文化 文化にまつわる議論

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文化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/10/02 14:24 UTC 版)

文化にまつわる議論

単一発展史観

他の文化を貶め、自分の文化を至高とする思想は世界各地で見られるが、その偏見や差別を正当化するために、文化は異なる進歩の階層があり遅れた文化と進んだ文化が存在するという説が19世紀のヨーロッパの社会進化論を背景にとなえられた。現在遅れているように見える文化であっても、将来的には進歩するという考えである。植民地主義とともに、こうした遅れた地域を指導し、文化的に発展させる(近代化)ということが帝国の役割であるという独善的な考えが強く押し出された。このような観点から、人間を動物園の動物のように見せる催しが流行した(人間動物園)。

後にフランツ・ボアズ文化相対主義の立場から猛烈に批判し、単一発展史観は現在では論じられることはなくなった。

環境に対する適応としての文化

文化人類学においてマイナー領域であるが、ネオ進化主義と呼ばれる立場(生態人類学)において、身体的な限界を越えて環境に適応するためのあり方として文化の生態的な側面が分析される。もちろん全ての文化的な行動について生態的な適応という観点から分析できると考えられているわけではないが、例えばマーヴィン・ハリスカニバリズムを儀礼的な側面よりもたんぱく質の摂取という観点で考察する[14]

文化についての語り

誰の文化なのか

女性割礼はしばしばイスラム教の慣習として語られるが、イスラム法コーランにはそのような記載はないことから、いくつかのイスラム国家では行われていない慣習であり、イスラム法学者によって非イスラム的な慣習であることが発表されている。実際に女性割礼を行いイスラムの文化であると主張していた集団が、イスラム法学者のそのような主張を聞くと、民族固有の文化であると根拠を切り替えて、多文化主義の立場から文化実践を継続することがある。

このように文化実践の主体の帰属先自体が、人々の都合によって変更される。

文化の権利

ある文化実践の由来や実態について、文献資料を用いる文化人類学者と現地の実践者の間に齟齬が生じることがある。

近代史研究は、自明とみなされてきた文化が比較的近年に「発明」されたものだということを明らかにしてきた。しかし「オセアニアンは過去における先祖の生活についての神話などを、現地の人々は政治的シンボルとして発明している」という文化人類学者の見解[15]は、現地の人々にとって「文化人類学者は祖先の文化をまったく知らず、自己規程の力さえ奪おうとしている」という傲慢な態度にほかならず、反発を受ける[16]

このような議論の極端な事例が捏造疑惑である。マーガレット・ミードはサモア人女性は性的に開放的であると議論した[17]が、のちに調査した文化人類学者やサモア人から反論がされた[18]。実際にミードが捏造をした、もしくは経験不足で嘘や冗談を見抜けず誤ったことを書いてしまったのか、サモアの文化そのものが変貌したのかについては議論が分かれている[19]

また文化人類学者の横暴に対して現地の人々が反発したものとして、例えば南米の狩猟採集民族ヤノマミ族は他人を罵倒する言葉として、「人類学者(アンスロ)」が定着しているという[20]ことが挙げられる。

カルチュラル・スタディーズ

文化人類学において、文化は人間の行為を媒介する象徴の体系である。しかしイギリスの文学研究者たちが、イギリス国内のマスメディア現象を批判的に分析するためにうまれた研究手法であるカルチュラル・スタディーズでは、均質であることの想定を許さない社会における文化を分析対象とするために、「ある社会において生活している人々の誰もが、等しく共有しているわけではない」という「社会認識」をもとに文化を位置づけた。

未開文化の消滅

人類学は、未開社会の貴重な文化が西欧文化やグローバリゼーションなど外部の悪影響で消えつつあることを告発していたが、現在では他の文化を未開社会とみなす姿勢はもとより、真正・純正の文化がある・あったという思考自体が批判されている。クリフォードはこうした思考による記述を「消失の語り」として[21]、文化が外部の影響を取り込みつつも新たな展開を示していくことを重視して記述する「生成の語り」[22]と区別した[23]

混血文化としての観光

外部からの影響によって、伝統的文化が変貌したり新しく創造されたりすることがある。その典型的な事例は観光地にしばしば現れる。例えばバリケチャは悪魔祓いの儀礼のときに行われるコーラスをもとに、映画『悪魔の島』(1955年)のBGMとしてドイツ人、ヴァルター・シュピースが創作したものであるが、これがラーマヤナの物語として現在の姿になり、それが現地の人々に受け入れられたものである[24]。他にはアイヌの民族芸能である木彫りの熊も、徳川義親スイス土産を開拓村のアイヌに作らせたことが起源だとする説がある[25]

一方でこうした観光のクレオール的な性質に対して、しばしば反発がおきる。代表的な事例では観光地での商売上の慣行が実際の伝統的な文化と同一視されることを拒絶する民族運動としてハワイの先住民運動がある[26]

多文化主義と文化隔離主義

文化相対主義の政治的応用の一つとして多文化主義と文化隔離主義がある。どちらも文化を本質主義的に取り扱っているので、文化人類学者の議論とは隔絶がある。特に移民排除運動や排外主義を理論化する際に、「文化相対主義からすれば、お互い相容れない存在なのだから、祖国に帰るべきである」という形で援用されるのが文化隔離主義であり、人類学者から文化相対主義の地獄とされる。

文化資本と社会構造

ピエール・ブルデューは、社会における支配階層は権力によって、文化の洗練さを規定し、そうして規定した洗練されたとする文化資本を維持するハビトゥスを獲得することで権力を再生産するとした。




  1. ^ 毎日新聞社編『話のネタ』p.55、PHP文庫、1998年。
  2. ^ 太田好信 『民族誌的近代への介入—文化を語る権利は誰にあるのか〔増補版〕』 人文書院、2009年
  3. ^ 祖父江孝男 『文化人類学入門』 中央公論社〈中公新書; 560〉、1979年
  4. ^ E.B.Taylor (2007) [1871]. Primitive culture: researches into the development of mythology, philosophy, religion, art, and custom.. Kessinger Pub Co. pp. 1. ISBN 142863830X. 
    翻訳: E.B.タイラー 『原始文化』 比屋根安定訳、誠信書房、1962年
  5. ^ 村武慶 「文化の変動」『文化人類学』 村武精一・佐々木宏幹、有斐閣、1991年
  6. ^ クロード・レヴィ=ストロース 「言語学と人類学」『構造人類学』 佐々木明訳、みすず書房、1972年(原著1958年)。
  7. ^ しかし大型類人猿が言語を学習できるということが知られるようになると、文化獲得における重要なイベントである学習を細分化して人間の学習(意図模倣)と動物の学習(単純模倣)をわけ、さらには教示の有無を問題にするという発想もでている。つまり動物が社会化のなかで獲得するふるまいは、単純模倣によってだけ獲得される伝統traditionであり、人間が言語や意図模倣、教示を通した社会化のなかで身につける文化という差異を創出して定義づけ、人間以外の動物には文化を身につけることは困難であるとするのである。
  8. ^ 『心ところばの起源を探る: 文化と認知』 大堀壽夫・中澤恒子・西村義樹・本田啓訳、勁草書房、2006年
  9. ^ パーソンズ・T.(タルコット) 『文化システム論』 ミネルヴァ書房、1991年
  10. ^ Cf. タモツ・シブタニ著、2013年、木原綾香ほか訳「パースペクティブとしての準拠集団Discussion Papers In Economics and Sociology, No.1301.
  11. ^ Habermas, Jürgen 河上倫逸ほか訳 (1985-1987) [1981]. コミュニケーション的行為の理論. 木鐸社. 
  12. ^ 高橋徹 『意味の歴史社会学―ルーマンの近代ゼマンティック論』 世界思想社、2002年
  13. ^ 文化 (動物)の芋洗いの項目を参照
  14. ^ マーヴィン・ハリス 『ヒトはなぜヒトを食べたか—生態人類学から見た文化の起源』 鈴木洋一訳、早川書房〈ハヤカワ文庫—ハヤカワ・ノンフィクション文庫〉、1997年
  15. ^ Keesing, R (1989). “Creating the Past”. The contemporary Pacific 1 (2): 19-42. 
  16. ^ Trask, H-K (1991). “Native and Anthropologist”. The contemporary Pacific 3 (1): 159-167. 
  17. ^ マーガレット・ミード 『サモアの思春期』 畑中幸子・山本真鳥訳、蒼樹書房、1976年(原著1928年)。
  18. ^ デレク・フリーマン 『マーガレット・ミードとサモア』 木村洋二訳、1995(原著1983年)。
  19. ^ 池田光穂 「第5章 民族誌のメイキングとリメイキング―ミードがサモアで見いだしたものの行方」『メイキング文化人類学』 太田好信・浜本満、2005年
  20. ^ 太田好信 『民族誌的近代への介入』、2001年、298頁。
  21. ^ The Predicament of Culture: Twentieth-Century Ethnography, Literature and Art, Cambridge, MA, (1988), pp. 17 
  22. ^ The Predicament of Culture: Twentieth-Century Ethnography, Literature and Art, Cambridge, MA, (1988), pp. 246 
  23. ^ 太田好信 『トランスポジションの思想 文化人類学の再想像』 世界思想社、1998年
    クリフォードの分類については太田 (1998) の訳p.270を採用した。
  24. ^ 山下晋司「『劇場国家』から『旅行者の楽園へ』」、『国立民族学博物館研究報告』第17巻第1号、1992年、 1-33頁。
  25. ^ 荒俣宏 『大東亞科學綺譚』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、1996年
  26. ^ 山中速人 『イメージの楽園』 筑摩書房、東京、1992年
  27. ^ リチャード・ブロディ『ミーム―心を操るウイルス』講談社、1998年。


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