森林 森林破壊と森林の現況

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森林

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 07:59 UTC 版)

森林破壊と森林の現況

農地の開墾や焼畑農業、人類の活動による山火事、薪炭用や産業利用などによる森林の過剰伐採や破壊は、有史以来多くの文明で起こっていた。しかし地球上の森林の減少速度が加速したのは、産業革命の本格化した19世紀中盤以降である[35]。20世紀中盤には産業化の進んだ北アメリカやヨーロッパなどにおいては森林破壊が一段落したのに対し、特に20世紀後半以降、アジアアフリカ中央アメリカ南アメリカに広がる熱帯雨林地域を中心に森林破壊が急速に進行するようになった。こうした熱帯雨林の急速な減少の主因となっているのは、無秩序な農地開発と薪炭用の森林伐採である[36]。熱帯諸国の人口増加により農地への人口圧が増し、増えた人口をまかなうために熱帯雨林が積極的に開墾され始めたため、森林破壊が拡大した。こうした開墾はしばしば焼畑農業などの非常に伝統的な方法で行われたが、従来の焼畑農業が農地としての利用が終わった後森林が再生し地力が完全に回復するまでの十分な時間的余裕をもって運用されていたのに対し、20世紀後半以降は人口増加による未開墾地の減少によってこのサイクルが崩れ、地力が回復していない土地も焼畑を造成したため、熱帯雨林の荒廃を招くことになった[36]。こうした個々の農民による破壊のほかに、大規模な農業開発による破壊も進行中である。この大規模開発による減少が特にはなはだしいのは世界最大の熱帯樹林であるアマゾン熱帯雨林であり、牛肉を生産するための放牧地の造成や大豆栽培用の農地、人口増加による食料用の農地、近年需要が高まるバイオ素材用の農地[37]開発によって森林破壊が進行している。

熱帯諸国における人口急増は農地の過剰開発のほか、薪炭材の利用急増という形でも森林にダメージを与えた。こうした諸国においては電力ガスといった他のエネルギー源が供給されることが少なく、木質燃料がほぼ唯一の燃料となっているため、人口増加はそのまま薪炭材の利用急増に直結し、森林破壊の一因となった。このほか、主に先進諸国への木材輸出のための伐採や、山火事も森林破壊の大きな要因の一つとなっている[36]

2010年の世界の森林面積は40億3千万haである[38] が、上記要因のため世界の森林は総体として減少傾向にある。2000年から2010年までの増加・減少を通算した平均では520万ヘクタールの森林が毎年減少している計算になる[39][40]。ただし、1990年から2000年の平均830万ヘクタールに比べれば減少幅は大幅に縮小しており、増加分を組み入れない純粋な伐採面積も縮小傾向にあることから、総体としては森林破壊はやや歯止めがかかった状態となっている[39]。一方で大規模伐採はいまだ継続しており、特に薪炭・小規模農地開発による減少が著しいアフリカと、アマゾンの大規模農地開発のすすむ南アメリカにおいて減少が大きい。これに対し、大規模開発の一段落した地域では大規模開発の抑制や新規の植林の進展、耕作放棄地における自然林の復活などによって森林の減少に歯止めがかかっており、北アメリカでは森林量はほぼ横ばい、ヨーロッパでは増加傾向にある。アジアにおいては東南アジアにおいて森林減少が進む中、日本はほぼ横ばい、中国は大規模な植林の推進によって森林量は増加しており、全体としては森林は大幅に増加している[38]

各国の森林面積の割合は、森林率(森林被覆率)という数字で表される。全世界の森林率は31%である[38]。この数字は樹木が生育しやすい気候で、農地開発が気候や地形などで制約を受けた国家、すなわち冷帯や熱帯雨林地帯の各国や、多雨地域で山岳部を多く抱える国家において高くなる傾向がある。特に樹木の生育しやすい森林大国と言われるカナダでは森林率は国土の45.3%である。日本も森林が国土の68.9%を占め、森林大国と言われる[41]


注釈

  1. ^ 密林はジャングル(熱帯雨林)を指していう場合もある。
  2. ^ ジャングルは狭義には東南アジアの熱帯雨林を指していう。また、広義には熱帯雨林に限らず、密林を意味する語としても用いられる。
  3. ^ 日本の森林法では地方自治体などが所有する公有林は民有林に含まれる。

出典

  1. ^ 森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)”. e-Govポータル. 総務省. 2021年5月4日閲覧。
  2. ^ 講談社『暮らしのことば新語源辞典』初版
  3. ^ 三省堂『新明解語源辞典』初版
  4. ^ 「モリ(盛り)と同源の語といわれている」講談社『暮らしのことば新語源辞典』初版
  5. ^ 「遠くから見ると濃い緑が盛り上がって見え、近づいてみると日のさすことがほとんど無い所の意」三省堂『新明解国語辞典』第七版
  6. ^ 「林政学講義」p4-p6 永田信 東京大学出版会 2015年11月20日初版
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  15. ^ 「世界市民の地理学」p117 野尻亘・古田昇 晃洋書房 2006年4月10日初版第1刷発行
  16. ^ 「火の科学 エネルギー・神・鉄から錬金術まで」p84 西野順也 築地書館 2017年3月3日初版発行
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  24. ^ 「森と人間の物語」p90-92 小澤普照 KKベストセラーズ 1991年8月5日初版発行
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  27. ^ 「現代森林政策学」p21 遠藤日雄編著 日本林業調査会 2008年3月16日初版第1刷発行
  28. ^ a b 「現代森林政策学」p22 遠藤日雄編著 日本林業調査会 2008年3月16日初版第1刷発行
  29. ^ 「植生管理学」p156 福嶋司編 朝倉書店 2005年4月15日初版第1刷
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  31. ^ a b 「植生管理学」p157 福嶋司編 朝倉書店 2005年4月15日初版第1刷
  32. ^ a b 「造林学 第四版」p116 丹下健・小池孝良編 朝倉書店 2016年8月25日初版第1刷
  33. ^ 「造林学 第四版」p121-124 丹下健・小池孝良編 朝倉書店 2016年8月25日初版第1刷
  34. ^ 「図解 知識ゼロからの林業入門」p17 関岡東生監修 家の光協会 2016年11月1日第1版発行
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  40. ^ https://www.env.go.jp/nature/shinrin/index_1_2.html 「世界の森林を守るために 2」環境省 2016年11月23日閲覧
  41. ^ 見山謙一郎 (2009年2月18日). ““森林大国ニッポン”にチャンスあり! 地方銀行が、新たな「森」と「ビジネス」を育てる : この「環境ビジネス」をブックマークせよ!”. ダイヤモンド・オンライン: p. 1. http://diamond.jp/articles/-/6092 2016年1月1日閲覧。 ※ 面積の算出根拠などが違うため統計により数値は異なる。
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