木 進化的意味

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/25 12:11 UTC 版)

進化的意味

木は陸上植物のみに見られる植物の形である。水中の植物のうち、海藻に分類されるコンブのように大きくなるものはあるが、それらは柔軟で細長い構造をしており、幹のような構造を持たない。これは、水中では体を支える必要がないこと、逆に陸上ではそれを支える仕組みなしには生存できないことによる。陸上生活を行うために、植物は空気中で広げられる葉や、それを支える茎、それに体を固定し保持し、水を吸い上げる根を発達させた。そのことで体を空中に突き出すことができるようになったことが、今度は他者より高い位置に出てその上に葉を広げる競争を生み出したのであろう。そしてこれを大規模に行うための適応が、木質化や肥大成長であり、それを支える根もさらに発達し、そのような構造を獲得することで植物は地上でもっとも背の高い生物となり得た。また、胞子による繁殖から種子の形成に至る生殖方法の進化は、自由な水に依存しない生殖を確保する方向の進化といわれるが、同時にそのような構造が地表をはるかに離れた枝先に形成されるようになったことの影響も考えられる。

生態学的意味

樹木は、それが可能な条件下では、ほとんどの陸上環境において、その地で最も大きくなる植物である。樹木が生育すれば、それによって地面は覆われ、その下はそれがない場合とははるかに異なった環境となる。これによって形成される相観、あるいはそこに見られる生物群集森林という。したがって、樹木の生育は、ある面でその地域の生物環境の重要な特徴を形成する。気候生態系をそこに成立する森林の型で分けるのはそのためである。

また、樹木は、その体を支持するために太くて固い幹を持つ。この部分はその群集、あるいは生態系における生物量の大きな部分を占める。つまり、木は生産物を多量に蓄え、保持するという点で、極めて特異な生産者である。その資源の大部分はセルロースリグニンという、いずれも分解の困難な物質であり、しかも頑丈で緻密な構造を作るため、これをこなせる生物は少ない。菌糸をのばし、その表面で消化吸収を行なうという生活の型をもつ菌類は、この資源を利用して進化してきたという面がある。それを含めて、この資源を巡っては、分解者と呼ばれるような、独特の生物の関わりが見られる。そこに生息する動物にも、シロアリキクイムシなど、菌類や原生生物との共生関係を持つものがある。

樹木を下から見た様子

他方、太くて高く伸びる茎や、細かく分かれた枝葉は、他の生物にとっては複雑で多様な構造を提供するものであり、生物多様性の維持に大きな意味をもつ。また、森林において、生産層は樹木の上部に集中する。しかし、それらは地上から離れて存在する幹から伸びたものである。したがって、ここを生息の場とする場合、場所を変えようとすれば、飛ばない限りは、一旦地上におりなければならない。これは大変なエネルギーロスである。動物の飛行滑空の能力の発達は、ここにかかわる場合も多いと考えられる。

分類学的意味

樹木になる植物は、シダ植物種子植物のみである。コケ植物には樹木はない。

シダ植物には、古生代にはリンボクなど多数の樹木が存在したが、それらの子孫はごく小型の草本として生活している。現在のシダ類で大型になるのは、ヘゴなど、いわゆる木生シダである。ただし、その茎は肥大成長を行うことがなく[6]、下部は表面を覆う根に支えられている。

裸子植物の祖先とされるシダ種子植物も大型で、裸子植物のほとんどが木本である。中生代の地上を覆ったのは、裸子植物の森林であった。それ以降は、その後に出現した被子植物に多くの場所で取って代わられ、裸子植物は寒冷地などにその勢力の多くを保持している。

子植物は木本のものも草本のものもあるが、どうやら草本の性質は木本から二次的に出現したと考えられている。特に双子葉植物に木本のものが多い。非常に多くの群があるが、森林の形成から見ると、ブナ科植物が重要である。

単子葉植物は大部分が草本である。樹木的外見を持つものはあるが、多くは普通の意味での木本はなく、いずれも特殊な構造をしている。バナナは茎ではなく偽茎で、葉鞘が重なり合ったものである。イネ科タケは草本のままであるが、木質化が強く、木本・草どちらとも取れる[7]ヤシ科タコノキ科などはより木本であるが、二次成長のための構造がないため、茎は太っていかない。センネンボクなどは特殊な維管束形成層を発達させ、肥大成長をするため、木本といっていい。


  1. ^ a b c d e f g 平凡社『世界大百科事典』vol.6:「き 木」岩槻邦男執筆箇所(p.528)
  2. ^ a b c 「き【木・樹】」『広辞苑』第五版 p.620
  3. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.52
  4. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.57
  5. ^ 尾池和夫 (2007年4月6日). “京都大学-大学の紹介/総長室 2007年4月6日 大学院入学式 式辞”. 2008年4月9日閲覧。
  6. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.38
  7. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.53
  8. ^ 関岡東生監修『図解 知識ゼロからの林業入門』(家の光協会 2016年11月1日第1版発行)p.56
  9. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.27
  10. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.28
  11. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.55
  12. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)pp.28-29
  13. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)pp.34-35
  14. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.6
  15. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.42
  16. ^ Heijden, Marcel G. A. van der (2016-04-15). “Underground networking” (英語). Science 352 (6283): 290–291. doi:10.1126/science.aaf4694. ISSN 0036-8075. PMID 27081054. http://science.sciencemag.org/content/352/6283/290. 
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 平凡社『世界大百科事典』vol.6:【き 木】の飯島吉晴および濱谷稔夫執筆箇所(pp.528-529)
  18. ^ 浅井治海『森と樹木と人間の物語: ヨーロッパなどに伝わる民話・神話を集めて』(フロンティア出版、2006年)p.42
  19. ^ 「登山の誕生」p80 中公新書 小泉武栄 2001年6月25日発行
  20. ^ a b NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.77
  21. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.26
  22. ^ 「世界の森林を守るために 3」環境省(2017年5月27日閲覧)
  23. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.79-80 
  24. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.29-30
  25. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.45
  26. ^ 前田秀一『トコトンやさしい紙と印刷の本』(今日からモノ知りシリーズ・日刊工業新聞社 2018年12月19日初版1刷発行)pp.10-15
  27. ^ ルイス・ダートネル著 東郷えりか訳『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(河出書房新社 2015年6月30日初版発行)pp.128-131
  28. ^ ヘレン&ウィリアム・バイナム著 栗山節子訳『ビジュアル版 世界有用植物誌 人類の暮らしを変えた驚異の植物』(柊風舎 2015年9月22日第1刷)pp.156-159
  29. ^ 漆とは 香川県漆芸研究所(2020年12月10日)2022年7月20日閲覧
  30. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.16-17
  31. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.78
  32. ^ 世界初の「木のお酒」?香りと味わいは 森林総研が開発 朝日新聞
  33. ^ 石毛直道『世界の食べもの 食の文化地理』(講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷)pp.114-115
  34. ^ 「木粉混ぜ込んだパウンドケーキ」産経新聞』朝刊2022年9月4日(生活面)2022年9月10日閲覧
  35. ^ [1]
  36. ^ 登山者の「過剰」な目印?ピンクの塗料が樹木や岩に…「憤り感じた」”. 朝日新聞デジタル. 2022年2月28日閲覧。
  37. ^ ど~なの?DJ”. www.tbc-sendai.co.jp. 東北放送. 2022年2月28日閲覧。
  38. ^ 『PEAKS』2021年2月号 No.135 p.57
  39. ^ 福岡義隆 編『植物気候学』(古今書院 2010年3月10日初版第1刷発行)p.23
  40. ^ 「斉藤一雄・田端貞寿編著『緑の環境デザイン 庭から国立公園まで』(日本放送出版協会 昭和60年4月20日第1刷発行)pp.38-42
  41. ^ 地球温暖化防止に向けて 林野庁(2017年7月15日閲覧)
  42. ^ よくある質問 林野庁(2020年4月13日閲覧)



木曜日

( から転送)

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木曜日(もくようび)または木曜(もくよう)は、水曜日金曜日の間にあるの1日。




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