手 文化と手

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/01 05:37 UTC 版)

文化と手

手によるコミュニケーション

人は手でもコミュニケーションを行う[注 3]

手話

手話の一例(欧米式)

手や腕を用いて(またそれに加えて表情も用いて)行うコミュニケーションを手話と言う。主として聴覚障害者が用いている。

手と手の触れあい

手と手を触れることでコミュニケーションが行われることがある。

握手 shaking hands
握手

ヨーロッパや米国では、ビジネスの場などで互いに挨拶する時、まずまっさきに手と手を握り合う(握手を行う)のが一般的である。ヨーロッパ人などに言わせると、握手をすることで、互いの手の温度のかきかた、などでなんとなく健康状態がわかり、また手の 硬さ/柔らかさ(ゴツゴツ感、ふにゃふにゃ感)、手の「厚さ」 などで、若いころから肉体を鍛えている人なのか、肉体作業が多い人なのか、肉体作業はほとんどしておらず頭脳労働が多い人なのか、等々のことが、わざわざ言葉を使って自己紹介しないでも 漠然とだが 判るのだという。また、相手が自分を騙そうとしている時など(口先だけだと、うまく取り繕う詐欺師などがいるが)、握手をすることで、手のこわばり具合(リラックス度合い)や 汗のかきかたなどで なんとなく察知できることもある、と言い、そういう意味でも、念のため握手をして確認したくなる、と言う。 逆に言うと、握手を拒まない、握手を積極的にするということは、「私にやましいところはありません」「あなたに対する敵意を隠したりしていませんよ」「あなたは友人です」などという意味・気持ちがほのめかされることになる。

外交の場などでの握手

外交の場では、首脳同士や大使同士は、基本的にまず握手から始める。しばしば、握手のしかたに両者(両国)の関係が現れる。良好な関係の場合は、気持ちのこもった 掌にも適度な力の入った握手が行われる。反対に仲が悪い国の首脳同士などでは、(嫌っているほうが)掌に力も入れず、(まるで相手の手に触れているのが嫌だと言わんばかりに)握るとほぼ同時に 短い時間ですぐ切り上げてしまう。会談などが成功のうちに終わった場合、最後に再び熱心に握手をし、友好関係・同盟関係などにあることを確認しあい、その状態で(握手をしたままで)記念撮影などを行うのが一般的である。

手と手が触れ合うことは、重要なコミュニケーションの経路のひとつなのである。

親子
親と子の手

親になった人は、赤ん坊の手に愛情を込めて触れる。赤ん坊の掌(手の平側)に指などを当てると、赤ん坊は反射的にその指を握る。多くの親が、赤ん坊がそうして小さな小さな手で自分の指を握られ、赤ん坊ならではのやわらかさ、体温などを感じ、親らしい感情、愛おしさとともにそれを記憶する。

赤ん坊のほうも、親の指を握ることで親の存在を感じ取っている。

男女
カップルの 握りあった手と手

恋人同士など、親密な関係では、手と手を長い時間握り合って気持ちを確認しあうことがある。ヨーロッパのカフェなどでは、しばしば、恋人同士が互いに手を握り合ったまま、互いの瞳を見つめ合ってを語り合っている。

信仰と手

祈りと手(合掌・印)
アルブレヒト・デューラー祈りの手」(1508年) 逸話

キリスト教では、祈る時、両手をかるく組む、ということが多い。右手の指と左手の指を交互に交差させて祈るのである。

仏教では、祈願・請願する時、いくつかの形があるが、ひとつは手を平らにして手を合わせる方法がある(合掌)。手の平をわずかに湾曲させ(「卵型」にしておいて)左右の手を合わせる宗派(あるいは個々の人)もいる。数珠がある場合は、たとえば、両手の中指に数珠を(ひとひねりなどして)かけたうえで、両手を合わせる、などということが行われる。

修験道や密教では、手で特定の形をつくる(を切る)ことがある[注 4]

神道では、(おじぎをして)両手をパンパンと2度打ち合わせて(2拍手)、手を合わせておいて祈る、というのが作法だとされている。

合掌は、仏前・神前のみならず、日本では食事の前後など、感謝の気持ちを表す時(を意識する時)にも行われる。(「感謝しております」などという意味で、書簡などの末尾に「合掌」と記す人もいる。)

神話

両性具有の創造神アトゥムの右手は「ヘテペトの手」と呼ばれ、それ自体が女神として神格化され、アトゥム神の女性的部分・女性原理を象徴する。

フリギアの2代目の王とされるミダスはいろいろな神話に登場する。

トラキアにいたミダスはシレノスを助けたことでディオニューソスに感謝され、触れたもの全てを黄金にする能力をもらう。しかし何でも黄金にする手に困り、この「けがれ」をパクトロス川で払うためにアナトリアにやってくる。彼は川に黄金を残し(砂金の起源説話)た後、初代王のゴルディアスと女神キュベレーに養子として認められ、次の王となる。

キリスト教の三位一体論では、「父は、その両手である子と聖霊によって、万物を創造し、また、これを救いたまう」、という言い方もされる。

奇跡・治癒

強い霊力・霊性を持つ人物、あるいは、子供などの無垢なる者が病人に手で触れることで、疾病が快癒するという伝承は世界各地に見られる。 イエス・キリストの奇跡譚にもそのようなものが含まれている[注 5]

中世ヨーロッパにおいては、王が患部に触れることで病気を治癒するという「ロイヤル・タッチ英語版」が信じられた[注 6]。作家・トールキンは代表作『指輪物語』の第3部「王の帰還」において、これを踏まえつつ「王の手」を描いた。

傷口や疾病の部位を本能的に手で押さえたり、かばおうとすることは、原初的な医療の形態であろうが、呪術医のような立場で手を当てるという行為は21世紀現在の先進国においても一部新宗教の儀式や手当て療法として見出すことができる。こういった「触れる」行為が何らかの癒やしのイメージと強く結びついている傾向は、今もなお文化の別なく広い範囲に様々な類型として存在し続けているのである。

手相占い

掌の溝やひだの状態によって、その手の持ち主の過去や未来(運勢)が判る、と考えるのが手相学である。

音楽や楽器と手

ギターの指板フレットと左手。楽器の演奏の習得のなかには、様々な「手の形」をつくり、それを(理屈ではなく)身体で(手の感覚で)覚える、というプロセスも含まれている。

ヴァイオリンギターピアノ 等々は基本的に手・指を使って演奏するものである。

ピアノの演奏は掌が大きいほうが有利である。手を開いたときに、親指から小指までの距離が短いと、ピアノの演奏では不利になる。 ピアノの楽曲では片手で1オクターブの和音(例えば「A」(ハ長調のラ)と、その1オクターブ上のAを同時に押さえるような和音)は頻出するので、親指の先と小指の先の間隔が1オクターブより小さい人は、演奏できる楽曲がかなり限られてしまう。また、「かろうじて1オクターブを押さえられる」程度では、ミスタッチが増える。名ピアニスト フランツ・リストは、とても大きな手のひらをしていて、「1オクターブ+3度」も余裕で押さえることができた、と言われている。しかも、指が太くてしっかりとしていた、と言われている。それに対して、フレデリック・ショパンの手は、指が長く細くて、とても繊細な手をしていたと言われている。ひとりひとりのピアニストの手の性質の違いが、得意とする演奏スタイルの違いとなり、結果として、作曲する楽曲の曲風・曲調の違いともなって現れることになるのである。

拘束や罰

手錠が使用されるのは、なんらかの犯罪者や敵対者(手合い)に対してであり、詐欺などとの犯罪とは別に、直接的な収奪や略奪には手が使われる。特に盗みと手の関係は深く、「手癖が悪い」「手が長い」などと表現することがある。文化によっては(例えばイスラーム法で)他者の財物を盗んだ者に対して、手の切断などの刑を課している(もっとも、そういった文化で必ずその刑が執行されていたわけではなく、様々な条件をつけてかなり融通を利かせていたことが多かった)。手はまた、人間の自由と同列にも見なされ得る。その一つの表象が手錠である。また、古い言葉では捕縛することを手当てといい、手当者という言葉が重罪の囚人のことを意味した。


注釈

  1. ^ インドイスラム諸国では排泄行為後は(トイレットペーパーで拭くのではなく)手桶の水を流しながら左手で肛門周囲の汚れを洗い落とすのが習慣だったため、後の時代ではトイレ備え付けのシャワーホースを使って肛門周囲を水洗浄することが通常になったとは言え、かつての習慣から左手は衛生面で不潔(不浄)な手とされており、食事の際には左手を隠し、右手でつかんで食べる文化がある。公の食事の席では左手を出すのは無礼な行為とされている。ただしインドイスラムでも左利きの人はいる。この場合食事は右でその他の動作は左で行う(ただしインドでこの食事文化が厳格なのは右手の指先だけで食べる習慣があるインド南部であり、インド北部ではほとんど意識されていない)。
  2. ^ 割り当て領域の場所は、遺伝である程度は傾向づけられているが、各人がどんな活動をどの程度行うか、行わないか、ということで、領域が広がったり狭くなったりする。例えば脚ばかりを使う人は、脚に割り当てられる領域がいくらか広がってゆく。頻繁に使うと、(神経網、シナプスが枝を伸ばし)結果として若干 割り当て領域が広がる。
  3. ^ 人にとって、口によるコミュニケーションが主たるものでついそちらばかりに気をとられがちだが、実は、「目は口ほどにものを言う」と言われており、目にも人の感情がしっかりと現れている、人の眼をよく見ると 人の気持ちが良く分かる、とか、「あの人は口では何も言わなかったけれど、眼に感情が現れていた」とか、「眼をよく見たほうがコミュニケーションも円滑になりますよ」といった意味である。そして、実は人は手でもコミュニケーションを行っている。
  4. ^ しばしば仏像が示す、さまざまな手の形。
  5. ^ 例えば聖書の次の箇所である。
    イエスがある町におられたとき、そこに全身レプラ(重い皮膚病)にかかった人がいた。この人はイエスを見てひれ伏し、「主よ、あなたならばわたしを清くすることがおできになります」とのべた。 イエスが手を差しのべてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、たちまちにしてその病は消え去った。 — 『ルカによる福音書』5章12~13
  6. ^ ロイヤル・タッチは結核の一種に対して有効な治療とされ、時代が下って1718世紀ごろにも儀礼化して盛んに行われ、ルイ15世は戴冠式で2,000人に触れたという。この治療対象は瘰癧(るいれき。頸部リンパ節結核。英語:Scrofula、別名:the king's evil)で、日本などでは珍しかったと思われるが、近世までのヨーロッパでは生活環境の違いなどから、儀礼的な行為も含め、ずっと多かった模様である。
  7. ^ カニサソリなど、節足動物でも前足に特徴のある場合はそれを「手」ということもあるが、これもあくまで俗用である。[要出典]
  8. ^ 生物学では、手を「ヒト前肢」と言うことがある。これは学問的で正式な表現である。だが、逆向きに、動物の前肢を「手」と呼んでしまうのは、あくまで俗用であり、学問的ではない。

出典






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