杜氏 組織と役職

杜氏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/01 20:29 UTC 版)

組織と役職

蔵の規模が小さければ、以下の役職が全部揃うわけではなく兼職が多くなる。第二次大戦前までの基準でいうと、米1,000石を使う規模の酒蔵で必要な杜氏集団の人員は10名を目安とされたという。また、おおよその報酬の割合は、杜氏を100とすると、頭が50 - 60、上人が10、下人が6程度であった。これは翻って責任の大きさでもあった。

杜氏(とうじ)
酒蔵からの信任を受けて杜氏集団を組織・結成・統率する酒造りの最高責任者。桶算(おけざん)と呼ばれる、酒造りにかかわる様々な予算と収支の管理、の仕込み・醸造・安全の管理、蔵の管理など全てを請け負う。別項に詳しいように、蔵内では伝統的に親方と尊称されるが、現代では部長など様々な呼び名がある。
蔵元(くらもと)
酒蔵の所有者であり経営者で、資金や設備の調達と管理、製成酒の販売、営業など外向きの仕事をおこなう。野球にたとえるとチームのオーナーにあたる。しかし昨今は杜氏と兼任している場合が増えてきた。全ての酒蔵の業務を一人で行なっている小規模な蔵を一人蔵(ひとりぐら)という。
三役(さんやく)
杜氏の統率の下に部門別に工程を分担し、蔵人の直接指導をする責任者であり、中間管理職のような役割も負う。通例は(かしら)、麹屋(こうじや)、酛屋(もとや)のことを指す。しかし、流派や酒蔵によっては杜氏・頭・麹屋を三役と、また、三役そのものを三番(さんばん)と呼ぶ場合もある。
ただし、従来の杜氏集団のかたちが変化しつつある昨今、伝統的な三役がそろう蔵は減少しており、杜氏と蔵人のみ、あるいは杜氏と若い社員たちのグループで、あるいは杜氏と蔵元が兼任して酒造りをおこなう蔵が増えてきている。またその年々によって、そのあたりを柔軟に増減させている蔵もある。
三役の中では次のような役割分担がある。
  • (かしら)
杜氏の補佐役にして、蔵人の束ね役でもある。杜氏からの指令を伝達し、蔵人たちを調整し指揮する。野球でいえばヘッドコーチといったところといえよう。醪の仕込みや、仕込みのための水汲みを管轄することも多い。現代では副杜氏次長と呼ばれることも多い。
  • 麹屋(こうじや)
部下の蔵人を指揮して麹造りを担当する。麹にする蒸米の取り込み、麹室の仕事一切を行なう。野球でいえばピッチングコーチといったところ。麹師大師というところもある。
  • 酛屋(もとや)
部下の蔵人を指揮して酛造りを、また頭と連携して仕込みを担当する。野球でいえばバッティングコーチといったところ。酛廻り(もとまわり)、酛廻し酛師というところもある。
釜屋(かまや)
蒸米(むしまい)を管轄。(こしき)蒸し、釜の焚きつけ、洗、米量り、仕込み水汲みなど。破精込み具合を決定する工程として蒸しは非常に重要であり、通常は「一麹、二酛、三造り」と言われる酒造りの鉄則を「一に蒸し、二に蒸し、三に蒸し」と言い切る酒造家もいるくらいなので、釜屋は三役には入っていないが、たいへん責任あるポストであり、ゆえに相釜という助手を割り当てられる。
船頭(せんどう)
上槽(じょうそう)すなわち搾りを担当する。搾りに使う酒造具を(ふね)と呼ぶことから、船(ふね)とかけて、その長として船頭と呼ぶ。地方により異なる呼称がある。
相麹(あいこうじ)
麹屋の助手を務める。
相釜(あいがま)
釜屋の助手を務める。追廻し(おいまわし)ともいう。
炭屋(すみや)
濾過(ろか)を担当する。昔は活性炭濾過が盛んに行なわれていたので、少量の炭で効率よく濾過を行う専門家が必要であった。しかし、昨今は色のついた酒でも鑑評会で減点対象にはならなくなり、濾過の意味が根底から変わってきたので、つとに減少の傾向にある。
泡守(あわもり)
の見張りを担当する。昔は醪(もろみ)造りの最中に、醗酵のため泡が盛り上がってきて、ときには酒が樽から溢れ出ることがあり、それが起こると多量の仕込み酒が無駄になったので、徹夜でそれを見張る係が必要だった。しかし泡なし酵母が開発されてから、その心配はなくなり、近年では全くと言ってよいほど見られない。泡番(あわばん)ともいう。
道具廻し(どうぐまわし)
各種酒造用具の管理を担当する。道具の洗浄、水の運搬を行う。
蔵人(くろうど / くらびと)
もともと「くろうど」が正しい読み方である。杜氏の下で働く酒造労働者全般をさす。各部門の責任者の下で実際に作業をする上人中人下人など細かい階層に分かれている。かつては上下関係は良くも悪くも大変厳しかった。近年は、旧態依然たる上下関係はつとに薄れつつある。
  • 上人(じょうびと)
主に桶洗い、水洗い、水汲み、道具の準備などを担当する。
  • 中人(ちゅうびと)
主に水汲み、米洗い、蒸米運び、洗いものなどを担当する。
  • 下人(したびと)
主に洗いもの、米洗い、水汲み、泡守などを担当する。人間国宝級の名杜氏も、出発点は大方この下人であった。
飯焚(かしき / ままたき / めしたき)
通常、最年少の見習いがこれに当てられる。掃除、皆の食事の世話一切、桶の見回り、麹屋手伝いをする。

越後杜氏の高浜春男によれば、蔵人の仕事を受け持つ順序(裏返せば杜氏への出世の順序)は洗い場→洗米→釜屋→船頭→酛屋→麹屋→頭→杜氏となっており、降格や逆戻りはない。もし降格に相当するときには引退しかなかった[9]


  1. ^ a b 丹波杜氏 丹波篠山市商工観光課(2020年1月1日閲覧)
  2. ^ 吉田元『江戸の酒 その技術・経済・文化』(第1版)朝日選書、1997年、p60頁。ISBN 4-02-259669-4 
  3. ^ a b c 【けいざい+】「田中六五」の奇跡(下)新設の蔵 テクノロジーと高みへ朝日新聞』朝刊2022年9月3日(経済面)2022年9月12日閲覧
  4. ^ 実は酒どころ栃木 21世紀発祥「下野杜氏」が活躍日本経済新聞』電子版(2019年6月28日配信)2020年1月21日閲覧
  5. ^ 下野杜氏(しもつけとうじ)とは?(2020年1月21日閲覧)
  6. ^ 和久井映見、20年ぶりの『夏子の酒』ロケ地に感涙「とても幸せです」マイナビニュース(2014年12月4日)2019年12月14日閲覧
  7. ^ 酒蔵が「女人禁制」になった理由─ 時代に合わせて変化する、造り手の働き方 SAKETIMES(2018年7月25日)2020年1月1日閲覧
  8. ^ 稲保幸「お酒の伝来」『日本酒15706種』誠文堂新光社、2007年。ISBN 978-4-416-80797-2 
  9. ^ a b 高浜春男『杜氏 千年の知恵』(初版)祥伝社、2003年2月25日。ISBN 4-396-61179-X 
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 日本名門酒会 公式サイト 2007年の情報 2008-08-25閲覧
  11. ^ 福井新聞社編集局編「杜氏のふるさと」『ふくい新風土記』福井新聞社、1962年、225-227頁。 
  12. ^ 酒蔵と納豆荻野酒造 蔵元ブログ(2014年11月1日)2020年1月1日閲覧
  13. ^ 納豆菌のみならず他にも様々な雑菌が酒に悪影響を与える。


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