日本神話 研究

日本神話

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 06:32 UTC 版)

研究

江戸時代までは官選正史として記述された『日本書紀』のほうが重要視され、『古事記』はあまり重視されていなかった。江戸時代中期以降、本居宣長の『古事記伝』など国学の発展によって、『日本書紀』よりも古く、かつ、漢文だけでなく大和言葉も交えて書かれた『古事記』のほうが重視されるようになり、現在に至っている。

現在は、神話学比較神話学民俗学考古学人類学歴史学等の領域で研究などがされている。また、日本神話の原形となったと思われる逸話や日本神話と類似点を持つ神話は、ギリシア神話など世界中に多数存在する。日本における古墳時代から奈良時代にかけての国の勢力関係をも知るうえでの参考資料ともなっている。[要出典]

明治時代以降は、比較神話学の観点から、高木敏雄(1876年-1922年)が1943年と1944年(昭和18年と19年)に『日本神話伝説の研究』[10][11]にまとめられた研究をすすめた。高木は柳田國男折口信夫らとも交流があり、柳田・折口らによる民俗学においても日本神話の研究が展開した。日本の神話学においてはほかに松村武雄松本信広らの研究がある。

第二次世界大戦の代表的な研究者には、大林太良吉田敦彦らがいる。

比較神話学における研究事例

吉田敦彦は、1974年(昭和49年)に刊行した『ギリシァ神話と日本神話 比較神話学の試み』[12]『日本神話と印欧神話』[13]をはじめ、以降、『日本神話の源流』[14]、『ヤマトタケルと大国主 比較神話学の試み3』[15]、『アマテラスの原像 スキュタイ神話と日本神話』[16]、『日本の神話伝説』[17]などの一連の比較神話学研究において、日本神話を他の国・地域の神話と比較分析している。

琉球神話との比較

日本神話と琉球神話との比較は伊波普猷によって始められた。伊波は、1904年(明治37年)に発表し1942年(昭和17年)に改稿した「琉球の神話」の中で、『中山世鑑』の起源神話と『古事記』の淤能碁呂島神話、『宮古島旧記』の神婚説話と三輪山神話などの類似を指摘している[注 2]。伊波の研究は後述する松本信廣ポリネシア神話との比較研究を経て、大林太良らによって展開された。

大林は、日本神話と奄美沖縄の島々に伝承されている民間説話について、「流れ島」「天降る始祖」「死体化生」「海幸彦」に関する伝承神話を比較検討し[19]、南西諸島の神話伝承は、基本モチーフと構造においては記紀神話と大幅な一致を見せるが、神名等においては一致しないことから、記紀にまとめられる前の共通の神話体系の母体から分かれて南西諸島で保存された可能性を指摘している。

伊藤幹治は、日本と琉球の神話を比較し、漂える国(島)や天界出自の原祖、ヒルコ、穂落としなどのモチーフが共通して認められるとしながら、「風による妊娠」「原祖の地中からの出現」「原祖の漂着」「犬祖」などは琉球神話にしか見られず、また、穀物神話の死体化生モチーフは日本神話にしか見られないと指摘している[20]

遠藤庄治は、宮古列島来間島豊年祭の由来譚が日光感精による処女懐胎であることを説明し、『日本書紀』神代巻冒頭の天地が分かれる以前は鶏子のごとくであったとする条と天日槍伝承に見られる卵生のモチーフが、来間島では豊年祭の由来として現在も語り継がれていると指摘している[21]

日本の天地開闢神話とポリネシアの創世神話

1931年(昭和6年)、松本信廣は『日本神話の研究』の中で、ローランド・ディクソン英語版ポリネシア神話を分類するために設定した2つの図式「進化型」と「創造型」を用い、日本の天地開闢神話をポリネシアの創世神話の「進化型」と「創造型」の複合形であり、イザナギイザナミ神話から以降は「創造型」の形式を受け継いでいるものではないかとの説を発表した。

  • 進化型は「系図型」ともいわれ、最初独化神が連続し、これが宇宙の進化の各段階を象徴する。のちに夫婦神が現れて、最後に生まれた陰陽二神より万物が誕生したという筋の神話の型である。
  • 創造型は、最初神々は天上の世界に住み、その下には広々とした大海が横たわっているのみである。そこへある神が石を投げ込むと、それが最後には大地となり、その上に天上の者が下り、ついで人間が現れるという筋の神話の型である。

なお、松本は日本神話とポリネシア神話を比較するうえで琉球の神話(cf. 琉球神道)も重要視し、琉球の古神話がイザナギ・イザナミ神話の一異体であり、日本神話が琉球を通して遠く南方の創造型神話と関連を持っているとした[22]。松本による日本神話と汎太平洋神話との比較は日本の比較民族学上の定説になっている[20]

また、岡正雄による日本の天地開闢神話の研究は日本神話の系譜に関する歴史民族学的研究を活発化し、その後、大林太良によって具体的に展開された[20]。大林によれば、天地開闢神話以外のオオゲツヒメ・モチーフや海幸彦山幸彦モチーフも南西諸島の神話に存している[19]

そのほか、[誰?]によって以下の事例がこれまでに指摘されている。

  • アレキサンダー大王の説話と神武天皇の遠征の類似。
  • イザナギとイザナミは兄妹であるが、人類の始祖たる男女が兄妹であったとする神話は南アジアからポリネシアにかけて広くみられる。
  • イザナミは「最初の死人」となり「死の国を支配する神」となったが、「最初の死人」が「死の国を支配する神」となる話はエジプト神話オシリスインド神話ヤマなどにみられる。
  • 因幡の白兎が海を渡るのにワニサメ説あり)を騙して利用する話があるが、動物が違えど似た内容の昔話が南方の島にある。

注釈

  1. ^ 天地創造の神話(cf. 創造神話)でいう「混沌/渾沌(こんとん)」とは、天と地がまだ分かれておらず、混じり合っている状態。ギリシア神話でいう「カオス」も類義。[6]
  2. ^ 「琉球の神話」は伊波普猷が1904年(明治37年)に『史学界』に発表した後、1904年(明治37年)に『古琉球』へ所載された。『古琉球』の第4版を出すに当たり1942年(昭和17年)に改稿。『伊波普猷全集 第1巻』1974年(昭和49年)[18]に所収。

出典

  1. ^ 大鳥大社 日本武尊御神像(地図 - Google マップ) ※該当施設は赤色でスポット表示される。
  1. ^ 井上 2006, p. 54.
  2. ^ a b 上田 1972, p. 411.
  3. ^ 池田 満『ホツマツタヱを読み解く』展望社、2011年11月1日 2011。ISBN 4885460832 
  4. ^ 今村聰夫『はじめてのホツマツタヱ 地(わ)の巻』かざひの文庫、2016。ISBN 9784884698737 
  5. ^ 上田 1972, pp. 411–412.
  6. ^ 混沌・渾沌”. コトバンク. 2019年10月21日閲覧。
  7. ^ 井上 2006, pp. 60–61.
  8. ^ 戸部 2003, pp. 16–42.
  9. ^ a b c d e f 伊藤聡 2012 [要ページ番号]
  10. ^ 高木 1973.
  11. ^ 高木 1974.
  12. ^ 吉田 1974a.
  13. ^ 吉田 1974b.
  14. ^ 吉田 2007.
  15. ^ a b c d 吉田 1979.
  16. ^ 吉田 1980.
  17. ^ 吉田・古川 1996.
  18. ^ 伊波他 1974.
  19. ^ a b 上田 1970a.
  20. ^ a b c 伊藤幹治 1977.
  21. ^ 琉球の宗教儀礼と日本神話 1977.
  22. ^ 松本 1971a.





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