大陸間弾道ミサイル 大陸間弾道ミサイルの概要

大陸間弾道ミサイル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/06 06:04 UTC 版)

ヴァンデンバーグ空軍基地からテスト発射されたミニットマンIII

原理・方式

陸上基地もしくは海中の潜水艦などから発射され、ロケット噴射の加速により数百kmの高度まで上昇し、その間に速度、飛行の角度などを調整して目標地点へのコースが決められる。燃焼を終えたロケットエンジンは随時切り離され、弾頭だけが慣性により無誘導のまま飛行する。即ち、大砲砲弾を撃つ場合に、目標を狙うために発射時の砲の仰角や発射薬量を調整して、砲弾そのものは自力で進路や速度を変えることがないのと基本的には同じといえる。ICBMもロケット式の超巨大な大砲と考えることもでき、「大陸間弾道弾」の名称も多く用いられる。中距離弾道ミサイル(IRBM)、準中距離弾道ミサイル(MRBM)など他の弾道ミサイル(弾道弾)も同様である。

ICBMなどは、目標への誘導は発射から燃焼終了までの、ロケットの制御が可能な短時間になされなければならない。当初の弾道ミサイルは無線誘導を行なっていたため、液体燃料の使用とあいまって(後述)即時多数発射が不可能であった。1960年代に入ってアメリカのミニットマン慣性誘導方式を用いるようになったため、短時間に同時発射ができるようになった。

ICBMの軌道は、他の弾道ミサイル(弾道弾)と同じく、全体的に見ると地球中心を焦点の一つとする楕円軌道を描いており、超長距離を飛行するため弾道の頂点高度は1,000-1,500kmにもなる。[要出典]通常、その射程は8,000-10,000kmに達するので、命中精度の関係から全て核弾頭を搭載している。初期のICBMは単弾頭であったが、弾頭のMIRV化により、一基のミサイルに複数弾頭を搭載し、個別目標を攻撃できるようになった。

核弾頭は、当初のICBMの命中精度が劣り、平均誤差半径が大きかった(3km前後)ため、メガトン級の大威力のものが採用された。大威力の核弾頭は重く、搭載するロケットも大型にしなければならないなど問題が多かった。その後、アメリカを先頭に急速に改良が進み、平均誤差半径は0.1km程度に改良され、核弾頭も小型軽量化されている。MIRVの実現も、一つにはそうした小型軽量化の成果であると言える。大威力単弾頭より小型複数弾頭を用いた方が、破壊効率がよいため、弾頭核出力もキロトン程度に抑えられてきている。

ロケットエンジンの推進剤には液体燃料方式と固体燃料方式の2種類がある。弾道ミサイルの先駆けとなったドイツV2ロケットが液体燃料を使用していたこともあり、初期のICBMも液体燃料方式であった。これは、出力の調整ができる上に大きな力が出せる長所があるため、現在でも宇宙ロケットはほとんどこの方式である。一方で、構造が複雑で機体も大型になりやすい。特に液体酸素や液体水素を酸化剤・燃料に用いる方式は、燃料をミサイルに充填したまま保管ができず、発射直前に充填する必要があるため、即時性が低かった。そのため1960年代にアメリカでは固体燃料方式のICBMが実用化された。固体燃料方式は出力の調整ができず大きな力が出せない欠点はあるが、構造が簡単で小型かつ安価であり、安全性も高く、即時発射が可能なため、アメリカではこれが主流を占めた。一方、ソ連では液体燃料方式を改良し、ミサイル内に燃料を入れたままミサイルサイロ内で保管できる貯蔵式液体燃料のICBMを多数配備した。

歴史

世界初の実用化された長距離弾道ミサイルは、ナチス・ドイツV2ロケットであり、第二次世界大戦中の1944年に実用化されている。V2を発展させ、ヨーロッパよりアメリカ合衆国本土を直接攻撃できる弾道ミサイルとしてA10の開発が行われていたが、開発中に戦争が終結している。

V2の技術は大戦後に米ソ両国に受け継がれ、特に長距離戦略爆撃機戦力で劣っていたソ連が開発に熱心であった。世界最初のICBMは初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに使用されたソ連のR-7である(1957年)。アメリカで実用化されるようになったのは、アトラスであった。アトラスは1959年に実戦配備が開始された。1962年にはタイタン Iが実戦配備に付けられたが、R-7やアトラス、タイタンは、液体酸素をロケット燃料の酸化剤に用いているため、即時発射態勢で待機ができず、発射準備にも時間を要する欠点があった。しかし1960年代に入って貯蔵式液体燃料方式が普及し、ソ連のICBMやアメリカのタイタン IIはこの方式を採用するなど、即時発射の問題は解決した。アメリカでは1962年からミニットマンの配備を始めたが、これは固体燃料を用いたために即時発射が可能であっただけでなく、小型で安価であったため量産され、1,000基に達した。1971年には米ソに続いて中国もICBMである東風5号の発射に成功した。

それまでの中距離弾道ミサイル(IRBM)が、ソ連攻撃のためにヨーロッパに配備する必要があったのに対し、ICBMはアメリカ本土配備でもソ連攻撃が可能となった事は、政治的に有利であった。

また、初期のICBMは大規模地上施設から発射されたが、後には抗堪性の高い地下施設であるミサイルサイロ内に収められ、そこから発射されるようになった。ほかにも秘匿性の高い潜水艦に搭載したり、鉄道や大型TEL車両に搭載するタイプもある。

1993年第二次戦略兵器削減条約(START2)では米ロが使用するICBMでのMIRVの使用を禁止したが、結局、ロシア側が批准しなかった。その後、米ロ間で結ばれたモスクワ条約ではMIRVを禁止しなかったため、MIRVの搭載も可能となった。

現在ICBMを配備・開発している国は、アメリカロシア中国北朝鮮インドの5カ国(「#大陸間弾道ミサイルの一覧」参照)。核保有国であるイギリスはICBMを配備せず、核戦略を潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に頼っている。また、フランス冷戦期間中にIRBMを固定配備していたが、冷戦終結後に廃棄した。1970年代には大陸間弾道ミサイルの開発構想も持ったが断念し、SLBMと爆撃機で核抑止を行っている(「イギリスの大量破壊兵器」「フランスの大量破壊兵器」参照)。


注釈

  1. ^ 北朝鮮では、「大陸間弾道ロケット(대륙간탄도로켓트)」と言われている。

出典

  1. ^ Wragg, David W. (1973). A Dictionary of Aviation (first ed.). Osprey. p. 162. ISBN 9780850451634 
  2. ^ トム・オコナー「ロシアが誇る「無敵」核兵器をアメリカは撃ち落とせない」ニューズウィーク日本版サイト(2018年3月7日)2018年3月12日閲覧
  3. ^ 「ロシア、改憲へ戦勝式典」『読売新聞』2020年6月25日(国際面)の写真解説。
  4. ^ 「火星14号」が933キロ飛行と発表 北朝鮮産経新聞(2017年7月4日)web魚拓
  5. ^ 北朝鮮、新型ICBM発射 青森沖EEZ落下 高度4500キロ「火星15」 北「米本土攻撃できる」主張”. 産経新聞社 (2017年11月29日). 2017年12月2日閲覧。
  6. ^ 北朝鮮のミサイル等関連情報”. 防衛省. 2022年3月11日閲覧。
  7. ^ “焦点:北朝鮮が巨大ICBM誇示、圧力と友好の「綱渡り」外交”. ロイター. (2020年10月12日) 
  8. ^ 日本放送協会. “北朝鮮 固体燃料式の新型ICBM「火星18型」発射実験の映像公開 | NHK”. NHKニュース. 2023年4月14日閲覧。


「大陸間弾道ミサイル」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「大陸間弾道ミサイル」の関連用語

大陸間弾道ミサイルのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



大陸間弾道ミサイルのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの大陸間弾道ミサイル (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS