や発火装置などにも用いられるがここでは割愛する。電気エネルギーの大きな特徴の一つは、他のエネルギーとの交換が容易な点で、化学エネルギーとして電池などに蓄えられ、スイッチにより電気エネルギーが取り出され、さらに他のエネルギーへと変換される。 実際にレーザーなどの動力源として広く使用されている。エネルギー供給も容易でバッテリーや電池、発電機によって供給が可能である。

電気の性質を利用する武器ではスタンガンがある。対象に電極を当て高電圧かつ微弱な電流を送り込み、痛みとともに筋肉の痙攣を引き起こす。その形状は様々で携帯電話のような直方体型、ペンライト型、警棒型、電極を発射する銃型(テイザー)などがある。

電気エネルギーによって弾体を発射する銃や、電気エネルギー自体を発射する銃の発想は多く、理論までも確立されたものが殆どだが、技術的問題により実用化に至っているのは遊戯用の電動ガン程度である。

光線

YAL-1Aによる弾道ミサイル撃墜の想像図

電磁波を投射する光線武器はSFではおなじみの武器である。現時点では光線を制御する技術が不十分で、強力な光線を発生させるエネルギーの供給が難しいため、実用的な武器としての利用は少なく大型兵器での実用化が模索されている程度である。光は直進する性質を利用した低出力のものが、競技用ビームライフルや遊戯用の光線銃や、銃の照準としてレーザーポインターに利用されている。

目潰しを目的とした最も強力なものに、目潰し用レーザー (Blinding Laser Weapon) がある。目の網膜を損傷させ回復不可能なダメージを与える恐れがある「非人道的武器」として、またテロリストにうってつけの武器といえるため、実用化以前の研究段階ながらジュネーブ協定によって使用が禁止されている。

目をくらませる目的では他に閃光手榴弾(しゅりゅうだん)などもある。

 また光線というよりも光そのものを武器とし、鏡による反射を利用した目潰しやかく乱、大鏡による着火を利用した兵器などは比較的古い時代から少数ながら存在する。

毒・化学物質

第一次世界大戦でのフランス軍による化学兵器使用。(1917年1月)

毒やある種の化学物質は少量で人体に機能異常を引き起こす。生体へ効果を与えるメカニズムはそれぞれに異なり様々である。効果は嘔吐や、昏睡・麻痺程度から、炎症、腐食、死と幅広く、効果の発現時間や持続時間もまた様々である。ちなみに毒も化学物質の一種であるため、化学兵器と毒を区別する明確な基準はない。

主に毒はとげや刃に塗布し傷口から体内へ注入される。先史時代から矢毒として狩猟に使用されており、軍隊の矢じりや暗器に塗布され効果を発揮した。アルカロイド系毒物のトリカブトキニーネクラーレが有名である。糞尿は傷口を化膿させる目的で毒として使用されることがある。

化学兵器は、効果が大規模で広範囲にわたるものや、科学的に成分を抽出したり合成したものである。史上最古の化学兵器は、紀元前429年に使用された石炭や硫黄を燃やし発生させた亜硫酸ガスとされている。従来の毒と異なり吸引や皮膚から体内へ侵入し効果を発揮し、ゴムを浸食する性質をもつものさえ存在する。必ずしもガス(気体)とは限らず、液体や固体を散布・飛散させて用いる化学兵器も存在する。

致死性はごく低いものの催涙弾催涙スプレーなども化学兵器の一種といえる。

には酵素の動きを阻害する作用があり、時として鉛中毒を引き起こす毒物として作用する。狩猟に使用した散弾による土壌汚染と、弾を飲み込んだ動物が死亡する事例が発生している。またそれらが食物連鎖によりヒトに蓄積される可能性があるため規制が議論されている。

その他

ガス(気体)を圧縮し圧力で弾を発射する空気銃は遊戯・競技用、狩猟用が主だが、実戦で使用されたものもわずかに存在する。また、圧搾空気による迫撃砲も第一次世界大戦で使用された例がある。水を発射する水鉄砲は遊戯用として一般的な玩具である。

弾性エネルギーを用いた武器では パチンコ銀玉鉄砲などがある。弾性体にエネルギーを蓄積(弓を引く、ばねを縮める)して矢や弾を発射する。

原子力エネルギーを用いた武器には携帯型核弾頭からMIRVまで幅広く存在する。主に冷戦中に多く作られたが、2つの爆弾を除いて実戦での使用は無い。








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